もっと捕らえて

璃鵺〜RIYA〜

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もっと捕らえて 2

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何か変なんだよな・・・。

オレは梅雨が明けてぐんぐん気温が上昇する季節になり、もともと暑さに弱い体なので、車の冷房をつけて帰路(きろ)についていた。
と言っても冷房にも弱いので、暑いのと寒いのを感じない程度に調節していた。

夜の7時くらいなので周囲がやっと少しずつ暗くなる中、自宅までの道のりを運転しながら、マネージャーの言葉を思い出す。

『誕生日の前後3日間は空けておいたから、のんびりして疲れとってきてね』

デビュー当時からの付き合いになるマネージャーが、意味深(いみしん)な笑顔で含みを持たせた言い方で、事務所で今度の秋から始まるツアーの打ち合わせの帰りに、そう言ってきた。

急に3日間も休みがあるとは思っていなかったから、逆に大丈夫なのかとちょっと心配にもなる。

まあそこらへん調整するのが彼の仕事だから、大丈夫なんだろうけど。

休みか・・・どうしようか・・・どっか行こうかな・・・。

さすがに美波に会いにイタリア行くには、日数が短いから行けないか。

珀英はどうだろうか?
・・・聞いてみようかな・・・。

そんなことを考えていたら自宅マンションに着いたので、地下の駐車場に車を停めて、オレはエレベーターに乗り上階を目指す。

エレベーターを降り、長い廊下を一番奥まで歩いて、部屋に着いてチャイムを鳴らしてから、10秒くらい待ってから、玄関の鍵を開けてドアを引く。
いつものように珀英が玄関まで出迎えに来ていた。

「ただいま」
「お帰りなさい」

珀英のいつもと変わらない満面の笑顔。

白いシャツにジーパンという軽装で、シャツのボタンを胸元まで開けているから、筋肉のついた厚い胸板が少し見えて、一瞬ドキッとする。

珀英の優しい温かいいつもの笑顔を見て、家に帰って来た安堵(あんど)を覚えながら、軽く息を吐き出した。

玄関に入って鍵とチェーンをかけると、靴を脱ごうとしたオレを珀英はいつもの通りに抱き締めようと両手を広げて、近づいてくる。

「いや、暑いからやめろ」
「・・・はい」

ここんところ毎日同じやり取りを繰り返している。
このくそ暑いのに抱きつかれても、暑いだけで不快感が最高潮になるから、固辞(こじ)している。

それに絶対汗くさいから・・・珀英に汗くさいって思われたくない・・・。

夏に近づいて汗ばむ季節になってから、毎日拒んでいるから、いい加減諦めて欲しいが、珀英がしつこいことは十分すぎるくらい知っているから、オレが諦めている。

オレが洗面所に向かうのを見届けて、珀英はキッチンに戻っていく。

うがいと手洗いを終えて寝室に行き、着ていた黒のカーゴパンツと黒のTシャツを脱いで、いつもの部屋着に着替える。
着ていた服は汗をかいたので洗濯に出すため、たたんで洗濯カゴに入れておいた。

リビングに入ると、キッチンから美味しそうな匂いがする。
珀英がいつものように夕ご飯を作ってくれている。
本当に、毎日毎日仕事の調整をして来てくれるから、有り難いと思っている。

なかなか言えないけど、オレが感謝していることは、たぶん伝わっていると思う。

食卓に近づくと、整然と並べられた料理に目がいく。
鮭とほうれん草を炒めたのと、大きいナスの丸焼き、きのこと豆腐と卵のスープに、少なめのご飯が湯気を立てている。

夕飯にあまり肉を食べたくないオレのためのご飯。
お腹いっぱい食べても罪悪感のない食材を使って、毎日違うご飯を数品作ってくれるので、本当にすごいなって思う。

オレはいつものオレの席に座って、珀英が目の前に座るのを待つ。
珀英が自分の分の配膳を終えると椅子に座ったので、オレ達はいただきますをして食事を始めた。

夏は冷たいものを摂(と)りがちだから、こうして温かい食事と熱いスープが、お腹に体に染み渡って安心する。
スープを飲んで、ほ・・・っと息をついたところで、珀英がおずおずと口を開いた。

「あの・・・緋音さん・・・」
「ん?何だ?」
「その・・・今度なんですけど・・・」
「何だよ?はっきり言えよ」

いつものようになかなか話しを進めない珀英に、少しだけイラっとする。いっつもオレに怒られないか、すごく気にして、気にしすぎて、逆にオレをイラつかせるというパターン。

食事を中断して、正面から珀英を見つめて、次の言葉を待つ。
珀英は持っていたお茶碗をテーブルに置いて、ついでに箸も置いて、正面からオレを見つめて大きめの声で言い放つ。
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