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もっと捕らえて
もっと捕らえて 1
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もうすぐ緋音さんの誕生日だ。
梅雨が明けて気温も上昇してきて、そろそろ本格的に暑くなり、寝苦しい日々を予感させる季節に、緋音さんは生まれた。
情熱的で優しくて、少しだけ気紛(きまぐ)れな緋音さんの気性によく合っていると思う。
この時期になるとオレはいつも頭を悩ませる。
誕生日プレゼントが問題だった。
たいていのものは緋音さんは自分で買ってしまうから、買おうと思っていたものを先に買われてしまって、買えなくなってしまうことがある。
今年もそれが起きた。
緋音さんは視力が悪いので、いつもしているサングラスも度入りなんだけど、少し度が合わなくなってきたと言っていたので、それを買うつもりでいたのに、数日前に買ってきてしまっていた。
それも、オレが買おうと思っていたものよりも、ハイブランドのものを。
もちろん、誕生日プレゼントにしようと思っていたなんて言えないから、オレは新しいサングラスをしている緋音さんを褒めちぎることしかできなかった。
緋音さんはそんなオレの心中なんか知らないので、新しいサングラスを嬉しそうに毎日かけている。
この季節は外に出る時には必ずかけないと、普通の日本人よりも少し色素の薄い瞳には、陽光が眩(まぶし)しすぎて外を歩くのもままならなくなると言っていた。
本当に・・・どうしようかな・・・。もう緋音さんが欲しそうなものなんて全然わからない・・・。
そんなことを考えながら、夕飯を食べ終えてリビングでソファに座ってくつろぎながら、冷えた白ワインを飲んでいる緋音さんを、キッチンからチラチラと見る。
夕飯のお皿を洗いながら、ニュース番組を見ている緋音さんを盗み見る。
冷房が苦手な緋音さんのために、エアコンを少し気温高めに設定してあるリビングで、黒いTシャツと薄めのハーフパンツを着て、ワイングラスを傾けながら、緋音さんは物憂げに今日のニュースをチェックしている。
ドラマとかバラエティなんかの類(たぐい)は見る時間もないから見ないけれど、ニュース番組は見るように努力しているらしい。
本当に忙しい時はそれも無理になるけど、なるべく見ておかないと世間で何が起こっているのかわからなくなるからと、以前言っていた。
そういう努力家なところも、ほんと好き。
オレは食器を全て洗って棚に戻して、キッチンのシンクも綺麗に拭いて片付けを終えると、リビングに行って緋音さんの隣の空いているスペースに、オレの定位置にそっと座る。
反射的に緋音さんがオレを見上げる。
真っ白なきめの細かい陶器のような肌。
大きな二重の薄茶の瞳、高すぎず低すぎない小ぶりな鼻。
薄めの真っ赤な口唇。
滑らかな曲線を描く輪郭から流れる細い首と、Tシャツから覗く細い鎖骨。
ああ・・・いつ見ても何度見ても、奇麗で色っぽくて、陵辱(りょうじょく)したくて背筋がゾクゾクする・・・。
思わず吸い込まれるように、顔を近づけてしまう。
緋音さんがオレがキスしようとしていることを察知して、ぱっと顔を背けて、氷をたっぷり入れたワインクーラーに入れてある、白ワインのボトルを取り出す。
「ワイン・・・飲むか?」
緋音さんはそう言いながら、オレの返事なんか聞かずにワインの口にはめてある、ワインキーパーを外している。
オレは軽く溜息をつきながら笑うと、
「ありがとうございます」
と返して、緋音さんが用意されていたオレのグラスに、ゆっくりと琥珀色の液体を注ぐのを見ていた。
グラスの3分の1くらいまで注ぐと、緋音さんは白い細い指でワインキーパーを押し込んで、ワインクーラーに戻した。
仕草の1つ1つが流れるように嫋(たお)やかで、とても奇麗なので、もう何年も見ているのに、全然飽きない。
むしろ四六時中眺めていたいと、舐めて噛んで味わいたいと思ってしまう。
だいぶ悪化していると、自分でもわかっている。
オレは緋音さんの入れてくれたワインを飲みながら、ニュース番組を見ている緋音さんを見ていた。
中性的な奇麗な横顔を眺めていたら、不意に緋音さんが、
「あ~~・・・温泉行きたい・・・」
とテレビを見ながら、吐息を吐きながらポツリと言った。
反射的にテレビに視線を送ると、ニュース番組でどこかの温泉が取り上げられていた。
オレはワインを飲みながら、何となしに訊く。
「温泉ですか?暑いのに?」
「暑いとか関係ないんだよ。温泉つかってのんびりしたい・・・」
「なるほど・・・」
緋音さんはソファに思いっきり凭(もた)れかかって、細く白い奇麗な形の足を組んで、深く溜息をつく。
たしかに緋音さんは年中忙しいから、のんびり温泉旅行に行くような時間がないことは、オレも充分承知していた。
忙しすぎるからこうしてオレが家事全般やるようになったしな。
よっぽど行きたいんだな・・・あれ?
これって・・・誕生日プレゼントと称して、温泉旅行に連れて行ってあげれば良いんじゃ?
緋音さんがとにかく忙しいから、二人で旅行なんて行ったことないし・・・。
仕事で地方や海外に行った時に、時間ある時は観光したりしているみたいだけど、完全プライベートじゃないし、オレはそこにいないし。
仕事のことなんか考えないで、ゆっくりのんびり二人で旅行できたら・・・オレはすごく嬉しい。
緋音さんが嬉しいかどうかはわからないけど、一応恋人なんだし、喜んでもらえると思うことにする。
オレはそう思い立って、今度緋音さんのマネージャーさんにスケジュール確認しようと思った。
多少日付がずれても、3日くらい丸々休みにしてもらえれば、旅行に行ける!
オレはワインを飲みながら、ずっと温泉行きたいとボヤいている緋音さんの横顔を見つめていた。
もうすぐ緋音さんの誕生日だ。
梅雨が明けて気温も上昇してきて、そろそろ本格的に暑くなり、寝苦しい日々を予感させる季節に、緋音さんは生まれた。
情熱的で優しくて、少しだけ気紛(きまぐ)れな緋音さんの気性によく合っていると思う。
この時期になるとオレはいつも頭を悩ませる。
誕生日プレゼントが問題だった。
たいていのものは緋音さんは自分で買ってしまうから、買おうと思っていたものを先に買われてしまって、買えなくなってしまうことがある。
今年もそれが起きた。
緋音さんは視力が悪いので、いつもしているサングラスも度入りなんだけど、少し度が合わなくなってきたと言っていたので、それを買うつもりでいたのに、数日前に買ってきてしまっていた。
それも、オレが買おうと思っていたものよりも、ハイブランドのものを。
もちろん、誕生日プレゼントにしようと思っていたなんて言えないから、オレは新しいサングラスをしている緋音さんを褒めちぎることしかできなかった。
緋音さんはそんなオレの心中なんか知らないので、新しいサングラスを嬉しそうに毎日かけている。
この季節は外に出る時には必ずかけないと、普通の日本人よりも少し色素の薄い瞳には、陽光が眩(まぶし)しすぎて外を歩くのもままならなくなると言っていた。
本当に・・・どうしようかな・・・。もう緋音さんが欲しそうなものなんて全然わからない・・・。
そんなことを考えながら、夕飯を食べ終えてリビングでソファに座ってくつろぎながら、冷えた白ワインを飲んでいる緋音さんを、キッチンからチラチラと見る。
夕飯のお皿を洗いながら、ニュース番組を見ている緋音さんを盗み見る。
冷房が苦手な緋音さんのために、エアコンを少し気温高めに設定してあるリビングで、黒いTシャツと薄めのハーフパンツを着て、ワイングラスを傾けながら、緋音さんは物憂げに今日のニュースをチェックしている。
ドラマとかバラエティなんかの類(たぐい)は見る時間もないから見ないけれど、ニュース番組は見るように努力しているらしい。
本当に忙しい時はそれも無理になるけど、なるべく見ておかないと世間で何が起こっているのかわからなくなるからと、以前言っていた。
そういう努力家なところも、ほんと好き。
オレは食器を全て洗って棚に戻して、キッチンのシンクも綺麗に拭いて片付けを終えると、リビングに行って緋音さんの隣の空いているスペースに、オレの定位置にそっと座る。
反射的に緋音さんがオレを見上げる。
真っ白なきめの細かい陶器のような肌。
大きな二重の薄茶の瞳、高すぎず低すぎない小ぶりな鼻。
薄めの真っ赤な口唇。
滑らかな曲線を描く輪郭から流れる細い首と、Tシャツから覗く細い鎖骨。
ああ・・・いつ見ても何度見ても、奇麗で色っぽくて、陵辱(りょうじょく)したくて背筋がゾクゾクする・・・。
思わず吸い込まれるように、顔を近づけてしまう。
緋音さんがオレがキスしようとしていることを察知して、ぱっと顔を背けて、氷をたっぷり入れたワインクーラーに入れてある、白ワインのボトルを取り出す。
「ワイン・・・飲むか?」
緋音さんはそう言いながら、オレの返事なんか聞かずにワインの口にはめてある、ワインキーパーを外している。
オレは軽く溜息をつきながら笑うと、
「ありがとうございます」
と返して、緋音さんが用意されていたオレのグラスに、ゆっくりと琥珀色の液体を注ぐのを見ていた。
グラスの3分の1くらいまで注ぐと、緋音さんは白い細い指でワインキーパーを押し込んで、ワインクーラーに戻した。
仕草の1つ1つが流れるように嫋(たお)やかで、とても奇麗なので、もう何年も見ているのに、全然飽きない。
むしろ四六時中眺めていたいと、舐めて噛んで味わいたいと思ってしまう。
だいぶ悪化していると、自分でもわかっている。
オレは緋音さんの入れてくれたワインを飲みながら、ニュース番組を見ている緋音さんを見ていた。
中性的な奇麗な横顔を眺めていたら、不意に緋音さんが、
「あ~~・・・温泉行きたい・・・」
とテレビを見ながら、吐息を吐きながらポツリと言った。
反射的にテレビに視線を送ると、ニュース番組でどこかの温泉が取り上げられていた。
オレはワインを飲みながら、何となしに訊く。
「温泉ですか?暑いのに?」
「暑いとか関係ないんだよ。温泉つかってのんびりしたい・・・」
「なるほど・・・」
緋音さんはソファに思いっきり凭(もた)れかかって、細く白い奇麗な形の足を組んで、深く溜息をつく。
たしかに緋音さんは年中忙しいから、のんびり温泉旅行に行くような時間がないことは、オレも充分承知していた。
忙しすぎるからこうしてオレが家事全般やるようになったしな。
よっぽど行きたいんだな・・・あれ?
これって・・・誕生日プレゼントと称して、温泉旅行に連れて行ってあげれば良いんじゃ?
緋音さんがとにかく忙しいから、二人で旅行なんて行ったことないし・・・。
仕事で地方や海外に行った時に、時間ある時は観光したりしているみたいだけど、完全プライベートじゃないし、オレはそこにいないし。
仕事のことなんか考えないで、ゆっくりのんびり二人で旅行できたら・・・オレはすごく嬉しい。
緋音さんが嬉しいかどうかはわからないけど、一応恋人なんだし、喜んでもらえると思うことにする。
オレはそう思い立って、今度緋音さんのマネージャーさんにスケジュール確認しようと思った。
多少日付がずれても、3日くらい丸々休みにしてもらえれば、旅行に行ける!
オレはワインを飲みながら、ずっと温泉行きたいとボヤいている緋音さんの横顔を見つめていた。
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