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山道の途中の祠が壊れていたから

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 土曜日の早朝、いつものように峠を攻めに行ったけどお巡りさんがいるのであきらめてゆっくり下る僕。天気もいいしのんびり帰るか。

 途中のカーブに四輪のブレーキ痕、そして道端のちいさなちいさな祠が壊れていた。車は居ないので逃げたのかな。

 目にしてしまったので直さないわけにはいかない。手持ちの補修テープで張り付けてなんとか形にしたけど、屋根はぱっかり割れてこれじゃ雨漏りしちゃう。なので、手持ちの折り畳み傘を無理矢理被せた。

「しばらく、これで我慢してください」
 手を合わせるのは仏様だっけ?

『いい奴じゃな』

 どこかから声が聞こえた気がする。

 帰り道は何の問題もなく順調だった。途中で飲み物を買った自動販売機でもう一本出た。セルフのガススタでなれないからか戸惑っていたお姉さんを助けたらお菓子をもらった。いつもご飯を買うコンビニでかわいい店員さんにあたった。ついでにくじで良いのが当たった。

 土曜の夜、音楽を流しながらまったりとビールを飲んでるとチャイムが鳴る。

「こんな遅くに誰だ?」

 とりあえず居留守を使おうかと思ったがこれだけ電気つけて音楽鳴らしてたら居留守もの何もないな。こっそり覗いてみると着物を着た女の子がいた。
「こんな遅くのどうした? お母さんが帰って……、おい、勝手に入るな」
「まぁまぁ、そう言わずに。今日はありがとうなのじゃ」
「へっ?」
 俺が呆けた声を出すと女の子がテーブルの前にちょこんと座ってここここというよに俺を招く。これじゃどっちが主かわからんぞ。

「今日、山で祠をなおしてくれたじゃろ。それのお礼に来たんじゃ。わしはあの祠に祀られている山の女神でサクヤという」
「!?」
「今日はちょっとだけ良いことがあったじゃろ。それだけじゃ物足りないと思うからの、わしが自らお礼に来たのじゃ。ほれ、望みを言え。限度はあるがの、望みをかなえてやろう」

 急にそんなこと言われてもね。なので、少し待ってもらうことにした。

 翌朝、子供のはしゃぐ声で目が覚めた。

「おぉぉ、これは何じゃ、魔法少女!素晴らしいではないか。これ、もっと見れないのか。なに、サブスクで見れる? よし、見せてくれ。いいのう、魔法少女。なんていいのじゃ」

 見かけ通りにお子様なのか? 山の女神様、サクヤ様はすっかりニチアサの魔法少女に夢中になった。サブスクで初期から見せてあげると目をキラキラさせながら見ていくサクヤ様。最初は女神様と呼んでいたけれどそれじゃよそよそしいと言われて名前で呼ぶようになった。

 気がつくと秋が過ぎて冬になった。サクヤが来てから仕事は順調。ただし恋愛運は下がったまま。合コンに行っても僕だけ彼女ができない。仲の良い同期の女子を食事に誘っても断られた。この間、近くのコンビニの仲のよいかわいい店員さんがデートしてるのに出会ったし。

 そんなこんなで寂しいクリスマスをすぎると年末!年末と言うとコミケ!
 きっとサクヤも行きたいというだろう。僕はサクヤの分もチケットを手配しておいた。できる僕。それで彼女ができればいいのだけど。

「ほぉぉぉぉぉぉ! 本物の魔法少女じゃ。本物じゃ。なに、コスプレ? 偽物? いや神をたばかるでない。彼女たちは心から魔法少女になりきっている。じゃから本物じゃ。なんということじゃ。こんなことがあるなんて。あぁ、わしも魔法少女になるぞ、次は魔法少女になってここに来るぞ、次はいつじゃ?来年の夏、よし、来るぞ。お主もわしの勇姿をちゃんとしゃしんに納めるんじゃぞ」

十年後。

「ねぇ、母上、母上は魔法少女だったんでしょ?」
「そうじゃ、よく知っているの」
「だってパパのスマホに母上の写真がいっぱいはいっているから」

 いっ、いつの間に娘に見られたんだ。ちゃんとロックしておいたのに。

「わしとの子じゃ、神力をもってすればそのくらい」
 怖い、神様怖い。でもちょびっと耳元が赤くなってるサクヤ可愛い。

「ところで、あのお山の祠には帰らなくてもよいのですか、サクヤさん」
「神を見くびるでない。分身があそこに行っているから大丈夫じゃ。ところで今年は魔法少女じゃなくてエルフの魔法使いになろうかと思うのじゃがどうかの?」
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