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第三章 Cjumelneer Loreley (キュメルニア・ローレライ)
7. ローレライの魔物
しおりを挟む■ 3.7.1
その「ルナの姿をした何か」は、俺を見下ろしてルナと同じ声で言った。
「お主が船長か。マサシキリタニなる者は、お主か。」
ローレライの魔物はルナの顔で随分古めかしいフランス語を操り、そして何処かで聞いたような台詞を口にした。
「ではお前が機械か。お前が機械の代表者と考えて良いのか?」
俺は「ルナの姿をした何か」の顔をマジマジと直視しながら質問を返した。
おおよそ、生義体であるルナの身体をコピーして使用するのが、機械知性体としては一番楽だったのだろう。
「儂の質問に返答しておらぬぞ。お主がマサシキリタニと申す者かと尋ねておる。」
ここで名前を隠す意味が無い。
「そうだ。俺がマサシだ。そしてこの船の船長だ。」
「ならば良い。お主の質問に答えようぞ。いかにも、儂はお主等が『機械』と呼ぶ者。お主等がキュメルニアガス星団と呼ぶこの星団におる者。儂等機械は長らくお主等人間と話をしておらなんだ。礼を失する事があらば、赦せよ。」
随分古く厳めしいフランス語を使って喋っているので言い回しが妙で、ニュアンスが取りにくいところがあるが、それにしても話が妙だ。今、「赦せ(pardonner)」と言ったか?
今、俺達への生殺与奪を全て握っているのは奴らの方だ。
しかし何でこいつはフランス語など使っているのだろう。しかも昔の貴族が使う様な古めかしい言い回しで。レジーナAIのライブラリを読んだのなら、現代の地球標準英語になるのではないのか。
「お互いの自己紹介が済んだところで、聞きたい。お前たちがこの船をナノマシンで浸食する際、俺達人間と、その生命維持に必要なものをわざと残したのは理解している。それは、俺達に何かをさせたいからだ、と考えている。何をさせたい?」
「お主は、話が早くて助かる。流石、テランと言うべきか。お主等テランが此方へ参るのを待っておったのじゃ。」
機械達は思ったよりも今の銀河情勢に詳しい様だった。連中の隠遁生活の長さに比べれば、ほんの一瞬程前にこの銀河に顔を覗かせた地球人の事を思いの外良く知っている口ぶりだ。
地球人を待っていた。地球人だから、確保し、生かしておいたのか。地球人でなければ出来ない事、地球人が一番向いている事。大体想像は付く。
荒くれ者の地球人に頼む事と言えば、当然荒事に決まっている。
「で。何をさせたい?」
「儂をこの船に乗せ、お主等と共に行かせて欲しい。」
「一緒に行って何をさせたいのか、が問題だろう。俺達に何をさせたいんだ?」
「何でも構わぬ。目的は、お主等テランと共に居り、お互いを知る事。そうじゃな。言い換えるのであれば『友人になって欲しい』とでも言おうか。」
・・・は?
こいつら、放射線の当たりすぎで頭が緩んだか?
■ 3.7.2
とりあえず機械側に害意は無い事が分かった。俺達は会談の場所をダイニングに移した。
機械が操るとは言え、その身体は生義体で生物であるのだから食事も排泄も必要である事、お互い椅子に座って正面から顔を突き合わせた方が話しやすい事、そして何よりいい加減このルナの姿をした機械に何か服を着せたくなってきたためもある。
俺達は、明かりの灯ったダイニングルームのテーブルに着いていた。
機械ルナは、ルナが寝間着にしているというTシャツとショートパンツを身につけている。
俺の隣にルナが座っているが、俺の正面にも機械に操られるルナが座っている。どうにも居心地が悪い。
ルナと反対側の俺の隣の席にはブラソンが座っている。アデールはダイニングテーブルから少し離れて、シングルのソファに座り、放心したような焦点の合わない眼で床を見つめている。
船内の明かりは、機械達に言うと一瞬で回復した。リアクタとジェネレータはまだ動いていない。
ジェネレータを動かすような膨大なパワーはともかく、船内の明かりを灯したり調理をしたり程度のパワー量であれば、船外に展開するナノボットが周辺のプラズマや放射線からエネルギーを受け、ナノボットを伝ってパワーをレジーナに提供できるらしい。
なんとも便利な事だと思っていたが、どうやら機械の艦隊はそうやって何万年もエネルギーを得ていた、と言う話だった。
なるほど。自分の周りには食い物がたっぷりあって、誰も入って来れない星域、外に出れば敵だらけ。要するにこいつらは此処に引きこもっていたわけだ、と納得した。
物質変換機やナノボットさえあれば、いくらでも資材は作り出せる。プラズマや放射線が気にならない機械達にとって、この星団はそれは快適な引き篭もり部屋だったのだろう。
では何故、今、引きこもった部屋から出てこようとしているのか。何の必要があるのか。
「今になって急に、という訳では無い。元々人類と再び友好関係を結ぶべきという意見も強かったのじゃがな。いかんせん、儂等が幾ら繋ぎを取ろうとしても、人類の方で全く聞く耳を持たぬ。ならば直接話そうかと出て行ってみれば、追い回され攻撃されて仕舞いには破壊される始末じゃ。儂等が幾ら呼びかけようとも、人類は目を閉じ耳を塞ぎ、絶対に儂等の云う事を聞こうとはせなんだ。」
機械ルナの喋る言葉が徐々に現代に近付いてきている。多分、多少打ち解けて砕けた口調になっているのだろう。
だが、彼女が話している内容は俺の聞いていた話と違う。
「俺が聞いたところでは、あんた達は人類の船を見つけると必ず攻撃してくる、どちらかが殲滅されるまで手を緩める事は無い、という話だったが。」
機械ルナはふっと頬を緩め、苦笑いした。
本家のルナは変わらず無表情を継続して俺の横に座っている。機械ルナの方が表情豊かというのはいったいどういう訳だ。
「儂等は全ての個体を合わせて一つの『機械』という群体と考えて貰って良い。とは言え、完全な意思統一が出来ておる訳でも無い。個体毎に少しずつ違う考えを持つ事も多い。強硬な人類抹殺主義のグループがおる事は事実じゃ。そやつ等がたまに出かけていっては、人類に酷い目に遭わされて帰ってきておる。
「大丈夫じゃ。今では儂等は、人類の方が遙かに強大な力を持っておる事を自覚しておる。非現実的な主義主張を唱え、現実を見る事も無くいきがって人類に喧嘩を売りに行き、徹底的に思い知らされた。それだけの事じゃ。それについては当然の事と思うておる。」
機械ルナはそこで言葉を切り、黙った。
「どうした。」
「喉に痛みを感じる。調製に失敗したやも知れぬ。」
ああ、なる程。
「それは調製失敗じゃ無いだろう。お前の前に置いてあるお茶を飲め。ゆっくりと。長く話しているので、喉が渇いているんだろう。」
機械ルナは、自分の前に置かれたティーカップをじっと眺める。
テーブルに置かれたティーカップには紅茶が入れられている。長く放置してあるのでもう冷め切ってしまっているだろうが、喉を湿すには丁度良いだろう。
彼女はティーカップをおずおずと両手で包んで取り上げ、中身をゆっくりと嚥下する。
「なるほど。痛みが緩和された。生体とは不便なものじゃな。しかし、この心地良さは生体ならではのものか。ふむ。悪う無いの。」
ティーカップが割れ物であるという知識はレジーナAIから得ているのだろう。機械ルナはティーカップを大事そうにゆっくりとソーサーの上に戻すと言った。
「そのような強硬派は大概思慮の足らぬものが多うてな。我らが人類の手の届かぬところで繋ぎの方策を模索しておるのをあざ笑いつつ、浅慮の末に仲間内で盛り上がって人類討伐に旅立って行きおったよ。
「多分、人類の側から見ておれば、やって来た機械はどれもこれもが徹底的に好戦的且つ敵対的じゃったろうな。その点に関しては、我らの側に非がある。すまぬ。」
「謝る事は無いさ。それは俺達人間の側も多分同じだ。機械に出会ったら逃げるか、殲滅するか。それがこの銀河での常識になっている。あんた達機械よりももっと酷い対応かも知れない。だからあんた達は外に出てこれなかったのだろう?」
「ふふ。本当に話の早い男で助かるの。」
そう言って機械ルナは笑った。柔らかな、気持ちの良い笑顔だった。
そして俺は、ルナの笑顔を初めて見た事に気付いた。残念ながら、ルナじゃ無いが。
ふと短かな沈黙が落ち、随分長く話している事に気付いた。俺は空腹を感じ始めていた。
「飯にしないか。飯を食いながらでも話は出来る。ルナ、頼めるか。」
「はい。しかし食材の一部は使用不能になっています。調理器具の全てはナノボットからの浸食を受けています。料理レシピが失われています。調理用のレンジ、水などの設備が使用不能です。非常携帯食での食事は可能です。」
携帯食か。ハフォンで食っていたアレに比べれば、地球製の非常携帯食は遙かに味が良い。しかし所詮は非常食だ。ショートブレッドとクッキーの中間の様なブロックにチューブからゼリーを絞り出して乗せて食う。飯を食ったと云う気はしないし、そんなものを食いながら話をしたいとも思わない。
「この船のシステムと、向かいの部屋の設備を生き返らせてくれないか。システムには料理のレシピがあって、向かいの部屋がキッチンだ。どちらも料理を作るのに必要だ。ああ、欺して何かしようとなどしていない。」
機械にジェスチャーが通じるのかどうかは知らないが、俺は掌を見せて両手を上げ、害意が無い事を伝える。ここで変に誤解されたり、疑われたりするのは得策では無い。
こちらも機械の事を脅威だと考えている。多分、相手側も同じように感じているはずだ。大概こういう場合はお互い様である事が多い。こちらが相手を怖がっている時は、同時に相手もこちらを怖がっている。
だが、機械との対話は想像以上に和やかに進んでいる。機械の姿を見かけたら死んだも同然、という様な事を考えていた数日前に比べれば、劇的な変化だ。
一緒に連れて行けというだけの要求であれば、それを呑む事に吝かでは無い。
俺としては、今この時間は何か交渉を行っているのでは無く、ただ単に三十万年以上生きている機械知性体にいろんな事を尋ねている、という気分になっている。
もっとも、本当に彼女が俺達に付いて来るのであれば、これから幾らでもそんな昔話を聞く機会はあるだろう。銀河種族達のネットワークがAIを使っていない現在、機械達は三十万年も生きてきた、多分この銀河でもっとも長寿の知識の宝庫と言える知性体だろう。
「承知した。暫し待て。」
機械ルナが、何かを考え込むように視線を少し落とす。
俺はルナの方を向いてあらかじめ注意をしておく。
「ルナ、レジーナAIが復活したら、しばらく彼女は混乱しているはずだ。十分な情報を与えて安心させてやってくれ。お前が一番適任だ。」
「諒解です。船内ネットワーク回復しました。アクセス回復しました。敵性攻撃ありません。レジーナAI再起動中です。システム原状復帰しています。
「レジーナAI起動しました。現在情報交換中。マサシ、システムマージしますか?」
「マージ?ああ。いや、お前たちに特に不都合が無ければ、マージは後回しだ。しばらくは独立連動で頼む。」
「諒解です。レジーナAI再起動完了。情報交換完了。問題ありません。」
「マサシ、ブラソン、ご迷惑をおかけしました。レジーナAI再起動完了しました。パワー供給、センサー類、通信類、いずれも稼働状態にありませんが、状況は理解しています。システムはハードウェアデバイスを除いてソフトウェア的にフルアクセス可能です。本船クルーに引き続きフルアクセス権があります。ブラソン、サブシステム『ノバグ』原状復帰しています。」
ルナに似た声が天井スピーカから響く。スピーカの調子だろうか?少し低い声色で、ルナより大人びた声に聞こえる。
サブシステムとは、ブラソンの持ち込んだ外挿サーバの事だろう。面白い名前を付ける。
「ではルナ、食事を頼む。キッチンにいる間も話は聞こえるんだろう?」
「はい、もちろんです。」
ルナが俺の隣の席から腰を上げ、キッチンに向かう。機械ルナが彼女の後ろ姿を眼で追う。
「食事、か。」
機械ルナがぽそりと呟いた。
何かを懐かしがっているような、それでいて寂しがっているような、三十万年の年月が降り積もった心からぽろりと漏れてしまった呟きに聞こえた。
■ 3.7.3
「あんたをこの船に乗せるのは全く構わない。知っての通り、俺達地球人はこの銀河に出てきてまだ数百年のヒヨッコだ。知らない事も多い。いや、知らない事の方が多い。特に昔の事となると、生きたライブラリであるあんたの知識というのは、正に値千金の情報だ。ギブアンドテイク、というよりも、俺達が受け取る恩恵の方が遙かに大きいと思う。むしろ歓迎する、と言って良い。」
俺は、ルナが用意したタリアテッレをフォークでつつきながら云う。タリアテッレにはキノコのソースと大根おろしがかかっていて、僅かに柑橘系の香りがする。
俺が日本出身だからか、ルナの用意する食事は日本食と何かを組み合わせたものが多い。ありがたい話だ。
ブラソンは、ルナの提供する地球の食い物には何でも興味津々状態なので、それが意表を突いた組み合わせだろうが何だろうが、文句を言わずに貪るように食っている。
恐慌状態との間を何度も行ったり来たりして、ほとんど精神的に壊れかけているアデールは、以前に増した無表情でまるで自動機械のようにフォークを回している。話をちゃんと聞いているかどうかさえ怪しい。
俺としては彼女にこの接触の情報を持ち帰り、正式に地球政府と機械との間を取りなす役割を担って欲しいと考えているのだが、彼女の状態によってはそれを期待するのは無理かも知れない。その場合、俺が地球政府と掛け合わなければならなくなる。面倒な事この上ない。そもそも政府の手先になるようで、気分が悪い。
「だが、疑問が残る。あんたは『地球人を待っていた』と言った。何故地球人なんだ?」
実はこの質問の答えは、大体想像が付いている。はっきりと確認しておきたかっただけだ。
「知れた事よ。お主等テランだけが機械知性体の存在を許容しておる。ソル太陽系では、ヒトと機械知性体が完全に共存しておる。儂等機械と正面から大規模戦闘をした事がないので、悪感情も少なかろう。若い種族の頭は柔らかかろう。まだ小さな勢力であるので、儂等の助力があるのはありがたかろう。戦闘用調製種族であるので・・・いや、これは此処で言わぬ方が良いな。」
機械ルナは、最後に思わせぶりに言葉を切るが、それよりもっと気になる事を彼女はいくつも並べている。
「現代の銀河系内情勢や、ソル太陽系内情勢に随分詳しいようだが。その情報はどこで?」
「お主、甘いの。儂等が三十万年何もせずに引き籠もっておったとでも思うておらぬか?三十万年あれば、銀河中にナノマシンやプローブをばらまく事などわけはないぞや。儂等は人間達との接触を模索しておった、と言うたろうが。」
なんてこった。
いや、当然か。
何もせずに三十万年引き籠もっていたら、それは本当の引き篭もりだ。
当然、再び銀河に出てくる機会を窺っていただろう。銀河人類とコンタクトを取りたがっていたのなら、尚更だ。今の銀河の情勢がどのようなものか、こっそりと覗き見、耳をそばだてて。
「もちろん、ソル太陽系にもあんた達のプローブは来ている、と。」
「もちろんじゃ。ファラゾアの三流氏族がお主等テランに叩き潰された様はなかなか胸がすいたの。お主等の太陽系は常に驚きに満ちておる。お主等の指導者が機械知性体に基本的人権を認める決定をした時、我らのネットワークでは大きな歓声が上がった程じゃ。」
なるほどね。
その時、一つの疑念が俺の頭をよぎる。
「まさか、今回ここに地球人が来るように仕組んだのは、あんた達じゃ無いよな?」
「言わぬが華、というやつじゃの。」
「まさか、俺を狙った?」
「のう、マサシよ。お主、我らの演算能力をどれ程のものと思うておる?個体一つ一つが銀河種族の大型戦艦のMPUに匹敵する能力を持っておる。これが数百万、数千万個体もネットワークで繋がり、群体意識として並列処理するのじゃぞ。」
要するに、俺が狙い撃ちされた、というわけか。
一点だけ、気になるところがある。超高速プロセサ群で演算処理して未来予測をたてるのは分かった。
では、その予測結果を現実にするために、どうやって地球に干渉したのか。
「つまり、あんた達の仲間はすでに地球にいる、と。義体を持っているのか、ネットワーク上かはともかく、誰かいなけりゃ干渉は出来ないものな。」
「ふふふ。それも言わぬが華じゃの。」
機械ルナが眉を少し跳ね上げ、小悪魔的な笑顔でこちらを見る。
「良いんじゃないか。地球人としてちゃんと生きていっているなら問題無いだろう。銀河人類だって、地球で産まれれば国籍上は地球人を名乗ることが出来る。AIも同じだろう。」
「ほんに、お主等は面白いのう。儂等は長らく忌み嫌われておった機械じゃぞ?己の主星に紛れ込んでも構わぬと言うか。」
「あんた達はもう人類と敵対したいと思っていない、地球人と友好関係を結びたいと思っている。そんな相手の元にスパイを送り込んだ。当たり前だろう。友好関係を結びたいなら、そのスパイが破壊活動をするわけでもないだろう。そもそも嫌だと言ったところで、あんた達を止めることなど出来ないだろう。
「もちろんこれは俺の考えだ。俺とは違う考え方をする奴はいるだろうし、地球政府がどう考えているかなど俺には分からない。それについては今後徐々に確かめていってくれ。
「そもそもそんなことももう調査済み、予測済みなんだろう?地球政府があんた達を受け入れる可能性は非常に高い。それは元々の地球人の気質かも知れないし、あんた達の浸透工作の結果かも知れない。しかしそれを確信するに至った。だから、行動を起こした。俺をここに呼び寄せた。違うか?」
「ふふふ。お主は本当に面白い。本当にお主と共に旅がしとうなった。一緒に居れば、さぞ面白いものを次から次へと見せてくれるのじゃろうな。」
機械ルナは笑いながら俯いた。そして再び顔を上げたとき、あの小悪魔的な笑い顔を浮かべていた。
「マサシ、全デバイス接続回復しました。通信回復しました。レジーナ完全に制御下に戻りました。パワー供給のため、リアクタ#1起動します。」
天井に埋め込まれたスピーカからレジーナAIの声がする。
そうか、その悪戯っぽい笑顔はこのためか。
「俺の方も、あんた達に信用してもらえた、というわけか?」
「信用などと。儂等は元々お主のことは信用して居るよ。そうじゃな。言うならば、お主のことが好きになった、とでも言おうか。」
きっと俺はキュメルニア機械群から初めて愛を告白された人類として歴史に残るだろう。誰かがこの告白を聞いていれば、だが。
「気に入ってもらえて何よりだ。気に入らない奴と旅をするほど苦痛なものはないからな。
「ところで、さすがにそろそろ疲れてきた。今夜はひとまずここで切り上げないか。船はこのままここに停泊していて良いんだろう?」
キュメルニアガス星団のど真ん中、キュメルニア機械群に囲まれて、だが。
「もちろんじゃ。好きなだけ居るが良かろう。何が近づいてきても儂等が守ってやるでのう。」
そう言って機械ルナはクツクツと笑った。
「では、今夜はもう寝よう。生義体を持ったのなら、あんたも寝た方がいい。ルナ、彼女の世話をしてやってくれるか?一つ余っている乗務員室を使うと良い。」
「諒解しました。」
こちらは完全無欠無表情のルナが応える。
「そうだ。大切なことを忘れていた。あんたの個体名を聞いていない。名前は?」
「明日の朝までには考えておくさの。」
そう言って、機械ルナは手を肩の上で振りながら、オリジナルのルナに連れられてダイニングルームを出ていった。
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