夜空に瞬く星に向かって

松由 実行

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第二章 インターミッション (Dancing with Moonlight)

5. 記念艦「Terraner Dream」

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■ 2.5.1
 
 
「アルテミス・ステーションからクリアランス。接岸コース設定。接岸は34分後です。」
 
 コクピット内にルナの声が響く。
 「Regina Mensis II」は、試験航行を終えて地球宙域に進入していた。
 試験航行は無事終了し、ほぼ全ての機能のテストを完了している。多分アンジェラ辺りの気配りだろう、試験航行の終着地は地球に設定されていたので、寄港ついでに食料品や日用品を買い込む予定だ。
 ブラソンに予定を訊くと、幾つかコンテンツを買い込むらしいが、思った程ではなかった。
 ブラソンの部屋に入ったことはないが、そろそろ部屋が一杯になっているのかも知れない。まだ進水して二日も経っていないのだが。
 
 試験航行中にブラソンから相談を受けている。
 ブラソンは、船内ネットワークにもう一つの外挿サーバを接続したいらしい。半ば趣味、半ば実益を兼ねた物で、ブラソンの持つプログラムやコンテンツを保管しておく場所だと言っていた。
 そっちの方面でのブラソンの実力は良く分かっているので、その力を存分に発揮して貰うために必要な物であるならば是非も無い。俺はその場で許可した。
 次にどこかの銀河種族達の大きな都市に寄港した際に買い込むのだそうだ。
 
 コンピュータやネットワーク技術に関して、ハードウェアに特化して言えばまだまだ地球は発展途上と言えた。そこは流石、百万年以上の歴史を持つ銀河種族達の技術が一歩先を行っている。
 ただそれは、ハードウェアに限っての話しだ。
 ソフトウェアに関しては、AIを好き放題使い、今ではAIがプログラムを作成する地球が銀河種族の技術に完全に追いついている。
 AI、つまり自立式のプログラムの分野に限れば、地球の技術は銀河種族達の技術の遙か先を行っている。「遙か先を行っている」というか、銀河種族達はそもそもAIを全く持っていない。何度も話に出てきたが、三十万年程前の機械戦争の名残だ。
 
 地球圏に近付くにつれ、色とりどりの星を散らした真っ暗な宇宙空間に、青い星が一つ徐々に大きくなってくる。少し離れたところにもう少し小ぶりな白い星が見える。
 言わずもがな。地球(テラ)とその衛星、月(ルナ)だ。
 船は月に向かって進む。
 地球軌道上に幾つかステーションはあるが、どれも常に混んでおり、接岸要求を出してからクリアランスが下りるまで数時間待ちなどざらにある。対して、月軌道上のステーションであれば、比較的早くクリアランスを得ることが出来る。
 月軌道ステーションに上陸して、地球まで行きたいのであれば小型のタクシーを雇って地球に行けば良い。タクシー運賃が少しばかり高く付くが、その方が遙かに早い。
 
 今回俺は地球に下りる予定はなかった。今から接岸予定のアルテミス・ステーションで買物をして、終わりだ。
 アルテミス・ステーションは、月軌道で最大のステーションであり、このステーションに居住している者も多い。ステーション内には幾つか街と呼べるエリアがあり、飲食店街や歓楽街、公園にスポーツ施設、スーパーマーケットまでありとあらゆるものが存在する。
 物価は地球に対して少し高めだが、品揃えは地球に負けていない。アステロイド・ベルトのセレスなどで買い物をすると、物価も高く、品揃えも悪い。
 
 
■ 2.5.2
 
 
「マサシ、隣の船から嫌がらせを受けています。」
 
 感情のこもらないルナの声。
 すでにモニタ一杯にアルテミス・ステーションが広がる程に接近している。接岸シーケンスは自動処理なので、報告はルナから届く。
 
「嫌がらせ?どうした?」
 
「隣の船がコンテナ積み込み作業を行っているようなのですが、一部のコンテナがこちらの領域に放置されています。移動するよう再三要求しているのですが、分かったと言うだけで全く動きがありません。今、コンテナが一つ増えました。」
 
「船の名前は?」
 
「『Red Jupiter's stripes』、地球船籍DSR4223ER、『Red Sun』商船組合の所属船です。船長はPhilip Beier。」
 
 太陽系内の商船はほとんど全てが民間の商船組合に所属している。ほとんど民間企業と変わらない形態の組合もあれば、個人商船が緩い繋がりを持つだけの組合もある。会社として組合に加盟している場合もあれば、個人として加入している場合もある。
 商船組合「Red Sun」は、俺が知る限りでは、かなり強い力を持つ個人商船の組合だったはずだ。その分強い結束力を持つ。強い力を持つ組合なので、組合員の中には、それを笠に着て傍若無人な振る舞いをする者もいる。
 
 俺は太陽系内での仕事はほとんど受けることが無いので、地球の商船組合に所属していない。というか、加入させてもらえない。やっかみ半分、と言うところだが。
 いずれにしても、商船組合に加入していない「弱者」である船に、強い力を持つ組合に所属する船が嫌がらせをするなど、日常茶飯事だった。
 
「ルナ。港湾管理局に正式の抗議。『当方、接岸自動シーケンス中にあり、進路上のデブリは排除する。』と伝えておけ。当然の権利だ。」
 
「諒解しました。港湾管理局から返信。デブリ排除と接岸許可されました。コンテナはデブリではありませんが、よろしいのですか?」
 
「さて。俺には本船の進路上にはデブリしか見えないんだが?」
 
「諒解しました。船首重力シールドでデブリを排除しつつ接岸シーケンス継続します。」
 
 ブラソンがあきれ顔で振り返る。
 
「テラってのは、こういう所なのか?」
 
 ああ、多分今こいつの目には、理屈の通らない頭の悪い野蛮人の集団が、ヤクザのようにいわれのないイチャモンを付けてきている様に見えていて、それが地球人の姿と重なっているのだろうな。
 まあ、否定はしないけれどな。
 
「やっかみ半分の嫌がらせだよ。連中にしてみれば、太陽系の外で商売している俺が新造船に乗って羽振りが良さそうなのが気に入らないのさ。俺はどこの組合にも属していないからな。後でやり返される恐れもない。」
 
「ならば連中も太陽系の外に出れば良い。」
 
「その通りだ。だが連中にはその勇気が無い。勇気があったとしても成功できるかどうか分からない。成功できるまで生き延びれるかも分からない。どうすれば良いのかさえ分からない。だから、大きな儲けも得られないが、その分大きなリスクもない商売を奴らは選んだ。それが自分達の選択でも、リスクを超えて大きな金を手に入れた奴がいれば面白くないのだろうさ。まぁ、蛮人のやることだ。大目に見てやってくれ。」
 
 そう言って笑うと、ブラソンは複雑な表情をして肩をすくめた。
 
 
■ 2.5.3
 
 
 アルテミス・ステーションでの買物は多岐にわたった。
 アンジェラがサービスで色々と付けてくれてはいたのだが、それで全て揃っている訳でもないし、そもそも新造船でなにも積んでいないところに持ってきて、俺もブラソンもほとんど私物を持っていなかったのだ。
 もちろん、ルナがそんな物を持っているはずもない。それどころかルナは、下着も含めて着替えさえ持っていない状態だった。
 どうするつもりだったのか問い質すと、ランドリーが上がってくるまで裸で過ごせば良い程度に思っていたらしい。
 本人は良くとも、そんな格好で船内をうろつかれてはこちらの精神衛生に宜しくない。俺達は慌てて、ルナに自分の服一式を最低三組揃えるように指示した。
 
 特筆すべき所では、街角でふと見つけた、背中に刺繍の入ったスカジャンをブラソンがえらく気に入った。ファッション性と断熱機能と防弾防刃機能が備わっているところが、どうやら奴のオタク心をくすぐったらしい。
 先の仕事は、飛び交う弾丸をかいくぐって僅かに見えた成功報酬を掴み取る様な依頼だったが、そんな依頼がそうたびたび舞い込むとは思えない。普段着る服に防弾防刃機能が必要だとはとても思えなかった。
 しかしブラソンの強い要望で、背中に「Regina Mensis II」と刺繍の入った銀に濃紫色のスカジャンを、ブラソンとルナと俺の三人分お揃いで作ることになった。
 出来上がってみると、これがなかなか悪くない。結局俺もそのスカジャンを気に入って、出来上がったまま店でそれを羽織り、アルテミス・ステーションにいる間中三人とも揃いのスカジャンを着て行動した。このまま俺達の船のユニフォームにするのも悪くないかも知れない。
 
 めいめいに必要な物を買い込んで船に戻る。食料品などの大量購入した物は店からコンテナに入って直接船に届けられることになっている。
 燃料補給が終わり、買い揃えた物が全て届いて船内で整理が付いた後、月を離れて一旦シャルルの造船所に戻ることになった。いわゆる全力公試を終了した後の各所チェックを行うためだ。
 どんな機械でも同じだが、試運転で全力運転を行った後は必ず一度完全整備を行わねばならない。初めての全力運転が原因で、思わぬところが緩んでいたり、気付かないひずみが出来ていたりするものだ。この整備を怠ると、機械の寿命を著しく縮めることになる。
 
 離岸シーケンスを開始するとルナの宣言。
 あれだけ嫌がらせをしてきた隣の船は、いきなり強硬手段を執ったからか、それとも港湾管理局からの公式な注意が効いたのか、今のところはおとなしくしている。
 もっとも、こちらが離岸してから追いかけてきたとしても、太陽系内の移動専用に作られた鈍足な貨物船に追いつかれるような「Regina Mensis II」ではない。
 
「マサシ、あれは何だ?ステーションにいる時から気になっていたんだが。」
 
 ブラソンが指さす先には、すでに航行不能な状態まで色々な構造物を取り付けられ、しかしそれでいて明らかに元々宇宙船であったと分かるオブジェがある。
 そのオブジェは、潰れた円錐形を合わせたような形のアルテミス・ステーションの中心から少し外れたところに、しかしステーションに連なるように接合された構造物群の中に固定されている。
 ゴツゴツとした外観は、まるで寄せ集めの部品で作ったガラクタのようで、デザインにまるで統一性がない。前後に向けて開く巨大なプラズマ噴射ノズルは、主推進装置がジェット推進である事を物語っている。
 地球人の誰もが歴史の教科書で習うその艦の名は、「Terraner Dream」。地球人の夢。希望。
 
 接触戦争末期に、火星宙域に陣取ったファラゾアの残存主力艦隊に対して、たった二隻の護衛駆逐艦を伴っただけで突撃をかけた勇猛果敢な艦。
 火星軌道に到達した直後の砲撃戦で、ファラゾア艦隊の旗艦からの主砲攻撃を受けて轟沈し、実際の所、敵艦隊に有効な損害を与えるには至らなかった。
 当時の地球製の宇宙船には、重力シールドどころか、電磁シールドさえも備えられていなかった。ものの数発の砲撃で轟沈したことだろう。
 たった二隻の護衛駆逐艦隊も、当時の地球にはそれだけの船しかなかったからであり、持てる全力を叩き付けようとして絞り出した艦の数がたったの二隻だったのだ。
 
 結局、ファラゾア艦隊の本体を直接攻撃しようと勇ましく突撃した火星派遣艦隊は一瞬で壊滅し、艦載機達は命からがら火星に向けて脱出。地表に穴を掘って仮設基地を設営し、欠乏する補給物資をやりくりしながら火星に踏みとどまって応戦した。
 しかしその戦いで初めて「守る」戦いから「攻める」戦いに転じた地球人類は、初めて背後を気にせずに戦うことが出来るようになり、ファラゾアの敗色に傾きかけていた戦いのバランスをさらに一気に加速させ、そして最終的に勝利をもぎ取った。自分達を創造した創造主、宗主族の尻を蹴り飛ばし、星系から叩き出した。
 
 その、長く苦しく激しかった戦いの最後の時期に、やっと僅かな希望が見えてきた全地球人の夢と期待を一身に背負って火星に突撃した艦。
 例えその役割を期待されていた敵艦隊との砲撃戦で全く成果を上げられなかったとしても、戦いの場を地球から引き剥がして火星に移したこと、有力な艦載機群を火星まで持ち込み、結局それが勝利への礎となったこと。
 そして何よりも、地球人反攻の象徴的存在として、当時地球上に残存していた全ての地球人の意思と希望と力をまとめ上げた存在として。
 「地球人の夢」と名付けられたその艦は、戦後に最大限の残骸を回収されて不足部分を補い、地球人が初めて建造した地球外恒久ステーションの一角に記念艦として永久に保存される事となった。
 
「不格好な艦だ。だが、確かに戦う艦の風格がある。なるほどな。あの艦が、まさにテランそのもの、と言う訳だ。」
 
 ブラソンは感慨深げに「Terraner Dream」を眺めている。
 俺が説明したような知識は、ネットを検索すればすぐに得られるだろう。それでも俺に聞いてきたと言うことは、多分地球人の口から直接その艦の意味するところを聞きたかったのだろう。
 
「マサシ。本船予定進路上に不穏な動きがあります。」
 
 「Terraner Dream」を眺める俺達に横からルナの声がかかる。
 
「どうした?」
 
 いや、大体何が起こっているか予想は付いているのだが。
 
「八隻の中小貨物船が、本船の進路を遮るように集結しようとしています。」
 
「で、その船は全部『Red Sun』商船組合の船だろう?」
 
「はい。どうしますか?このままだと、アルテミス・ステーションからの離岸に支障を来します。」
 
 商船組合と言うよりも、ほとんどヤクザだな。下っ端がやられたので、上の武闘派がお礼参りに来たか。
 
「アルテミス・ステーション管制宙域内では、重力シールドで弾き飛ばせ。総ジェネレータ出力はこっちの方が上回っている。余裕だろう。自動シーケンス中の不慮の事故で片付けてやる。アルテミス管制宙域を出たら、月周回軌道1万kmまで加速60%で移動。叩き潰してやる。」
 
「諒解しました。レーザー砲塔開きますか?」
 
「いや、待て待て待て。血の気の多い奴だな。武器は無しだ。喧嘩に武器を持ちだしたら本気の殺し合いになる。それに法律的には先に武器を出した方が負けだ。やるなら、奴らに先に撃たせるんだ。それまで砲塔絶対動かすなよ。」
 
 でも先に奴らに撃たせて、船に傷つけたらシャルルに怒られるだろうな。
 仕方が無い。俺が売った喧嘩じゃない。まぁ、消極的に買いはしたが。
 
「テラってのはいつもこんなのか?流石というか、何というか。」
 
 ブラソンが呆れたように呟く。
 
「そんな訳あるか。稼ぎの悪い奴らがやっかんでんだ。特にこの船は新造船で目立つからな。」
 
 目立つどころじゃないだろう。
 金の無い中で、継ぎ接ぎだらけで改造に改造を重ねた不格好なジャンク船のような貨物船群の中に、MONEC社の船殻を使い統一性の取れた美しいデザインの白銀色の新造船が混ざれば、そりゃ目立つ。
 うらやましければ自分達もそんな船を造れるように稼いでみろ、という話しなのだが、奴らの論理はそうではないらしい。
 
「やるか?悪いが、テラ製の船載サーバなら数十秒あれば落とせる。この船のリソースを使わせて貰えば、八隻まとめて数分だ。」
 
「いや、それもやめておこう。こっちには組合の後ろ盾が無い。法律だけが味方だ。専守防衛といこう。なあに、任せとけって。」
 
 そのまま離岸シーケンスに乗ってステーションを離れる。こちらの進路を妨害しようとした三隻をシールドで弾く。
 対デブリ用の重力シールドは、超高速で突入するデブリを高重力で「落とす」シールドだ。とにかくデブリを弾き飛ばすことに特化しているので、それ以外の事を考慮していない。というか、出来ない。光速の20%にも達した場合、デブリを弾くだけでもギリギリの大仕事なのだ。
 
 そのシールドに船舶が不用意に突入した場合。
 重力シールドの影響下にある部分と、そうでないシールドの外にある部分との間で重力によってかかる力に大きな齟齬が発生する。
 結果、一部分だけに力のかかった船体はコマのようにスピンしながら吹き飛ばされ、船体構造には一瞬だけ巨大な擬似的な潮汐力が働く。運が悪ければ船が分解する。
 「Red Sun」商船組合のジャンク船達は、その潮汐力に耐えられる程強固な構造では無かったようだ。「Regina Mensis II」の重力シールドに接触した三隻の貨物船は、どれも凄まじい勢いで回転しながら弾かれ、回転し分解して様々な部品を飛び散らしながら虚空へと消えていった。
 あれだと、中の人間は強化船外活動服を着ていなければ生きていないだろう。
 搭載しているジェネレータ八基と、そこにパワーを供給するリアクター三基のなせる技だった。
 
「ルナ。不幸な事故が発生したことを港湾管理局に連絡。あくまで、連中がこっちの進路を故意に妨害したことが原因だ。それから、救難要請。連中も状況は見ているだろうが、一応しておかないとな。後で効いてくる。」
 
「諒解しました。港湾管理局に通報。救難要請の発信。受理されました。」
 
「ルナ。指示変更。離岸シーケンス緊急停止。吹き飛んだどれか一隻を出力15%で追跡。救難行動だ。」
 
「諒解しました。放置すると地球引力圏に捉えられる軌道の『Red Prominence』を出力15%で救難追跡します。」
 
 船の進路が変わる。それなりにGのかかる動きなのだが、中にいる俺達は一切それを感じない。
 
「マサシ。残り五隻の貨物船がさらにこちらの進路を妨害してきます。重力干渉確認。こちらの進路上に重力焦点を生成中。」
 
 バカが。頭が悪いにも程がある。進路妨害で無く、居住宙域内での危険行為で操縦免許取り消されるぞ。
 
「俺が操縦する。コントロールをこちらへ。」
 
「諒解。手動操縦に変更。You have。」
 
「I have。こちらの面の月面地図を見せてくれ。」
 
 視野右側に半透明の月面地図が開く。今までモニタしていた船のステータス画面を縮小化し、足下の方に落とす。
 
「マサシ。通信入りました。発信元は『Red Brillant Star』。船長James Wu。」
 
「音声のみ繋げ。」
 
 空間マップの中の発信元の貨物船が黄色い円で囲まれて点滅する。
 
『おう、てめえ、自分が何やったか分かってんだろうな。』
 
 いかにも、というダミ声が響く。全く溜め息が出る様な話だ。
 
「不慮の事故だった。こちらが自動シーケンスで動作中に、進路を妨害した連中が悪い。アルテミス港湾管理局には正式に抗議して、受理された。善意で連中を救難しに行こうとしたのを邪魔したのはあんた達だ。こっちが聞きたい。どういう了見だ?」
 
 話しながら、次々生成される重力焦点を手動で避ける。
 重力焦点の生成速度と、こちらの動きへの反応で、連中がどの程度の質と量のジェネレータを持っているか分かる。所詮「Regina Mensis II」には敵わないのは最初から分かっているが。
 
『元はと言えば、てめえが「Red Jupiter's stripes」の積み込み作業に割り込んで、積み荷を弾き飛ばしたのが悪いんだろうが。俺達に喧嘩売ってんのか?』
 
「そっくりそのまま返してやろう。元はと言えば、その『ユピテルの赤パン(Jupiter's Red Shorts)』とか言う船がこちらの進路にわざとコンテナを置いて妨害したのが悪い。港湾管理局にも抗議して正式に排除の許可を貰っている。」
 
 デブリの、だがな。
 
『てめえ、俺達は「Red Sun」だぞ。俺達に喧嘩売って、商売続けていけると思ってんのか。』
 
 理屈が破綻したか。早いな。こっちはまだ幾つかカードが残ってるぞ。
 
「ああ、問題無い。太陽系内で何かを売り買いする気は無い。おまえらこそそのボロ船で俺に嫌がらせをしにオリオン腕まで出てこれるのか?ご苦労なこったな。」
 
「マサシ。『Red Brillant Star』レーザー砲塔がこちらを向きました。」
 
 「消音」マーキングを押して船内だけに話す。
 
「レーザー被弾を検知したら、敵の密度がもっとも薄い方向に最大加速。包囲を突破しろ。承認不要。」
 
「諒解。」
 
 撃ってきたら、相当な阿呆だ。いくら最大手「Red Sun」と言えど、他の艦船に向けてレーザーを撃てばもみ消すことは無理だろう。これだけステーションに近ければ、レーザー照射時の反射光は確実に検知される。
 まあ、これだけ重力焦点を発生させた時点ですでに言い逃れは出来ないと思うが。
 
『てめえ、ぶっ潰してやる。』
 
 前方に次々と重力焦点が出来る。ジェネレータ性能が悪いのか、こちらの動きを追尾できない。出力15%のまま楽々避けられる。
 
 連中が包囲を狭めてきた。
 やる気か?
 俺はもう一度右手に開いている月面地図を見た。
 
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