8 / 143
第一章 危険に見合った報酬
8. 戦闘用調整種族
しおりを挟む
Section new 1: 危険に見合った報酬
第八話
title: 戦闘用調整種族
■ 1.8.1
「前々から不思議に思っていたの。テランに会ったことが無いから聞けなかったのだけれど。聞いて良い?」
雑談を重ねて、リラックスしたムードの中でミリが言う。
食事の容器と包みはすでにオートベンダー脇のシューターに放り込んだ。
俺たちの手元には、ハフォンでよく飲まれているという赤色の茶のカップが残った。健康に良いそうだ。
相変わらず店内には俺たち三人しかいなかった。
たまに誰かがやってきては、オートベンダーで食事を買いすぐに店を出ていった。自室に持って帰って食べるのだろう。
「テランは、何故そんなに戦闘能力が高いの? 戦闘用に調製されているので反応速度が速くて、肉体的にも強靱だというのは知っているわ。そうでなくて、絶対に諦めないその精神性が知りたいの。」
「おやおや、これまた凄いとこに突っ込んできたな。」
サーバから取り出したばかりの熱い茶を啜りながら、テーブルに戻ってきたブラソンが嗤う。
「私たちハフォン人が地球人に好意的なのは、あなたたちも宗教を持っているという理由もあるけれど、それ以上にあなたたちは、絶対に諦めない、という強靱な精神を持っている、その点によるところが大きいわ。若い種族のエネルギー満ち溢れた精神、と一言で括ることは出来ない。歴史の記録を紐解けば分かる。私たちは、そうではなかった。私たちはあなたたちのその素晴らしく強靱な精神に強い羨望を感じている。では、何故私たちには出来ないの、その差はなんなの、ということになる。」
ブラソンの混ぜっ返しを完全に無視して、ミリが真っ正面から俺の方を向いて質問してくる。
口調が少しおかしい。この黒髪と鳶色の丸い目をした明るい性格の女のロールの口調では無かった。
約400年前、地球人は星系外種族からのファーストコンタクトを受けた。
だがファーストコンタクトだと思っていたのは地球人だけで、実はそうではなかった。
数十万年も前に地球に新生人の種を撒き、そろそろ収穫期が近づいてきた地球人を従属として使役しようとした銀河列強種族ファラゾアが創造主として再び地球を訪れたのだった。
地球人は有無を言わさず強制的に人をさらっていくファラゾアの技術と物量に恐怖した。
そして実はファラゾア艦隊には一人として「ヒト」はおらず、生体ユニットに入ったファラゾア人の脳が全てを制御していると知って戦慄した。
さらに彼らの来訪目的が、実は地球侵略などではなく、地球人の脳を刈り取るためだけだと知って恐怖と嫌悪感は絶頂に達した。
余りにセンセーショナル過ぎる情報であったため、当時はこの情報は一般には伏せられたほどだった。
すくみ上がるような恐怖と絶望の淵に立たされた地球人だったが、しかし彼らは立ち上がり、敵うはずのない強大な敵と戦うことを選んだ。
それは50年以上も続く熾烈な戦いだった。ファラゾアは圧倒的な物量と、地球人には全く手の届かない技術を持って次々と地球人を刈り取っていく。
地球人は、たった一つだけの生存圏である地球の支配権と、自分たちの自由を守るため、文字通り死力を尽くしありとあらゆる手段を使って対抗した。
自分達が生存するために絶対的に必要な地球大気圏内で、致命的な影響を残す事が判っている多数の反応弾を使用することまでしたのだ。
やっと核融合に到達するかしないか、やっと外惑星に探査用の基地を置けるかどうか、という技術レベルであった地球人にとって、100万年近い科学技術的アドバンテージがあり、星系間航法を持ち、重力を制御し、無尽蔵のエネルギーと想像も出来ない規模の物量、何よりも地球人をただの生体資源としてしか見ていない敵との戦いは想像を絶する熾烈さを極めた。
戦いと捕獲によって数を減じていく地球人は、だがその戦いの中で巨大な敵の技術を吸収し、熱核融合を実用化し、重力制御を覚え、惑星間航行を実現し、星系規模兵器を開発していった。
それは、まさに宗主族であるファラゾアから、戦闘用従属として調製されたがために得られた、ファラゾアに対して約1.5倍の反応速度や強靱な肉体的特性によるところも大きかった。
だが何よりも、どんなに絶望的な状況に陥ろうとも、絶対に諦めず文字通り命尽きるまで戦い続ける、という地球人の精神性に依るところが大きかった、と銀河種族の間では分析されている。
そうでなければ、全天を覆い尽くす強大な戦闘艦群に戦意を喪失し、例え抵抗しようとも散発的で、為す術も無くファラゾアに刈り取られるだけに終わった筈だった、と。
まさに地球人が一丸となって死をも恐れず徹底的に抵抗したことが、後に地球史の中で『接触戦争』と呼ばれるこの太陽系防衛戦に勝利したことの最大の要因であった、と云われている。
それはここ数十万年の汎銀河戦争の歴史の中で最大の事件だった。
百万年もの技術的アドバンテージによる支配を撥ね除けて、従属が宗主族から独立するなどあり得ないことだった。
だが地球人はそれをやってのけた。
そして、汎銀河戦争史上最強の戦闘種族として銀河系に華々しくデビューした。当人達はそれと知らずに。
100万年のアドバンテージを越えるのはどう考えても不可能に思える。
しかし実は、ファラゾアの100万年と地球人のそれは随分違うことが、今となっては分かっている。ファラゾアを含む銀河種族達の技術進歩は極めてに緩やかで、汎銀河戦争が始まって以来目立った技術革新が起こっていない。
これは、ファラゾアを含む全ての銀河種族達が種族的リソースを戦争継続に大きく振り分けたという理由もあるが、元々の技術開発速度が非常にゆっくりだった、という理由もある。
地球人の歴史では、大気圏内の有人飛行機が飛んでから有人宇宙船が宇宙に出るまでたった六十年しかかかっていない。
それに対してファラゾアは、同様の技術的進歩に千年以上の時間をかけている。
この比率をそのまま適用出来るものではないが、ファラゾアだけでなく全ての銀河種族の技術的進歩は、地球人のそれに比べてきわめて遅い歩調であった。
そして、強力無比な敵に思えたファラゾアにも、実は制約があった。
数十万年の間に生物としてはそれなりに進化しつつも、地球人類がそんな短期間で科学技術を会得しているとは想像だにしていなかった。
石器を使い始めたかどうかの原始人レベルの現住生物の生体脳を刈り取るだけのつもりの装備で地球を訪れ、反応弾を搭載したミサイルによる歓迎を受けてしまったのだ。
さらに、ファラゾアは地球人の脳を必要としているため、地球人との戦いの中で、生体資源である地球人を積極的に殺すわけにはいかなかった。
対して地球人は、とにかく死にものぐるいで遠慮なくファラゾアを攻撃した。
ファラゾアの戦闘機械群は基本的に宇宙空間での戦闘を目的として開発されたものであったが、他に植民惑星など持たない地球人に対する主戦場は地球大気圏内だった。
流体抵抗のある強酸化性の大気圏内を宇宙用の戦闘機で機動するファラゾアに対して、それを迎え撃つのはその大気圏内での機動に特化した地球の戦闘機群。さらにそれを駆るのは戦闘用に調製され、ファラゾアの1.5倍の反応速度を持った地球人。
ファラゾア戦闘機械群への足枷の様に重なる悪条件に対して、これ以上ないほどの好条件で戦える地球人。
そして地球人はファラゾアに対して互角以上に戦った。
撃ち落とされたファラゾア戦闘機械の残骸を回収して分かったことは、ファラゾア戦闘機械群が生体脳によってコントロールされているという事実だけではなかった。
効率よくコンパクト化された熱核融合炉、SF小説の中にしか存在しなかった重力ジェネレータ、製造プロセスさえ分からないものの確かに目の前に存在する未知の高強度合金。
これら全てのオーバーテクノロジーに地球人技術者は狂喜し飛びついた。
その技術を会得することが、地球の未来を切り開くことと信じて。
小型熱核融合炉を実用化させたのはその道で技術的蓄積のあったヨーロッパ国家群であったが、見たことさえない重力ジェネレータを僅か二十年で模倣し、実用化した上にさらに応用化したのは、その前世紀に目を見張るほどの模倣能力と、模倣技術を応用してさらに高度化するという特殊技能を全世界に見せつけた日本だった。
重力制御を手に入れた地球人達は、信じられないほど短期間の内に次から次へと新兵器を編み出した。
重力制御と空力制御を併用した超高機動大気圏内戦闘機、重力制御航法により宇宙空間でファラゾアと互角の運動性能を発揮する戦闘機、地上から発射するにもかかわらず衛星軌道上を遊弋する宇宙船を撃沈可能な対艦ミサイル、亜光速で大気圏に突入する対地ミサイル、第三宇宙速度さえ遙かに超える毎分数十トンもの砲弾を打ち出す速射砲、ファラゾアでさえ採用していない超高出力の大口径X線レーザー。
果ては、ファラゾア戦闘機械群の重力ジェネレータを共鳴破壊する装置まで開発し、そしてそれら開発した兵器の全てをすぐさま戦闘に投入した。
そこに戦闘用種族である地球人の戦闘能力が上乗せされ、当初圧倒的なファラゾア優位で進んでいた地球の制圧と地球人の採取は、その戦況を一気に巻き返された。
ファラゾア戦闘機は地球大気圏から叩き出され、軌道降下する戦闘機は見事に迎撃され、地球周回軌道に入った戦闘艦は次々に撃沈された。
ファラゾアの地球派遣艦隊はその危機的状況を本国に報告して増援を求めたが、本国の認識では火さえまともに使えない原始人である筈の地球人が、重力制御兵器を開発して対抗するなどと云う突拍子もない報告をにわかに信じることが出来ず、動きの遅いファラゾア本国で増援艦隊の派遣が決定されるより前に、ファラゾアの地球派遣艦隊は地球人の手によって殲滅された。
やっと火を手に入れた程度の技術レベルと予想し刈り取りに向かった先の従属が、大気圏内の飛行機を駆使し、初歩的ながら宇宙船を持ち、自分自身を数十回絶滅させることが出来るほどの、狂気の沙汰としか思えない量の反応兵器を持ち、そしてそれらの兵器をためらうことなく全力で投入して抵抗してきた。
全てが予想外の状況だった。
ファラゾアにより付与された特性によって予想されていた、地球人類が地球上で生き残るために他の生物と戦い勝ち抜く生存競争だけでなく、異常とも言えるほど旺盛な闘争本能を抑えきれず、同じ地球人類同士で何万年も常に戦い続けた結果の進化と進歩だった。
銀河列強種族であり、汎銀河戦争の中で大きな勢力を持つファラゾアが、自ら育て上げた従属に反抗され手酷く追い返された、というニュースは銀河中を駆けめぐった。
その話題の中心は、たかが原始文明に無惨な敗北を期したファラゾアの方ではなく、強大なファラゾアという宗主族の支配を力でもって跳ね返した、テランという聞き慣れない名前の種族だった。
第八話
title: 戦闘用調整種族
■ 1.8.1
「前々から不思議に思っていたの。テランに会ったことが無いから聞けなかったのだけれど。聞いて良い?」
雑談を重ねて、リラックスしたムードの中でミリが言う。
食事の容器と包みはすでにオートベンダー脇のシューターに放り込んだ。
俺たちの手元には、ハフォンでよく飲まれているという赤色の茶のカップが残った。健康に良いそうだ。
相変わらず店内には俺たち三人しかいなかった。
たまに誰かがやってきては、オートベンダーで食事を買いすぐに店を出ていった。自室に持って帰って食べるのだろう。
「テランは、何故そんなに戦闘能力が高いの? 戦闘用に調製されているので反応速度が速くて、肉体的にも強靱だというのは知っているわ。そうでなくて、絶対に諦めないその精神性が知りたいの。」
「おやおや、これまた凄いとこに突っ込んできたな。」
サーバから取り出したばかりの熱い茶を啜りながら、テーブルに戻ってきたブラソンが嗤う。
「私たちハフォン人が地球人に好意的なのは、あなたたちも宗教を持っているという理由もあるけれど、それ以上にあなたたちは、絶対に諦めない、という強靱な精神を持っている、その点によるところが大きいわ。若い種族のエネルギー満ち溢れた精神、と一言で括ることは出来ない。歴史の記録を紐解けば分かる。私たちは、そうではなかった。私たちはあなたたちのその素晴らしく強靱な精神に強い羨望を感じている。では、何故私たちには出来ないの、その差はなんなの、ということになる。」
ブラソンの混ぜっ返しを完全に無視して、ミリが真っ正面から俺の方を向いて質問してくる。
口調が少しおかしい。この黒髪と鳶色の丸い目をした明るい性格の女のロールの口調では無かった。
約400年前、地球人は星系外種族からのファーストコンタクトを受けた。
だがファーストコンタクトだと思っていたのは地球人だけで、実はそうではなかった。
数十万年も前に地球に新生人の種を撒き、そろそろ収穫期が近づいてきた地球人を従属として使役しようとした銀河列強種族ファラゾアが創造主として再び地球を訪れたのだった。
地球人は有無を言わさず強制的に人をさらっていくファラゾアの技術と物量に恐怖した。
そして実はファラゾア艦隊には一人として「ヒト」はおらず、生体ユニットに入ったファラゾア人の脳が全てを制御していると知って戦慄した。
さらに彼らの来訪目的が、実は地球侵略などではなく、地球人の脳を刈り取るためだけだと知って恐怖と嫌悪感は絶頂に達した。
余りにセンセーショナル過ぎる情報であったため、当時はこの情報は一般には伏せられたほどだった。
すくみ上がるような恐怖と絶望の淵に立たされた地球人だったが、しかし彼らは立ち上がり、敵うはずのない強大な敵と戦うことを選んだ。
それは50年以上も続く熾烈な戦いだった。ファラゾアは圧倒的な物量と、地球人には全く手の届かない技術を持って次々と地球人を刈り取っていく。
地球人は、たった一つだけの生存圏である地球の支配権と、自分たちの自由を守るため、文字通り死力を尽くしありとあらゆる手段を使って対抗した。
自分達が生存するために絶対的に必要な地球大気圏内で、致命的な影響を残す事が判っている多数の反応弾を使用することまでしたのだ。
やっと核融合に到達するかしないか、やっと外惑星に探査用の基地を置けるかどうか、という技術レベルであった地球人にとって、100万年近い科学技術的アドバンテージがあり、星系間航法を持ち、重力を制御し、無尽蔵のエネルギーと想像も出来ない規模の物量、何よりも地球人をただの生体資源としてしか見ていない敵との戦いは想像を絶する熾烈さを極めた。
戦いと捕獲によって数を減じていく地球人は、だがその戦いの中で巨大な敵の技術を吸収し、熱核融合を実用化し、重力制御を覚え、惑星間航行を実現し、星系規模兵器を開発していった。
それは、まさに宗主族であるファラゾアから、戦闘用従属として調製されたがために得られた、ファラゾアに対して約1.5倍の反応速度や強靱な肉体的特性によるところも大きかった。
だが何よりも、どんなに絶望的な状況に陥ろうとも、絶対に諦めず文字通り命尽きるまで戦い続ける、という地球人の精神性に依るところが大きかった、と銀河種族の間では分析されている。
そうでなければ、全天を覆い尽くす強大な戦闘艦群に戦意を喪失し、例え抵抗しようとも散発的で、為す術も無くファラゾアに刈り取られるだけに終わった筈だった、と。
まさに地球人が一丸となって死をも恐れず徹底的に抵抗したことが、後に地球史の中で『接触戦争』と呼ばれるこの太陽系防衛戦に勝利したことの最大の要因であった、と云われている。
それはここ数十万年の汎銀河戦争の歴史の中で最大の事件だった。
百万年もの技術的アドバンテージによる支配を撥ね除けて、従属が宗主族から独立するなどあり得ないことだった。
だが地球人はそれをやってのけた。
そして、汎銀河戦争史上最強の戦闘種族として銀河系に華々しくデビューした。当人達はそれと知らずに。
100万年のアドバンテージを越えるのはどう考えても不可能に思える。
しかし実は、ファラゾアの100万年と地球人のそれは随分違うことが、今となっては分かっている。ファラゾアを含む銀河種族達の技術進歩は極めてに緩やかで、汎銀河戦争が始まって以来目立った技術革新が起こっていない。
これは、ファラゾアを含む全ての銀河種族達が種族的リソースを戦争継続に大きく振り分けたという理由もあるが、元々の技術開発速度が非常にゆっくりだった、という理由もある。
地球人の歴史では、大気圏内の有人飛行機が飛んでから有人宇宙船が宇宙に出るまでたった六十年しかかかっていない。
それに対してファラゾアは、同様の技術的進歩に千年以上の時間をかけている。
この比率をそのまま適用出来るものではないが、ファラゾアだけでなく全ての銀河種族の技術的進歩は、地球人のそれに比べてきわめて遅い歩調であった。
そして、強力無比な敵に思えたファラゾアにも、実は制約があった。
数十万年の間に生物としてはそれなりに進化しつつも、地球人類がそんな短期間で科学技術を会得しているとは想像だにしていなかった。
石器を使い始めたかどうかの原始人レベルの現住生物の生体脳を刈り取るだけのつもりの装備で地球を訪れ、反応弾を搭載したミサイルによる歓迎を受けてしまったのだ。
さらに、ファラゾアは地球人の脳を必要としているため、地球人との戦いの中で、生体資源である地球人を積極的に殺すわけにはいかなかった。
対して地球人は、とにかく死にものぐるいで遠慮なくファラゾアを攻撃した。
ファラゾアの戦闘機械群は基本的に宇宙空間での戦闘を目的として開発されたものであったが、他に植民惑星など持たない地球人に対する主戦場は地球大気圏内だった。
流体抵抗のある強酸化性の大気圏内を宇宙用の戦闘機で機動するファラゾアに対して、それを迎え撃つのはその大気圏内での機動に特化した地球の戦闘機群。さらにそれを駆るのは戦闘用に調製され、ファラゾアの1.5倍の反応速度を持った地球人。
ファラゾア戦闘機械群への足枷の様に重なる悪条件に対して、これ以上ないほどの好条件で戦える地球人。
そして地球人はファラゾアに対して互角以上に戦った。
撃ち落とされたファラゾア戦闘機械の残骸を回収して分かったことは、ファラゾア戦闘機械群が生体脳によってコントロールされているという事実だけではなかった。
効率よくコンパクト化された熱核融合炉、SF小説の中にしか存在しなかった重力ジェネレータ、製造プロセスさえ分からないものの確かに目の前に存在する未知の高強度合金。
これら全てのオーバーテクノロジーに地球人技術者は狂喜し飛びついた。
その技術を会得することが、地球の未来を切り開くことと信じて。
小型熱核融合炉を実用化させたのはその道で技術的蓄積のあったヨーロッパ国家群であったが、見たことさえない重力ジェネレータを僅か二十年で模倣し、実用化した上にさらに応用化したのは、その前世紀に目を見張るほどの模倣能力と、模倣技術を応用してさらに高度化するという特殊技能を全世界に見せつけた日本だった。
重力制御を手に入れた地球人達は、信じられないほど短期間の内に次から次へと新兵器を編み出した。
重力制御と空力制御を併用した超高機動大気圏内戦闘機、重力制御航法により宇宙空間でファラゾアと互角の運動性能を発揮する戦闘機、地上から発射するにもかかわらず衛星軌道上を遊弋する宇宙船を撃沈可能な対艦ミサイル、亜光速で大気圏に突入する対地ミサイル、第三宇宙速度さえ遙かに超える毎分数十トンもの砲弾を打ち出す速射砲、ファラゾアでさえ採用していない超高出力の大口径X線レーザー。
果ては、ファラゾア戦闘機械群の重力ジェネレータを共鳴破壊する装置まで開発し、そしてそれら開発した兵器の全てをすぐさま戦闘に投入した。
そこに戦闘用種族である地球人の戦闘能力が上乗せされ、当初圧倒的なファラゾア優位で進んでいた地球の制圧と地球人の採取は、その戦況を一気に巻き返された。
ファラゾア戦闘機は地球大気圏から叩き出され、軌道降下する戦闘機は見事に迎撃され、地球周回軌道に入った戦闘艦は次々に撃沈された。
ファラゾアの地球派遣艦隊はその危機的状況を本国に報告して増援を求めたが、本国の認識では火さえまともに使えない原始人である筈の地球人が、重力制御兵器を開発して対抗するなどと云う突拍子もない報告をにわかに信じることが出来ず、動きの遅いファラゾア本国で増援艦隊の派遣が決定されるより前に、ファラゾアの地球派遣艦隊は地球人の手によって殲滅された。
やっと火を手に入れた程度の技術レベルと予想し刈り取りに向かった先の従属が、大気圏内の飛行機を駆使し、初歩的ながら宇宙船を持ち、自分自身を数十回絶滅させることが出来るほどの、狂気の沙汰としか思えない量の反応兵器を持ち、そしてそれらの兵器をためらうことなく全力で投入して抵抗してきた。
全てが予想外の状況だった。
ファラゾアにより付与された特性によって予想されていた、地球人類が地球上で生き残るために他の生物と戦い勝ち抜く生存競争だけでなく、異常とも言えるほど旺盛な闘争本能を抑えきれず、同じ地球人類同士で何万年も常に戦い続けた結果の進化と進歩だった。
銀河列強種族であり、汎銀河戦争の中で大きな勢力を持つファラゾアが、自ら育て上げた従属に反抗され手酷く追い返された、というニュースは銀河中を駆けめぐった。
その話題の中心は、たかが原始文明に無惨な敗北を期したファラゾアの方ではなく、強大なファラゾアという宗主族の支配を力でもって跳ね返した、テランという聞き慣れない名前の種族だった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ワイルド・ソルジャー
アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。
世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。
主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。
旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。
ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。
世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。
他の小説サイトにも投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜
SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー
魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。
「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。
<第一章 「誘い」>
粗筋
余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。
「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。
ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー
「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ!
そこで彼らを待ち受けていたものとは……
※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。
※SFジャンルですが殆ど空想科学です。
※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。
※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中
※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる