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紅焔京
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聞けば、ファーガスは紅焔京から少し離れたところにある村からの依頼を受けるらしい。厄介な魔物が巣を作ったとか。
「サリーナ殿は何故ここに?」
「私も猟師だから依頼を受けに」
「そうでしたか!」
「うん。それよりサリーナって呼べば? 夫なんだし」
「へ? あ、いや、そんな……! まだ早いかと」
「そう? じゃあ、私もファーガス様って呼んだ方が良い?」
「いいえ! 僕のことはお好きにお呼びください!」
どうやらファーガスは奥手な人みたいだ。さっきから顔を真っ赤にして手を振ったり首を振ったりしている。初めて会った日に告白してきた男とは思えない。
それを言うなら私もそんな軽い女じゃなかったつもりだけど、転生して色々あって考え方が変わったのかも。こっちの結婚に関する文化も初めて知った時は驚いたし、紅焔と結婚した時には本当に色々あった。
「折角だし、今日はファーガスの依頼についていこうかな」
「へ?」
「奥様!」
私の言葉にファーガスがポカンとして、清心が咎めるような声を上げた。そう言えば居たよね清心。気配がないから忘れてた。
「よろしいのですか?」
「うん、まだあなたのことあんまり知らないし、お話したい」
「お待ち下さい、奥様! 本日は城にお戻りにならないと」
「なんで?」
「殿が心配されます!」
「えー?」
いや、心配って。今まで一緒に住んでてもほとんど顔を合わせなかったのに、今更? これまでだって外泊することはあったけど、特に何も言われなかったのに。
私が納得しないでいると鈴ちゃんまで加勢してきた。
「そうですよ、奥方様! 今日は、今日はひとまずお帰りを! ね、ね?」
「奥様、お願い致します。せめて、殿に一言仰ってから」
「今までみたいに清心が伝えてくれれば良いんじゃ?」
「いけません」
なんだか二人して必死に引き留めてくる。私もこちらの文化を完璧に理解したわけじゃない。もしかすると、引き留める理由があるのかもしれない。
念のため、ファーガスにも訊ねてみる。
「ファーガスはどう思う?」
「えっと、僕はあなたが一緒に来てくださるならとても嬉しいですが、コウエンはあなたの最初の夫なのでしょうから義理は立てたいと思っています」
「そっか」
うーん、そういうこと? たしかに、今までは一人しか夫がいなかったしね。複数人の夫と付き合うためにはそこら辺の礼儀をちゃんとしないといけないのかも。それにしたって、食事も妻と一緒に食べようとしない紅焔がそんなことを気にするとは思えないけど。
まあ、今朝は勇者に対抗心を燃やしていたし、少しは気にするのだろうか。
「分かった。じゃあ、今日は帰るね」
「それなら、出発を明日に延期しましょうか?」
「ううん、村の人たちが困ってるだろうからファーガスは行って」
「そうですか……」
ファーガスは途端にしょんぼりして暗い雰囲気になった。眉がハの字になって私を見上げる上目使いが子犬のようで、抱き締めたくなってしまう。
私は彼の頬を両手で包んでコツンと額を合わせた。
「そんな顔しないで。また今度、ね?」
「は、はい……」
勇者のくせに柔らかいほっぺたをむにむに押し潰す。さすがにキスは早いかと思って我慢した。当たり前だけど紅焔とすらしたことないし。ファーガスだけではなく、紅焔の時だってあっさり口約束で結婚したものだから夫と言うより友達になったくらいの感覚なのだ。おかげで私、最初は結婚したことに気付いてなかったんだから。
「それでは、僕はこれで」
「うん、怪我しないでね」
「はい!」
ファーガスは名残惜しそうにしつつも、勇者らしくすぐに出発していった。それを見送ってから溜め息を吐く。
「はー、なんだか気が削がれちゃった」
「申し訳ありません、奥様」
「私も、奥方様の邪魔をしてしまって、申し訳ありません」
「ん? 別に良いよ。二人にはいつもお世話になってるから」
鈴ちゃんも清心もさっきまでとは打って変わって沈痛な面持ちだ。今までは結構自由にさせてもらっていたので、彼らが私の行動を制止したのには吃驚したけど、人付き合いってそういうものだしね。お一人様に慣れすぎていたのかもしれない。
ただ、あんまり話が拗れるようなら紅焔との離婚も考えないといけないと思う。今の生活は好きだけど、どっちかと言うと私は自由でいたいタイプなのだ。複数の夫がいる分、責任も拘束時間も増えそうで、それは歓迎できない。
「離婚かー」
「「!!」」
「お、お待ちを!」
「早まらないで、奥方様!」
「ハハハ、冗談冗談。そんなに簡単に離婚するわけないでしょ」
また思わず独り言を言ってしまった。二人ともめちゃくちゃ慌てているので、咄嗟に冗談と言うことにしたものの、紅焔の反応によってはそうするつもりだ。彼ならフられたからってストーカー化することはないだろうし、義理を立てると言う意味でもちゃんと離婚してからファーガスと付き合う方が前世持ちの私としては気が楽だ。
「とにかく、今日は狩りに行くのは止めるね」
「奥方様……」
「お鈴ちゃん、また来るから」
何故かずっと不安そうな表情をしている鈴ちゃんに手を振って、私は猟業所を出た。清心はともかく、鈴ちゃんが私の離婚を止める理由はなんだろう? やっぱり離婚って不名誉なことなのかな? 自分のお殿様がそんな目に遭って欲しくはないのかも? それにしちゃ、やけに簡単に結婚するよね、この世界の人って。うーん、分からん。
私は首を捻りながら城下町を歩くのだった。
「サリーナ殿は何故ここに?」
「私も猟師だから依頼を受けに」
「そうでしたか!」
「うん。それよりサリーナって呼べば? 夫なんだし」
「へ? あ、いや、そんな……! まだ早いかと」
「そう? じゃあ、私もファーガス様って呼んだ方が良い?」
「いいえ! 僕のことはお好きにお呼びください!」
どうやらファーガスは奥手な人みたいだ。さっきから顔を真っ赤にして手を振ったり首を振ったりしている。初めて会った日に告白してきた男とは思えない。
それを言うなら私もそんな軽い女じゃなかったつもりだけど、転生して色々あって考え方が変わったのかも。こっちの結婚に関する文化も初めて知った時は驚いたし、紅焔と結婚した時には本当に色々あった。
「折角だし、今日はファーガスの依頼についていこうかな」
「へ?」
「奥様!」
私の言葉にファーガスがポカンとして、清心が咎めるような声を上げた。そう言えば居たよね清心。気配がないから忘れてた。
「よろしいのですか?」
「うん、まだあなたのことあんまり知らないし、お話したい」
「お待ち下さい、奥様! 本日は城にお戻りにならないと」
「なんで?」
「殿が心配されます!」
「えー?」
いや、心配って。今まで一緒に住んでてもほとんど顔を合わせなかったのに、今更? これまでだって外泊することはあったけど、特に何も言われなかったのに。
私が納得しないでいると鈴ちゃんまで加勢してきた。
「そうですよ、奥方様! 今日は、今日はひとまずお帰りを! ね、ね?」
「奥様、お願い致します。せめて、殿に一言仰ってから」
「今までみたいに清心が伝えてくれれば良いんじゃ?」
「いけません」
なんだか二人して必死に引き留めてくる。私もこちらの文化を完璧に理解したわけじゃない。もしかすると、引き留める理由があるのかもしれない。
念のため、ファーガスにも訊ねてみる。
「ファーガスはどう思う?」
「えっと、僕はあなたが一緒に来てくださるならとても嬉しいですが、コウエンはあなたの最初の夫なのでしょうから義理は立てたいと思っています」
「そっか」
うーん、そういうこと? たしかに、今までは一人しか夫がいなかったしね。複数人の夫と付き合うためにはそこら辺の礼儀をちゃんとしないといけないのかも。それにしたって、食事も妻と一緒に食べようとしない紅焔がそんなことを気にするとは思えないけど。
まあ、今朝は勇者に対抗心を燃やしていたし、少しは気にするのだろうか。
「分かった。じゃあ、今日は帰るね」
「それなら、出発を明日に延期しましょうか?」
「ううん、村の人たちが困ってるだろうからファーガスは行って」
「そうですか……」
ファーガスは途端にしょんぼりして暗い雰囲気になった。眉がハの字になって私を見上げる上目使いが子犬のようで、抱き締めたくなってしまう。
私は彼の頬を両手で包んでコツンと額を合わせた。
「そんな顔しないで。また今度、ね?」
「は、はい……」
勇者のくせに柔らかいほっぺたをむにむに押し潰す。さすがにキスは早いかと思って我慢した。当たり前だけど紅焔とすらしたことないし。ファーガスだけではなく、紅焔の時だってあっさり口約束で結婚したものだから夫と言うより友達になったくらいの感覚なのだ。おかげで私、最初は結婚したことに気付いてなかったんだから。
「それでは、僕はこれで」
「うん、怪我しないでね」
「はい!」
ファーガスは名残惜しそうにしつつも、勇者らしくすぐに出発していった。それを見送ってから溜め息を吐く。
「はー、なんだか気が削がれちゃった」
「申し訳ありません、奥様」
「私も、奥方様の邪魔をしてしまって、申し訳ありません」
「ん? 別に良いよ。二人にはいつもお世話になってるから」
鈴ちゃんも清心もさっきまでとは打って変わって沈痛な面持ちだ。今までは結構自由にさせてもらっていたので、彼らが私の行動を制止したのには吃驚したけど、人付き合いってそういうものだしね。お一人様に慣れすぎていたのかもしれない。
ただ、あんまり話が拗れるようなら紅焔との離婚も考えないといけないと思う。今の生活は好きだけど、どっちかと言うと私は自由でいたいタイプなのだ。複数の夫がいる分、責任も拘束時間も増えそうで、それは歓迎できない。
「離婚かー」
「「!!」」
「お、お待ちを!」
「早まらないで、奥方様!」
「ハハハ、冗談冗談。そんなに簡単に離婚するわけないでしょ」
また思わず独り言を言ってしまった。二人ともめちゃくちゃ慌てているので、咄嗟に冗談と言うことにしたものの、紅焔の反応によってはそうするつもりだ。彼ならフられたからってストーカー化することはないだろうし、義理を立てると言う意味でもちゃんと離婚してからファーガスと付き合う方が前世持ちの私としては気が楽だ。
「とにかく、今日は狩りに行くのは止めるね」
「奥方様……」
「お鈴ちゃん、また来るから」
何故かずっと不安そうな表情をしている鈴ちゃんに手を振って、私は猟業所を出た。清心はともかく、鈴ちゃんが私の離婚を止める理由はなんだろう? やっぱり離婚って不名誉なことなのかな? 自分のお殿様がそんな目に遭って欲しくはないのかも? それにしちゃ、やけに簡単に結婚するよね、この世界の人って。うーん、分からん。
私は首を捻りながら城下町を歩くのだった。
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