ハーレムの女なのに新しい夫ができました

ぶたこ

文字の大きさ
上 下
5 / 6
紅焔京

3

しおりを挟む
 聞けば、ファーガスは紅焔京から少し離れたところにある村からの依頼を受けるらしい。厄介な魔物が巣を作ったとか。

「サリーナ殿は何故ここに?」
「私も猟師だから依頼を受けに」
「そうでしたか!」
「うん。それよりサリーナって呼べば? 夫なんだし」
「へ? あ、いや、そんな……! まだ早いかと」
「そう? じゃあ、私もファーガス様って呼んだ方が良い?」
「いいえ! 僕のことはお好きにお呼びください!」

 どうやらファーガスは奥手な人みたいだ。さっきから顔を真っ赤にして手を振ったり首を振ったりしている。初めて会った日に告白してきた男とは思えない。
 それを言うなら私もそんな軽い女じゃなかったつもりだけど、転生して色々あって考え方が変わったのかも。こっちの結婚に関する文化も初めて知った時は驚いたし、紅焔と結婚した時には本当に色々あった。

「折角だし、今日はファーガスの依頼についていこうかな」
「へ?」
「奥様!」

 私の言葉にファーガスがポカンとして、清心が咎めるような声を上げた。そう言えば居たよね清心。気配がないから忘れてた。

「よろしいのですか?」
「うん、まだあなたのことあんまり知らないし、お話したい」
「お待ち下さい、奥様! 本日は城にお戻りにならないと」
「なんで?」
「殿が心配されます!」
「えー?」

 いや、心配って。今まで一緒に住んでてもほとんど顔を合わせなかったのに、今更? これまでだって外泊することはあったけど、特に何も言われなかったのに。
 私が納得しないでいると鈴ちゃんまで加勢してきた。

「そうですよ、奥方様! 今日は、今日はひとまずお帰りを! ね、ね?」
「奥様、お願い致します。せめて、殿に一言仰ってから」
「今までみたいに清心が伝えてくれれば良いんじゃ?」
「いけません」

 なんだか二人して必死に引き留めてくる。私もこちらの文化を完璧に理解したわけじゃない。もしかすると、引き留める理由があるのかもしれない。
 念のため、ファーガスにも訊ねてみる。

「ファーガスはどう思う?」
「えっと、僕はあなたが一緒に来てくださるならとても嬉しいですが、コウエンはあなたの最初の夫なのでしょうから義理は立てたいと思っています」
「そっか」

 うーん、そういうこと? たしかに、今までは一人しか夫がいなかったしね。複数人の夫と付き合うためにはそこら辺の礼儀をちゃんとしないといけないのかも。それにしたって、食事も妻と一緒に食べようとしない紅焔がそんなことを気にするとは思えないけど。
 まあ、今朝は勇者に対抗心を燃やしていたし、少しは気にするのだろうか。

「分かった。じゃあ、今日は帰るね」
「それなら、出発を明日に延期しましょうか?」
「ううん、村の人たちが困ってるだろうからファーガスは行って」
「そうですか……」

 ファーガスは途端にしょんぼりして暗い雰囲気になった。眉がハの字になって私を見上げる上目使いが子犬のようで、抱き締めたくなってしまう。
 私は彼の頬を両手で包んでコツンと額を合わせた。

「そんな顔しないで。また今度、ね?」
「は、はい……」

 勇者のくせに柔らかいほっぺたをむにむに押し潰す。さすがにキスは早いかと思って我慢した。当たり前だけど紅焔とすらしたことないし。ファーガスだけではなく、紅焔の時だってあっさり口約束で結婚したものだから夫と言うより友達になったくらいの感覚なのだ。おかげで私、最初は結婚したことに気付いてなかったんだから。

「それでは、僕はこれで」
「うん、怪我しないでね」
「はい!」

 ファーガスは名残惜しそうにしつつも、勇者らしくすぐに出発していった。それを見送ってから溜め息を吐く。

「はー、なんだか気が削がれちゃった」
「申し訳ありません、奥様」
「私も、奥方様の邪魔をしてしまって、申し訳ありません」
「ん? 別に良いよ。二人にはいつもお世話になってるから」

 鈴ちゃんも清心もさっきまでとは打って変わって沈痛な面持ちだ。今までは結構自由にさせてもらっていたので、彼らが私の行動を制止したのには吃驚したけど、人付き合いってそういうものだしね。お一人様に慣れすぎていたのかもしれない。
 ただ、あんまり話が拗れるようなら紅焔との離婚も考えないといけないと思う。今の生活は好きだけど、どっちかと言うと私は自由でいたいタイプなのだ。複数の夫がいる分、責任も拘束時間も増えそうで、それは歓迎できない。

「離婚かー」
「「!!」」
「お、お待ちを!」
「早まらないで、奥方様!」
「ハハハ、冗談冗談。そんなに簡単に離婚するわけないでしょ」

 また思わず独り言を言ってしまった。二人ともめちゃくちゃ慌てているので、咄嗟に冗談と言うことにしたものの、紅焔の反応によってはそうするつもりだ。彼ならフられたからってストーカー化することはないだろうし、義理を立てると言う意味でもちゃんと離婚してからファーガスと付き合う方が前世持ちの私としては気が楽だ。

「とにかく、今日は狩りに行くのは止めるね」
「奥方様……」
「お鈴ちゃん、また来るから」

 何故かずっと不安そうな表情をしている鈴ちゃんに手を振って、私は猟業所を出た。清心はともかく、鈴ちゃんが私の離婚を止める理由はなんだろう? やっぱり離婚って不名誉なことなのかな? 自分のお殿様がそんな目に遭って欲しくはないのかも? それにしちゃ、やけに簡単に結婚するよね、この世界の人って。うーん、分からん。

 私は首を捻りながら城下町を歩くのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

処理中です...