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モブだったみたい
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地球じゃなさそうなところに転生したなとは思っていた。太陽は2つあるし、その片方はなんだか緑がかった光を放っているし、月も3つあってそれぞれに神様がいるのだとか。
人間も普通じゃない。気功とか魔法とか神力なんていう不思議な力を操ることができて、見た目にも地球とは違った。魚のような鱗がある種族、髪の毛が植物になっている種族、背の低い小人のような種族、炎を吐ける種族などなど他にも沢山の種族があって、地球にいたような何の能力もない種族は存在しない。
かく言う私も、煌光族という体から光を放つ種族だ。
「どうした、サリーナ」
私の黒髪を掬い上げる長い指の持ち主が私に問いかける。その男の額には3本の角が生え、指先を彩る黒い爪は鋭く尖っている。髪は血が固まったような暗い赤色(この国では朱殷色と言うらしい)で肌は灰色がかった黒。とても人間とは思えない姿形でありながらも彼は鬼神族という立派な人間で、私の夫だ。
ちなみに私の前世の名前はサリナだったのだが転生した後でサリーナに間違えられてそのままになっている。気付いたら森にいた、というあれな転生方法だったので名付けてくれる人がいなかった。
「なぁ、あたしのことも撫でたら?」
そう言って彼の腕に絡み付くのは第二夫人のベリンダ。その反対側にいるのは第一夫人のクロエ。彼の座る趣味の悪い玉座みたいな椅子の側に立っているのが第三夫人アラナ。玉座の肘掛けの両隣にいるのが第四、第五夫人。更に彼の左足にまとわりついているのが第六夫人。そして、その反対側、右足の方にいるのが何を隠そう私だ。
そう、私はこの男のハーレム要員として転生したのだった。
「相変わらずつれないな」
第二夫人が会話に割り込んできたので私が何も答えないでいると男はククッと喉を鳴らして笑う。ファンタジーな物語に出てくる不遜な男がよくやるやつだ。
第二夫人に遠慮しただけで私としては無視したつもりはない。とりあえず彼の右膝に頭を乗っけてハーレム要員らしくしてみる。すると、彼の手が頭に乗せられ髪をとかすように優しく撫でられた。
そんな私の視線の先には鎧に身を包んだ青年がいる。群青色の髪に金色の瞳孔、口元からは鋭い牙が見え隠れする犬狼族の男だと言う。彼は神に選ばれた勇者で、人類の敵である魔王を倒すために鬼神族の実力者である私の夫・紅焔に助力を願いに来たらしい。
「それで、そちらの答えはどうなんだ。力を貸していただけるのか?」
青年が爽やかなそれでいて力強い声を発した。紅焔がそんな男の前で女を七人もはべらせて何をやっているのかと言うと、あれだ。物語によく出てくる、ちょい悪でいて完全な悪役でもない、実力はありつつも主人公の味方にはならず、ハーレムを築きながら女に入れあげるでもない、そんな物語のスパイス的なキャラクターが意味もなく主人公に悪ぶって見せるあれなのだ。
紅焔は仕事ばかりしていて普段は私たち妻のことを放ったらかしにしているくせに、主人公に対してはわざとハーレムを見せつけて悪ぶる。典型的なファンタジー小説のちょい悪イケメンだ。
まあ、そんなわけなので、私は今この瞬間、この世界って何かの物語なのでは、と気付いた。そして、私の役割は紅焔が主人公に見せつけるハーレム要員であり、紅焔が主人公の言葉に苛ついてコップとか投げた時に『きゃっ』とか言ってみせる要員ということだ。
うーん、完全にモブ。それもモブ中のモブだ。物語にしたら名前すら出てこないタイプの女だと思う。
生活には不自由してないから別に良いけど、そんな女に前世の記憶とか与えて、この世界の神は何がしたいんだろうか。解せぬ。
「コウエン~、こんなの相手にしてないで妾と遊びましょうよ」
困惑している私をよそに第一夫人が典型的なハーレムムーブを始めた。話が長くなりそうだ。もう帰りたい。
「ファーガスとか言ったな。この俺がお前に力を貸す利点はなんだ?」
紅焔は普通に第一夫人のクロエを無視して勇者に語りかける。無視すんなよ、腹立つな。まあ、こんな時に夫とイチャイチャしようとするクロエもどうかと思うけど。
「利点など明白だ! 魔王を倒し世界に平和をもたらすことに繋がる!」
「それで、俺にどんな利点があるって言うんだ? 魔王がいようといまいとこの俺には関係ない」
「なッ?!」
自信満々に勇者を見下す紅焔とその態度が信じられないとでも言うような顔をするファーガス。なんだろうか、この典型的なやりとりは。どうせこの後、紅焔も魔王には叶わない的なエピソードが挟まって、そこをファーガスが辛くも助けたりして、二人の絆が生まれ、歪ながらもチームを組む展開になったりするんだろう。こんな展開見すぎて飽きちゃったんですけど。
「くだらない……」
その瞬間、室内の全視線が私に集まったのを感じた。しまった、思わず大きい独り言を。勇者くんも紅焔の時より更に吃驚した顔をして私を見ている。他の人は分からないけど、振り向いてみる勇気はない。
「くだらないだと……?!」
「ッハハハハハ! くだらないか!」
紅焔は何故か高笑いし始める。その行動すら典型的すぎて面白くない。しかし、今のは失言だった。魔王は怖いので勇者くんには頑張っていただきたいし応援している。恐らく勇者くんは勝つだろうとしても、少しはフォローしておきたい。
「本当は彼に興味があるくせに。くだらない意地を張ってカッコつけてると一番面白いところを見逃すよ」
私は頭を上げ、ちらっと紅焔に視線をやりつつそう言った。て言うか、ここに来てこんな長文で会話したの初めてだから、口調になんか違和感がある。私ってどんな喋り方してたんだっけ? そう言えば、いつも他の夫人が割り込んでくるから夫なのにまともに会話したことないや。初夜だってまだだし。珍しいからって連れて来られたものの、妻というより置物みたいな扱いなのだ。
「ほう……?」
「えっ」
紅焔は真っ赤な目を煌めかせて私を見たし、ファーガスは何故庇われたのか分からないような声を上げた。この後は「この俺がこいつに興味があると?」みたいなことを言うに違いない。私には分かってる。彼はあくまでもちょい悪なだけの勇者の味方であり、最初から、危なくなったら勇者くんを助けてあげようと思っているのだ。ここまで典型的なやり取りをしておいてそうじゃないとは言わせない。
「このお……」
「それじゃ、先に失礼しますね」
紅焔が例の台詞を言いそうになったので吹き出す前に立ち上がる。我慢できずにちょっと笑ってしまったけど、勇者くんに軽く会釈をしてそそくさと退室した。
まあ、これで二人が仲良くなるのが多少早まるだろう。その方が悲劇も少なくて済むに違いない。
「はーお腹すいた」
私は今にもぐるぐると鳴りそうなお腹を擦った。ちょうどご飯時だったのに勇者が来たって言うからわざわざ王様ルームにはべっていたのだ。昼食を延期してあんな準備までして会うなんて、興味津々じゃん。普通に最初から仲良くすればいいのに。
なんて考えつつ、私は私に与えられた部屋に向かって歩き始めた。
人間も普通じゃない。気功とか魔法とか神力なんていう不思議な力を操ることができて、見た目にも地球とは違った。魚のような鱗がある種族、髪の毛が植物になっている種族、背の低い小人のような種族、炎を吐ける種族などなど他にも沢山の種族があって、地球にいたような何の能力もない種族は存在しない。
かく言う私も、煌光族という体から光を放つ種族だ。
「どうした、サリーナ」
私の黒髪を掬い上げる長い指の持ち主が私に問いかける。その男の額には3本の角が生え、指先を彩る黒い爪は鋭く尖っている。髪は血が固まったような暗い赤色(この国では朱殷色と言うらしい)で肌は灰色がかった黒。とても人間とは思えない姿形でありながらも彼は鬼神族という立派な人間で、私の夫だ。
ちなみに私の前世の名前はサリナだったのだが転生した後でサリーナに間違えられてそのままになっている。気付いたら森にいた、というあれな転生方法だったので名付けてくれる人がいなかった。
「なぁ、あたしのことも撫でたら?」
そう言って彼の腕に絡み付くのは第二夫人のベリンダ。その反対側にいるのは第一夫人のクロエ。彼の座る趣味の悪い玉座みたいな椅子の側に立っているのが第三夫人アラナ。玉座の肘掛けの両隣にいるのが第四、第五夫人。更に彼の左足にまとわりついているのが第六夫人。そして、その反対側、右足の方にいるのが何を隠そう私だ。
そう、私はこの男のハーレム要員として転生したのだった。
「相変わらずつれないな」
第二夫人が会話に割り込んできたので私が何も答えないでいると男はククッと喉を鳴らして笑う。ファンタジーな物語に出てくる不遜な男がよくやるやつだ。
第二夫人に遠慮しただけで私としては無視したつもりはない。とりあえず彼の右膝に頭を乗っけてハーレム要員らしくしてみる。すると、彼の手が頭に乗せられ髪をとかすように優しく撫でられた。
そんな私の視線の先には鎧に身を包んだ青年がいる。群青色の髪に金色の瞳孔、口元からは鋭い牙が見え隠れする犬狼族の男だと言う。彼は神に選ばれた勇者で、人類の敵である魔王を倒すために鬼神族の実力者である私の夫・紅焔に助力を願いに来たらしい。
「それで、そちらの答えはどうなんだ。力を貸していただけるのか?」
青年が爽やかなそれでいて力強い声を発した。紅焔がそんな男の前で女を七人もはべらせて何をやっているのかと言うと、あれだ。物語によく出てくる、ちょい悪でいて完全な悪役でもない、実力はありつつも主人公の味方にはならず、ハーレムを築きながら女に入れあげるでもない、そんな物語のスパイス的なキャラクターが意味もなく主人公に悪ぶって見せるあれなのだ。
紅焔は仕事ばかりしていて普段は私たち妻のことを放ったらかしにしているくせに、主人公に対してはわざとハーレムを見せつけて悪ぶる。典型的なファンタジー小説のちょい悪イケメンだ。
まあ、そんなわけなので、私は今この瞬間、この世界って何かの物語なのでは、と気付いた。そして、私の役割は紅焔が主人公に見せつけるハーレム要員であり、紅焔が主人公の言葉に苛ついてコップとか投げた時に『きゃっ』とか言ってみせる要員ということだ。
うーん、完全にモブ。それもモブ中のモブだ。物語にしたら名前すら出てこないタイプの女だと思う。
生活には不自由してないから別に良いけど、そんな女に前世の記憶とか与えて、この世界の神は何がしたいんだろうか。解せぬ。
「コウエン~、こんなの相手にしてないで妾と遊びましょうよ」
困惑している私をよそに第一夫人が典型的なハーレムムーブを始めた。話が長くなりそうだ。もう帰りたい。
「ファーガスとか言ったな。この俺がお前に力を貸す利点はなんだ?」
紅焔は普通に第一夫人のクロエを無視して勇者に語りかける。無視すんなよ、腹立つな。まあ、こんな時に夫とイチャイチャしようとするクロエもどうかと思うけど。
「利点など明白だ! 魔王を倒し世界に平和をもたらすことに繋がる!」
「それで、俺にどんな利点があるって言うんだ? 魔王がいようといまいとこの俺には関係ない」
「なッ?!」
自信満々に勇者を見下す紅焔とその態度が信じられないとでも言うような顔をするファーガス。なんだろうか、この典型的なやりとりは。どうせこの後、紅焔も魔王には叶わない的なエピソードが挟まって、そこをファーガスが辛くも助けたりして、二人の絆が生まれ、歪ながらもチームを組む展開になったりするんだろう。こんな展開見すぎて飽きちゃったんですけど。
「くだらない……」
その瞬間、室内の全視線が私に集まったのを感じた。しまった、思わず大きい独り言を。勇者くんも紅焔の時より更に吃驚した顔をして私を見ている。他の人は分からないけど、振り向いてみる勇気はない。
「くだらないだと……?!」
「ッハハハハハ! くだらないか!」
紅焔は何故か高笑いし始める。その行動すら典型的すぎて面白くない。しかし、今のは失言だった。魔王は怖いので勇者くんには頑張っていただきたいし応援している。恐らく勇者くんは勝つだろうとしても、少しはフォローしておきたい。
「本当は彼に興味があるくせに。くだらない意地を張ってカッコつけてると一番面白いところを見逃すよ」
私は頭を上げ、ちらっと紅焔に視線をやりつつそう言った。て言うか、ここに来てこんな長文で会話したの初めてだから、口調になんか違和感がある。私ってどんな喋り方してたんだっけ? そう言えば、いつも他の夫人が割り込んでくるから夫なのにまともに会話したことないや。初夜だってまだだし。珍しいからって連れて来られたものの、妻というより置物みたいな扱いなのだ。
「ほう……?」
「えっ」
紅焔は真っ赤な目を煌めかせて私を見たし、ファーガスは何故庇われたのか分からないような声を上げた。この後は「この俺がこいつに興味があると?」みたいなことを言うに違いない。私には分かってる。彼はあくまでもちょい悪なだけの勇者の味方であり、最初から、危なくなったら勇者くんを助けてあげようと思っているのだ。ここまで典型的なやり取りをしておいてそうじゃないとは言わせない。
「このお……」
「それじゃ、先に失礼しますね」
紅焔が例の台詞を言いそうになったので吹き出す前に立ち上がる。我慢できずにちょっと笑ってしまったけど、勇者くんに軽く会釈をしてそそくさと退室した。
まあ、これで二人が仲良くなるのが多少早まるだろう。その方が悲劇も少なくて済むに違いない。
「はーお腹すいた」
私は今にもぐるぐると鳴りそうなお腹を擦った。ちょうどご飯時だったのに勇者が来たって言うからわざわざ王様ルームにはべっていたのだ。昼食を延期してあんな準備までして会うなんて、興味津々じゃん。普通に最初から仲良くすればいいのに。
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