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第一話 友人
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彼は一人、夜道を歩いていました。仕事帰りなのでしょう、その人相は、酷くくたびれていました。今の時刻は恐らく、丑一つ時くらいでしょう。
彼は少し古いスーツに身を包み、髭も髪も少し伸びていて、蒼がかった黒い髪色をしていました。その瞳は紺色を少し濁らせた様な…比較的に暗いのですが、その中には少しの魅惑的な美しさが隠れている、そんな瞳でありました。
彼が夜道を歩いていると、目の前を歩いている老人の頭上から、何かが落ちてくるのに気づきました。鉢植えでしょうか?彼はその暗くてよく見えない何かから老人を逃がすため、老人の背を押し、自分がそれの下敷きになったのでした。
パチリ、
目を覚ます。ここは一体何処だろう?
「…大丈夫かい?此処が何処か解るかい?」
と、ベッドの隣の椅子に腰掛けていた青年は、自分に話しかけた。
「此処、は…病院?」
「お!正解!流石常連なだけあるね。」
自分は一体どうしたのだろう?彼が何を言っているのか、状況の把握ができず頭が追いつかない。
「…芯助?先程からどうしたんだい?まだ何処か痛むのかい?」「お前は…」
───お前は誰だ?
医者が云うには、自分は記憶喪失になってしまったらしい、そのため、しばらくは入院生活を過ごさなければいけないらしい。
「えぇとね、気を落とすことはないよ。君は悪くないのだからさ。」
そう言ってくれる彼は極月季凪叉と云う名で、自分の昔からの友人らしい。
「随分変わった名前だな。」
と自分が云うと、
「あっはは!そうだろう?君と初めて会った時も全く同じ事を言われたよ!」
と、心底嬉しそうな、楽しそうな声色で話す彼。
自分はそんな、少し不思議な彼にどんどんと興味を持っていったのだった。
自分の知らない友人は、一体どんな奴なのだろう。自分の知らない友人は、どれ程善い人間なのだろう。
自分は、凪叉に期待していたのだ。
ぷるるる、ぷるるるる、
と受話器から音が鳴り、それを手に取り
「もしもし。」
と声を出す。
「やぁ、元気かい?」
あれから数日が経ち、凪叉はほぼ毎日の様に見舞いに来てくれている。
「もう五分程で病院につくよ。今日は何を持って来ると思う?ヒントは、君が今食べたい物だよ!」
と、彼がわくわくとした声色で問うてくるので自分は、
「桃。」
と答えてみる。
「おぉっ!正ーっ解!!」
ガラッと戸が開き、知る顔が子犬のように小走りで近ずいてくる。
「ハロォ!芯助!今日は桃を持ってきたよ!沢山お食べ!さぁ!さあ!」
「切らなきゃ食えん」
「ありぁま、そりゃそうだ。」
彼は少し抜けているところもあるが、今では善い友人だ。
桃を切り分ける為、執事に彼は
「果汁を一滴足りとも落とさず綺麗に切り分け給え。」
と命令する。
今一つ解っている事は、彼はかなりの金持ちらしいという事だ。
理由は単純に、彼自身が身につけるスーツにはワンポイントの様にさりげなく、本物の宝石があしらわれていたり、執事を何名も雇っていたり、見舞いの品が明らかに高級なものばかりだからだ。
因みに、この間は美味しい枇杷を貰った。
「いつもすまんな、ありがとう。」
自分は、なんだか申し訳ないなと思いながらも、彼の善意と執事に礼を言う。
「いやいや!全然善いのだよ!君が喜んでさえくれれば私は、それで善いのだよ。」
そうふわりと微笑む彼は、どこが影がある様な雰囲気がして、矢張りどこか不思議な魅力を兼ね備えた青年であった。
「もうすぐ退院だね。」
桃を食い終わった彼が言う。
「そうだな。」
正直なところ、自分の職も、自宅の住所も、家族の顔も、何一つ思い出せておらず、不安しかないのだが。
「芯助、君がよければなんだけど、暫く家に来ないかい?何も思い出せていないのだろう?」
…この青年は読心術者なのだろうか?
ありがたいが乗りずらい提案に自分が考え込んでいると、
「君は一人暮らしで、飼っている動物も居ないし、私の家なら家賃も何も払わなくて善いんだ!細かい事は私がやっておくし、今の君にはピッタリだと私は思うよ」
考えていてもしょうがないし、お試しで。
と言う彼の誘いに、考え過ぎて頭が痛くなった自分は、ノリで了承してしまう。
だがこの後、自分はとてつもない後悔をする事になる。何故なら、
───この次年に凪叉が、死んだからだ。
彼は少し古いスーツに身を包み、髭も髪も少し伸びていて、蒼がかった黒い髪色をしていました。その瞳は紺色を少し濁らせた様な…比較的に暗いのですが、その中には少しの魅惑的な美しさが隠れている、そんな瞳でありました。
彼が夜道を歩いていると、目の前を歩いている老人の頭上から、何かが落ちてくるのに気づきました。鉢植えでしょうか?彼はその暗くてよく見えない何かから老人を逃がすため、老人の背を押し、自分がそれの下敷きになったのでした。
パチリ、
目を覚ます。ここは一体何処だろう?
「…大丈夫かい?此処が何処か解るかい?」
と、ベッドの隣の椅子に腰掛けていた青年は、自分に話しかけた。
「此処、は…病院?」
「お!正解!流石常連なだけあるね。」
自分は一体どうしたのだろう?彼が何を言っているのか、状況の把握ができず頭が追いつかない。
「…芯助?先程からどうしたんだい?まだ何処か痛むのかい?」「お前は…」
───お前は誰だ?
医者が云うには、自分は記憶喪失になってしまったらしい、そのため、しばらくは入院生活を過ごさなければいけないらしい。
「えぇとね、気を落とすことはないよ。君は悪くないのだからさ。」
そう言ってくれる彼は極月季凪叉と云う名で、自分の昔からの友人らしい。
「随分変わった名前だな。」
と自分が云うと、
「あっはは!そうだろう?君と初めて会った時も全く同じ事を言われたよ!」
と、心底嬉しそうな、楽しそうな声色で話す彼。
自分はそんな、少し不思議な彼にどんどんと興味を持っていったのだった。
自分の知らない友人は、一体どんな奴なのだろう。自分の知らない友人は、どれ程善い人間なのだろう。
自分は、凪叉に期待していたのだ。
ぷるるる、ぷるるるる、
と受話器から音が鳴り、それを手に取り
「もしもし。」
と声を出す。
「やぁ、元気かい?」
あれから数日が経ち、凪叉はほぼ毎日の様に見舞いに来てくれている。
「もう五分程で病院につくよ。今日は何を持って来ると思う?ヒントは、君が今食べたい物だよ!」
と、彼がわくわくとした声色で問うてくるので自分は、
「桃。」
と答えてみる。
「おぉっ!正ーっ解!!」
ガラッと戸が開き、知る顔が子犬のように小走りで近ずいてくる。
「ハロォ!芯助!今日は桃を持ってきたよ!沢山お食べ!さぁ!さあ!」
「切らなきゃ食えん」
「ありぁま、そりゃそうだ。」
彼は少し抜けているところもあるが、今では善い友人だ。
桃を切り分ける為、執事に彼は
「果汁を一滴足りとも落とさず綺麗に切り分け給え。」
と命令する。
今一つ解っている事は、彼はかなりの金持ちらしいという事だ。
理由は単純に、彼自身が身につけるスーツにはワンポイントの様にさりげなく、本物の宝石があしらわれていたり、執事を何名も雇っていたり、見舞いの品が明らかに高級なものばかりだからだ。
因みに、この間は美味しい枇杷を貰った。
「いつもすまんな、ありがとう。」
自分は、なんだか申し訳ないなと思いながらも、彼の善意と執事に礼を言う。
「いやいや!全然善いのだよ!君が喜んでさえくれれば私は、それで善いのだよ。」
そうふわりと微笑む彼は、どこが影がある様な雰囲気がして、矢張りどこか不思議な魅力を兼ね備えた青年であった。
「もうすぐ退院だね。」
桃を食い終わった彼が言う。
「そうだな。」
正直なところ、自分の職も、自宅の住所も、家族の顔も、何一つ思い出せておらず、不安しかないのだが。
「芯助、君がよければなんだけど、暫く家に来ないかい?何も思い出せていないのだろう?」
…この青年は読心術者なのだろうか?
ありがたいが乗りずらい提案に自分が考え込んでいると、
「君は一人暮らしで、飼っている動物も居ないし、私の家なら家賃も何も払わなくて善いんだ!細かい事は私がやっておくし、今の君にはピッタリだと私は思うよ」
考えていてもしょうがないし、お試しで。
と言う彼の誘いに、考え過ぎて頭が痛くなった自分は、ノリで了承してしまう。
だがこの後、自分はとてつもない後悔をする事になる。何故なら、
───この次年に凪叉が、死んだからだ。
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