サンタクロース委員会

梅酒ソーダ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

多忙

しおりを挟む
 師走とはよく言ったもので、十二月は走り回るほど忙しくなる月。特に、私たちは一番の正念場。
 『サンタクロース委員会』。その名の通り、サンタクロースとなり子供たちにプレゼントを配る組織で、政府公認の秘密組織でもある。私は、クリスマスプレゼント配布者のための準備に追われていた。委員会では主に、子供のいる家庭の調査、子供が欲しいものの調査、プレゼントを送る子供の決定、クリスマス当日の配送ルート作成など、とにかく多岐に渡る準備を行い、クリスマス当日にプレゼントを配布するのだ。
 委員会にいる私でも謎が多い組織だが、やりがいはある。子供たちの笑顔を守れるのなら、それだけでやってて良かったと思えるものだ。……ただ、忙しいと心が荒んでそこまで頭が回らなくて、作業になってしまうのも事実。
 
「はぁー……。ちょっと休憩」
 オフィスで一人缶コーヒーを開ける。糖分が血液を循環するように五臓六腑に染み渡り、気持ちばかりかHPが回復した。 
「お、まだ働いてたんだ」
 振り返ると同僚のマツシタがいた。
「うん、残念ながら」
 私はマツシタに背を向けパソコンに向き直る。
「プレゼント物品リストかー……。結構めんどいよな」
 カタカタとキーボードを打つ私の後ろでお気楽そうにマツシタは言う。暇なら帰るか手伝って欲しい。
「そうだね」
 私は脳のリソース比重をパソコンに向け、最低限の相槌を打つ。
 
「俺さ、プレゼントって愛だと思うんだよね」
 突然の言葉に私は一瞬動きが止まる。だが、なんかいい事を言ってやろうという薄ッペらい気持ちが透けて見えて、無視して作業する。
「その人が幸せになって欲しいっていう気持ちの具現化で、モノの価値じゃなくて、その人を想う気持ちが何よりも大事なんだよね。だからこの組織が秘密裏にあることって、日本もまだまだ捨てたもんじゃねえなって思うわけよ」
 酔ってんのか? 色んな意味で。忙しくてそれどころじゃないやつに言う言葉ではないなと思ってしまう。
 
「そうだね。でも今は私にもその愛が欲しいなって思うよ、他人の為にせっせこ働くの疲れちゃった」
 わざわざ言い返さなくてもいいのに言い返してしまう。マツシタといると時々調子が狂わされるから困る。今彼はどんな顔をしているのだろう。
 
「そうか。じゃあ俺からも愛な」
 背後からマツシタの長い手が伸び、デスクにコトンと何かを置く。それは無糖の缶コーヒーだった。 
 
「糖分摂りすぎは健康によくないぞー」
 捨て台詞を吐くようにマツシタは出口に向かって歩いて行った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

王命で泣く泣く番と決められ、婚姻後すぐに捨てられました。

ゆうぎり
恋愛
獣人の女の子は夢に見るのです。 自分を見つけ探し出してくれる番が現れるのを。 獣人王国の27歳の王太子が番探しを諦めました。 15歳の私は、まだ番に見つけてもらえる段階ではありませんでした。 しかし、王命で輿入れが決まりました。 泣く泣く運命の番を諦めたのです。 それなのに、それなのに……あんまりです。 ※ゆるゆる設定です。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

処理中です...