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多忙
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師走とはよく言ったもので、十二月は走り回るほど忙しくなる月。特に、私たちは一番の正念場。
『サンタクロース委員会』。その名の通り、サンタクロースとなり子供たちにプレゼントを配る組織で、政府公認の秘密組織でもある。私は、クリスマスプレゼント配布者のための準備に追われていた。委員会では主に、子供のいる家庭の調査、子供が欲しいものの調査、プレゼントを送る子供の決定、クリスマス当日の配送ルート作成など、とにかく多岐に渡る準備を行い、クリスマス当日にプレゼントを配布するのだ。
委員会にいる私でも謎が多い組織だが、やりがいはある。子供たちの笑顔を守れるのなら、それだけでやってて良かったと思えるものだ。……ただ、忙しいと心が荒んでそこまで頭が回らなくて、作業になってしまうのも事実。
「はぁー……。ちょっと休憩」
オフィスで一人缶コーヒーを開ける。糖分が血液を循環するように五臓六腑に染み渡り、気持ちばかりかHPが回復した。
「お、まだ働いてたんだ」
振り返ると同僚のマツシタがいた。
「うん、残念ながら」
私はマツシタに背を向けパソコンに向き直る。
「プレゼント物品リストかー……。結構めんどいよな」
カタカタとキーボードを打つ私の後ろでお気楽そうにマツシタは言う。暇なら帰るか手伝って欲しい。
「そうだね」
私は脳のリソース比重をパソコンに向け、最低限の相槌を打つ。
「俺さ、プレゼントって愛だと思うんだよね」
突然の言葉に私は一瞬動きが止まる。だが、なんかいい事を言ってやろうという薄ッペらい気持ちが透けて見えて、無視して作業する。
「その人が幸せになって欲しいっていう気持ちの具現化で、モノの価値じゃなくて、その人を想う気持ちが何よりも大事なんだよね。だからこの組織が秘密裏にあることって、日本もまだまだ捨てたもんじゃねえなって思うわけよ」
酔ってんのか? 色んな意味で。忙しくてそれどころじゃないやつに言う言葉ではないなと思ってしまう。
「そうだね。でも今は私にもその愛が欲しいなって思うよ、他人の為にせっせこ働くの疲れちゃった」
わざわざ言い返さなくてもいいのに言い返してしまう。マツシタといると時々調子が狂わされるから困る。今彼はどんな顔をしているのだろう。
「そうか。じゃあ俺からも愛な」
背後からマツシタの長い手が伸び、デスクにコトンと何かを置く。それは無糖の缶コーヒーだった。
「糖分摂りすぎは健康によくないぞー」
捨て台詞を吐くようにマツシタは出口に向かって歩いて行った。
『サンタクロース委員会』。その名の通り、サンタクロースとなり子供たちにプレゼントを配る組織で、政府公認の秘密組織でもある。私は、クリスマスプレゼント配布者のための準備に追われていた。委員会では主に、子供のいる家庭の調査、子供が欲しいものの調査、プレゼントを送る子供の決定、クリスマス当日の配送ルート作成など、とにかく多岐に渡る準備を行い、クリスマス当日にプレゼントを配布するのだ。
委員会にいる私でも謎が多い組織だが、やりがいはある。子供たちの笑顔を守れるのなら、それだけでやってて良かったと思えるものだ。……ただ、忙しいと心が荒んでそこまで頭が回らなくて、作業になってしまうのも事実。
「はぁー……。ちょっと休憩」
オフィスで一人缶コーヒーを開ける。糖分が血液を循環するように五臓六腑に染み渡り、気持ちばかりかHPが回復した。
「お、まだ働いてたんだ」
振り返ると同僚のマツシタがいた。
「うん、残念ながら」
私はマツシタに背を向けパソコンに向き直る。
「プレゼント物品リストかー……。結構めんどいよな」
カタカタとキーボードを打つ私の後ろでお気楽そうにマツシタは言う。暇なら帰るか手伝って欲しい。
「そうだね」
私は脳のリソース比重をパソコンに向け、最低限の相槌を打つ。
「俺さ、プレゼントって愛だと思うんだよね」
突然の言葉に私は一瞬動きが止まる。だが、なんかいい事を言ってやろうという薄ッペらい気持ちが透けて見えて、無視して作業する。
「その人が幸せになって欲しいっていう気持ちの具現化で、モノの価値じゃなくて、その人を想う気持ちが何よりも大事なんだよね。だからこの組織が秘密裏にあることって、日本もまだまだ捨てたもんじゃねえなって思うわけよ」
酔ってんのか? 色んな意味で。忙しくてそれどころじゃないやつに言う言葉ではないなと思ってしまう。
「そうだね。でも今は私にもその愛が欲しいなって思うよ、他人の為にせっせこ働くの疲れちゃった」
わざわざ言い返さなくてもいいのに言い返してしまう。マツシタといると時々調子が狂わされるから困る。今彼はどんな顔をしているのだろう。
「そうか。じゃあ俺からも愛な」
背後からマツシタの長い手が伸び、デスクにコトンと何かを置く。それは無糖の缶コーヒーだった。
「糖分摂りすぎは健康によくないぞー」
捨て台詞を吐くようにマツシタは出口に向かって歩いて行った。
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