私は林檎飴

梅酒ソーダ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

しおりを挟む
 子どもの頃、私がシーソーで浮いた試しがない。ぴょん、と地面を蹴って相手を浮かせ、楽しんでもらうものだだった。その時に男子に言われた「マイコってデブなんだね!」が忘れられず、今でも私に呪いをかけている。
 高二の夏。私は友達に連れられて夏祭りに来ている所で、慣れない下駄に苦戦中だ。
「人やばくね! 祭りってカンジ~」
 隣を歩くギャルのミユウは今日も相変わらず元気にはしゃいでいる。私はミユウほど表には出ないけど、夏祭りの雰囲気を堪能していた。
 賑やかな祭囃子と心臓に響く太鼓。祭りを彩る無数の提灯。むせかえるような夜の空気に喧騒感と焼きそばの匂い。どの要素も祭りにはかかせないものだ。
 ミユウは屋店に目移りしながら何を食べようか迷っているようだ。長い爪で顎の周りを擦りながら困り顔。派手な顔にゴージャスな花柄を散りばめた浴衣がとても似合っている。かと言えば私はなるべく下腹が目立たない地味なものを選んだ。本当は私服で参加したかったけど、ミユウが浴衣がいい! と聞かなかったので渋々合わせた。ミユウはそんな私の気も知らず、虹色の綿あめを買っていた。嬉しそうに「見てみて!」という彼女。私はそんな純粋な気持ちに嫉妬し続けている。
 ミユウは普段制服のスカートを校則にギリ引っかからないくらいに短くして、メイクもバッチリ決めて、思ったことはちゃんと口に出して。だけどポジティブでいい所を見つけるのが上手い。私みたいに卑屈で華やかさもないのとは全く違う。なのにどうして一緒にいるんだろう。浴衣も似合ってないし、公開処刑じゃん。
 思わず立ち止まると、ミユウは不思議そうにこちらを振り返った。
「どしたん?」
「今日、本当は浴衣着たくなかった」
 ミユウは大きな目を更に見開く。
「そう? むっちゃ似合ってるけどね」
 私は鼻で笑った。
「ミユウみたいに細くて可愛ければ様になるけど、私みたいなデブ見苦しいだけだよ」
 ミユウは首を傾げる。
「ミユウはいいよね、可愛くて性格も良くてさ。私とつるんでるのも引き立て役にしたいからじゃないの」
 思ってもいないことが口から溢れ出す。ミユウの方を見られない。
「……え? 自分がいいと思えばそれで良くね?」
 ミユウはあっけらかんと言った。
「人と比べっから苦しくなるんじゃん? あーしだって自分の嫌なとこくらいあっけど、それも可愛いポイントだからさ。そんくらいのスタンスでいいんよ、結局」
 ミユウは私が言ったことに腹も立てず、そう言って綿あめをむしって食べだした。
 頭上に花火が打ち上がる。花火の破裂音と大衆の歓声とともに、私の濁った気持ちがけされたようだった。
 
 
 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...