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救いがない
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「クソキモデブがなんの努力もしないでワンチャンあると思ってんじゃねえよ、失せろ」
人権侵害も甚だしい、だけど心のどこかで納得してしまっている僕がいた。ここまでしっかりフラれると、逆に痛みが快感に変わるのかもしれない。
数週間前の僕にとって、朝日は一日の始まりではなく、終わりだった。添加物だらけのカップ麺の残骸の山に住む社会のゴミとして生きていた時、夜通しプレイしていたゲームをクリアし腹が減っていた。適当にコンビニでも行こうと、早朝に外に出た。社会と親交を遮断している僕にとって早朝の空気はひどく冷たく感じられ、このまま帰ってやろうかと思った時、僕は君に出会った。
「おはようございます」
ランニングウェアに身を包む細身の女性。跳ねるように走る彼女は颯爽と僕を通り越し、そのまま朝日の方へ消えていった。
僕は久しぶりにリアルの女性と会話ができたことに喜んでしまった。拗らせていることくらい自分でもわかっているし、さっきのは会話と言うより挨拶なのだが、こんな僕を認知してくれて、人間扱いしてくれたことの方が勝る。次の日から僕は彼女に会うために、同じ時間に同じ場所で待つことにした。
彼女は毎日、「おはようございます」と挨拶してくれる。僕は普段誰とも話さないこともあってか、声帯がイカれてて最初は言葉を返すことすら出来なかった。しょうがないから僕は必死に九十度のお辞儀をして、君の言葉はしっかり僕に届いてるってことを伝える。
僕はいつの間にか、朝日は一日の終わりではなく、始まりになっていた。君と出会ってから毎日が少しずつ前向きになってきているんだ。陽を浴びることは、セロトニンという幸福を感じられる成分を作ることを促す効果がありいいことだと聞いた事がある。だけど一番は君と出会えたことが、僕の幸福を作り出していると思う。最近は少しずつ声が出るようになり、しっかり挨拶を返せるようになってきた。
「おはようございます」
彼女は今日も僕を見て挨拶をした。
「オハヨウゴザイマス……」
日本人なのにカタコトで、必死にそう返すと彼女は少し微笑んで軽く頭を下げた。
笑った、彼女は笑ったんだ、僕を見て。小さな希望に火がともり、じんわりと周りを温めるような、穏やかな気持ち。こんな気持ちにさせてくれるのは君しかいない。
「あの!」
走り去ろうとする彼女は初めて立ち止まる。振り返る時のポニーテールの揺れについ目が奪われてしまった。
「いつもありがとうございます! あの……、その……!」
久々に話すと声のボリュームが分からなくなるから、やけに大きな声で話してしまう。僕が何かを言う前に、彼女の顔は曇っていき、僕の目の前に立った。僕なんかよりしゃんとした姿勢をしているからか、近くで見ると僕より背が高かった。
「クソキモデブがなんの努力もしないでワンチャンあると思ってんじゃねえよ、失せろ」
その言葉に全てが詰まってたんだと今は思う。僕は甘い夢を見ていた、それだけだった。
朝日は僕にとって終わりになった。カップ麺の残骸の中に佇むモンスターは今日もまた始まりに溶け込めず、社会のゴミとして死んだように生きていくのだ。
人権侵害も甚だしい、だけど心のどこかで納得してしまっている僕がいた。ここまでしっかりフラれると、逆に痛みが快感に変わるのかもしれない。
数週間前の僕にとって、朝日は一日の始まりではなく、終わりだった。添加物だらけのカップ麺の残骸の山に住む社会のゴミとして生きていた時、夜通しプレイしていたゲームをクリアし腹が減っていた。適当にコンビニでも行こうと、早朝に外に出た。社会と親交を遮断している僕にとって早朝の空気はひどく冷たく感じられ、このまま帰ってやろうかと思った時、僕は君に出会った。
「おはようございます」
ランニングウェアに身を包む細身の女性。跳ねるように走る彼女は颯爽と僕を通り越し、そのまま朝日の方へ消えていった。
僕は久しぶりにリアルの女性と会話ができたことに喜んでしまった。拗らせていることくらい自分でもわかっているし、さっきのは会話と言うより挨拶なのだが、こんな僕を認知してくれて、人間扱いしてくれたことの方が勝る。次の日から僕は彼女に会うために、同じ時間に同じ場所で待つことにした。
彼女は毎日、「おはようございます」と挨拶してくれる。僕は普段誰とも話さないこともあってか、声帯がイカれてて最初は言葉を返すことすら出来なかった。しょうがないから僕は必死に九十度のお辞儀をして、君の言葉はしっかり僕に届いてるってことを伝える。
僕はいつの間にか、朝日は一日の終わりではなく、始まりになっていた。君と出会ってから毎日が少しずつ前向きになってきているんだ。陽を浴びることは、セロトニンという幸福を感じられる成分を作ることを促す効果がありいいことだと聞いた事がある。だけど一番は君と出会えたことが、僕の幸福を作り出していると思う。最近は少しずつ声が出るようになり、しっかり挨拶を返せるようになってきた。
「おはようございます」
彼女は今日も僕を見て挨拶をした。
「オハヨウゴザイマス……」
日本人なのにカタコトで、必死にそう返すと彼女は少し微笑んで軽く頭を下げた。
笑った、彼女は笑ったんだ、僕を見て。小さな希望に火がともり、じんわりと周りを温めるような、穏やかな気持ち。こんな気持ちにさせてくれるのは君しかいない。
「あの!」
走り去ろうとする彼女は初めて立ち止まる。振り返る時のポニーテールの揺れについ目が奪われてしまった。
「いつもありがとうございます! あの……、その……!」
久々に話すと声のボリュームが分からなくなるから、やけに大きな声で話してしまう。僕が何かを言う前に、彼女の顔は曇っていき、僕の目の前に立った。僕なんかよりしゃんとした姿勢をしているからか、近くで見ると僕より背が高かった。
「クソキモデブがなんの努力もしないでワンチャンあると思ってんじゃねえよ、失せろ」
その言葉に全てが詰まってたんだと今は思う。僕は甘い夢を見ていた、それだけだった。
朝日は僕にとって終わりになった。カップ麺の残骸の中に佇むモンスターは今日もまた始まりに溶け込めず、社会のゴミとして死んだように生きていくのだ。
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