妖怪銭湯

梅酒ソーダ

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妖怪銭湯

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 夜十時。俺はなけなしの五百円で三日ぶりの風呂に入ろうとしていた。
 坂木慎吾。しがない役者志望の二十五歳。所属劇団の公演だけでは食っていけないのでバイトをしながら生きている。家賃三万の木造築五十年のアパートには風呂なんてついていないので時々銭湯に行くのだが、最近近所の銭湯が値上がりしたので萎えていたところ。そんな時たまたまひっそりと佇む粋な銭湯を見つけたのだ。どうやらあまり人気もなさそうだし、少し家からは離れるけど良さそうである。
 中に入ると昔ながらの佇まいで謎の安心感。ロビーには狸の置物やくたびれたソファがあり、年季が入っているな……と思った。
「あんちゃん、どっち入るんだい?」
 番台の声の方を向く。蛙みたいな顔のおじさんでちょっと無愛想。
「どっちって、そりゃ男湯……」
 と言いながら俺は言葉を止めた。普通『男湯』と『女湯』で別れるはずなのに、そこには『男怪湯』と『女怪湯』と書いてあったからだ。俺はなんだこれ? とはなったのだが疲れていたのか、こういうコンセプトの銭湯なのだろうと納得してしまった。男の方、と伝えそちらに入る。天井が高く、何か鳥獣戯画のような壁画が描かれていてディテールあるなあと感心した。
 脱衣場には誰もいない。ラッキー、混みいっていてオッサンとギチギチでロッカーの奪い合いをするのはごめんだからな。俺は端っこのロッカーを開けすっぽんぽんになる。扇風機の音が聞こえるくらいには静かで、まるで貸切みたいだ。
 俺は勇ましくくもりガラスの引き戸を開けた。むわっと湯けむりが出迎え途端に蒸し暑くなる。ひたひたと歩いて道が開けた。
 
 と思ったら俺は絶句した。
 
 一つ目の子供に顔のない男。こんにゃくみたいな壁に、お、鬼っ!?  
 
 そこには『妖怪』が所狭しといた。彼らは俺の方を一斉に見て静まり返る。これは何かのドッキリかなんなのか? 劇団のヤツらが特殊メイクでもしてんのか? いやアイツらにもそんな金はねえし一体なんなん、
「おいお前、さては人間だろ?」
 雑多な思考中になまはげのような男が俺に詰め寄る。わあ、なんだよこれ。恐怖で股間が縮こまってどうにかなりそうだ。
「お、俺は人間です! よく分からないけどここはたまたま見つけて入っただけで、別に何かしようとかは思ってないんです!」
 なまはげは俺の言葉を静かに聞いた。足が震えている俺になまはげは笑いだした。
 
「おもしれえ、ようこそ妖怪銭湯へ。ここは妖怪のための銭湯、人間は普通ここへは辿り着けねえんだが、お前は妖三助の素質があるかもしれねえな」
 
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