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第一章 第三幕 サバイバル

三十話 四組

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 魔法騎士学院四組。教官はフェイ教官。
 ある意味、このクラスが一番出来の悪いクラスなのかもしれない。



 私はイク、このクラスのリーダーで、厄介事が嫌いなフェイ教官は私にいつも厄介事を押し付けてくる。

 でも――


「ふふん! お前らちゃんと働けよ~」


 なぜか、フェイ教官はここにいる。
 厄介事が嫌いなくせに面白そうな事は好きなの。


「おいおいお前ら、教育が足りてないんじゃないか?」


 そう言って今日もクラスの男子たちをからかって遊んでいる。
 顔を近づけて、わざと密着して男子の反応を楽しんでいるの。

 本当、大人として見習いたくないわ。

 そう思いながら、私は視線を目の前の料理ナベに移しかき混ぜる。


「私のおっぱい触ってみるか?」
「えっ?!」


 その大きな声がキャンプ中に響き渡る。
 誰もが聞こえるその声。
 いや、むしろみんなに聞こえるようにわざと――


「フェイ教官! 邪魔するならどっか行っててください!」


 私は堪らずそう言い放った。
 フェイ教官のせいで男子が仕事に全く身が入っていない。


「なんだ、イク。焼いてんのか?」
「なっ?! そんなんじゃありません。みんなの気が散るからいなくなって下さい」


 そう言うとフェイ教官は少し寂しそうな顔をして、懐からナイフを取り出した。


「そうかイク……私の事が嫌いなんだな。いなくなってほしい……か。教官は寂しいよ。教え子にそんな事言われて……今までありがとな」


 そう言うとフェイ教官は、取り出したナイフを自分の首筋に当てると一気に切り裂こうとした。


「フェイ教官! 待って下さい。私はそんなつもりは……」


 するとフェイ教官は私の声で手が止まり、ナイフを下に降ろした。


 ――ふぅ。

 一息つくのもつかの間、フェイ教官の笑い声に驚いた。


「クックックック……アハハハハハハ!」
「なっ?! 何が可笑しいんですか?」


 フェイ教官はお腹を抱えて涙を流している。
 まるで笑い死にそうな勢いだ。


「イク……ははは。私を殺す気か?!」
「何を……」
「私がそんな事言われたくらいで自害するわけがないだろう……はっはっは」
「――む」


 私は恥ずかしくてフェイ教官の顔を見られなかった。
 涙を浮かべ頬を膨らまし顔を赤らめて料理ナベを見つめた。


「悪い悪いイク。ま、せいぜい頑張れよ。私はもう行くからな」


 フェイ教官は私をからかうように、肩に手を組み満面の笑みで見つめる。
 おかげで私はクラスの笑いもの。

 っていうか、いつもフェイ教官にはからかわれているんだけれど。

 その度、友達にも笑われて。
 本当に、私の立場を考えない大人だわ。


「じゃあな、みんな。頑張れよ」


 こうして私やクラスの男子をからかう為に来たと思う程、あっさりいなくなったフェイ教官だった。
 絶対にからかう為だけに来たんだわ。

 もうこれで三回目。
 数分、数時間ごとにキャンプに様子見に来たとかって言って。

 私たちの事なんてこれっぽっちも心配じゃないんだわ。
 ただ面白い事が好きだから来ただけ。

 本当に嫌になる。



 そして数時間後。
 フェイ教官もいなくなって、みんなの仕事がはかどっていた頃。


「みんな、ちゃんとやれば出来るんじゃない」


 そんな事を呟いていると、男子の一人が私に話しかけてきた。


「なぁイク、何か手伝おうか? フェイ教官に邪魔されてたみたいだし」
「あ、うん。ありがとう」


 この男子はトキ君。いつも問題事に巻き込まれて困っている時に手を差し伸べてくれる。
 とても気が利いているの。

 そんなトキ君が私は……好き。

 でもトキ君は他の女子にも人気。
 私だけで一人占めするわけにはいかないの。


「優しいね、トキ君は」
「ふふ。女の子には優しくしないとね」


 ――私のまるで電撃が走ったようだった。

 トキ君のその笑顔を見れただけでも幸せ。
 そんな事を思っていた。

 するとそれを切り裂くかのように。


「あらあらお熱い事~」


 この声は。
 聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。
 吐息がかかるくらいの距離。

 恐る恐る振り返るとそこには。


「――やっぱり」


 フェイ教官が笑顔で立っていた。
 また来たんだ。
 そう思いながらあからさまにガッカリすると、フェイ教官はトキ君に狙いを定めたように見つめる。

 ダメ。
 私の心がそう叫んでいた。

 しかし――


「トキは相変わらず人気だね~羨ましいよ」


 そう言いながらフェイ教官はトキ君に顔を近づけた。


「トキ、こういうのした事あるか~?」
「え?」


 笑顔で聞き返すトキ君の顔を、フェイ教官は構わず自分の大きな胸にバッっと埋もれさせた。


「がふっ……フェ、フェイ教官! やめれくだふぁい」


 トキ君は珍しく顔を赤くして慌てていた。


「ふふん。やっぱりモテモテのトキもないか~」


 そう言いながら横目で口元を引きつらせ私を見つめた。
 絶対にわざとだ。


「やめて下さいフェイ教官!」


 私は必死だった。
 フェイ教官とトキ君を離そうと二人の間に割って入った。

 するとフェイ教官は更にニヤリとして私に言い放つ。


「なんだイク、嫉妬してんのか~? 若いな~グリグリ」
「わわわ!」


 もう雑なくらいにトキ君の頭を掴んで自分の胸の中でグリグリと動かした。
 それに対して私はトキ君の背中に回り、抱き着く形で引っ張った。

 この時は必死だったの。
 早くトキ君を離してあげなきゃって。


「ぱふぉ……あ、ありがとうイクちゃん」
「う、ううん。大丈夫?」


 トキ君は顔を赤くして無理やり笑顔を作ったように私に向けた。
 絶対フェイ教官のせいだ。
 許さないんだから!

 そう思っていた。
 でも私は後から気が付いた。

 なんて大胆な事をしてしまったのだろうって。


「じゃ、じゃあまたね。イクちゃん」


 慌てたトキ君が走っていく。
 私は料理ナベをかき混ぜながら考えていた。

 後ろから抱き着くなんて――と。
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