上 下
26 / 40
第一章 第三幕 サバイバル

二十六話 学院長の思い

しおりを挟む
 ◇ ◇ ◇


「本当にいいのですか? 学院長」


 魔法騎士学院、学院長室にて。
 今回のサバイバル実習について話し合っていた。


「いいも何も、生き延びるか諦めるかは生徒次第だ」
「学院長はいつもそうです。我が生徒たちをなんだと思っているのですか?」
「自力で生きれない奴は卒業してもいずれ死ぬ。ここで学んでおかないと出てから後悔するだけだ」


 そこではアザール学院長と教員のハンザル教官が口論していた。


「あなたはいつもそうやって……! だいたい今回学院長が受け持った生徒だって半数も残っていない。前回なんて悲惨な事に、あなたが受け持った生徒で卒業まで残ったのは、たったの二人だったじゃないですか」


 そう、このアザール学院長は毎度の事ながら、受け持つ生徒は、厳しく指導し嫌われて辞めていくか、アザール学院長の手によって退学になったかのどちらかだ。
 そんなアザール学院長を自由にやらせていたハンザル教官は、もう限界だったようだ。

 もちろん、このサバイバル実習を組んだのもアザール学院長だ。


「まぁまぁ、ハンザル教官落ち着いて」


 二人の間に止めに入ったのは、キョウ教官だ。
 貴重な女性教員だ。
 普段はおっとりしているが、しっかりした所もあって生徒には……特に男子生徒には大人気だ。

 今にも殴りかかりそうなハンザル教官を止めようと、ハンザル教官の服を掴もうとするキョウ教官。


「やめて下さい……」


 ――トコトコ。


 コツコツと足音をさせて近づいた。


 ――ボイン。


「あっ……」
「キョウ教官は邪魔しないで下さいな」


 服を掴むキョウ教官を咄嗟に払いのけるハンザル教官の腕を、キョウ教官の大きな胸が跳ね返した。
 その反動で尻もちをつき、トレードマークの紫枠のメガネが床に落ちる。

 そんな事も気にせずハンザル教官は学院長に食って掛かる。


「大丈夫ですか? キョウ教官」


 キョウ教官の事を心配して手を差し伸べたのは、ブライド教官だ。
 色黒の肌に何者にも動じない屈強な体、魔法というよりは拳で戦うタイプの教官だ。

 ブライド教官が、キョウ教官の腕を引き起こすとメガネを拾って手渡す。


「あっ……ありがとうございます」


 少し照れた表情でメガネを受け取ると、俯いたまま下がっていった。
 自分には止められないと思ったのだろう。


 すると――


「いい加減に――しやがれ! クソ教官どもが!」


 このとてつもなく口の悪いのが、フェイ教官だ。
 このフェイ教官の一言で、学院長室は一気に凍り付いた。

 誰もがフェイ教官に注目する中、フェイ教官は一言だけ放って学院長室を出て行った。


「あのさ、どっちでもいいけど。目障りだから言い争いとかやめてくれる? ハンザルもさ、言いたい事はわかるけど抑えよう? 一応学院長なんだしさ。アザールも少しは聞いてやんなよ。はぁ、ったく……めんどくさい連中だね。あたしは暇じゃないんだよ」


 ――ガチャ。


 そう言うと、後ろ手に手を上にあげると部屋を出て行った。

 部屋の中はもの凄い空気だ。


「あなたには言われたくありませんけどね……」


 そう呟いたのはハンザル教官だった。
 それもそうだ。
 フェイ教官は、あぁ言って、教官の事は全員呼び捨てで学院長も例外じゃない。
 口の利き方もあの通りで、フェイ教官に言われたら終わりだの雰囲気すらあった。


 一方、この場の雰囲気を壊していったフェイ教官のおかげで、この話は中断となり和解した。
 そして教官たちは、それぞれのクラスを監視する為に自室に戻り、魔力晶まりょくしょうでその様子を覗いていた。


「まぁ、一組は問題ないと思いますけどね、一応見ておきましょうか――」

 ◇ ◇ ◇
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...