上 下
43 / 43
第5章 バルディア族

41話「映し出された恐怖」

しおりを挟む
 バルディア族の集落に来てから三日が経った。そろそろ修理も終わった頃ではないだろうか。
 俺たちは、ミナのフェイスを受け取る為に長老ディアングの家へと向かった。

「待っていた」

 家の扉を開けるなり、ディアングが木造のソファに腰掛けながら出迎えた。

「あ、どうも」

 俺はディアングに近付く。

「待たせたな。この集落はどうだ? 慣れたか?」
「はい、まぁ……。散策させてもらいました。ここでは魔物肉が貴重なんですね」
「そうだ……な」
「それに孤児が沢山いるんですね」

 俺が見た限り、孤児はあの盗人だけじゃなかった。そいつがいた先には路地に沢山の子供が座り込み、ゴミを漁ったり地べたで寝ていた。

「ふむ。戦争で両親を亡くした孤児が沢山いる。しかしここには、そやつらを助けてやれる資金も家もないのだ……」

 ディアングは凛々しい顔つきだが、どこか悲しそうに語り続けた。

「しかしミィたちも孤児たちを見捨てているわけではない。週に一度、炊き出しを開いたり、たまに集落の皆で食料を配ったりしているのだ」

 それでもあの子みたいに、どうしようもなくなって盗みを働いてしまう人もいるんだ……。
 可哀想だけど、俺にはどうする事も出来ない。ユニだって履いて捨てる程あるわけじゃないし。

 ディアングに釣られ、悲しい表情をしていると、ディアングは再び顔を上げ切り出した。

「すまん。お前たちが気に病む必要はない。これの話だが……」

 ディアングらおもむろに、ミナのフェイスを取り出すと、フェイスは元の力を取り戻したかのように宙を飛び回る。

「な、直ったのか!?」
「再び浮遊する力は取り戻す事が出来た。しかし――」
「さっそく見てみよう!」
「……」

 俺はディアングの言葉を遮り、ミナの復活したフェイスに手をかざしてみた。
 あの時と同じように――俺の試験の時にアルベルト試験官がやったようにやれば――見れるはずだ。

 するとフェイスの上部にホログラムとして映像が映し出される。

「やったぞ。ミナがどこに行ったのかわかッ――」

 途中まで見た俺は口を閉ざした。
 そこに映し出されていたのは、あの年樹洞窟の穴に落とされてからのミナの姿だった。
 それ以前の映像は復元出来ておらず、その先も途切れ途切れで大事な所が抜けているようだった。

『ふん。大人――くしてく――』

 途切れ途切れの映像の中で、眠っているミナの口を手で塞ぐ何もかの姿が映し出されていた。

「――ミナ!!」

 思わず叫ぶが、これは過去の映像だ。どうにもなるはずもなく、その後、ミナは謎の人物に担がれて……。

『くそっ――』

 謎の人物は何かを物凄い勢いで投げつけた。そこで映像は終わっていた。
 おそらく、フェイスを見つけた謎の人物は壊す為に投げつけたのだろう。
 ミナは謎の人物に連れ去られた……? どこに?

 俺は瞬きをする事も忘れ、絶望に満ち溢れた表情をしていた。するとディアングが口を開く。

「まずは全てを復元出来なかった事を詫びよう」
「いやいいんだ」

 小さく、ほとんど口を動かさずにそう言う。

「そして、映像に映っていた男――」
「――知ってるのかッ!?」

 食い気味にディアングに近寄る。
 俺の心臓は張り裂けそうだった。

 不安。

 何をされているかも、どこにいるかもわからない。生きているかさえも……。

「ふむ。あれはおそらくバル族だ」
「バル……族」

 俺は聞いた事のある種族名に、一瞬固まる。
 確かマルクが言っていた。バルディア族はバル族とディア族のハーフだって。
 もしかしてバルディア族もミナ誘拐に関わって……いる?
 いやでもバル族とディア族は敵対していて、バルディア族は迫害されて追いやられたはず……だよな。
 じゃあ、どういう事なんだ?

 俺は目玉をひん剥き、ディアングが座る目の前にある机に両手をつきながら、机を見つめる。
 自分の汗が机にゆっくりとこぼれ落ちるのを待つようにじっと動かず。

 色んな思考が駆け巡る。

 そんな中、俺の駆け巡る思考を破るようにディアングが口を開いた。

「……バルディア族の元となった種族だ。その手指の間に張られた伸びた皮膚、それに黄金と淡い青が折り重なった独特な鱗。間違いない……鱗人であるバル族だ」

 やっぱりそうなのか。

「そいつはどこにいる?」

 俺は一瞬にして人が変わったようにディアングを睨みつけた。
 別にディアングが悪いわけじゃない。

 だけど……。

「鱗人はミィたちと同じく海底で暮らす種族。しかしどこにいるかまでは特定出来ない。すまない」
「……」

 俺は無言でその場を立ち去ろうとディアングに背を向けた。

「リョウ、待つです」

 ルルが俺の後に続くように腕を掴んだ。

「リョウ、どこに行くですか。リョウの大事な人――」
「――ミナだ」
「ミナはどこにいるかわからないです。今出て行っても見つからないです」

 ルルは俺の腕を強く引っ張る。

「……」

 俺は足を止めた。

 確かにルルの言う通りだ。だけどここにいたってミナの場所がわかるわけでもない。
 じゃあどうすれば――

 やるせない気持ちが拳に力を入れ、肩に力が入る。

「ィギャァァァ!!」

 外が騒がしい。

「た、大変です! ディアング様! 奴らが来ました!!」
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

rento
2022.08.28 rento

サクサク読めて面白いしあとは投稿時間を統一したら完璧だと思う

TEN
2022.08.28 TEN

読んでいただき、感想までいただきありがとうございます! 最近は毎日16時過ぎに投稿するようにしていますが、投稿予約は使いたくなかったので、多少のバラツキはあるかもしれません( ´・ω・` )申し訳ないです……。今後とも、よろしくお願い致します( ˙˘˙* )

解除

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

みんなで転生〜チートな従魔と普通の私でほのぼの異世界生活〜

ノデミチ
ファンタジー
西門 愛衣楽、19歳。花の短大生。 年明けの誕生日も近いのに、未だ就活中。 そんな彼女の癒しは3匹のペット達。 シベリアンハスキーのコロ。 カナリアのカナ。 キバラガメのキィ。 犬と小鳥は、元は父のペットだったけど、母が出て行ってから父は変わってしまった…。 ペットの世話もせず、それどころか働く意欲も失い酒に溺れて…。 挙句に無理心中しようとして家に火を付けて焼け死んで。 アイラもペット達も焼け死んでしまう。 それを不憫に思った異世界の神が、自らの世界へ招き入れる。せっかくだからとペット達も一緒に。 何故かペット達がチートな力を持って…。 アイラは只の幼女になって…。 そんな彼女達のほのぼの異世界生活。 テイマー物 第3弾。 カクヨムでも公開中。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。