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01 女王の離婚
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王都にはしんしんと雪が降っていた。
雪のベールを脱ぐにはまだ暫くかかるが、そろそろ春が近い。
街の一番高い丘にある王宮の白い建物は白い風景の中で一層白く内から光を放っているかのようだ。
王宮は屋根と庭に真っ白い雪が一面に積もり、それもまた美しく気品がある風景を生み出している。
その王宮の美しい廊下を行くのは、雪を映したかのような美しい銀髪の青年。
年の頃は20代前半、美しい顔立ちは中性的とすら言えるが、すらりとした体には引き締まった筋肉がついている。
こんな王宮の奥深くを優雅な身のこなしで歩いていることからも、身に付けている淡い青の上着と白いトラウザースが最高級品であることからも、青年の地位が高いことが分かる。
「陛下、お呼びと伺いました」
歴代の王が執務してきた、重厚な内装の部屋の黒光りする机の向こうには、女性が座っていた。年は30代前半だろうか。
深い紺色のドレスはいっそ地味と言えるほど落ち着いたデザインだが、細かな部分の刺繍が洗練された上質さを感じさせ、きりりとした女性の雰囲気に似合っている。
ウェーブのかかったブルネットの豊かな髪は結い上げられている。適度に頬に落とされた後れ毛が華やかさを演出するが、甘すぎないのは目の光の強さゆえだろうか。
髪と同色の深い色をした目は知性を感じさせ、そして覇気と威厳を放っている。あえて意思の強さを生かし太めに整えた眉は、その印象を更に強めるものとなっている。
彼女はこの国の女王。
唯一無二の存在。
女王が、人を使うことに慣れた視線で合図を送ると、部屋に控えていた護衛と侍女が部屋を出ていった。
扉が閉まり、青年と二人きりになる。
すると女王は破顔し、大仰に両腕を広げて言った。
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」
「……は?どのご夫婦のことですか?」
「勿論、私とお前だ。……いやあ、長かった!」
女王は、拳を握り、外ではあまり見せない屈託のない全開の笑顔で言った。
ーー沈黙が20秒ほど続いた。
青年の整った顔はぴくりとも動かない。
女王が怪訝そうに眉を寄せ、更に言葉をかけようと口を開いたとき、ノックが響いた。
「なんだ」
「グラッセル伯爵がみえました。被災地支援計画の第2案とのことです」
「少し待て」
女王は青年をーー自分の夫を振り返り言った。
「すまん、待っていた急ぎの報告が来た。慌ただしくてすまない。まずは早く自分の口から伝えねばと思ってな。詳しくは後で」
夫が何も反応しないので首を傾げて諦め、女王がドアに向かって入れと声をかけると、文官風の男2人が書類と図面を抱え入ってきた。
入れ違いに青年が出ていったドアの向こうで、「ゴンッ」と不思議な音が響いたことに、部屋の中の者達は誰も気づかなかった。
雪のベールを脱ぐにはまだ暫くかかるが、そろそろ春が近い。
街の一番高い丘にある王宮の白い建物は白い風景の中で一層白く内から光を放っているかのようだ。
王宮は屋根と庭に真っ白い雪が一面に積もり、それもまた美しく気品がある風景を生み出している。
その王宮の美しい廊下を行くのは、雪を映したかのような美しい銀髪の青年。
年の頃は20代前半、美しい顔立ちは中性的とすら言えるが、すらりとした体には引き締まった筋肉がついている。
こんな王宮の奥深くを優雅な身のこなしで歩いていることからも、身に付けている淡い青の上着と白いトラウザースが最高級品であることからも、青年の地位が高いことが分かる。
「陛下、お呼びと伺いました」
歴代の王が執務してきた、重厚な内装の部屋の黒光りする机の向こうには、女性が座っていた。年は30代前半だろうか。
深い紺色のドレスはいっそ地味と言えるほど落ち着いたデザインだが、細かな部分の刺繍が洗練された上質さを感じさせ、きりりとした女性の雰囲気に似合っている。
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髪と同色の深い色をした目は知性を感じさせ、そして覇気と威厳を放っている。あえて意思の強さを生かし太めに整えた眉は、その印象を更に強めるものとなっている。
彼女はこの国の女王。
唯一無二の存在。
女王が、人を使うことに慣れた視線で合図を送ると、部屋に控えていた護衛と侍女が部屋を出ていった。
扉が閉まり、青年と二人きりになる。
すると女王は破顔し、大仰に両腕を広げて言った。
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」
「……は?どのご夫婦のことですか?」
「勿論、私とお前だ。……いやあ、長かった!」
女王は、拳を握り、外ではあまり見せない屈託のない全開の笑顔で言った。
ーー沈黙が20秒ほど続いた。
青年の整った顔はぴくりとも動かない。
女王が怪訝そうに眉を寄せ、更に言葉をかけようと口を開いたとき、ノックが響いた。
「なんだ」
「グラッセル伯爵がみえました。被災地支援計画の第2案とのことです」
「少し待て」
女王は青年をーー自分の夫を振り返り言った。
「すまん、待っていた急ぎの報告が来た。慌ただしくてすまない。まずは早く自分の口から伝えねばと思ってな。詳しくは後で」
夫が何も反応しないので首を傾げて諦め、女王がドアに向かって入れと声をかけると、文官風の男2人が書類と図面を抱え入ってきた。
入れ違いに青年が出ていったドアの向こうで、「ゴンッ」と不思議な音が響いたことに、部屋の中の者達は誰も気づかなかった。
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