よくいるOL、TS転生して乙ゲー攻略対象を拾う

Re:my@執筆無期停止

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 ふと、強風で霧が吹き飛ばされたかのように
 砂浜を覆い隠していた波が引いていくように

 意識が、明瞭ハッキリとした

─────

 「ッは、はぁっ、ハァ⋯」

 制服は門番に返した、あとは何が要る?
 そう、そうだ。遺書に家を縁者に渡す様に書こう。
 あと、家にいるにも説明しなくちゃな⋯

 息を切らし、浮かんでは消える情報をやり過ごす
 脳内アタマを焼きゴテで掻き回されているかのような感覚に襲われながらも、ふらつく足を叱咤しったし向かう先は家族の待つ暖かな我が家だ

 あと一歩、ノブを押すのすらこの身には酷だ


 「ただ、ぃま⋯」
 「おかえりにいs⋯兄さん?!酷い汗だ、部屋まで歩ける?俺の肩いる?」
 「ぅ゛⋯た、の⋯」
 「ッ、わかった。一先ずソファでいい?」

 ドアノブに身体を預けるように玄関を押し開き、かすれた声でなんとか帰還を告げる
 振り向いた途端、慌てて駆け寄って来た少年にこくりと頷きで返し、頭ひとつ分ほど高さの違う肩にありがたくすがらせてもらう
 長椅子に向かい、もつれる足を一歩一歩、少年の先導に置いていかれない様、踏ん張って歩く
 頭だけでなく身体を巡り始めた熱が、によるものかによるものか、自分でも判断がつかない


 いつの間にか90度傾きにじむ視界に茶色と肌色が飛び込んでくる

 「兄さん水だよ、飲める?」
 「ん、ぁ  が と⋯っ」
 「気にしないで。でも何があったの?」

 支えられながら身を起こし、差し出された麦のストローで木のコップから水を飲む
 たしかに“毛布いる?”とか“水もってくるね”とか聞いた気がする。それに加えて、起きる時に支えてくれたり飲み物にストローを付けてくれたりだとかするこいつの細やかな気遣いが身に沁みる


 「昔の、思い出し、て⋯」
 「⋯ぇ?」
 「あと、くす、盛ら⋯て⋯」
 「え゙っ!!ちょ!待ってまって!一家離散にはまだ心の準備が⋯!ってか薬って何の?!!」
 「、び、ゃくを⋯」
 「あぁあぁぁぁあ゙!何で!今なの!!」

 こいつにしては珍しい大声に、こんな時だというのに喉の奥でクツクツと笑ってしまう。あと大声による空気の振動で肌が少しゾワッとした
 でも知っている。こいつの大声は不安や照れなんかの感情を誤魔化したりしたいから出すだと、俺は知ってる

 「だい、じょ⋯」
 「え?⋯なんて?」
 「大丈、夫⋯俺ら、ずっといっしょ、だろ⋯?」
 「⋯!にぃさ⋯」

 とぼけたような顔で目の奥に不安を押し隠した表情から一転、へらりと笑み崩れ、安心したのか上気した頬とその上にある目の端には涙が浮かぶ
 そうだ、手前テメェは不細工に笑ってろ
 それが一番似合ってんだから


 「⋯ごめ、ちょい、ねぅ寝る⋯」
 「~~ッ!ヲィ!兄貴の睡魔ァ!!!いいとこで!!!!なんだよくそぅ!!?」
 「ッハハ⋯フッ⋯」

 笑ったり泣いたり、今度はハンカチを噛み千切りそうな勢いで悔しがる表情に声をあげて笑い、固く握りしめた拳をなだめて開いてやりながら「あぁ、帰って来たなぁ」と改めて安堵する
 訪れた眠気によって、狭まっていく視界の先にいる少年の気配を感じながら頼み事を託す
 「誰が来ても家の戸を開けるな」、「俺が夢精しててもっとけ」、あと⋯


 「あと、起きたら、遺書かくぞ⋯」
 「え゙!!?!??!てか俺も!!?」

 「心中?!それともやっぱ毒だった??!」と賑やかな声に喉を鳴らしながら身体の力を抜く
 遠ざかる意識の中「城で何があったのさあぁ!!!」と聞いてやっと、


 あぁ、王宮勤めお役所仕事だったんだなぁ。と自覚した
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