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第一章
我が名は‥‥‥
しおりを挟む私は罠である。
名前はまだない。
夢中になって追っていた敵の姿はもう完全に見えなくなってしまった。キョロキョロと探していると後ろから走って来た私の同胞が声をかけてくる。
「兄者、奴はどうしました?」
「ウム、妹者か、スマヌ逃げられてしまった」
私の後に作られた同胞が私と同じ様にキョロキョロと周りを見渡しながら話しかけてきた。
近くの草むらからカサっと音がしてそちらを向くと今度はもう一人(個?)の同胞が声をかけてきた。
「あ、兄者、姉者、あまりハル様から離れると帰り道が分からなくなっちゃうよ」
そう、私と妹者の後、つまり3番目に出来た弟者だ。
「ウム、そうだな私とした事が少し熱くなり過ぎたな、一旦ハル様の所に、うん?‥‥‥」
そう言いかけてきた時近くに奴が現れた。そう、我らの宿敵ホーンラビットだ。しかも今度こそ届きそうだ。
自分で覚えているのはここまでだった。
後は夢中になって追いかけていた。横を見ると妹者と弟者が一緒になって追いかけている。
のだが‥‥‥
また逃げられた。そしてここは何処だ?
弟者が申し訳なさそうな声で話しかけてくる。
「兄者、ごめんなさい帰り道がわかりません。つい夢中になり過ぎちゃって」
最後の方は消え入りそうな声で話している。
いや、それを言うなら私も夢中になって追いかけてたし責められるわけがない。そう声をかけようとした時少し先まで追いかけていた妹者が戻って来た。
「完全に見失いましたわ」
「ウム、そうか。妹者も聞いてほしい」
そう言って二人を自分の前に来させて話す。
「我らは完全にハル様の元に戻る道が分からなくなってしまった様だ。まあ、それは歩き回っているうちに戻れるかもしれないからいいとしてだ。我らが何故奴を捕まえられないのかだ」
帰り道の事は分からないのなら仕方ないとして、先ずは一つ一つ問題を解決していかなければな。
そう思って二人(個?)を見ているとさっきまでうな垂れていた弟者が少し驚いた声で話し出す。
「え?兄者、帰り道わからなくていいの?いや、分からないのは仕方ないんだけど。まあいいや、捕まえられないのは僕らが遅いからだよなー」
そこに妹者が話し出す。
「確かに、追いかけているホーンラビット共はチラチラこちらを見ては、小馬鹿にする様にステップを踏んだりしてギリギリで避けたりしていましたわ」
その様子を思い出したのか最後の方は悔しそうな声になっていた。
「どうしたら早く動けるかは分からないけど、ホーンラビット達を捕まえる為にはどうしたらいいかは分かるよ」
そう言った弟者に妹者が食いかかる様に話し出す。
「なに?どうするの?私はあの小馬鹿にした顔を思い出すと悔しくて悔しくて」
「お、落ち着いて姉者、今、話すから」
興奮するあまり食って掛かる妹者を落ち着かせる。まあ気持ちはわかる。きっと妹者が居なければ自分が食って掛かっていたかもしれない。
「ええい、落ち着かぬか妹者、弟者が話せぬではないか」
「はっ、す、すいません。つい‥‥‥」
妹者は自分の行為を思い返して恥ずかしそうに元の位置に戻る。
「あ、大丈夫だよ姉者の気持ちはわかるから。答えは単純だよ。我らの本分を思い出せばいいだけだよ」
我らの本分?我らの本分とは?我らは罠だ。
む、そうかそう言う事か。
「なるほど、我らの本分、それは罠である事だな?」
「うん、そうだよ兄者。そもそも僕達は追いかけるより待ち伏せする方が性に合っているんだよ」
まさに目から鱗が落ちるとはこの事だ。
まあ、目無いけど。
それからの我らは連戦連勝だった。
しかし、避けて通られたりとかした時はつい飛び掛かりそうになってしまう。というか妹者はそうしていた。
その事を何度目かの姉弟会議で話し合うと今度は、妹者から素晴らしい答えが返って来た。
「あのね、私考えたんだけどこの芋虫見たいな進み方が、遅い原因だと思うの。それでね新しい進み方を考えたのよ」
そう言うとその場で頭の輪っかに尻尾をを巻き付けてグルグルと車輪の様に進み出す。
その姿に私も弟者もアゼンとなった。
速いのだ恐らくホーンラビットと同じかそれ以上だ。
私も妹者をマネして頭の輪っかに尻尾を巻き付けて勢いを付けて回ってみる。
速い。行ける。
これなら絶対に行ける。そう確信した時近くにホーンラビットの気配を感じた。車輪状態で方向をずらしてそちらに向かうと、音に驚いて逃げ出すホーンラビットがいた。
しかし、こちらはスピードの乗った車輪だ。ホーンラビットが数メートルも逃げれずに私は追いついた。
そこから一気に組み付いて首の骨をへし折る。
その時何か電気が走るような感覚がした。そして頭に文字が浮かんだ。
スキル 車輪走を取得しました。
ふむ、今のはいままでのLVアップとは違った様だ。そしてあの走り方は車輪走というのか。横を見ると妹者と弟者が同じ様に車輪走でホーンラビットを捕まえていた。
きっと私と同じ様にスキルの啓示を受けているだろう。
しかし、これは何と言うか潜んで敵が来るのを待って狩るのもいいが、それとはまた違う狩る者としての血が騒ぐな。
まあ、血無いけど。
そんな事を考えていると近くで妹者が叫び出した。叫ぶと言うより雄叫び?
「URYYYYYYYY!!これこそ我が狩りーーーー」
あー、まあ、叫びだしたくなるのはわかるが‥‥‥聞かなかった事にしよう‥‥‥
そう思って目線を逸らすと弟者も同じ様に目を逸らしていた。
我らの旅は始まったばかり。いつかハル様にお会いするその日まで‥‥‥
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