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2章

お祭り開催 その3

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 工場を出て孤児院に向かってヒール通りを歩く。さっきより人通りも増えてきて買い物をしている人が増えているように見える。

「まあ、休日とかじゃないし、こんな感じかな?」
隣で俺と同じ様に周りの様子を見ていたキャリーさんが答える。

「お師匠様、休日でしたらお店も開いてはいませんわよ?」

「ああ、そうかこっちの休日って昔の正月みたいにほとんどの人が休むんだっけ?」

「昼休みや夕方ぐらいからが一番混みそうですわ」
「夕方かー、あそこ以外はそうかもね」
前方の人だかりを指差しながら話す。

「何ですの?あそこだけ凄い人だかりが?」
「前に話したお見合いパーティーの店だよ。でも、予約制だし昼過ぎからのはずなんだけど?」
近くまで来るとその理由が直ぐにわかった。

店からマスターのアダムさんが出てきて丁度説明をしていた。

「キャンセル待ちのみなさん、今の所キャンセルの人はいません。今日はキャンセルがないかもしれませんが、それでも待つという人は、順番に名前を聞いていきますのでお名前を教えてください」


少し離れた場所で聞いていた俺達を見つけたアダムさんがこっちに向かって来た。
「おお、ヒデさんじゃないか。予約がいっぱいで大忙しだよ」

「おはようございます、アダムさん。キャンセル待ちなんかやってるんですか?」
「いや、一人がキャンセルがあるかもしれないから待たせてくれって言い始めたらあっという間にこんな状態になっちゃったんだよ」

「ああ、なるほどー。今日は知り合いがお見合いパーティーに来るはずなので始まる頃に俺も顔出しますね」
「おう、聞いてるよ。ちゃんと今日のメンバーに入って居るから心配ないぞー」

「ハハ、よろしくお願いいたします。それじゃあ、また後で」
「ああ、またあとでな」

そう言うと急いでお客様の対応に追われているスタッフの元に戻っていった。

すぐ後ろにいた冒険者の一人が話しかけてきた。
「おい、ヒデ何だよそのお見合いパーティーって?」
「ん?そのまんまの意味だよ、独身の人達が集まってお話したりゲームしたりしてパートナーを探していくんだよ」

「ほほー、俺ちょっと用を思い出した帰るから‥‥‥」
「今から行っても今日の参加は無理だよ」
 最後まで聞き終わる前に言葉をかぶせた。

「なんだよーそんなのがあるなら教えてくれよなー」
「知らんがなー、それにそんなに慌てなくても人気があるみたいだから定期的に開催するんじゃない?」

「確かにそうかもなー」
未練たらしく人だかりを眺めながら孤児院に向かって歩いていく。

しばらく歩いていると頭の上で大人しかったルノが突然ニャンニャンと鳴きだして肉球で頭をプニプニと叩きだした。

「ん?どうしたのルノ?」

 頭から降ろして腕に乗せると一方の方向に向かってニャンニャンと鳴き続けている。

「何?こっちに何かあるの?」
そう聞いてみるとそうだと言わんばかりに頷いてまたニャンニャンと鳴きだした。

「なんだろ?いってみるか。キャリーさん先に孤児院に向かってもらっていい?」
「はい、それは構いませんが私も一緒に行きましょうか?」

「いや、この人数で動くのもなんだし、先に行ってくれる?」
「わかりましたわ。お師匠様くれぐれも危険な事はしないでくださいませ」
何かクギ刺された。

「大丈夫だよ。少し見て来るだけだから。じゃあお願いねー」
そう言いながらルノの向いてる方に向かって歩いていく。

来た道を逆走する感じで歩いていると少し細い路地の入口で木の箱に腰かけているおばあちゃんとその横で心配そうに声をかけている、まだ成人前くらいの女の子がいた。

よく見てみるとおばあちゃんの方が眉をゆがめて苦痛の顔をしている。

「わわ、大変だ。何かあったのかな?」
独り言を言いながら二人に近づいて声をかける。

「どうしました?何かお困りなら手を貸しましょうか?」
おどろかせない様に少し離れた場所から声をかける。

 その声が聞こえたのか心配そうにしていた女の子がこちらに気が付いて返事を返してくれた。
「あ、実はおばあちゃんが転んでしまって足を怪我しちゃったみたいなんです」
「あたしゃ平気だよ。少し休めばよくなるから」
おばあちゃんが女の子の後にすぐ話してきた。

「ああー、俺は冒険者ギルドで回復師をしているヒデといいます。良かったら足の怪我を治しますよ?」

 その言葉に苦痛に歪んでいたおばあちゃんの顔が嫌悪感に変わった。

「なんだって?回復師だって?冗談じゃないよ。あんたらみたいなペテン師にくれてやる金なんか無いよ!とっととどっかに行きな!」


 胡散臭そうな目で見られたり、疑いの目で見られたりしたことはあったが、ここまではっきりと拒絶されたのは初めてだったので少し呆然としてしまった。

「おばあちゃん、そんなこと言っちゃダメだよ。この人はいつもおばあちゃんが話している人とは違うかもしれないじゃない。こんな優しそうな人なのに」

「ふん、ウソつく人間はみんな優しい顔して近づくんだよ。よく覚えておきな」

 少し間を置いたので何とか復帰できた。

「ああ、じゃあ、こうしましょう。今俺がおばあちゃんにヒールをかけます。それで治って何の支障も無いと思ったら、セール中はこの先の孤児院の中で診療所の出張所を出してるのでそこに銀貨1枚持ってきてください。もちろん、納得しなければ持ってこなくていいですから」

「あん?それであんたに何の得があるんだい?それともあんたまさかもっとひどくなる魔法でもかけるつもり‥‥‥」
話を遮って女の子が大きな声を出した。

「おばあちゃん、いい加減にして。回復師様お願いします。お金は今すぐ払いますからおばあちゃんの怪我を治してあげて下さい」

「うん、わかった。でもお金はさっき言った通りでいいからね」
そう言ってブッスっとそっぽを向いたままのおばあちゃんの前にしゃがんで汚れている右足の膝に【診断】をする。

【診断】

転んだ時に強く打ったようですね。軽い打撲です。

≪わかった、ありがとう≫

「少し、強く膝から倒れたみたいですね。骨には異状ないみたいです」

 痛いの痛いの飛んでけ~

《ヒール》
 おばあちゃんの膝が青白く光りだす。

「ああー、なんだい?随分と気持ちいいじゃないか」

「はい、終わりましたよ。それじゃあ俺達は行きますね。お買い物を楽しんでくださいねー。あ、もしも気分が悪くなったりしたらさっき言った孤児院の中に来て下さいね。休憩場もありますから」

早口にそれだけ言うと孤児院に向かって歩いて行く。

「ありがとうございました。後で絶対伺いますねー」

 後ろからさっきの女の子の声が聞こえた。成人してない様に見えたが意外にしっかりしている少女だった。



「あ、そう言えば。ルノさっきの怪我していた人の場所に誘導してくれたのか?」

 既に定位置になっている頭の上からルノを降ろして目の前にもってきて話しかける。

 ルノはキョトンとした顔をしてニャンと鳴いて俺の顔にスリスリと顔を擦り付けてきた。そのくすぐったさに笑ってしまった。

「まあいいか、もしまた今みたいな人がいたら教えてくれよー」
ルノがわかったと言うかのようにニャンと鳴いてまた顔をスリスリする。



 くすぐったさにニヤニヤしながらいつもの定位置にルノを乗せてからまた孤児院に向かって歩き始めた。



+++++++++++++++++++++++
遅くなりました。_(_^_)_


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