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2章

後始末

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 ホッと安堵のため息をついていると固まっていたキャリーさんが、ゆっくり体制を戻して真っ赤な顔をしてそっぽを向きながら話しかけてきた。

「あ、あの、えっと、私としたことが何と言いますか‥‥‥きょ、今日は少し疲れましたので上がらせていただきますわ」
 それだけ言い放つとこちらに目も合わせず逃げる様に帰っていった。
その後ろ姿を見送っていると壊れた壁の方から音が聞こえた。

 壊れた壁の穴から状況を確認しながらゆっくりこっちに来るギルマスがいた。

「ヒデ何だこの有様は?」
「えっと、どこから話せばいいか‥‥‥」
ギロリとこっちを睨みながら話す。
「とりあえずこの壁を壊したのは誰だ?」

 ギルマスの質問にチラッとママさんの方を見ると、人差し指を立ててシーとやっている。その動きに小さく頷いてからギルマスに答える。

「あーそれはーーー」
「ウソつかずに本当の事を話してくれたら前から言っていた魔法球の増加を直ぐに認めてやるぞ?」
「ママさんです、ママさんが壊しました」

「ちょっと、ヒデちゃん私を売るき」
「いや、売るも何も本当の事だし。でもギルマスママさんが来てくれて助かったのも事実なんだ」

「はあ?何かあったのか?まさか、ゲオルゲがらみか?」
「アーー、カランデナイトハイエマセンネ」

「なんでそんなに棒読みなんだよ?まあ、ヒデの言ってる事にウソは含まれてないみたいだし、今回はお咎めなしにする。ゲオルゲなんてヤバそうな奴が係わっているからな、少ししんぱいしただけだ。後、お前は危険に首突っ込むのが好きだからな心配は常にしてる」

そんなギルマスを見ていたら言葉が勝手に出てしまった。
「父ちゃん……」
「父ちゃんじゃね!せめて兄ちゃんぐらいにしてくれ」
「ハハ、ありがとうねギルマス」

 後ろ向きに右手だけ挙げて答えたギルマスは壊れてる壁に向かって呪文を唱えると、壊れていた壁の残骸や壁が消えて新しい壁が出来上がった。

「うおー、流石ギルマスだ凄いね」
「はは、そんなに驚くのはお前ぐらいだがな」

 そう言いながらドアから帰って行った。二人きりになった途端ママさんが詰め寄って来た。
「ヒデちゃんひどいじゃない。私の事を売るなんて」
「いや、だっていくら申請しても備品が足りないって断られていた魔法球の増設だよ仕方ないよ」
「まったく、魔法球って前にヒデちゃんが言ってたミラちゃん専用の奴?」

「そうそれ、今日もそうだけどミラは一人でもちゃんと出来るからね。自分でもちゃんとみんなの様に稼げるって事を教えてあげたいんだよ」
 ママさんが小声で何かつぶやいた。
「ヒデちゃんの一番ってブレないわね。子供達に嫉妬しちゃうわ」

「ん?聞こえなかったなんて言ったの?」

「何でもないわ。そんな事より早く仕事に戻らないとね」
 ブツブツと文句を言いながらドアの方に歩いて行く。

「ああ、ママさんもありがとね。後で飯食いに行くからね」

「ハイハイ、私は二番でもいいからね」
「何の話か分からないんですが!」

なんだかんだで次の日の朝

 二日酔い連中を治し終えた時、四人組とキャリーさんがやって来た。
「「「「ヒデ兄(師匠)おはよう」」」」
「おはようございます。お師匠様、昨日はご迷惑をかけてしまって申し訳ありません。後、今日はクエストに行きますので失礼しますわ」
口早に話すと受付の方に向かって行ってしまった。

そのキャリーさんの後姿を見ながらミラがつぶやく。
「あれ?キャリーちゃんなんか変?」
「あー、少しすればいつも通りに戻るよ。多分」

 今日は久し振りに子供達と5人で朝ご飯を食べた。ゲン達はクエストに出るらしいのでギルドの玄関まで見送ってから診療所に向かう。

 診療所に入ろうとした時女の人に声をかけられた。
「ヒデ様、若様が診療所にいらしてます」

 声の方を振り向くけど誰もいなかった。キョロキョロとしているとまた声が聞こえた。
「探しても見つけられませんよ。これはテレパシーを送ってますので、近くの人にでしたらテレパシーを送れますので。まあ、本当に近くないと出来ないので使いどこが少ないのですが‥‥‥」
「‥‥‥えっと、若様はもう来てるの?」
「はい、今到着しました」
「了解です」

 隣にいたミラが不思議そうに俺を見ながら話す。
「ヒデ兄師匠何か言った?」
「ん?あー、いや、何か診療所の中から人の気配がするって思ってね。これは若様達だね」

「え?ヒデ兄師匠も気配でわかるの?」
「も?って他に誰か出来る人いるの?」
「キャリーちゃんがヒデ兄師匠がギルドの入口に入って来るとわかるって言ってたし、実際いつも当たってたよ」
「凄いな、気配で人の判別出来るんだ。ちなみに俺のは気配なんてウソです。テレパシーで教えてもらったからわかるんだけどね。ほら!」

そう言って診療所のドアを開けると中には若様御一行が到着していた。

「わ、本当にいた。テレパシー便利だなー」
 少し前まで携帯電話でどこにいても連絡が取れるのが当たり前だったのだが、無ければ無いで何とかなる物なんだな。などと考えている俺はだいぶこっちに慣れてきたのだろうか?

「ヒデ君何やら固まっているけどどうしたんだい?アオ君から連絡いかなかったかい?」
「あ、若様いらっしゃい。連絡貰いましたよ。便利だなーって思ってて」
「フフ、そうだね。彼女達は本当に特殊なスキルだからね」

 いつものように柔和な笑みを浮かべて話している若様の後ろを見ると、ヴァネッサさんとダニエルさん、多分髪が赤いからアカさんかな?目線を後ろに向けてる俺を見て若様が話し出す。

「あー、今日はシオンは来てないんだけど伝言を預かっているよ。昨日ははしたない姿を見せてしまい申し訳ありません。だって」

「ハハ、キャリーさんも同じような事言ってましたよ。やっぱり仲良しなのかな?」

「ヒデ君‥‥‥流石にシオン達がかわいそうになって来たよ」

「ん?何か言いました若様?」

「何でもない。そんな事より昨日の続きだよ。アオ君」
若様が上を見ながら呼ぶと昨日と同じで突然女の子が現れた。

「はっ、ここに」

「うん、後昨日いたキイ君はシオンと行動しているからここにはいないよ。それで、昨日の僕らが帰ってからアオ君がヒデ君の警護をしてくれてたんだけど気付いたかい?」

「え?昨日から?全然気づかなかったです」
「フフ、それは良かった。そんな感じで護衛させるからね。あ、前みたいに僕と連絡を取りたかったらアオ君かアカ君に言ってくれれば僕に連絡が入るからね」

「おお、便利ですねー。でも王国にとっても彼女達は貴重な人材なのに、ここに二人も来ていていいのですか?」

「ゲオルゲが一番現れそうなのがここだからね。ヒデ君には危険かもしれないけどフォローは完璧にするから、いつも通りに生活をしていてくれ。下手に警戒していると怪しまれるからね」

「はい、よろしくお願いします。今一危険度がよくわかんないですから、警戒のしようがないですがね」

「フフ、相変わらずマイペースだね。まあ、今回はその方が助かるよ。じゃあ僕らは帰るからね。後の事はこの二人に聞いてくれ」

「わかりました。ご苦労様でした若様」
「どういたしまして。二人共ヒデ君の事お願いね」
「「はっ、命に代えましても」」

その返事を聞くと若様達が目の前から消えて行った。


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