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2章

人を呪わば 2

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 街から程近い森の中、低レベルの冒険者達が狩場にしている場所よりさらに奥の、巨木のせいで日が届かず薄暗い森の中心辺り。高レベルのモンスター達が多数目撃されていて用のない人間はほぼ来ることがない場所。

 そんな場所に場違いな声が聞こえる。
「ここはなかなか静かでいいねー」

 声の頃からして成人は迎えているかどうかといった感じで顔にまだあどけなさが見える。体つきは華奢なのだがその背に背負っているリュックサックが身長の二倍はありそうな大きさだ。それを背負っていてもあまり重さを感じてないように思える。この子が怪力なのかそれとも見た目より軽いリュックサックなのか?そのリュックサックも大きさもさながら見た目が実に妙な感じがする。
 リュックサックの周りにはお札の様なものが何重にも張り付けられている。そのお札の一つが風も無いのにカサカサと音を立てながら揺れている。

「ん?あれ?もう使ったんだ予想より早いなー。まあ、あの人魔力低いから直ぐに魔力切れで倒れるだろうから回収に行こうかな。もう少しのんびりしてたかったなー」

 そう言うと背負ったリュックサックの重みなど感じさせないで普通に立ち上がる。上を向いて掛け声をかけると軽く跳躍して巨木の太い枝に着地すると、木々の枝から枝と渡りながら街に向かって行った。……

+++++++

 俺達はごく普通の一軒家の前に到着した。
「ここだ、ここの中にいる」

 ザルドさんが俺の前に出る。
「この家か、ヒデ少し下がってろ。キャロラインさん、俺が突っ込むからフォロー頼むな」
「わかりましたわ」

 その声を聞くとザルドさんが扉が開いているかしゃがんで確認する。鍵はかかっているようだが鍵開けのスキルは誰も無いのでザルドさんが蹴破って中に入る。奥と右に部屋があるようでドアが見える。奧から魔力を感じて俺は奥の部屋を指差す。

 俺の動きを見たザルドさんが頷いて奥の部屋のドアを蹴破った。中を確認しているザルドさんが中を見ながら声をかける。
「大丈夫だ。気を失っているがこいつが犯人なのか?」

 俺も部屋の中に入って確認をする。中は魔術に使われるような感じの物がいっぱい置いてあった。その中央に置いてある瓶が割れている。その前にひっくり返って苦しそうに呼吸を繰り返している男がいた。背中から顔の右半分までウロコが赤黒く不気味に腫れ上がっている。

「多分こいつだと思います。ウロコが出来てるし、俺が呪いを返したからこんな感じになってるんだと思いますよ」

「おし、じゃあこいつをーーークッ」
 言葉を言いかけて何かに気が付いたザルドさんが俺の襟首を掴んで後ろに投げる。突然後ろに投げられたので尻餅をついてしまった。文句を言おうと立ち上がろうとした時キャリーさんが俺の前に出た。

「アレアレ?なにこれ?ちょ、ちょっとウケるんですけどーハーハハハッ、なにこれ?気持ち悪ーい。ダメだって、ツボッた。ハーハハハッキモーイ……」

 突然誰も居なかったはずの部屋の奥の方から男の声と言うか少年ぽい声が聞こえた。突然の事でりかいができなかった。

「久し振りにイヤー笑ったわー。なんか普段使わない筋肉使った感じがするねー」

 ザルドさんが両手斧を握りしめてその少年に話しかける。
「お前、何もんだ?どうやってここに来た?」

「ん?僕?僕はゲオルゲっていうんだよおじさん。ここにはちゃんとドアから入ってここにきたんだよ?」

「な、何だと?この部屋に俺とキャロラインがいたんだぞ、お前の気配に気付かないなんて」
「ふーん、そうなんだ?まあ、どうでも良いよそんな事は、ねえ?これやったのおじさん?」

 まさに子供の様に自分の興味のある事しか眼中にないようだった。この巨大なリュックサックを背負った少年の顔は好奇心でいっぱいの子供の顔だ。しかし、その少年に警戒の色を示す二人。あの子強いのかな?でもこのままでは仕方ないし。

「それをやったのは俺だよ」
 キャリーさんの横に立って話しかける。

 横のキャリーさんから非難の目が向けられる。隣を見ないようにして話し続ける。
「それで、君はもしかしたらこの人に呪いを売った人かい?」
「うんそうだよ。君じゃなくてゲオルゲだよ。それでこれって解呪だよね?お兄さん解呪出来るんだ」

「あ、ああ、出来るよ。それで、この呪いはゲオルゲが作ったのかい?」
「違うよ。これを作ったのはご主人様だよ。あ、そうだこれ回収して帰らないといけないんだった」
「え?回収?こいつを?」

「うん、本当は呪い使って魔力無くなった囚われの死体が欲しかったんだけど……ご主人様変わった物が好きだからこいつ持って帰ると喜びそうなんだよなー」

「囚われの死体って何?」
「ダメダメ、僕が質問してないんだからお兄さんの質問には答えられません」
「ん?そういうルールなのか?じゃあ何か聞きたい事無い?」

「え?うーん、じゃあ、こいつの回収するの邪魔する?」
「もちろん、邪魔するよ。今度はこっちの番だよ。囚われの死体って何?」

「うーん、邪魔するかー、お兄さんはアレだけど他の二人がなー、負けないけど怪我したら持って帰れないしなー。あ、囚われの死体っていうのは呪いをかけて死んだ人は魂が縛られて女神のとこに行けないんだよ。その魂をご主人様が集めてるの」

「集める?集めてどうするんだ?」
独り言のようにつぶやく。その時ゲオルゲが顔を上げて突然何かを思い出すようにして顔をした。

「お兄さんこの街で他にも解呪した?」
「ああ、したよ。全部で四回かな?」
「よし、じゃあそっちの二人を持って帰ろ。もし戦ってけがでもしたら嫌だしね」

「あ、待って今度はこっちの番だよ。魂を集めてどうするんだい?」
「さあ?知らないよ?じゃあねー」

 そう言うと目の前から消えていた。
「あれ?どこ行ったの?」

 キョロキョロと辺りを見渡していると横から止めていた息を深く吐き出すような声が聞こえた。

「ハァーー、お師匠様危険な事はしないでください」
「え?え?」
「そうだぜ、ヒデお前あんなのと普通に話すなんて命がいくつあっても足らねえぜ」
「え?え?何?やばい奴だったの?」

「おま、お前は、仮にも冒険者なんだろ?」
「お師匠様のそばにいると色んな意味でドキドキしますわね」

「キャロラインさんよ少しは鍛えてやった方が良いんじゃねえか?」
「え、私がお師匠様を?ビシビシと?」

「ビシビシと鍛えてやれよ」
「チョ、チョットなんかビシビシが効果音に聞こえるんだけど……リアル鞭で打たれそうなんだけど……」

「はあ?アホな事言ってないでこいつを一旦ギルドに連れてくか?」
「そうですね。拘束してから連れて行きましょう。キャリーさん帰るよ」

 なんかボーっと上見ながらブツブツ呟いているキャリーさんに話しかける。
「え?お師匠様はそういうのがお好みなんですの?」
「ん?お好みって?何が?」

「ムチとか責められるのがお好きなんですの?」
「いやいや、何の話しをしてるんですか?キャリーさん帰って来て」

肩を掴んで揺すってみる。
「ハッ!私は一体何をしていたのかしら?」
「早く帰ってさっきのゲオルゲってやつの事も調べないといけないし」

「そ、そうですわね。お師匠様のご趣味の話しはまた後で伺いましょう」
 いそいそと拘束した犯人を担いだザルドさんについて行く。

「いやいや、俺別にMとかじゃないからね?」
 急いで後追いかけて行く俺の声は聞こえてないだろなー
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