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2章

留守番

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「もお、いいから早く行ってきなさい。私だってヒデ兄師匠の一番弟子なんだから大丈夫だもん」
そう言ってヒデ兄師匠の背中を押しながら外に追い出す。

「まったく、私はヒデ兄師匠の一番弟子なんだからこれくらい出来るもん」

 壁に寄り掛かって頭の後ろで腕を組みながらやり取りをニヤニヤしながら見ていたゲンが笑いながら話しかける。
「ハハ、相変わらず心配性だねーヒデ兄」

 近くの椅子に腰かけているトランも笑いながら話す。
「いやー、俺達が初めてランクアップ試験受ける時と同じだね」

 診察台の上に腰かけてひざ掛けのパッチワークをいじりながらハルちゃんが答える。
「まあ、そんなところも見ていて楽しいよね」

「もお、私一人でも出来るのに」

「まあまあ、そう言うなよ。流石に俺達も居ないなら今日の診療所は閉めちゃうよ」
「う、たしかにヒデ兄師匠ならそうするかも」
「まあ、僕達は治癒魔法とか使えないから、本当にいるだけなんだけどね」

そんな話をしていたら入り口に頭を押さえながら入って来る人影があった。
「ヒデーいつものやつ頼む」
「ハイハイ」
《プットアウト》

「おお、ありがとよ。って今日はミラちゃんかヒデは?」
「ヒデ兄師匠は今日は依頼でここにはいないの」
「へーそうなんだ。じゃあ今日はミラちゃんだけなのか?」
 私が答える前にハルちゃんが答えた。

「そうだよ。私達もいるけどね」
「なるほどな、まあ、チビ達いなくてもミラちゃんに変な事する奴はこのギルドにはいやしねえがな」

「そうなんだけどさ。心配性のヒデ兄がミラだけ置いて行くわけないじゃん」

「ハハハ、そうだなそれはあり得ないぜ。お前たちの事となるとあいつは少し変に心配性になるからな。じゃあ、魔法球に登録しておくからな。頑張れよ」
「ハーイ、お大事に」

 すれ違いでケイトさんが入って来た。
「おはよう。今日はヒデさん居ないんだって?」
「おはようございます。ケイトさん何で知ってるの?」

「昨日そこの酒場で飲みながら心配だー心配だーって言ってたから」
「もお、どんだけ心配してるのよヒデ兄師匠」

「おやおや?そんな事言って顔が二ヤついてるわよ」
「ハッ!そ、そんな事ないもん。それよりケイトさん診療所に用があったの?」

「んー、あんまり心配してるから覗きに来たのだけど。腰にヒール当ててもらおうかな。湿布薬使ってるからだいぶ楽になってるんだけどヒールは気持ちイイからね」

「ハーイ、じゃあ診察台に横になってください」 
「はいはい、小さな回復師様」
「ムー、今に大きくなるもん」

 そう言いながらヒデ兄師匠が作ってくれた踏み台に乗って、ケイトさんの腰のあたりをスキルのライフミストを発動させる。腰の辺りに小さなイタイのを見つける。
「あった。じゃあ始めるよケイトさん」
《ヒール》
なるべくピンポイントになるように調整していく。

「あらあら、あらあら。なかなかやるじゃない。すっごく気持ちイイわよ」

「フフ、良かった。ちゃんと出来て」
「とても上手に出来ていたわよ。時間あるしもう少しゴロゴロさせてね。この余韻が気持ちいのよ」
「ハーイどうぞ」

「そうだ、ヒデさんって今日ギルマスからの依頼でしょ?」
「うんそう言ってたよ」

「じゃあ、キャロラインさんと一緒よね?ねね、どうなの?あの二人って?二人でいる事が多いけどさ?」
 そう言うとハルちゃんに目を向ける。

「フフフ、どうなんだろうねー?ヒデ兄は鈍感だから全然気付いて無いけど、キャロライン姉はなんかここのとこ変わってきた感じがする」
「あらあら、ちょっとどう変わったのよ?」
「こないださ、ヒデ兄が花街に患者さんがいるって、友達に頼まれて行ったんだけどそれを遊びに行ったと思って、キャロライン姉がヒデ兄の襟首持って持ち上げてた」

「……流石Bランクの冒険者ね」
「でもね、自分でも何でイライラしたかわかんないみたいだったよ?」
「チョット、何よそれ面白すぎじゃない。今度から気を付けて観察しなくちゃ」



「なあ、トラン?キャロライン姉とヒデ兄がどうかしたのか?」
「あー、まあ知らなくても良い事もあるよ」
「?」


 その時入り口からノックの音がした。近くにいたゲンがドアを開ける。
「やっぱり、ママさんだ。そんな感じがした」
「あら、ゲンちゃんなかなか腕上がってきたわね。まあ、そんな事よりジュースの差し入れよ」

「「「やった。ゴチになります」」」

 ジュースをトレイに乗せて持って来たママさんに訊いてみた。
「ママさん、ヒデ兄師匠に言われたんでしょー?」
「ホホ、わかっちゃった?たまに様子を覗いてくれって言われたのよ」

「ヒデさんらしいわねー。ママ私の分は?」
「ケイトちゃん何よ、だらしないわねそんなところでゴロゴロして」
「今ミラちゃんに治療してもらったからよ。そんな事よりヒデさんとキャロラインさんがくっつきそうなんだって?」

「あら、何言ってんのよ。ヒデちゃんは私のよ?」

「そういうのはいいから。くっついちゃうのかしら?」
「まったく、ケイトちゃんはそんな事ばっかり気にして、私はこないだ来てた白いワンピースの女の子も気になるわ」

 ケイトさんが診察台から立ち上がる。
「チョット何よ第二の女が浮かび上がってるの?」
「ケイトちゃんそんなとこで立ち上がらないでよ。見たの事の無いお嬢様だったわ。でもあのスキのない感じといい洗礼された物腰、絶対何かしらの武術を究めてるわね」

「ヒデさんの周りには強そうな人しかいないのかしら?」

「え、そんな強そうな人がいるの?稽古付けてくれないかな?」
「ちょっとゲンやばいって今話に入ったら。こういう時は黙ってた方がいいから」
「ん?そうなのか?」
「うん、女性が固まって話してる時は近づかない方がいいから」
「ふうん、わかった」

「ちょっと今度ヒデさん捕まえて飲みに行って全部訊かないとね」
「ヒデちゃんに訊いたってわからないわよ気付いてないんだから。それにきっと最後は優しくて包容力のある私のとこに戻って来るんだから」

「あらあら、そんな受け身でいいの?ヒデさん取られちゃうわよ?」
「だって、そんな事言ったって……イヤネもう酒場に戻るわ」

「あらら、ママさん結構本気だね。今までとは反応が違うわ」

「おお、ヒデ兄モテモテだね」

「あ、ヤバ!ゆっくりしすぎた!じゃあね、治療費は後で持ってくるから。急げ遅刻になっちゃうう」

「相変わらず騒がしい人だな。ケイトさん」
「あの人昔は、ギルドの看板娘だったんだって。ザルドさんが言ってたよ」

「私は年をとってもケイトさんの様にはならないわね」
 ハルちゃんがそうつぶやいた。

「……」
「……」
「……」
 みんなが顔を背けて無言になる。あのゲンですら沈黙している。

 そんな感じで午前中が過ぎて行った。
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