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1章

side ママさん物語 前編

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 私は山奥の村の長男として生まれたの。長男といっても上には姉たちが五人もいて私は六番目に生まれた初めての男の子だったわ。

 子供の頃は周りに同年代の男の子達はいるけれど乱暴なのが嫌で姉達とよく遊んだわ。今思えばその頃からこの口調だったわね。

 その頃は姉達が私の事をお人形さんみたいに髪型を変えたりお洋服を着せたりして遊んでいたわ。もちろん私も嫌じゃなかったし楽しかったわよ。

 なんせ五人分のお古があるから女の子の服には困らないしね、普段から女の子の格好をしてたから周りの人も違和感なく接していたわ。

 父は生まれた時から居なかった。母は六人を食べさすので働きづめだったわ。六人姉弟で年の離れた上から二番目の姉が家事をして、母と一番上の姉が畑やお手伝いなどで稼いできてくれていた。

 月日は流れて私も一五歳になって成人したわ。家は二番目の姉夫婦がいるのでここにいて迷惑になるだけ。

 姉や義兄はやりたい事が出来るまでここに居て良いと言ってくれたが、成人してまで家に厄介をかけるのは気が引けたの。その申し出をやんわりと断ると、取り合えず街に向かって冒険者ギルドに入るつもりでいた。もちろんその頃はしゃべり方も普通に喋る様に気を付けていたわよ。

 街について冒険者ギルドに入るつもりがいつの間にか傭兵団に入団してしまったのよね。

 街について右も左もわからないでウロウロしていたら声をかけられたの。それがいい男でね、一目惚れっていうのかしら?フラフラってついて行った先が傭兵団だったのよ。彼はその傭兵団の副長を務めていたの。

 まあ、副長と一緒に入れるしいいかしらって思ったのだけど、傭兵のお仕事は戦争の参加。当時はまだ身体も小さくて筋肉も無くてね細かったのよ。
 でも副長が「もっと食べて鍛えて筋肉をつけろよ」なんて肩組まれて言われたもんだからガンバっちゃったわ。

 父は見た事無かったけど母は身体が大きくて頑丈な人だったわ、遺伝かしらね?みるみるうちに育っていったの。身体の事もあってか両手斧を使って戦うのが戦闘スタイルになったわ。

 戦場での食事は持ち回りでやっていたのだけど、私の時は評判が良くて、いつの間にか私が食事係になっていたの。過酷な戦場の中で食事は唯一の楽しみ誰でも美味しい物を食べたいしね。

 そんな、過酷であっても副長と一緒に居られるのは楽しい時間だったわ。でもそんな傭兵団も戦争が無くなれば稼ぎは無くなるの。
 終戦に向かっている戦況下で敗残兵が村を襲っていると知らせが入ったわ。軍からの要請で最後の一働き的な気分で村に向かったの。村に向かう途中副長が話しかけてきたわ。

「多分この戦いが終わったら、俺達の仕事は終わりだな」
「そうだね。勝利の凱旋は軍の連中だけだろうしね」
「ああ、俺達はここでお役御免だ」

「でも、団長は南の方がきな臭いからそっちに行くみたいな話してなかった?」
「ん?ああ、してたな。でも俺はこの家業から身を引こうと思ってな」
「え?辞めちゃうの?」

「ああ、ここの戦争が収まったら西の方に行って田舎町で店でもやろうと思ってな」
「店?何お店開くの?」

「おお、聞いてくれるか。旨い酒と料理を出す店さ。それでな、良かったら一緒に来ないか?」
「ええ?僕も一緒にいいの?」
「良いも悪いもお前がいなけりゃ誰が料理するんだよ」
「そ、そうだよね。副長はお芋をふかしただけの料理しか出来ないもんね」

 副長が笑いながら手をあげて続ける。
「このー、まあ事実だがな。思えばお前に声かけたのは俺なんだよな。単に人数合わせで良い弟分が出来たくらいだったんだがな。ここまで化けるとは思わなかったぜ。出来の良い弟になったもんだ。答えは終わったら聞くから考えておいてくれ」

「う、うん。考えておく」
 ちぇ、やっぱり弟かそんな感じの接し方だもんね。でもいいかも一緒にいれれば。戦わなくていいし副長と一緒にいられて好きな料理をしていられるなんてきっと幸せだろうなー。考えるだけで胸の中が暖かくなった。

 そんな事を考えていたら前から団長の声が聞こえてきた。
「歩きながら聞け、もうすぐ村に着くがいつものように刃向かう奴だけ切り捨てろ。女子供は歯向かわない限り手を出すなよ。相手は敗残兵だ、降伏した奴は俺んとこに連れてこい軍に引き渡せばいい金になる。お、見えてきたぞ、お前ら用心してかかれよ」

 先行させていた人が戻り報告をしている。
「団長最悪だ。あいつら村人を皆殺しにしてやがる」
「何だと?敗残兵じゃなく野盗だったのか?」
「いや、奴らみんな軍服着てた。負けた腹いせに村を襲ったんだ」

「クソッ!遠慮なくたたきつぶせ、野郎共前進だ」

 前衛の弓隊が相手の弓や魔法使いを仕留めていく。間髪入れずに突撃をする。いつもの臭いがする。人間の焼ける臭い。

 そして、入り口付近にある子供の遺体、それを庇うように倒れている女性の遺体、戦争中よく見た遺体だが子供の遺体が混じっているのは初めて見た。それを見たとたん我を忘れて武器を振っていた。周りにいた仲間達も同じ様な感じになって村になだれ込んだ。

 そこからはあまり覚えてない。武器を捨てて無抵抗になった敵兵も切り捨てていた様な気がするが覚えてない。
 遠くから副長の声が聞こえたと思った瞬間頬に痛みが走った。

「落ち着け。怒りに飲まれるな。周りをよく見ろ」
「え?副長?どうしたの?」
「ようやく、反応したか。周りをよく見ろ。もう敵はいないぞ」
 言われて周りを見渡す。

「そうだね。他ももう終わったのかな?」
「ああ、そろそろ団長の所に戻ろう」
「は、はい」

 返事をして歩き始めようとした時、足が動かなくて地面に尻餅をしまった。

「え?あれ?力が入らない?」
「ああ、少し動くな。我を忘れて動き続けるとそうなる時があるんだよ。俺も若い時にやったよ」


 その時、家の陰から軍服を着た若い兵が剣を構えたまま突進してくる。
「隊長の敵だ死ね化け物!」

 その剣は迷いなく一直線に向かってきた。動こうにも力が入らなくてどうしよもなかった。これはどうしようもないなー、ここまでかと思っていたら、目の前が真っ暗になって何かが覆いかぶさって来た。
「グッ」

 くぐもった声が聞こえた。その後に剣を抜く音と同じようにくぐもったうめき声。最初の声は間違いなく副長の声だ。身体に力を入れると今度は動いてくれた。上に載っている副長をゆっくりと動かすとヌルッとした感触を手で感じた。ウソ、大丈夫だよね?いつものように笑って油断しすぎだと怒ってくれるよね?

「クソー、こりゃあ右手やっちまったかな?ゴホッゴホッ」
 咽ると血の塊を吐いた。よく見るとお腹の右側からも出血していた。嫌だ、ウソだ……

「ハッ、そうだ回復師さんを呼べば」 
「待て、こりゃ助からねえな。自分の身体だそれぐらいはわかるぜ」
「嫌だ、待ってて直ぐに回復師さんを呼んでくるから」

「待て、俺がくたばったら悪いけど店の話しは無しだ。俺の金を故郷に残した弟に渡してくれないか?」
「わかったよ。副長の頼みなら何でも聞くから、今は回復師さんを呼びに行かせて」
「最後が仲間を庇ってなんて少し出来過ぎかな。後、頼む……な……」

 そう言うと全身の力が抜けたようになった。
「イヤーー、ウソだーー、誰か、誰でもいいから来てー、副長がー、副長を助けてー」

 大声を出して助けを呼んだ。近くにいた人が聞きつけ、急いで回復師が駆け付けたが間に合わなかった。



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