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3章

side ヨイ 後編

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 そして、完成まじかのある日、老師を含めた四人が公園の中心に生えている大きな樹の下に集まっていた。
老人がその大きな樹を撫でながら話す。
「皆はこの場所が何の場所か知っておるか?」
チュイが笑いながら返答する。

「ハハ、わが師よ庭師を目指すものでこの場所を知らない者はいませんよ。それにあまりにも有名だ。この場所は女神エリル様が勇者ケヴィンによって顕現なされた場所です」

さらに、トンが続ける。
「そしてその時老師がいつも肌身離さず持っている首かざりを勇者ケヴィンより渡された場所なんですよね」
ハクも嬉しそうに頷く。

しかし、老師が少し困った顔をして話し出す。
「ああ、どうやらワシ勘違いしてたみたいなんじゃよ。数年前に勇者王ケヴィン様の肖像画を見たのじゃがあまりにも記憶と違っていてな」
「はっ?い、いえ、まさか勇者ケヴィンの冒険譚28巻に勇者ケヴィンが最悪の病魔を倒し、病魔が広まる前に女神様にお願いして皆を治療したと、そしてその後この街を花の都にするべく色々と助言をくれたと書いてありますよ?」

 ハクはいつの間にか勇者ケヴィンの冒険譚28巻(ハード―カバー限定発売)の本を見せながら興奮して老師に詰め寄っていた。

「い、いや、ワシの記憶の中で前街長のブノワ様と街について話しをしていたのが、ワシに石をくれた兄ちゃんだったから、ついその人が勇者様かと思ってたんじゃよ。仲間の一人じゃったのかの?」

「ええ?勇者ケヴィン様のお仲間と言うと確か、重戦士ドイル様、神速のマローマ様、大賢者ビャッカ様、後は、勇者ケヴィン様が唯一愛した女性、白き癒しの魔術師キャロライン様だろ?他にいたっけか?」

ハクが腕を組みながら考えていると横からチュイが大きな声を出した。
「ああ、いた、その巻だけしか出てこなかったキャロライン様の弟子かなんかじゃなかった?」
「ああ、いたなそう言えば。よく覚えてたな」
ハクもどうやら思い出したようだった。

老師は首をかしげながらつぶやく。
「ん?弟子?あの兄ちゃんが?なんか違うような気がするのう?ブノワ様と話していた時の堂々とした態度や他の人達も何となく敬意を払っていたような気がするんじゃがのう?」

老師のつぶやきを聞いたハクが訊き返した。
「ほほー、それではどんな方だったですかその老師に石をくれた方は?」
「これをくれた兄ちゃんか?そうじゃのう。白衣を着ていてナヨっとしておったが、何とも優し気な人じゃったよ。それにな、スラムに住む小汚い小僧の話を真剣に聞いてくれて、兄や姉の病気を治してくれたんじゃよ」

「え?病気を治したのは女神様じゃないのですか?」

「あー、兄ちゃんもそう言っておったがな。あの人が病気を治してくれるように骨を折ってくれたんじゃよきっと。それにな、石と話せるという事を教えてくれた人でもあるんじゃよ。ワシはこの石の声を聞く事は出来なかったが花とは話せるようになった。そのきっかけをくれたのがその人じゃった」

「お名前は思い出せないのですか?」
腕を組んで考えていたチュイが老師に訊く。

「名前のう?ワシは兄ちゃんと呼んでおったからのう‥‥‥ヒ、ヒロじゃったか?ヒゲじゃったか?ダメじゃ思い出せん」
「ハハハ、もしかしてヒデじゃないですか?」

トンの言葉にハクは笑いながら乗っかる。
「ハハ、ヒデってあれだろ?隣の国の王太后が若い時に洗浄魔法を作った時に師匠だとか言われてる人だろ?架空の人だって訊いたけど?」
「俺が聞いたのは、聖女ミラ様のお師匠様だとかだったような?」
「あれ?その人って、勇者ケヴィンの後を継いだ勇者ゲン様の実の親って聞いたけど?」


三人の弟子の話を聞きながら楽しげに笑う。

「わはは、その話の人があの兄ちゃんかどうかはわからんが、ワシの頭を撫でながらしっかりお手伝いをしてくれと言ってくれたんじゃよ。その言葉が無かったら今のワシは無かったかもしれん」

老師は自分の首にかかっている黒光りする石を懐かしそうに優しい目で見つめる。

「フフ、長々と昔話をしてしまったのう。さて、そろそろ、最後の作業に入るかのう」
そう言って自分の首にかかっている鎖を掴みゆっくりと首かざりを外す。
そして、その首かざりに向かって話しかける。
「今までありがとうな、これからはこの庭園を守ってやってくれ」

そう言うと大きな木の幹に近づけると首かざりが光りその木の中に入り込んで行った。
次の瞬間その木がまばゆく光る。その光が落ち着くと庭園全体の雰囲気が変った。

繊細に作られた庭園は見る者の心を安らげ落ち付かせるのは変わりないが、そこに何か力強さが加わった様な感じだ。

「フフ、どうだい兄ちゃん?オイラの作った庭園は?兄ちゃんの言いつけを守ってしっかりお手伝いしたんだから。どこかで見てくれてるといいなー。女神様、子供の頃に兄ちゃんと合わせてくれてありがとう。女神様に感謝を。もうすぐオイラはそっちに行くからその時にもう一度言うね」


 光に気を取られていた弟子三人が庭園の中心の大きな樹に寄りかかって座る老師に気が付く。
「老師今の光はいったいなん‥‥‥の‥‥‥?老師?どうしました?老師?」

老師の異変に気が付いた三人。しかしその老師の姿は眠っている様に、そして満足げな笑みを浮かべていた。


後にこの庭園の名前がヨイの庭園となるのだがそれはもう少し先の話。

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