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3章

勇者 その25

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 衛兵たちに守られている勇者様一行の近くまで行くとケヴィンさんが話しかけてきた。
「さっきキャロラインさんからヒデ君は王様への報告に一緒に行かないと言われたのだけど本当にいいのかい?これだけの事をしたんだし報酬も良いと思うんだけど?」

おお、流石キャリーさん俺の事わかってるー。この国の王様になんてあったら、なんかめんどくさい事になりそうだしね。となりの国の若様にも合わせる顔が無くなっちゃうよ。

「ええ、もちろんですよ。出来ればこのまま診療所まで飛ばしてもらいたいです」
さっきまでは、女神様の降臨だの、街おこしだのと考える事が色々あったがそれも一段落したら眠気と疲れが出てきて今にも座り込みたい気分だ。

「わかったよ。ヒデ君の事はギルドにいる時に、ギルマスや王子‥‥‥おっと、若様から聞いていたからね。こうなる事は予想していたよ。じゃあそろそろ行こうか」
そう言ってケヴィンさんがスキルを発動させようとした時、衛兵の足元から抜け出して見覚えのある子がこちらに走ってきた。
「兄ちゃん。ありがとう。これ、姉ちゃんと兄ちゃんを治してくれたお礼だよ」
ヨイがそう言いながら俺の前で少し息を切らせて話す。その手には綺麗な石が握られていた。

 ん?なんだろ?何かの鉱石か?俺のオンボロ鑑定では食べれるかどうかとか調理法しかどうせ出てこないので、素直に診断スキルに聞く。
《これ何かの鉱石?》
頭の中で聞くと直ぐに診断スキルが答えてくれた。
『はい、特に珍しいものではないですが、少量のオニキスが入っているので黒く光っているようです』
《ふーん、鉱石か。あ、じゃあさ、これに付呪出来る?》
『はい、マスターでしたらできます。そうですね、ヒールでしたら一、二回程度で壊れてしまいます。ランヒールも少量になってしまいますが出来ますよ』
《わかった、ありがとう》
うーん、銀とかより落ちるのか。まあ、少量って言ってたからかね?

「おお、ありがとう。でも、ヨイの兄ちゃん達を治してくれたのは女神エリル様なんだよ」
「ええ?そうなの?でも兄ちゃんの言った通りにみんな治ったよ。よくしてもらったら、必ずお礼をしなさいって姉ちゃんにも言われてるし、受け取ってよ。おいらの宝物なんだ」

 俺はヨイの頭をそっと撫でると、渡された鉱石を両手で包んでランヒールの魔法を練り込むように呟く。
鉱石が俺の手の中で一瞬光ると直ぐに光が収まる。

「うわ、兄ちゃんなにしたの?石が急に光り出したよ」
「フフ、今この石に聞いたらヨイと一緒にいたいって言ってたよ。だから、これはヨイに預けておくよ。出来れば肌身離さず持っていてくれると嬉しいな」

そう言ってヨイに石を手渡す。まあ、大人の親指程度だし持ち運びに不便って事ないだろ。
ヨイは少し驚いた顔をしながら受け取る。
「兄ちゃん、石とお喋りできるのか?スゲーな。あと何かこの石温かい?」

「あ、そうだ。カドルさん達がこのスラムを良くしようとしているから、ヨイもお手伝いしてあげてくれよ。俺へのお礼はそれでいいよ」
「え?お手伝いは当たり前なのに?まあいいや。おいら、しっかりお手伝いするよ」

もう一度ヨイの頭をなでて「頼んだぞ」っと言うと、任せておいてと嬉しそうな顔をしてみんなのもとに戻っていった。

 その姿を見てから、ケヴィンさんの方に向き直ると目の前、物凄い近い距離にビャッカさんがいた。まあ、身長差があるから俺の、胸辺りにビャッカさんの顔があるので目の前というのは微妙に違うのだが。

「ちょ、何ですかビャッカさん?」
「あの子との会話が終わるまでガマンして待った。今の魔法は付与魔法?」
「えっと、ハイそうですよ」

 気迫に押されて少し後退して答える。ビャッカさんが魔法の事に関して我慢とか初めてあった時の守護獣達の事がかなり効いてるのか?
その後、ドイルさんが止めに来るまで質問攻めにあった。


その後、直ぐにケヴィンさんのスキルでギルドの近くにテレポートした。
ギルドの横道の人通りの少ない道とは言え突然現れた俺達に二度見はするがそれだけで何も言わない。

テレポートスキルってレアだけど知れ渡っているものなのかな?俺がそんな事を考えていたら後ろから野太い声で話しかけられた。

「あー、これでやっと終わりか?時間的には短い方だが何だかいろいろあって結構ハードだったな」
その声に振り向くとザルドさんが伸びをしたりしながらぼやく。
うお、ザルドさん交渉の時静かだったから存在を忘れてたよ。急いで社交辞令な挨拶をする。
「あ、ああ、ザルドさんお疲れさまでした。ザルドさんのおかげで危ない目に合わなかったですよ」
「あん?本当かー?何か今の今まで忘れてましたって顔してるぞー?」

俺よりも背の高いザルドさんがかかんで俺の顔をニヤニヤしながらのぞき込む。

「え?えー?ソ、ソンナコトナイヨーヤダナー、ハハ、ハハ」
「ガハハハ、まあいいや。患者と向き合っている時のヒデはそれしか見えてないからな。先に帰らせてもらうぜ。ギルマスへの報告は任せるからな。歳のせいか徹夜が堪えるぜ」
ザルドさんはそう言いながら全然元気に歩いていった。

キャリーさんと何か話していたケヴィンさんが俺に向き直って話しかける。
「じゃあ、ヒデ君僕も報告に戻るね。少し落ち着いたらまた来るから。今回の件本当にありがとう。今回は流石に苦渋の決断をしなければならないと覚悟していたからね。それを思うと信じられない気持ちでいっぱいだ。本当に感謝という言葉だけでは収まらないよ」

ケヴィンさんは俺の手をしっかり握り目お見て話している。

俺はニッコリとほほ笑むとケヴィンさんに話す。
「こちらこそ、患者さんを紹介してくれてありがとうございます。ケヴィンさん達もケガや病気の時は必ず診療所に来て下さいね。その時は治療一回、銀貨一枚です。あ、今回はお試しという事でタダでいいですよ」
「フフ、アハハハー。あの噂は本当だったんだね?どんな病気もケガも、二日酔いだって銀貨一枚で治してしまう回復師がいるっていうのは。ハハハ」

ええー、そんな噂が流れてるの?知らなかった。

あ、そうそう。ブノワさんとカドルさん達の街が、あと数年後に花の都と言われて、そのコンテストで優勝した者を雇い入れるのが王族や貴族の中で一種のステータスの様になっていった。



 数十年後、老師と呼ばれる庭師が自分の最後の作品として肌身離さずいつも首にかけていた、首かざりを庭園の中心に埋め込んだ事により神の庭園と言われ、訪れる者全てに安らぎを与える庭園を造り上げた。その者の名がヨイという名らしい。

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