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3章
勇者 その22
しおりを挟む不意を突かれてまた頭の中に直接話してきたので、俺が頭を掻きむしっていたら女神様がニンマリとした顔で話しかけてきた。
「そんなにかきむしっていたら禿げますよ?」
クッ、そんな楽し気な顔でなんて恐ろしい事を言うんだ。
身体も少し動くようになったので、一応体育座りから正座にして女神様と向き合う。なんか先生に怒られて正座させられてるみたいな図だ。
まあ仕方ない周りから見られてるしね。
「そう思うなら脳に直接話すのやめて下さい」
「ハイハイ、わかりました。それではやっておきたかったことは終りましたから、ついでにヒデさんの頼みも聞いておきましょうかね」
ついでかよ!
まあいいや。それでみんなが助かるなら何でもいいや。でも少しだけ言い返したくて意地悪な質問をする。
「あれ?女神様って直接手を出せないんじゃないんですか?」
女神様は俺の質問にニッコリ笑って答える。
「フフ、今回はいいのです。何と言っても私は召喚されたんですからねー。何をしても召喚者の責任です」
「えっ!い、いや、アレですよ?みんなのMPで召喚しましたからね。誰が召喚したかなんてわからないですよ。ハハ」
俺は目を逸らせて答える。
その姿を見て楽しそうに笑う女神エリル。
「フフフ、冗談ですよ。でも、あなたの願いで降臨したのも事実です」
「いやいや、こんな所で女神ジョークとか勘弁してください。それよりこの病気にかかっているのは街の人で最後ですか?」
俺の質問に毅然とした女神様の顔に戻るとゆっくりと話し出す。
「はい、この街の人が最後の患者さんですよ。ヒデさん今回の件、本当にありがとうございました。あの病魔は過去何度も現れています。その度にひどい被害を受けてきました。ある時は国一つが滅亡したこともありました。今回の死者ゼロは奇跡的な数字です」
「いえ、勇者様が素早く動き、周辺を隅々まで探索してくれたおかげです」
女神は俺の答えに満足そうに笑う。
その後ゆっくりと天に向かって杖を高く掲げて円を描くと杖が光り出し、その光が強くなり目を開けてられなくなってきた時光が収縮されていった。
「ヒデさんの願いもかなえましたよ」
「えっと、今ので病気になった人達の呪いが解けたのですか?」
「ええ、そんなに広い範囲ではないですからね」
俺にそう言うと向きを変えて勇者ケヴィンに話しかける。
「ケヴィン、これからも苦難があるでしょうが仲間達と一緒になら必ず成し遂げます。お願いしますねケヴィン」
「はい、女神エリル様この世界が少しでも良くなるのなら微力ですがお手伝いをします」
その姿をみてニッコリと笑いながらに頷き、次にキャリーさんに話しかける。
「我が子キャロライン、ヒデさんによく学び守ってあげて下さいね」
一瞬の間があってからキャリーさんが答える。
「はい、わが師を守りそして学びます」
女神様はその答えに頷く。
その時天から女神様を包むように光が射した。
「どうやらここまでのようですね。それでは私は戻ります。ではヒデさん、また今度」
そう言うと少しづつ上に登っていく。
それを見上げていると女神様がスラムの奥を指差す。そちらを見てみると昼間にあった少年ヨイとヨイより少し年上の少年少女が駆けてくるのが見えた。
女神様の方に目を移すと姿もなく光が消えていた。
息を切らしながら話しだす。
「はぁ、はぁ、にいちゃん、ありがとう。兄ちゃんの言う通り、今日中に寝込んでいた兄ちゃんと姉ちゃんが元気になったんだ」
俺はヨイの頭をなでながら答える。
「そうか、よかったなヨイ。きっと女神様の奇跡のおかげだよ」
「え?にいちゃんが治してくれたんじゃないのか?」
「ああ、そうだよさっきまで女神様がいたんだからな。勇者ケヴィン様が女神様を呼んでくださったんだー」
俺はワザと最後の方を大きな声で叫びみんなに聞こえる様に。そして思惑通りヨイが勇者様のフレーズに食いついてきた。
「ええー、勇者様がいるの?スゴーイどこどこ?」
「ああ、女神様を降臨させたのはあちらにおわす方。あの方が勇者ケヴィン様だ」
俺は少し大げさに大きな声を出して答える。
その行動をケヴィンさんが冷ややかな目で見ている。その横にいるマローマさんとドイルさんは顔をしかめて笑いを堪えていた。
ケヴィンさんがその冷ややかな眼つきのまま話し出す。
「いやいやヒデ君、いくら何でも無理があるだろ?今まで見てなかったその子達なら誤魔化せるだろうけど今まで見ていた人達は無理だ……」
「勇者ケヴィン様ありがとうございます。我らのようなスラムの人間に女神エリル様を降臨させてくださって」
「ありがとうございます。勇者ケビン様兄と話す事が出来たのも貴方のお陰です。私は一生この事を忘れません」
「「ありがとうございます」」
カドルさん達がケヴィンさんの間に膝をついて跪いて口々にお礼を言う。それを見ていたブノワさんの周りの護衛の人やお弟子さん達も勇者ケヴィンを讃え始めた。
よしよし、上手くいった。俺がそう思いながらニンマリとしているとキャリーさんが話しかけてきた。
「お師匠様、何やら悪い顔になってますわよ?」
そう言われて急いで顔を叩いて誤魔化す。
「え?そう?チョット上手くいきすぎてビックリしてたんだけど。ハハ」
「そんな事よりお師匠様?女神エリル様と面識がおありなんですの?」
内心ドキドキしながらポーカーフェイスで答える。
「いや、無いよ?何でそんなこと聞くのかな?」
「いえ、女神様がお師匠様を呼ぶときだけさん付で読んでいましたから」
「あーー、あーー、うんと、あれだよきっと俺の事召喚主とか言ってたからじゃん?きっとそうだべよ。うん。ハハハ」
焦り過ぎて何だか変な語尾になってしまったが、ここは笑って何とか通そう。
「ああ、なるほど。だから私にお師匠様を守る様に言われたのですかね?ホホ、まあそう言う事にしておきましょう」
何となく含みのある笑みを浮かべて頷いてくれた。
「ああ、でも世間向けには顕現させたのは勇者様だからね」
一応付け加えておいた。
まあ、名も知らない奴がそんな大それた事をするより、勇者の様に有名人がやったと言った方が信じやすいからね。
それに、勇者様と女神様が話をしている場面はまさに物語の一遍のようだった。
そして、俺と話してた所はなんか正座させられて怒られてた人みたいだったしね。
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