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3章

勇者 その16

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「距離は関係ない。必ず呪いに感染する」

 ビャッカさんの一言で皆が静まり返った。

 一拍おいて漏れるような声でケヴィンさんが一言「そうか」と言うと一瞬前とはまるで別人のような声でこれからの事を決めていく。

「では、一人も呪いの餌食にならないようにするまでだ。今から次の村に飛ぶ。そこでヒデ君とキャロラインさんは呪いにかかった人達の対応をしてください。ザルドさんはそのままヒデ君についてあげて下さい。俺達四人は村長や村の人達に周囲に集落や離れに人がいないか確認して回る。誰一人として死なせない。絶対に見逃すな」

ケヴィンさんがの言葉にみんな強く頷く。
その様子を見てから「行くよ」と言うと次の瞬間村の門の前に着いていた。

先ほど決めた様に俺とキャリーさんで集会場に集まっている患者さん達を治して、ケヴィンさん達が周辺に聞き込みをする。そんな感じで三つ目の村まで何とか終わった。細目に調べて聞き込んだおかげで人が住んでいるであろう場所を発見出来た。

 最初はそう言えば前に見かけない奴らが度々村に来て買い物をして行っていたが、最近は見ないな程度の話だったのだが、ケヴィンさんの粘り強い捜査とフウジンの地図のおかげで隠れて住む様な感じの洞穴を発見した。

ドイルさんがうんざりしたような顔で話す。
「こりゃー不味いな」
不味いってなにが?とか思っていたら。俺とビャッカさん以外のみんなが同じことを言い出した・
「ああ、間違いないね」
「上手い場所に居付いたもんだね」
「人の気配がしますわ。それも大勢の」
ケヴィンさん、マローマさん、キャリーさんが身を低くして洞穴を凝視して言う。

俺がキョロキョロしていたらザルドさんがコッソリ教えてくれた。
「ヒデ、ありゃー、盗賊か何かの住み家だな」
「え?そうなの?何で分かるの?盗賊じゃなくて誰かが隠れ住んでるだけかもしれないよ」

俺の意見を聞いていたドイルさんが答えてくれた。
「あー、まあ、そうだったら良かったんだがなー。匂いでわかるんだよ。ここにはどうしようもない奴らが集まってるのがわかるんだ」

その話を聞いて他の人を見るとみんな同じ意見のようだ。
「恐らく、何人かが村の様子を窺って村を襲うとか考えていたんじゃない?どうする?全員切っておく?」
マローマさんが吐き捨てる様に言う。

まあ、切る=殺すって事だろうな。高ランクの人達が口をそろえて盗賊がいるというのだから間違いないだろ。盗賊どもを擁護する気はないが‥‥‥。

自分の考えに没頭していた時にケヴィンさんから声をかけられた。
「ヒデ君はどうしたい?」
「へ?お、俺ですか?」
「そう、ここにいる人は多分みんな同じ事を考えている。でもヒデ君は違うみたいだから聞いてみたんだけど、ああ、決定ではないよ。意見を聞きたいだけだ。判断は僕がする」

ケヴィンさんは俺が話しやすいように態々判断の話をしてくれたのだろう。

俺は頷いてからケヴィンさんの目を見て話す。
「はい、俺はこの中の盗賊達がどんな奴かわかりません。きっと俺が思っている以上に極悪な奴らなのでしょう、それでも、悪党でも呪いにかかっている患者を殺してしまったら、あの病魔にザマ―ミローと言えなくなっちゃう気がして‥‥スイマセンなんかまとまって無くて」

ケヴィンさん、ドイルさん、マローマさんそしてビャッカさんまでがビックリした顔で俺を見ていた。
ちなみに、ザルドさんは俺の後ろで自分の口を押え笑い声が漏れない様にして転げまわっていた。
キャリーさんは嬉しそうに微笑んでいる。

「ヒデ君、そうだよ。そうだった。それが一番だったよ。みんな作戦は分かってるね?前にやった全員捕獲した時のやつだよ」

ドイルさんは笑い声を殺しながら答える。
「クククッ、ハハ、チョット待ってくれ。作戦は分かっているがちょっと力が入らねえ。ハァー、ハァー、よし大丈夫だ。確かにそうだ。一人の死者も出さない事こそが大勝利だもんな。ヒデは分かっているじゃねえか。さっさと今回の件を終わらせて一緒に飲もうぜ」

「私も賛成。百年に一回の厄災とも言えるほどのこの事象が起こって、死者が一人も出ないなんて痛快な事を成し遂げようじゃないか」
マローマさんがそう言うとニーっと笑う。

「貴方は変。変だが面白い。私もその大勝利を見てみたい」
ビャッカさんはあまり表情が変わらないのだが、最後の方は何か笑顔だったような?

「やっぱオモシレーなヒデは。お前と一緒にいると飽きなくていいや」
ザルドさんは俺の背中をバンバン叩く。

「流石はお師匠様ですわ。キチンと終わりがお見えになっていますのね。これからも師事させてくださいませ」
キャリーさんが微笑みながら頭を下げてくる。

「え?え?チョ、チョット待って待って、俺そんな大それたこと言ってない気がするんだけど?」

「ああ、そうだね。至極簡単で見落としていたことを思い出させてくれたよ。じゃあ、時間がもったいないからサッサとおわらせちゃおう」

 ケヴィンさんがそう言うとザルドさん以外の人が目の前から消えて洞窟の前に現れた。

ザルドさんに聞いたら、単純に素早く移動しただけだそうだ。何それ?瞬歩とかなの?縮地?などとアホなことを考えていたら洞くつの前にビャッカさんが立って何か魔法を唱えている。

 それを見ていたら俺の頭の上や肩に乗って暇そうにしていた守護獣達が、魔力を感じてなのか起き上がってビャッカさんの方に注目している。

「ねえねえ、ご主人様。何かやるの?あれは多分、神経魔法かな?安らぎ、眠り?そんな感じ?」
ミズチが首をかしげながらビャッカさんを凝視して話す。

「主殿、何かやるなら俺も行っていい?」
「ライジンが行くなら俺も行きたい」
ライジンとフウジンがピョンピョン跳ねながら訊いてくる。

「ダメです。ここで大人しくしてなさい」
俺がそう言うともっとごねるかと思ったけどすんなりと引き下がった。

「「「はーーい」」」
俺の肩や頭に戻るとまたゴロゴロしだした。


 
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