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3章
勇者 その14
しおりを挟む俺は一番近くの布団に横になっているおばあさんと、おそらく旦那さんであろうおじいさんに近づいて話しかける。
「俺は回復師のヒデです。おばあさん、具合はどおですか?」
「ん?首の所に数字が出てる以外何ともないんだけどね?なんか兵隊さん達が、これは死んじまう病気だからここで休んでいろって言うからいるけど本当なのかい?」
横にいるおじいさんは心配そうにしているが当人のおばあさんは半信半疑で聞いてくる。
「うん、首の数字が減っていって三とか二になったら動けなくなるくらいになっちゃうんだよ。おばあさんの首の数字はいくつですか?」
「四じゃよ。この病気は治るのかのう?」
俺の問いに隣にいるおじいさんが先に答えた。
そのおじいさんに向かってニッコリと笑ってから答える。
「はい、治りますよ。じゃあ、おばあさんは横になって楽にしていてね」
そう言ってから俺の斜め後ろにいるブノワさんに声をかける。
「ブノワさん、このおばあさんのお腹の辺りを魔力を込めて見てもらえますか?」
「ん?魔力を込めるように?」
ブノワさんが不思議そうにこちらを見てきたので、もう少し説明を付け足した。
「あー、こう、注意深く見る感じで。いつもは糸が見えるんですが今回のは少し太い感じの紐っぽいのが見えると思うのですが‥‥‥」
「ムムム、ん?おお、見えたぞなんとなく禍々しい感じがするのう」
「はい、見えたらその紐のようなものに手を添えて「ブレイクスペル」と呪文を唱えます。イメージ的にはこの紐の中に自分の魔力を注入する感じです。そこからこの魔力事破壊する感じで」
「ふむ、わかった。やってみよう」
暫らく目を瞑って集中しているとゆっくりした口調で呪文を唱える。
「ブレイクスペル」
しかし何も起きなかった。
「ふむ、魔力の同調が少し難しいのう。しかし今ので感じは掴めたぞ。もう一度だ」
そう言ってもう一度同じ様にやり始める。すると今度は上手くいき呪いが壊れていった。
寝ているおばあさんの首筋の数字も消えている。
「おお、ばあさんの首の所の数字が消えたぞ」
おじいさんが大喜びで大きな声を上げる。
俺が一応診断スキルで確認したところ問題なく解呪出来ていた。
ブノワさんがあごに手を当てて考えていたが急に興奮したように話し出した。
「うむー、素晴らしい。単純だが直接魔力干渉するだけで破壊してしまうとは……むう?そうか、光属性か、なるほど、ふむふむ。ヒデ殿この魔法は素晴らしいですな。多少魔力コストはかかるが魔力の入れようで強力な呪いも解呪できるかもしれない。素晴らしい」
「チョ、チョット落ち着きましょう。まだ患者さんはいますので皆さんを治してから話をしましょう」
「おっと、そうだった。つい年甲斐もなく浮かれてしまった。申し訳ない」
それから二人で集会場にいる患者さんを治していく。
患者さんの中に小さな子供達も数名いた。ゲン達よりも小さい子達だ。
首の数字がまだ四や五なので自覚症状もない。加えて友達が集会場に集められてお泊りのような状態に浮かれて大騒ぎしている。母親たちが言い聞かせてもその場は治まるのだが、またすぐに走り回りだす。
見ていて微笑ましいのだがジッとしてないので治療が出来ない。ブノワさんもチビっ子を追いかけているが逃げ回っていて、遊んでもらっている感覚のようだ。しまいには隠れてしまった。
まあ、大きいといっても隠れる場所なんかあまりないしゴソゴソと動く音や話声がするので何所にいるかはすぐわかる。
母親たちが見るに見かねて子供達を叱ろうとしていたが、良い事を思いついたので任せてほしいと言って、子供達が隠れているだろ場所に近くまで行く。
そこで俺の頭の上で外で騎士アラットと同じ顔発言でぐったりとしている、ライジンとミズチに声をかける。
「二人共子供達の気を引いておいてくれないか?その間に子供達の治療をしちゃうから」
その言葉にライジンとミズチが素早く反応して立ち上がる。
「主殿のご命令なら喜んで」
「待ってましたー。私に任せてよねー」
ライジンとミズチはそう言うと子供達が隠れている木箱の前に飛んでいく。
「さあ、子供達、私の魔法を見せてあげるわよー」
ミズチがそう言うと自分の周りに子供の拳ぐらいの水玉を沢山出すと、そこら辺の空間をランダムに飛び回させる。
「よし次は俺の番だな」
ライジンがそう言うと空中に向かってガウッと短く叫ぶと、ミズチの出した水玉が色々な色に光り出した。
ミズチの出した水玉で、一番小さな子が嬉しそうに飛び出して来て水玉を掴もうとしている。
他の子もウズウズしていたが、ライジンの魔法で綺麗に光り出した水玉を見て、他の子共達が全員飛び出てきて水玉に夢中になっている。
ミズチが子供達を一か所に集める様に水玉を誘導してくれているので、そのスキをついてブノワさんと二人で子供たち全員の解呪も完了させた。
その後ライジンとミズチは子供達に引っ張り回されていた。
「回復師様、ありがとうございます」
「ありがとう」
「「「回復師のお兄ちゃんありがとう。おじさんもありがとう」」」」
「「「「精霊ちゃん達もまた着てねー」」」」
解呪した村人たちがお礼を言ってくる。
「皆さんは症状が軽かったので身体の負担は少ないと思いますが、身体の調子の悪い人は言ってくださいね」
皆にそう言ってからブノワさんと話す。
「流石ですねー直ぐに覚えてしまいましたね」
「ハハ、この魔法の構造が極限までに簡易化されているおかげですな。それと、とてもイメージしやすい説明のおかげですよ。しかし、本当に見返りは良いのですか?この魔法おそらくヒデ殿のオリジナル魔法であろう?」
「え?いや、そう言われるとどうだろ?まあ、それよりこの魔法をしっかり広めて下さいね。それと、今回の病気はまだまだ広がっていると思います。俺も勇者様が戻られたら、この森の周辺の村や集落を回りたいと思っています」
ブノワさんが俺の言葉に少し厳しい顔になった。
「わしも同意見じゃ。ワシはこのまま領主様がいる街まで戻って弟子たちに今の魔法を教え、街に治療に出ようと思う」
おお、弟子とかいるのか回復師の数が増えるのは助かる。
「わかりました。街の方はお任せします。俺も周辺の村や集落が終わったらそちらに行きます」
「はい、お待ちしていますぞヒデ殿」
応援ありがとうございます!
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