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3章

勇者 その13

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 甲冑騎士の後ろから馬車がスゴイ勢いで走って来た。

 横の小さな窓から顔を出して何やら叫んでいる人がいる。
しかし、馬車の走る音がかぶさって何を言っているかわからなかった。

 その馬車を見てオロオロしていた方の騎士がっホッとした顔つきで甲冑騎士に耳打ちをしている。
 
甲冑騎士は後ろをチラッと見ると、剣を抜いて笑っている騎士に向かって怒鳴る。
「アラット、いいからサッサとあの回復師を拘束してこい」

 半笑い騎士改めアラットは更に嬉しそうに笑うと剣を振りかぶって切りかかって来た。

 だが、それより素早くザルドさんが動く。ザルドさんが両手斧でアラットの剣を止めた。

「あ、切りかかって来た。もういいよね攻撃しちゃって。ね?ね?」
ミズチが嬉しそうにそう言ってきた。ライジンも同じ顔をしている。

いやいや、君らあのアラットって奴と同じ顔してるよ?
その事を二人に言ったらスゴイ顔で呆然として動かなくなった。

そんな事をしていたらザルドさんがアラットの剣を弾き飛ばして腹に蹴りをかましている。

そこに丁度馬車が走り込んできた。

「お止めください。ホイット殿。何の騒ぎですかこれは?勇者様は居られないのですか?」

 多分さっき馬車の窓から大声で叫んでいた人だ。老人というほどではないが髭も髪も白く年配に見える。

大きな声を出している初老の男性に甲冑騎士改めホイットが少しも悪びれず淡々と話す。

「おお、ブノワ殿良い所に来てくれました。こ奴が今回の病気の治し方を知っている様なので、拘束して領主様の所に連れていく所ですじゃ」
「い、今何と言った?病気を治せるじゃと?」

 ホイットに怒っていた初老男性改めブノワさんは、怒気などどこかに飛んでいったようにホイットが指さす俺を凝視している。
 
 ブノワさんは見た目よりも素早い動きで俺に駆け寄って来る。一応ザルドさんが俺の前に立つがその少し前の地べたに座り込むとこちらに向かって土下座をしてきた。

「こちらの非礼はこの通り謝ります。何卒わが主の御子息の命をお助け下され」
俺は慌ててブノワさんに駆け寄った。

「わわ、ブノワさんやめて下さい。そんな事しなくても、怒ってないですしそのご子息様の病気ももちろん治しますよ」

いやいや、こんな自分よりずーっと年上の人の土下座とか見たくないよ。

「本当ですか?お願いします。お願いします」

 立たせようとして出した手を逆に掴んできて何度もお願いしますを繰り返してきた。

「えっと、落ち着いて下さい。さっきは教えてもらえなかったのでもう一度聞くんですけど、病気になった方のお年と首の所に出ている数字はいくつでした?」

 俺の質問にブノワさんはホイットを凄い眼つきで睨んでから俺の問いに答えてくれた。

「病気になったのは十歳の男の子、首の数字は昨日の夜中に四になりました」
まだ四という事は呪いの発動で熱が上がる前だ。

しかし十歳か、ゲン達と同い年だ。そんな子が高熱が出たら可哀想だな。この村の患者さんを治してから急いでいこう。

「まだ四なら少し時間があります。この村の人達の治療をしてからそちらに向かいます。それで良いでしょうか?」
ブノワさんを立たせながら話をする。

ブノワさんは、お願いしますと言って頭を下げてきた。その時今まで黙っていたホイットが大きな声で叫んできた。
「そのようにまどろっこしい事をせずに拘束して連れていけばよいではないか」

その声に堪忍袋の緒が切れたのかブノワさんが今までで一番大きな声で叫ぶ。
「黙れー。この事は領主様より私が頼まれたこと、ホイット殿は私の護衛というだけだ、しばらく黙ってそこで待っていなさい」
「グッ、し、しかし、そこの回復師を見つけたのはワシだ。その事をキチンと領主様に報告をしておいてほしい」

ああ、このオッサン手柄を横取りされるって思ってたのか?俺がへそまげて勇者に泣きついたらどうするつもりだったんだ?わからん??

 俺がそんな事を考えていたらブノワさんがこめかみを押さえながら疲れた声で話し出した。
「わかった、全て最初からキチンと領主様に報告する事を約束しよう。全てな」
ブノワさんは最後の全ての所を強調して話していたがホイットは満足げに頷いていた。

‥‥‥まあいいや、あんなオッサンがどうなろうと。そんな事より俺って自己紹介もしてなかった。


オッサンとブノワさんが話していたのを聞いて名前だけは把握してたけど。
キチンと自己紹介をしておこう。

「名乗り遅れました。俺はヒデと言います。冒険者ですが回復師を生業としてます」
「これは、私も名乗りもせず失礼しました。私の名はブノワ、ここの領主様の専属の回復師をしています」
「え?ブノワさん回復師なんですか?じゃあ、解呪とか出来ますか?」
 回復師って事は光属性だよね?上手くいけば人手が増やせるかも。 

 ブノワさんは俺が突然解呪とか言い出したので驚いた顔をしていたが、直ぐに何かを察したように答えが返って来た。
「まさか。この病気というのは呪いの類なのですかな?」
「はいそうです。呪いの発動で身体に負荷がかかり高熱がでるのです」
「なんと、そうであったか。しかし、ワシは解呪は習得していない」
そう言うとうなだれて下を向いてしまった。

「あ、そうなんですか?じゃあ、ちょっと自己流ですが教えますのでここで覚えちゃいましょう」
俺の言葉に首をかしげて訊き返してきた。
「ええっ?教えていただけるのですか?」
「はい、この集会場に患者さんが来ていますので、実践で教えます」

 そう言うと兵士さんを先頭に集会場に入って行く。俺も後に続こうとした時ブノワさんがホイットに大きな声で話していた。
「ホイット殿はここで待機をしていてください」

 ホイットが何か言おうとしてフンっと横を向きブツブツと何か言っている。

 まあ、どうでもいいや。俺は急いで集会場に入る。

そこには簡単な布団を敷き寝ている人達が数十人いた。先に入って行った兵士さんが村の人達に狩人親子が治った事などをみんなに話して聞かせていた。


 布団の近くにいた人がこちらに向かって話しかけてきた。
「じゃあ、うちの人も治してくれるのかい?」

その質問には俺が前に出て答える。
「もちろん治します。俺は回復師のヒデです。今回勇者ケヴィン様の命により治療をしに来ました」

 治っても勇者様が治してくれるんだよー、とか思ってくれた方が良いのでワザとケヴィンさんの名前を出しておいた。

 集会場の入り口からブノワさんが入って来た。その後ろからザルドさんが入って来て俺の耳元で話す。
「ヒデ、俺は外の甲冑野郎を見張っておくから外にいるな」
そう言うと急いで入り口から出ていった。

流石にここまで来て何かするとは思えないけど‥‥‥
まあいいか、そんな事より治療が先だ。


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