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3章

勇者 その5

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 完全に立ち直った勇者様は冷めたお茶を優雅に飲みながら俺に話しかける。
 「さて、今僕たちが持っている情報を君に伝えておくよ。ビャッカ」

ケヴィンさんに呼ばれたビャッカさんは頷いて俺の目の前まで来て話す。
「情報といってもそんなにはない。病気にかかった人は5日後にみんな死んでしまう。それゆえに五日病と呼ばれている。病気になった者は身体の何処かに5と数字が表れる。そして一日ごとに数字が減っていく。0になった時死んでいく。感染方法は解っていない。同じ町にいても病気にならない者もいた」
抑揚のない話し方で説明された。
何か要点だけ話されたような感じだな。

しかし、五日?たった五日で死亡してしまうのか?何それ?そもそも、カウントダウンする病気って間違いなくこの世界の病気だろうな。

俺の診断スキルは患者さんがいて始めて発揮できるんだよな。

あ、そうだ、どんな病状なのかビャッカさんに聴いてみよう。

「ビャッカさん、患者さんはどんな病状なのかは書いてなかったですか?」
ビャッカさんは、俺の問いに少し目を瞑る。数秒後に目を開けると話し出した。
「あった。一日目は5の数字が身体に出るだけ。二日に吐き気やめまい。三日目、四日目に高熱が出て。五日目に高熱が引く。そしてその日の夜中に眠るようにして死ぬ」
「それってみんなそうなんですか?病気になった人全員?」
「そう、みんな同じだったと書かれている」

うーん、やっぱり変な感じだ、患者さんを診てみないと解らないな、あまり深く考えるのはやめておこう。結論を急ぐとろくなことにならないからな。今は情報を詰め込むだけにしておこう。


ケヴィンさんが考えこんでいる俺に声をかけてきた。
「どうだい?思い当たる事はあったかい?」
「いえ、俺の知識の中にはない症状見たいです」

俺のその答えに一瞬だけ残念そうな顔が見えた。

「そうかい。やはりそううまくはいかないな」
「そうですね。ただ、俺のスキルは患者さんを診た時に発動しますから」
俺のその言葉に少しほっとした顔になった。が次の瞬間にはまたクールな顔になっている。
なんか、性格というか表情がメチャクチャ変?そう思ってケヴィンさんをジッと見ているとケヴィンさんが目を逸らせたまま話し出した。

「う、チョット、さっき素の感情を出してしまったから何か表情が隠し切れない」
凄い小さな声だったので聞き取れなかった。聞き直そうとした時ドイルさんが大きな声で笑いだす。
「ガハハハ、流石の勇者ケヴィン様も今回の件は重荷だったようだな。お前の素を見るのはいつぶりかな?ガハハハ」


その声にケヴィンさんは大慌てでドイルさんに詰め寄る。
「ちょっ、ドイル声が大きいよ。まったく」

そんなやり取りを見ていたら俺が座っている後ろに誰かが立っていた。

確認しようとして後ろを向くっというより、真上を見上げると光が反射して眩しかったのでつい口に出てしまった。
「うお、眩しい」

目を細めて確認をすると禿げ頭に怒りマークを浮き出させたギルマスが立っていた。

「おい、ヒデ。何が眩しいって?」
そう言いながらデカい手で俺の頭をわしづかみにしてきた。

「えーっと?ハハ、何かなー、イテテテ」
そして掴んだ手でアイアンクローの様に絞めてきやがった。

「っと、そんな事より勇者ケヴィンがここにいてヒデと話しているって事は関わっちゃったのかな?」
ギルマスはそこまで言って笑いながら怒るという器用な顔を俺に向ける。

俺は目を逸らして答えた。
「あー、えっと、わりとガッツリ関わってます」
ギルマスは右手を額に当てて上を向いている。ああーとうめき声が聞こえてきた。暫らくそうしてから溜息をついて話し始めた。
「勇者様がここにいるという事はあの噂は本当なのですか?病魔の」

ギルマスは最後の一ことは物凄く小さな声だった。ってか、言葉遣いが丁寧になってる。って事は勇者って結構偉いのかな?
「んー、そうだねー。でも、もう一人お客様がきたからその人が来たら説明しようかな」

ケヴィンさんがそう言って診療所の方を見ている。俺がつられて見ているとドアから若様が現れた。後ろにはヴァネッサさんではなくシオンさんが控えていた。

「あれ?若様、もしかして急患。じゃあないよねこのタイミングで来たんだもんなー」

若様は俺の方をチラッと見て手だけで挨拶をしてから勇者ケヴィンに向かって話し出す。

「こういった場所なので形式ばった挨拶は控えます。お久しぶりですケヴィンさん」

ドイルさんとマローマさんが若様を見て驚いていた。ケヴィンさんは勇者ケヴィンの顔で対応している。

「んー、なるほど。キャロラインさんが言っていた情報ウンヌンはこの事か。お久しぶりです。なんとお呼びしたらいいのかな?」

「どうぞ私の事はスムスとお呼び下さい」
若様はケヴィンさんの問いに用意してきたように直ぐに答えた。まあ、こんなとこで王子とか呼ばれたらまずいもんな。

「わかりましたスムスさん、どうやら事情を話さないとヒデ君を連れて行かせてくれなさそうですね。事情を話したうえでギルドに支援要請を出させてもらいます」

ケヴィンさんは最後の方はギルマスに向かって話していた。その話を訊いてギルマスが露骨に嫌そうな顔をする。
「クッ、勇者からの要請には極力答えるようギルド規則にもありますから仕方ないですね」
ギルマスが物凄く嫌そうな顔してる。

「そんなに嫌そうな顔をしないでくれよ。どうしても彼が必要なんだ」
ケヴィンさんの顔から微笑が消えて真面目な顔になって話している。

「わかっていますよ。勇者ケヴィン、しかし、こいつは誰かが止めないと危険を承知で突っ込んでいくやつなんです。今回の事を別の場所で聞いてもきっとこいつは隣国に何とかして行っているでしょう」
若様もその後に続く。
「そうだね。隣国から救援要請が来たらヒデ君に話さないといけないと覚悟をしていたよ」
「ん?要請が来ていたらヒデ君を送っていたというのかな?」
ケヴィンさんが若様に訊いている。

「ああ、そうじゃないよ。その事を知っていたのに話さなかったら僕がヒデ君に嫌われちゃうからねー」
若様は話の最後の方は少しおどけて肩をすくめながら話している。
俺もその冗談に乗って話す。
「ハハ、嫌いにはなりませんけど、しばらく口をきいてあげませんね」
「それは困るねー、ハハハ」
と二人して笑いあっていると何か奇声が聞こえてきた。
「ウホッ、キマシタワー」
声の方に顔を向けると何故か鼻から血を流しているマローマさんが真っ赤な顔でこっちを見ていた。

腐っとるのか?


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