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2巻

2-3

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「クククッ、ヒデ君はやっぱり面白いな。僕らのこと、もうわかっているんだろ?」
「さあ、なんのことですかね?」
「そうなのかい? 君が望めば、地位も名誉も好きなだけ手に入れられるよ?」

 この人、もう隠すつもりもないらしい。

「フフ、なんのことかわからないですが、そんな高いところに行っちゃったら、患者さんが見えなくなっちゃいますから」
「患者が見えなくなると困るのかい?」

 若様は驚いたような顔をしている。

「若様、俺はこの街に来たときにね、自分の好きなことだけやっていくって、今を楽しむって、決めたんですよ」
「その楽しむっていうのが、君にとっては治療なのか。いいな~、ヒデ君はすごくいい」

 若様は感心したようにうんうんうなずいている。そして、何やら上機嫌になってさらに続けた。

「ヒデ君と話してるとなんだかリラックスできて、MPの回復も早まる気がするよ」
「フフ。ところで、テレポートってやっぱり、MP消費が激しいんですか?」

 ふと思いついて聞いてみた。若様っていつも突然現れるから。

「そうだね、僕だから連続で飛べるんだよ。でも、さすがにもうMP切れだ」
「それなら、フレッシュをかけてあげましょうか?」
「なんだいそれ?」
「MPの回復魔法です」

 若様は相当驚いたらしく、目を見開いた。

「え、そんな便利な魔法があるのかい?」
「はい、ではいきますよ。フレッシュ」

 言葉で説明するのが難しいので、実際に使ってみせる。若様に手をかざすと、若様の身体からどんどん魔力が溢れていく。

「お、おお、MPが溜まっていくのがわかるよ。すごいなヒデ君は」
「フフフ、若様は人を褒めるのが上手ですね」

 あ、そうだ。アクセサリー屋で覚えた付呪って、フレッシュでもできるかな?

「若様、今、銀の装飾品とか持ってないです? 銀じゃなくても魔法伝導率が高ければ、なんでもいいんですけど」
「ん、銀のはないけど、ミスリルの指輪ならあるよ。伝導率は銀より良いはずだ」
「ちょっと見せてもらっていいですか?」
「ほら、これ。デザインが気に入ってるんだよ」

 若様からミスリル製の指輪を受け取る。

「ありがとうございます。診断」

 さっそく診断に、フレッシュの付呪が可能かどうか尋ねてみる。


『この質量ならランヒールとフレッシュ、両方とも付けられますよ』
《おお、二つも!? スゲーなミスリル。順番に練り込めばいいの?》
『はい、特に決まりは存在しません』
《了解、ありがとう》


「若様、これに魔法を付呪していいですか?」
 俺が尋ねると、先ほどにも増して若様は驚きを見せた。

「え? ヒデ君、付呪ができるの?」
「特定の物だけですが」
「ぜひ、やって見せてくれ」

 ぐいっと身を乗り出す若様。ち、近いって。

「はいはい、じゃ、いきますよ」

 えーっと、指輪に練り込むようにだっけ。指輪に両手をかざしてフレッシュと念じると、指輪がまばゆく輝いた。
 うまくいったみたいだな。この調子でもう一回、練り込むようにランヒールをかける。
 指輪の輝きが増し、神々こうごうしい光を放つ。

「はい、できあがり」
「え、もうできたのかい? 前に知り合いの魔術師から付呪のやり方を聞いたときに、様々な薬品を使って魔力を込めるとか、とても手間がかかるものだと言われたんだけど……」

 え? そうなの? 慌てて俺は言い訳する。

「あー、俺のは簡易版です」
「え~、あるのかい? そんなの?」
「まあまあ、はいどうぞ。なかなか良さそうな出来ですよ。心配なら鑑定かんていのスキルがある人に見てもらってください」
「ヒデ君、君とは知り合ったばかりだけど、君のことは信じてるよ」

 若様は俺が手渡した指輪を受け取ると、ためらうことなくそのまま指に付けた。

「お、お、おお、なんだ、身体がポカポカと温かくなってきたぞ」
「フフ、さっきのフレッシュに加えて、ランヒールっていう体力回復の魔法を付呪しておいたんですよ」
「なんと、付呪を同時に二つもだと。そんなの興味深すぎるよ! ダニエル、入ってきてくれ」

 診療所のドアが開き、外にいたダニエルさんが入ってくる。やっぱりデカいな~、ドアがちっちゃく見えるよ。

「はっ、お呼びですか」
「見張りは良いから、これを鑑定してくれ」

 若様はそう言うと、ダニエルさんに指輪ごと手を差し出した。
 ダニエルさんは、神秘的な光を放つその指輪を見つめて驚いていた。そして「かしこまりました」と重々しく言うと、若様の指から指輪を慎重に抜き取る。

「え、ダニエルさん、鑑定スキル持ってるんだ」

 ぜんぜんそうは見えないから驚いていると、若様が教えてくれる。

「実はそうなんだ。そのうえ魔術にも精通してるんだよ」

 え、巨人族のようなこの身体で? 肉弾戦のほうが得意なんじゃないの?
 そう思っていると、ダニエルさんが不服そうな視線を向けてくる。

「ヒデ殿はわかりやすいですね、顔に全部出ていますよ……お恥ずかしながら、昔、引きこもっていた時期がありまして、そのときに本を読み漁ったんです。当時は身体が小さかったのですが、急な成長期が来まして」
「ほ、ほほ~」

 人は見かけによらないものだな~と感心しながら、指輪を鑑定しようとするダニエルさんを観察する。
 そこで、ふと気になったので尋ねてみる。

「あ、そうだ。一つ聞きたいんですけど、鑑定したとき、食べられるか、食べられないかって出ません?」

 鑑定スキルって大した情報をくれないくせに、食べられるか食べられないかはしっかり教えてくれるんだよね。

「食べ物を鑑定したことはほとんどないんですが……食用かどうかは出たことありませんね」
「はい、ありがとうございました。なんでもないです」

 俺の鑑定スキルだけだったか……
 ダニエルさんは少しだけ不思議そうな顔をすると、改めて指輪に注意を向け直した。

「では、若様、拝見します」

 しっかし、鑑定持ちがこんな近くにいるのに鑑定させずに指輪を付けちゃうなんて、若様って不用心ぶようじんだよな。いや、これって若様の人心掌握術じんしんしょうあくじゅつ的な作戦なのかな、それともただのなのかな? どちらにせよ、ちょっとだけ心配になってきたよ。陰謀とかに巻き込まれてほしくないな。
 などと考えていたら、ダニエルさんが手にのせた指輪を凝視ぎょうししながら――

「バカな……あり得ない……」

 と口にして、わなわな震えていた。
 どうでもいいけど、ダニエルさん手デッカ。んでもって、指輪チッサ。なんかすべての比率が狂うね。
 若様が前のめりになって尋ねる。

「ダニエル、どうだ? わかったか?」
「はっ、この指輪は、体力と魔力を徐々に回復させる効果を持っています。このような物は初めて見ました。伝説に出てくるアーティファクトのようです」
「え? まさか? そこまでじゃないでしょう?」

 驚く俺。だって伝説とか急に言われても。

「いいですか? そもそも回復系の付呪装備自体がレアなのです。加えてこの指輪、その効果は一回きりの使い捨てではなく、常時体力を回復してくれ、さらには魔力まで回復してくれる。さらにさらに、すべての効果が魔力の補充なしに発動し続けるんですよ」

 一言ごとにダニエルさんが、俺に詰め寄ってくる。
 近い近い。チュウしそうなくらい近い。こっちの世界の初チュウはせめて女の子がイイ!

「ゴホン。ダニー、ちょっと近いのでは?」

 ヴァネッサさんの低い声が聞こえた。
 ちょっと背中がゾクッとした。嫉妬しっとなのかな? いやいややめて、ダニエルさんをったりしませんよ、そんな趣味ないですよ。
 ヴァネッサさんの注意によって、ダニエルさんは俺から距離を取った。

「あ、失礼いたしました。つい興奮してしまって……いや、それにしても素晴らしい。どこの迷宮から発見したのか。とにかく大変良い物を鑑定させていただいた」
「……」
「……」
「……」

 真相を知っている若様、ヴァネッサさん、俺の三人は思わず無言になってしまう。俺たちの妙な様子に気づいたらしく、ダニエルさんが首をかしげた。

「ん? どうしたのです?」

 若様がにこりと笑う。

「いや、作ったんだよ、ここで。ヒデ君が」
「は? いやいや、いくらなんでもだまされませんよ」

 はっはっは、と豪快ごうかいに笑うダニエルさん。おおう、診療所の壁が揺れている。若様は人差し指で頬をポリポリ掻くと、何か思いついたらしくダニエルに尋ねる。

「ん~、そうだ! ダニエル、何かミスリルの装飾品は持っていないかい?」
「はっ、先日姉より送られた指輪がありますが」
「ちょうどいい。それに付呪してもらうといいよ」
「はっ。ヒデ殿、ぜひ、その技を見せてください」
「わかりました」

 ダニエルさんがポケットをまさぐり、ゴトッと指輪を出した。いや、指輪デケー。これもう腕輪だろ。
 さっそく診断してみる。


『かなりの質量ですね。何を付呪しますか?』
《ん~、毒無効って付く?》
『さすがに無理です。でも、プットアウトを付呪して、毒を軽減することなら可能です』
《ん? プットアウトって毒そのものも消してくれるんじゃないの?》
『この指輪はサイズが大きいのですが、プットアウトを完全に付呪することはできませんね。できるのは、先ほど言ったように、毒、麻痺まひなど状態異常の軽減です』
《なるほど、まあそれでもいいや。ついでにランヒールを付けられるかな?》
『可能です』
《じゃ、それでいこ》


 え~っと、先ほどと同じように、魔力を練り込むようなイメージをしてプットアウト、続いてランヒールと念じた。
 ごつい指輪がまばゆい光を放つ。でかいから余計まぶしいです。

「はい、できた」
「いやいや、おかしいですぞヒデ殿。そんな片手間で、ありえません。ダメです」

 ダメです、ってなんだよダニエルさん。

「まあまあ、鑑定してみてよ」
「わかりました」

 ダニエルさんは納得いってない様子だったが、大人しく指輪を受け取る。
 そして指輪を鑑定すると、途端に表情が一変した。

「む、まさか、そんな……ふむ、素晴らしい」
「ダニエル、どんな効果なんだい?」

 若様に問われ、ダニエルさんはキリッと答える。

「はっ、状態異常を軽減し、体力を徐々に回復してくれるようです」
「毒や麻痺にかかりにくいってことかい?」
「いえ、状態異常になっても効果が弱まるといった感じかと」
「では、致死量の毒を摂取しても一命は取り留める、といったものなのか?」

 今度は俺に聞いてきた。

「う~ん、難しいとこですね。即効性の毒なら無理だと思います。でも、遅効性の毒なら体力の回復も付いてますのでほぼ無効ですね」
「素晴らしい。加えて、麻痺などの効果も軽減か!」

 ヴァネッサさんがピクリと反応した。ヴァネッサさん、上司の隊長からよく正座させられてるから、麻痺に効くと聞いて欲しいと思ったのかな。
 若様が興奮しながら言う。

「ヒデ君、この指輪をあと一つ、いや二つお願いできないだろうか? 料金は言い値で払うから」
「いいですよ。ただ、ダニエルさんの指輪くらい質量がないと、さっきのは無理っぽいです」
「なるほど、関係するのは質量か。素材は銀かミスリルじゃないとダメなのかい?」

 あ、そうだ。銀とかミスリルじゃなくて、例えば宝石でもいいのかな?

「診断」


《宝石でもいいの?》
『そうですね、物にもよりますが、魔力を込めやすい物もあります』
《ふ~ん、わかった》


「若様、宝石でもできますよ、付呪」

「なるほど、宝石か。わかった、今度来るとき少し持ってこよう」

 なんかさらっと言ってたけど、そんな軽々しく持ち出せるほどいっぱい宝石持ってるんですね、若様。
 若様が、ダニエルとヴァネッサを見る。

「さて、名残惜なごりおしいが、そろそろ帰るかな。君たちは何かあるかい?」
「あ、失念しておりました。父よりヒデ殿に渡しておくようにと持たされました」

 ヴァネッサさんはそう言うと、俺に革の袋を渡してきた。取り出して見てみると、見たこともない硬貨が二つ入っていた。こ、これは、こういうのに詳しそうな、サブギルマスのオファンさんにでも聞いてみないと……
 戸惑っていると若様が言う。

「ハハ、もらっておきなよ、ヒデ君。ヴァネッサの父親も武人なんだけど、頭の固い人だからね。断られたら様々な物を送ってくるよ」

 仕方ない、もらっておくことにしよう。

「わかりました。ありがとうございます。お父様にもよろしくお伝えください」

 若様が思い出したように言う。

「あ、そうだ、今日の料金払ってなかったね」
「はい、銀貨1枚になります」
「クククッ、やっぱり1枚なんだ。王の命を助けたというのに」

 若様が声を殺して笑っている。もう王族であることを隠すつもりはないみたいだね。



 4 再び若様(3)


「あ、そうだ、俺、若様にお願いがあったんだった」

 去ろうとする若様の背中に、俺は声をかける。

「頼みってなんだい?」
「あ、時間は大丈夫なんですか?」

 俺が聞くと、若様が笑って手を振る。

「いやいや、ヒデ君に恩返しができるんだ。そんなチャンス滅多めったにないしね」
「恩なんて売った覚えはないですよ?」
「良いんだよ、勝手に貯まっていくもんなんだから。それでなんだい? 頼み事って」

 なんだか嬉しそうな若様。

「はい、俺、この間魔法を作ったんですよ。その魔法を――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。魔法を作った? 作ったって言った?」

 俺が言い終える前に、若様が慌てて遮ってくる。

「あ、いえ。えっと、作ったではなく改良した、魔法です。はい」

 何か言いたげに、ジト目でこっちを見る若様。
 完全に疑われてる。

「ま、いいや。その魔法がどうしたんだい?」

 なんとかごまかせたみたい。どうしよう、効果を見てもらったほうが早そうかな。ダニエルさんにやってみよう。

「ダニエルさん、これから洗浄っていう魔法をかけますね。身体を綺麗にする魔法です」

 さっそくダニエルさんに洗浄の魔法をかけると、たちまちダニエルさんの身体に魔力でできた泡が広がり、その泡はシュワシュワと音を立てながら上から下に動いていった。

「お、これは、なかなか、綺麗になっていくというか、サッパリしていくというか、気持ちが良いですな」

 ダニエルさんは目を細めて感激していた。それを見て、若様が目をキラキラとさせる。

「おお! ヒデ君、僕にもかけてくれ」
「はいはい。洗浄」

 シュワシュワの泡が若様の身を包んだ。

「お、おお、おおお、チョ、ハハハ、くすぐったいねこれ」

 若様がけらけらと笑いながら身をよじっている。

「ヴァネッサさんもやってみます?」
「い、いえ、自分は結構です」

 ヴァネッサさんはたじろいでいた。

「ネスはくすぐったがりだからダメですよ」
「う、うるさい」

 ダニエルさんの言葉にヴァネッサさんが反応する。へ~、ヴァネッサさんくすぐり苦手なのか。
 俺は、この洗浄の効果について説明する。

「ま、この魔法なんですが、汚れはもちろん、バイ菌も倒してくれるんです」
「ほほ~すごいね! で、バイ菌ってなんだい?」
「はい、実は空気中にはバイ菌というのがいっぱいいるんですよ。小さすぎて目に見えないんですが、そのバイ菌が身体に入り込むと病気になることがあります。でもこの魔法を使えば、すべてではないですが、ある程度のバイ菌を排除できますから、病気の発生などが抑えられるんです」

 俺の話を聞いて全員目を丸くしていた。感心しながら若様が尋ねてくる。

「ほほ~、すごいじゃないか。それで、この魔法を僕にどうしろと?」
「はい、この魔法を流行はやらせてほしいのです」

 何かを察したように、若様が言う。

「君の名声を高める手伝いをすればいいのかな?」
「いいえ。若様が見つけたことにして、流行らせてください」

 若様は押し黙ってしまった。
 どうしたんだろうと思っていると、一転して真剣な表情で告げる。

「……君は、水と火を出す生活魔法を知っているかい?」
「はい、もちろん。便利ですよね」
「利便性の話ではなくてね。この魔法を編み出したのは、当時男爵だったロバート・スタンプという人物だ。この魔法のおかげで、彼は伯爵にまでなったんだ」

 ん、スタンプ? なんだっけ、どっかで聞いたような?

「聞いてるかい? ヒデ君」

 若様が俺の顔を覗き込んできたので、思わず一歩下がってしまう。

「聞いてます、聞いてます、若様がまずかったら他の人でもいいですよ?」
「む~、そういうことではなくて」

 どうやら若様は、俺が見返りを求めないことに納得がいっていないようだ。でも、見返りは本当にいらなくて、ただ広めたいだけなんだよね。

「若様、この魔法を政治に使っても構いませんよ。俺が望むのはこの魔法を流行らせること、それだけです。難しく考えないでください」

 そう言って微笑むと、若様もつられて笑ってくれた。

「君は……まったく、恩を返せると思ったのに、また増えてしまったよ」
「だから、そんなに難しく考えないでって。そんなことより、魔法覚えましょう」
「ん、こうだろ。洗浄」

 事もなげに両手からシュワシュワの泡を出す若様。泡は俺のほうに飛んできて、すっぽりと俺の身体を包んでしまった。

「お、おお、すごいですね、見ただけで。チョ、くすぐったい」
「魔法理論を教えてもらって、さらに発動キーとなる呪文がわかれば、簡単なことさ。癖もないし、君らもできるだろ」
「はっ、できます。洗浄」
「私も使えます。洗浄」

 ダニエルさんとヴァネッサさんも、泡をこちらに飛ばしてくる。

「チョ、ちょっと! なんで俺に。くす、あははは、もう、三人同時とか反則ですよ。でもこの魔法、匂いも取れるので女性にはもってこいですよ。ということで」

 仕返しにヴァネッサさんに洗浄をかける。

「あ、ちょ、ちょっと、あ、マズイぞこれは。アハハハハ、クククッヒ~ヒッヒ。ちょっと、笑いが、とま、止まらない、ハハハ……ハァ、ハァ」

 泡に包まれ、大笑いしだしたヴァネッサさんだったが、やがて力尽きるように倒れ込んでしまった。
 本当にくすぐったいのに弱いんだな。申し訳ないことをした気がする。

「あの、なんかすみませんでした」

 俺が謝ると、ダニエルさんが大きな身体を揺すっている。

「プププ、ネスはまだくすぐられるのが苦手なのか。そういえば、小さな頃は笑いすぎておも――」

 カーン! とダニエルさんの頭からものすごく良い音がした。ヴァネッサさんが鞘に入ったままの剣でダニエルさんを叩いたのだ。

「お、お前、余計なことを言うな」
「お~イテ、何すんだよ」

 殴られた頭を擦るダニエルさん。イテ~だけで済むのか、どんだけ頑丈なんだ?
 すると、ずっと腕を組んで考え事をしていたらしい若様が、俺のほうを向いて切りだした。

「よし、決めたよヒデ君。この魔法はありがたく使わせてもらう」
「はい、よろしくお願いします」
「ただ、発表の時期はこちらに任せてくれないか?」
「はい、それは構いませんよ」
「うん、そんなに待たせはしないよ」

 そう言って若様がニヤリと笑う。何やら企んでいるみたいだが、まあ、若様になら任せちゃって大丈夫だろう。


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