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3章

勇者 その4

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 「俺が、俺が治す」

ケヴィンさんは俺の言葉を聞いても微動たりせず、俺の目をジッと睨むようにして見てくる。

「君が打算や勢い、偽りで言っていないのは分かった。だが、今君の周りにいる人の顔を見ても同じ‥‥‥って、あれ?」
 ケヴィンさんは俺の目だけを見ながら話し、最後の方で俺の周りつまり、ゲンやトラン、ハルナ、ミラそれにキャリーさんに目を向けた所で自分の思っていた反応と違うので言葉をつまらせたようだ。

ゲンとトラン、ハルナが俺に向かってやれやれと言った感じの顔でみんなに向かって話す。
「あー、ヒデ兄がそう言ったら絶対に止めても無駄だもんなー」
「そうだねー。まあ、相手がモンスターとかなら絶対に止めるけど」
「病気が相手だって言うなら大丈夫だよ」
最後にミラが少し心配そうな顔で話す。
「うん、そうだよね。ヒデ兄師匠なら絶対に治しちゃうもん」

 ケヴィンさんはそんな子供達に溜息をついてから、キャリーさんの方に向かって話し出す。
「キャロラインさん、貴方なら今回の危険度が分かっているはずだ。彼らに説明してあげて下さい」
「ホホ、危険度はわかっていますわ。ただ、今回の件で私に依頼を持ってきてくれたのはまさに女神様のお導きですわね、何故なら必要なのは私ではなくお師匠様のお力だからです」

ケヴィンさんは少しだけ思案顔になってからもう一度キャリーさんに話しかける。
「待ってくれ。この街に病気を治してくれる冒険者がいると言う情報は、君の事ではないのかい?キャロラインさん?」
「んー、何ですのその情報って?」

 キャリーさんの質問にマローマさんが変わって答えた。

「まあ、眉唾の情報だったんだけどね。なんか意図的に情報が曲げられているような気もしたんだけど、そこに貴方がこの街にいるって聞いたから勝手に結びつけたのよ」

「ああ、納得いきましたわ。恐らくそれはお師匠様のことですわね。情報が意図的に曲げられているのも心当たりがありますし」
そう言いながらチラリと上を見る。

 そこでやっとまた俺の方に注目してくれた。まったく、いい顔して俺が治すとか言ったまんま放置されてたからどうしようかと思ったよ。

 そこまで黙っていたドイルさんが諭すように俺に話しかける。
「えーっと、ヒデさんだったか?本当に良いのかい?この感染病は治療法はおろか感染方法すらわかってないんだ。資料が古すぎてな。本当にヤバイんだ。死んでしまうかもしれないんだぞ?」

ドイルさんは顔話厳ついが本当に優しい人なのだろうな。
「じゃあ、ドイルさんは何故その危険な場所に行くんですか?」

俺から逆に質問されるとは思っていなかったのか少し驚いた顔をしていたが直ぐに答えてくれた。
「そりゃ、困っている人がいるからだ。それに俺には力があるからな」
「ありがとうございます。わかりました。俺の力をお見せしますね。ドイルさんこれからあなたに身体を検査する魔法をかけますがいいですか?」
「ん?ああ、かまわんぞやってみてくれ」

 椅子に座り直したドイルさんに診断をかける。

《えっと、ドイルさんの身体に悪い所がないか調べてくれないか?》
何だかふんわりした指示だな、なんて思っているとスキルから直ぐに反応が返って来た。
『かしこまりました、マスター』

 その言葉が終ると俺の目の前のコンソールにドイルさんのデーターが凄い量の情報が流れてきた。いつもは怪我や病気の場所を限定させているのでこんなに細かく出て来る事は無いのだが‥‥‥指示がふんわりしていたからか?
そんな事を思いながらデーターを読んでいく。

「んー、ドイルさん最近の戦闘か何かで肩を強くぶつけたか衝撃を受けました?それから、右肩が少し違和感ないですか?」
「あ?ああ、確かに前回の戦闘中攻撃を無理な体制で受けちまってからちょっとな」
「そうでしたか。ではそれを治しましょう。ヒール」
俺はそのままの場所でヒ-ルをかける。ドイルさんの肩がほんのり光りだした。
「おお?何だ?肩だけほんのりあったかくて気持ちよかったぞ?部分だけヒールをかける事なんかが出来るのか?そんな事よりさっきまでの違和感がまるでなくなった。おお、助かったぜ」
ドイルさんはそういいながら右肩をグルグル回し始める。

その様子を見てマローマさんが半信半疑な目でこっちを見ながら話し出す。
「へぇー、面白そうね。私にもかけてみてくれないかしら?」
「はい、いいですよ。診断」
そう言ってスキルを発動させて同じ様に指示を出す。

 うーん、何だろ?あまり悪い所っていうのがないみたいだけど?少し不摂生な食生活のせいか‥‥‥

 俺はみんなの前で言うのが少しあれだし、隣にいたミラに小声で話して伝言を頼む。
ミラは俺が頼むと嬉しそうな顔で快諾してくれて、マローマさんに話に向かってくれた。

マローマさんが内緒話をするようにミラに耳を近づけてミラの話に頷きながら聞いている。しかし段々顔を真っ赤にして最後には近くに置いてあったママさん特製のクッキーを俺に投げつけてきた。
「バカ、変態、スケベ」
「ええー、そんなこと言ったってあんまりほおっておくと大変な事になるんだよ。繊維質の多い物、お野菜をたくさん食べて下さいね」

 俺が話している最中もクッキーを投げつけているのだが俺の後ろで守護獣達とお話をしていたビャッカさんが飛んできたクッキーに反応して、俺に当たる前に次々とキャッチして口に押し込めていくので俺は無傷だ。


「今の的確な診断とキャロラインさんが認めているのだし力があるのはわかったよ。ただもう一度聞くよ、もちろん断ってもいいよ。俺は軽蔑などしない。自分の命をかけるのだから、これはキャロラインさんも一緒だよ、答えを聞かせてくれるかな?」

俺はもう一度ゲンとトラン、ハルナ、ミラを見てからキャリーさんに頷いきはっきりと答える。
「答えは変わりません。俺も連れていってください」
「もちろん、私もですわ。お師匠様が行くのですから私が行かない訳がないですわ」

 ケヴィンさんは俺達二人の答えを聞いて付していた顔を上げて話し出した。しかしその声は先ほどまでの自信に満ちたイケメンボイスではなく振り絞る様に出した声だった。

「ありがとう。本当にありがとう。ただ、治療が無理と分かったら直ぐに言ってくれ。その時は俺が‥‥‥」

そうか、この人は助ける事が出来ないとわかった時、自分で町や村を焼き払うつもりなのだ。絶対に誰も引き受けたくない仕事をするのだ。

少しだけ重くなった場の空気を振り払うように、俺は少しおどけたような声を出して胸を張って勇者ケヴィンに向かって話す。

「ハハハ、俺に任せておきな俺の手にかかれば、難病から可愛い女の子の便〇まで直ぐに治してやるぜ」

そう言ってサムズアップしてニッと笑って歯を光らせる。

 その様子にさっきまで崩れ落ちそうだったケヴィンさんは吹き出して大笑いをしだした。

「ハハハ、なんだいそれ。そんな決め台詞聞いたのは初めてだよ。アハハハ」

その横でまた真っ赤な顔をしたマローマさんが空になったお菓子のかごやお茶のカップまで投げだしてくる。

しかし、今度はお菓子でないのでビャッカさんが反応しなかった。その結果俺が避けきれるはずもないのですべて命中する。

まあ、勇者様がさっきまでの調子を取り戻してくれたからいいか。
俺のコブくらい。



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