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050 10月:外堀の攻略法

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 やはり初めての野営ということで、ちょっとした物音が鳴っただけでも目が覚めてしまい、フル装備でテントを這い出ては、「なんだただの風か」と落胆して、また眠り、寝たと思ったらまた風に起こされて、結局、僕達は一睡も出来なかった。ということにはならなくて、朝までぐっすり眠れた。

「おはようございます、レイさん」

「師匠、おそよー!」

 僕が起きた頃には、既に、エマとマリは起きていた。
 ミストラル先生と3人で焚き火を囲っていて、朝食を作っている。

「レイ君、よく眠れたようですね」

「寝過ぎてしまいました」

 僕も焚き火の前に座る。

 ズンガッシャーン。
 シャシャシャーン。

 遠くから銅鑼の音が聞こえてくる。

「朝になっても続けているのか、凄いな」

「ここまで聞こえるって相当だよねー!」

「私、あの音で目が覚めてしまいました」

 僕は改めて思った。
 7番隊だけ逃げるという僕の選択は正しかった、と。

 ◇

 朝食が終わり、いよいよ、レイドを攻略する時間だ。
 必死に構築した陣については、そのままにしておく。

「今日の夜も使う可能性がありますし、そうでない場合には私が解体しておきますので、安心して下さい」

 ミストラル先生は、丘の上に構えた僕達の陣で、留守番をしてくれるそうだ。
 仮にレイドを攻略した場合は、此処へ戻らずに他の大隊と合流してくれてかまわない、とのこと。
 僕達はその言葉に甘えた。

「これで何度目だろうな」

 丘の上から戦況を確認すると、またもや学生連合軍が敗走していた。
 どうやら今回は、東西の二箇所から同時に攻める作戦のようだ。
 しかし、馬鹿の一つ覚えではなく、多少だが、戦術が改善されていた。

 防御スキルを盾に突っ込むのではなく、物理的な盾も使っているのだ。
 盾といっても、木の板を盾に見立てているだけだが、とにかく、それを頭上に掲げ、突っ込んでいた。だが、盾の上に、フライパンやら何やら、敵の投げた物が蓄積され、重さから移動速度が鈍り、バランスが崩れて、ボロボロだ。

「やはり、外堀を突破するのが困難なようですね」

「師匠! 結局どうするのさー?」

 エマとマリが僕を見つめる。
 僕はいくつもある作戦の中から、どれが良いかを考えた。
 自分にとっての最適解を出したところで、「アレだ」と一点を指す。

 僕が指したのは、南門と東門の間からやや南寄りの場所。
 言うなれば南南東に位置していて、何かが置いてあるわけではない。
 前方に巨大な堀があり、堀の向こうに城壁がそびえているのみ。

「何もないよー?」

「そう、何もない。だからこそ最適だ」

 僕はその場所を指したまま、作戦を言った。

「水路の上を移動し、城壁を飛び越えて、内部に侵入する」

 ◇

 エマとマリは、正気の沙汰じゃない、と言った。
 そんなの無理だ、私は泳げない、水質は大丈夫なのか、と。
 だが、僕は「問題ない」と断言する。

「実際にやってきたはいいけど、どうやって此処から進むのさ?」

 僕達3人は、目的地こと外堀の手前に立っている。
 一寸先は闇ならぬ外堀で、背中を押されようものなら水ポチャだ。

「水路の一部を〈ブリザード〉で凍らせて、そこを渡るのさ」

 僕は実際にやって見せた。
 氷属性の基礎魔法〈ブリザード〉を発動し、氷の一本道を作る。
 氷の強度が不安なので、魔力を多めに注いで、しっかり凍らせた。
 1時間後には溶けているかもしれないが、直ちに渡る分には問題ない。

「すご! 師匠は相変わらずデタラメすぎ!」

 驚くマリに対し、エマは「ですが」と曇った表情のままだ。

「どうやって氷まで下りるのでしょうか?
 また、下りて、渡ったとして、そこから先はどうするのでしょうか?
 堀だけでも相当な高さですが、門は更に高いですよ」

「それこそが、敵や学生連合軍の盲点さ」

 今の場所から氷の上までは、かなりの落差がある。
 3、いや、4か、または5、ないしは6メートル程だ。

 敵からすれば、外堀の上を走ってくるとは思わない。
 だから、物見櫓からだと、堀の中が死角になっているのだ。
 僕達が堂々と氷の上を歩こうが、城壁が邪魔で見えない。

「一つずつ答え合わせをしていこうか」

 まずは下りることから、と追加で〈ブリザード〉を発動する。
 氷の階段が現れた。

「これで下りることが出来るだろ?」

「たしかに……! 流石です、レイさん」

 僕が先頭で階段を下りる。
 何段か下りたところで、振り返った。

「滑りやすいから気をつけるんだぞ、エマ」

 警告するだけではなく、手すり代わりに、と手を差し伸べる。

「うふふ、なんだかお姫様の気分です」

 エマは顔を赤らめ、手すりに見立てた僕の左手に、右手を置いた。
 僕は彼女の手を掴み、ゆっくりと、丁寧に、階段を下りていく。
 僕達が階段を下りている間、マリは動かずに待っていた。

「師匠! 私もやって! それ! 私も!」

「やだよ、そこまで戻るのが面倒だし」

「じゃあ、上がる時にやってよ!」

 マリが城壁のすぐ下を指す。

「あそこまで歩いたら、階段で上がるんでしょ? その時にやって!」

「悪いな、上がる時は階段を使わないんだ」

「なんだってー!?」

「えっ、じゃあ、どうやって上がるのですか?」

 驚く2人。

「ま、到着してからのお楽しみってことで。行こう」

 僕はエマの腰に左手を回し、歩きだす。
 エマは嬉しそうに笑い、小さな声で「はい」と頷いた。

「ちょー! 待って! まだ私が残ってるってば!」

 マリが慌てて階段を下りようとする。
 が、氷の階段に足をツルッとさせ、尻から滑ってきた。
 そして、そのままコースアウトして、水の中に突っ込む。

「ちょっとー! 私、泳げないんだってば! それに此処、水質は大丈夫なの!? どうしよー! 私、ばい菌で死んじゃうかも!? ダズゲテェ! ジジョー!」

 やれやれ、僕はため息をつきながら助けてあげた。
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