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012 5月:模擬戦
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大型連休が明けて、1週間ぶりに、クラスの皆と顔を合わせる。
といっても、僕の友達は、エマとマリしかいない。
それでも、大きくイメチェンした僕は、誰よりも目立った。
「ついにレイが武器を買った!」
「うおおお! いきなりミスリルかよ! 金持ちかよ!」
「もしかして、ミスリルを買う為に今まで貯めていたのか!?」
「私、あの魔法衣知ってるよ! なんか変な商品名の店で売ってるやつ!」
「あー! 私も見た事あるかも! レイ君、なかなか攻めたねぇー!」
久しぶりに、僕の周囲をクラスメートが埋め尽くす。
鬱陶しいとも思うけれど、どちらかといえば照れくさい感じだ。
「へっへーん! 師匠のローブは私が選んだんだよー!」
なぜかマリが誇らしげにしている。
女子の誰かが言った。
「レイ君のセンスじゃないと思った!」
他の人達が「たしかに」と笑う。
ここだけの話だが、僕はこのローブが気に入っていた。
一目見た時に、「これこそ僕のローブに相応しい!」と思った。
つまりコレは僕のセンスでもあるのだけれど……言わないでおこう。
◇
実技の授業になると、僕の注目度が更に高まった。
この日の実技は2組との合同授業。
2組と3組の生徒が、初授業で使った草原型の訓練場に集まっていた。
「うおー、レイの服装が変わってる!」
「あのローブ! たしかショップ中二病の!」
「あ、ほんとだー! 中二病さんの所に売ってたやつだー!」
まずは僕の服装について、クラスの皆と同じ反応をされる。
武器と防具についてひとしきり騒がれた後、授業が始まった。
「最初の実力試験まであと1ヶ月をきりました。
ですから今日は、試験に備えて模擬戦をして頂きます」
ミストラル先生がグレード5の魔物を召喚した。
最初の授業で戦った時と同じ、小さなミノタウロスだ。
「実力試験でもミノタウロスと戦うのー?」
誰かが質問する。
「何と戦うのかは決まっておりません」
本当は決まっているくせに、と別の誰かが不満げに呟く。
ミストラル先生は反応せず、無表情で、「では始めましょう」と進めた。
今回は、2人の教師が見守る中、2つのPTが並行で戦闘に臨む。
「キャリト君! お願い!」
「任せろ! ファスナ! ウェアアアアア!」
どのPTも巧みな連携で善戦していた。
最初の授業では、2組は1PT、3組は2PTしか倒せなかったミノタウロス。
それが今では、既に挑んだ10PT中、4PTが倒せていた。
「最後はレイ君のPTね」
14PTが戦いを終えて、僕達の番がやってくる。
この時点で、5つのPTがミノタウロスの撃破に成功していた。
残っているのは僕達だけなので、隣では戦闘が行われていない。
その場に居る皆の注目が、僕達3人に集まった。
「師匠、本気を出したら駄目だからねー!?」
「バーンフォレスト事件の時は大変でしたからね……」
「気をつける」
バーンフォレスト事件とは、僕が森を焦土化した事件のこと。
念願の武器と防具を手に入れ、ウキウキで魔法を使い、森の一部が死んだ。
犯人が僕であるということは、エマとマリしか知らない。
バレたら一大事になりかねない、わりと結構な大事件だ。
「ところで、僕、良い案を考えてきたんだ。
実行する前に、問題ないか確認してもらっていいかな?」
「なになにー!?」
僕は手加減が苦手だし、あまり好きではない。
何事にも本気で取り組みたい、と考える真面目君だ。
しかし、全力の〈ファイア〉が危険なことは承知している。
だから代替案を持ってきた。
「風魔法の〈ウィンド〉ならどうかな?
〈ファイア〉と違って、フィールドが燃えることもないよ。
ここは森と違うから、木がバキバキに折れたりもしないし」
エマが両手を合わせ、「それは名案ですね」と声を弾ませる。
「流石は師匠! それなら大丈夫だよ!」
「全力でやってもいけるかな?」
「はい、問題ありません」
「やっちゃってー! ガッツリ倒しちゃってー!」
仲間からのお墨付きをもらえた。
これで僕も、遠慮なく戦うことが出来るぞ。
「準備はいいですか?」
ミストラル先生の最終確認に、僕達は頷く。
「それでは始めて下さい!」
ミノタウロスが突っ込んでくる。
鼻をフガフガさせ、充血した目で僕を睨む。
前回に比べて、威圧的ではないように感じた。
それだけ僕も成長したということか。
「吹き飛べ! 〈ウィンド〉!」
詠唱を終えて、風属性の基礎魔法〈ウィンド〉を発動する。
ミノタウロスの足下に風の渦が発生し、天に向かって伸びていく。
「モォオオオオオオオオオオオオオオ」
ミノタウロスは雲の彼方に消えていった。
なんだか「キラーン」という擬音が聞こえた気がする。
と思ったら、マリがそう言っていた。
「すげぇ!」
「なんだこの威力!」
「〈ウルトラグレートサイクロン〉よりやべぇじゃん!」
「あの最上位突風スキルの〈ウルトラグレートサイクロン〉よりやべぇ!」
皆は顔を上げ、空を眺めながら驚愕している。
僕だけは、〈ウィンド〉の発生地点に目を向けていた。
ミノタウロスと一緒に雑草も飛ばされており、土が顔を覗かせている。
半径1メートル程のハゲた円形部分を見て、亡きハーゲさんを思い出した。
「モォオオオオオオオ!」
ハーゲさんを思い、感傷に浸っていると、空からミノタウロスが降ってきて、ハーゲさんの頭みたいな雑草のない円形部分に激しく突っ込み、思いっきりめり込んだ。
ミノタウロスは死に、ハーゲさんを彷彿させるハゲた箇所も消えた。
「さっすが師匠!」
「お見事です、レイさん」
祝ってくれた後、マリが笑いながら言う。
「私達も強くなっているのに、師匠のせいで出番がないよー!」
「それはアレですよ、マリさん」
「どれどれー?」
「アレです」
「どれー?」
「能ある鷹は爪を隠す、です」
2人は僕を見て、ニヤニヤと笑った。
いつぞやの僕を真似て、からかっているのだ。
「やれやれ」
呆れたように言う僕だけれど、内心では喜んでいた。
こうやって楽しく過ごせる仲間が、ずっと欲しかったんだ。
といっても、僕の友達は、エマとマリしかいない。
それでも、大きくイメチェンした僕は、誰よりも目立った。
「ついにレイが武器を買った!」
「うおおお! いきなりミスリルかよ! 金持ちかよ!」
「もしかして、ミスリルを買う為に今まで貯めていたのか!?」
「私、あの魔法衣知ってるよ! なんか変な商品名の店で売ってるやつ!」
「あー! 私も見た事あるかも! レイ君、なかなか攻めたねぇー!」
久しぶりに、僕の周囲をクラスメートが埋め尽くす。
鬱陶しいとも思うけれど、どちらかといえば照れくさい感じだ。
「へっへーん! 師匠のローブは私が選んだんだよー!」
なぜかマリが誇らしげにしている。
女子の誰かが言った。
「レイ君のセンスじゃないと思った!」
他の人達が「たしかに」と笑う。
ここだけの話だが、僕はこのローブが気に入っていた。
一目見た時に、「これこそ僕のローブに相応しい!」と思った。
つまりコレは僕のセンスでもあるのだけれど……言わないでおこう。
◇
実技の授業になると、僕の注目度が更に高まった。
この日の実技は2組との合同授業。
2組と3組の生徒が、初授業で使った草原型の訓練場に集まっていた。
「うおー、レイの服装が変わってる!」
「あのローブ! たしかショップ中二病の!」
「あ、ほんとだー! 中二病さんの所に売ってたやつだー!」
まずは僕の服装について、クラスの皆と同じ反応をされる。
武器と防具についてひとしきり騒がれた後、授業が始まった。
「最初の実力試験まであと1ヶ月をきりました。
ですから今日は、試験に備えて模擬戦をして頂きます」
ミストラル先生がグレード5の魔物を召喚した。
最初の授業で戦った時と同じ、小さなミノタウロスだ。
「実力試験でもミノタウロスと戦うのー?」
誰かが質問する。
「何と戦うのかは決まっておりません」
本当は決まっているくせに、と別の誰かが不満げに呟く。
ミストラル先生は反応せず、無表情で、「では始めましょう」と進めた。
今回は、2人の教師が見守る中、2つのPTが並行で戦闘に臨む。
「キャリト君! お願い!」
「任せろ! ファスナ! ウェアアアアア!」
どのPTも巧みな連携で善戦していた。
最初の授業では、2組は1PT、3組は2PTしか倒せなかったミノタウロス。
それが今では、既に挑んだ10PT中、4PTが倒せていた。
「最後はレイ君のPTね」
14PTが戦いを終えて、僕達の番がやってくる。
この時点で、5つのPTがミノタウロスの撃破に成功していた。
残っているのは僕達だけなので、隣では戦闘が行われていない。
その場に居る皆の注目が、僕達3人に集まった。
「師匠、本気を出したら駄目だからねー!?」
「バーンフォレスト事件の時は大変でしたからね……」
「気をつける」
バーンフォレスト事件とは、僕が森を焦土化した事件のこと。
念願の武器と防具を手に入れ、ウキウキで魔法を使い、森の一部が死んだ。
犯人が僕であるということは、エマとマリしか知らない。
バレたら一大事になりかねない、わりと結構な大事件だ。
「ところで、僕、良い案を考えてきたんだ。
実行する前に、問題ないか確認してもらっていいかな?」
「なになにー!?」
僕は手加減が苦手だし、あまり好きではない。
何事にも本気で取り組みたい、と考える真面目君だ。
しかし、全力の〈ファイア〉が危険なことは承知している。
だから代替案を持ってきた。
「風魔法の〈ウィンド〉ならどうかな?
〈ファイア〉と違って、フィールドが燃えることもないよ。
ここは森と違うから、木がバキバキに折れたりもしないし」
エマが両手を合わせ、「それは名案ですね」と声を弾ませる。
「流石は師匠! それなら大丈夫だよ!」
「全力でやってもいけるかな?」
「はい、問題ありません」
「やっちゃってー! ガッツリ倒しちゃってー!」
仲間からのお墨付きをもらえた。
これで僕も、遠慮なく戦うことが出来るぞ。
「準備はいいですか?」
ミストラル先生の最終確認に、僕達は頷く。
「それでは始めて下さい!」
ミノタウロスが突っ込んでくる。
鼻をフガフガさせ、充血した目で僕を睨む。
前回に比べて、威圧的ではないように感じた。
それだけ僕も成長したということか。
「吹き飛べ! 〈ウィンド〉!」
詠唱を終えて、風属性の基礎魔法〈ウィンド〉を発動する。
ミノタウロスの足下に風の渦が発生し、天に向かって伸びていく。
「モォオオオオオオオオオオオオオオ」
ミノタウロスは雲の彼方に消えていった。
なんだか「キラーン」という擬音が聞こえた気がする。
と思ったら、マリがそう言っていた。
「すげぇ!」
「なんだこの威力!」
「〈ウルトラグレートサイクロン〉よりやべぇじゃん!」
「あの最上位突風スキルの〈ウルトラグレートサイクロン〉よりやべぇ!」
皆は顔を上げ、空を眺めながら驚愕している。
僕だけは、〈ウィンド〉の発生地点に目を向けていた。
ミノタウロスと一緒に雑草も飛ばされており、土が顔を覗かせている。
半径1メートル程のハゲた円形部分を見て、亡きハーゲさんを思い出した。
「モォオオオオオオオ!」
ハーゲさんを思い、感傷に浸っていると、空からミノタウロスが降ってきて、ハーゲさんの頭みたいな雑草のない円形部分に激しく突っ込み、思いっきりめり込んだ。
ミノタウロスは死に、ハーゲさんを彷彿させるハゲた箇所も消えた。
「さっすが師匠!」
「お見事です、レイさん」
祝ってくれた後、マリが笑いながら言う。
「私達も強くなっているのに、師匠のせいで出番がないよー!」
「それはアレですよ、マリさん」
「どれどれー?」
「アレです」
「どれー?」
「能ある鷹は爪を隠す、です」
2人は僕を見て、ニヤニヤと笑った。
いつぞやの僕を真似て、からかっているのだ。
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呆れたように言う僕だけれど、内心では喜んでいた。
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