上 下
12 / 63

012 5月:模擬戦

しおりを挟む
 大型連休が明けて、1週間ぶりに、クラスの皆と顔を合わせる。
 といっても、僕の友達は、エマとマリしかいない。
 それでも、大きくイメチェンした僕は、誰よりも目立った。

「ついにレイが武器を買った!」

「うおおお! いきなりミスリルかよ! 金持ちかよ!」

「もしかして、ミスリルを買う為に今まで貯めていたのか!?」

「私、あの魔法衣ローブ知ってるよ! なんか変な商品名の店で売ってるやつ!」

「あー! 私も見た事あるかも! レイ君、なかなか攻めたねぇー!」

 久しぶりに、僕の周囲をクラスメートが埋め尽くす。
 鬱陶しいとも思うけれど、どちらかといえば照れくさい感じだ。

「へっへーん! 師匠のローブは私が選んだんだよー!」

 なぜかマリが誇らしげにしている。
 女子の誰かが言った。

「レイ君のセンスじゃないと思った!」

 他の人達が「たしかに」と笑う。

 ここだけの話だが、僕はこのローブが気に入っていた。
 一目見た時に、「これこそ僕のローブに相応しい!」と思った。
 つまりコレは僕のセンスでもあるのだけれど……言わないでおこう。

 ◇

 実技の授業になると、僕の注目度が更に高まった。
 この日の実技は2組との合同授業。
 2組と3組の生徒が、初授業で使った草原型の訓練場に集まっていた。

「うおー、レイの服装が変わってる!」

「あのローブ! たしかショップ中二病の!」

「あ、ほんとだー! 中二病さんの所に売ってたやつだー!」

 まずは僕の服装について、クラスの皆と同じ反応をされる。
 武器と防具についてひとしきり騒がれた後、授業が始まった。

「最初の実力試験まであと1ヶ月をきりました。
 ですから今日は、試験に備えて模擬戦をして頂きます」

 ミストラル先生がグレード5の魔物を召喚した。
 最初の授業で戦った時と同じ、小さなミノタウロスだ。

「実力試験でもミノタウロスと戦うのー?」

 誰かが質問する。

「何と戦うのかは決まっておりません」

 本当は決まっているくせに、と別の誰かが不満げに呟く。
 ミストラル先生は反応せず、無表情で、「では始めましょう」と進めた。
 今回は、2人の教師が見守る中、2つのPTが並行で戦闘に臨む。

「キャリト君! お願い!」

「任せろ! ファスナ! ウェアアアアア!」

 どのPTも巧みな連携で善戦していた。
 最初の授業では、2組は1PT、3組は2PTしか倒せなかったミノタウロス。
 それが今では、既に挑んだ10PT中、4PTが倒せていた。

「最後はレイ君のPTね」

 14PTが戦いを終えて、僕達の番がやってくる。
 この時点で、5つのPTがミノタウロスの撃破に成功していた。

 残っているのは僕達だけなので、隣では戦闘が行われていない。
 その場に居る皆の注目が、僕達3人に集まった。

「師匠、本気を出したら駄目だからねー!?」

「バーンフォレスト事件の時は大変でしたからね……」

「気をつける」

 バーンフォレスト事件とは、僕が森を焦土化した事件のこと。
 念願の武器と防具を手に入れ、ウキウキで魔法を使い、森の一部が死んだ。
 犯人が僕であるということは、エマとマリしか知らない。
 バレたら一大事になりかねない、わりと結構な大事件だ。

「ところで、僕、良い案を考えてきたんだ。
 実行する前に、問題ないか確認してもらっていいかな?」

「なになにー!?」

 僕は手加減が苦手だし、あまり好きではない。
 何事にも本気で取り組みたい、と考える真面目君だ。
 しかし、全力の〈ファイア〉が危険なことは承知している。
 だから代替案を持ってきた。

「風魔法の〈ウィンド〉ならどうかな?
 〈ファイア〉と違って、フィールドが燃えることもないよ。
 ここは森と違うから、木がバキバキに折れたりもしないし」

 エマが両手を合わせ、「それは名案ですね」と声を弾ませる。

「流石は師匠! それなら大丈夫だよ!」

「全力でやってもいけるかな?」

「はい、問題ありません」

「やっちゃってー! ガッツリ倒しちゃってー!」

 仲間からのお墨付きをもらえた。
 これで僕も、遠慮なく戦うことが出来るぞ。

「準備はいいですか?」

 ミストラル先生の最終確認に、僕達は頷く。

「それでは始めて下さい!」

 ミノタウロスが突っ込んでくる。
 鼻をフガフガさせ、充血した目で僕を睨む。
 前回に比べて、威圧的ではないように感じた。
 それだけ僕も成長したということか。

「吹き飛べ! 〈ウィンド〉!」

 詠唱を終えて、風属性の基礎魔法〈ウィンド〉を発動する。
 ミノタウロスの足下に風の渦が発生し、天に向かって伸びていく。

「モォオオオオオオオオオオオオオオ」

 ミノタウロスは雲の彼方に消えていった。
 なんだか「キラーン」という擬音が聞こえた気がする。
 と思ったら、マリがそう言っていた。

「すげぇ!」

「なんだこの威力!」

「〈ウルトラグレートサイクロン〉よりやべぇじゃん!」

「あの最上位突風スキルの〈ウルトラグレートサイクロン〉よりやべぇ!」

 皆は顔を上げ、空を眺めながら驚愕している。
 僕だけは、〈ウィンド〉の発生地点に目を向けていた。
 ミノタウロスと一緒に雑草も飛ばされており、土が顔を覗かせている。
 半径1メートル程のハゲた円形部分を見て、亡きハーゲさんを思い出した。

「モォオオオオオオオ!」

 ハーゲさんを思い、感傷に浸っていると、空からミノタウロスが降ってきて、ハーゲさんの頭みたいな雑草のない円形部分に激しく突っ込み、思いっきりめり込んだ。
 ミノタウロスは死に、ハーゲさんを彷彿させるハゲた箇所も消えた。

「さっすが師匠!」

「お見事です、レイさん」

 祝ってくれた後、マリが笑いながら言う。

「私達も強くなっているのに、師匠のせいで出番がないよー!」

「それはアレですよ、マリさん」

「どれどれー?」

「アレです」

「どれー?」

「能ある鷹は爪を隠す、です」

 2人は僕を見て、ニヤニヤと笑った。
 いつぞやの僕を真似て、からかっているのだ。

「やれやれ」

 呆れたように言う僕だけれど、内心では喜んでいた。
 こうやって楽しく過ごせる仲間が、ずっと欲しかったんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...