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003 4月:実力測定

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 冒険者学校には、いくつもの訓練場が存在する。

 ひとえに訓練場と言っても、具体的には様々な種類がある。
 今回利用するのは、草原を再現したようなフィールドの所だ。
 大きさの異なる岩が散見される場所で、足下には雑草が生い茂っている。

「すげぇ! 本当の草原みたいだ!」

 誰かが言った。皆が頷く。僕も頷いた。
 本当にどこぞの草原へやってきたかのようだ。

 本物の草原と見まごう訓練所で最初にすること。
 それは、パーティーを組むことだった。
 4人1組のパーティーを結成するように、とミストラル先生が言ったのだ。

 僕は自分が落ちこぼれだと確信している。
 待っていても、誰も組んでくれないと分かっていた。
 パーティーを組むべく、自分から声を掛けていくとしよう。

「よかったら僕とパーティーに」

「ごめん、他の人と組みたいから……!」

 無作為に選んだ数人の男女へ声を掛け、そして、全滅した。

 茫然とする中、逆の立場だったらどうだろう、と考えた結果、そりゃ誰だって嫌だよな、という結論に辿り着いたので、無駄な努力を諦め、その場に立ち尽くす。

 最終的に、同様に余った人とパーティーを組むことになった。

 僕の他に余ったのは、エマという、レベル5の女で、クラスは神官。
 赤い修道服を着ていて、両肩から三つ編みにした紫の髪を垂らしている。
 修道服を着ているが、頭巾は被っていない。
 武器は、先端がアルマジロの形をした杖を装備している。

 僕とエマは2人パーティーだ。
 30を4で割ると2が余る。その2が僕達だ。

「よろしくお願いします、レイさん」

「落ちこぼれでごめんね」

「それを言うなら私だって同じですよ。
 ですので、気になさらないで下さい。
 大変ですが一緒に頑張りましょうね」

 エマは、僕のことを嘲りはしなかった。
 たったそれだけのことで、エマに惚れかけた。

 ◇

 パーティーが完成すると、実戦形式の実力測定をすることになった。
 ミストラル先生が召喚石で召喚した魔物に、パーティー単位で挑む。

 挑む順番は先生が決めていき、僕達は最後になった。
 順番の決め方を言っていなかったが、十中八九、レベル順だ。
 平均レベルの高い、エリートそうな面子から、順に戦うこととなった。

「召喚した魔物は命令しない限り人を襲いませんが、だからといって気を抜かないで下さいね。魔法具の技術はまるで究明されていないので」

 魔法具とは、魔法のような効果を持つアイテムの総称だ。
 学生寮にある給湯器の動力源となっている魔法石や、魔物を召喚することが可能な召喚石など、様々な魔法具が存在する。

「グォオオオオオオオ!」

 ミストラル先生が召喚したのは、小さなミノタウロスだ。
 禍々しい牛の頭をした、筋骨隆々の大型モンスター。
 小さな、といっても、人間よりは遥かに大きくて、全長は約4メートル。
 右手に分厚くて大きな斧を持っている。

「グレード5のミノタウロスです」

 僕はグレードの意味がよく分からなかったのだけれど、それは他の皆も同じようで、揃いも揃って首を傾げていた。
 ミストラル先生が説明する。

「グレードとは冒険者学校における独特の基準です。高ければ高いほど強くて、グレード5というのは、冒険者ランクだとE級に相当します」

 皆がざわついた。
 E級は無理だとか、危険だとか、勝てっこないとか、そういう諦めの意見が場を支配している。

「E級相当の敵だなんて……」

 隣に立っているエマも、皆と同じ様子。
 僕はというと、1人だけ話についていけなかった。
 冒険者を志しているけれど、冒険者の知識はまるでない。

「E級って、そんなに強いの?」

 エマから詳しく教えてもらった。

 冒険者には、上から順に、S、A、B、C、D、E、F、Gとランクがある。
 学生たる僕達の場合、常識的に考えると、G級が適切なランクだ。
 で、ミノタウロスの強さはE級相当だから、まぁ無理だよねって話。

「私達のような落ちこぼれだと、G級ですらありませんので……」

 戦う前から、僕達の間には絶望感が漂っていた。

「危険だと判断したら、先生が加勢するので、安心してください」

 最初のパーティーが戦闘を始める。

 ◇

 僕達の前に、7組のパーティーが戦った。
 その内、ミストラル先生の加勢を要せずに勝てたのは、僅か1組だけ。
 3番目に挑んだパーティーで、個々の強さより、連携が光る内容だった。
 大金星で、皆から賞賛されていた。

 それにしても、ミストラル先生は強い。
 加勢すると言っても、遠くから矢を1本射るだけだ。
 そのたった1本の矢が、ミノタウロスを死に至らしめる。
 これが先生か、これが本物の冒険者か、と思った。

「次が最後のパーティーですね」

 僕達の対戦相手となるミノタウロスが召喚される。

「最初から加勢しましょうか?」

「いえ、自分達の力だけで頑張ってみます」

 無謀だとか、馬鹿だとか、色々な言葉が聞こえてきた。

 分かっている。
 僕達だって、勝てるとは思っていない。
 頭数も少なければ、クラスだって偏っている。

 魔法使いと神官は共に後衛であり、フル稼働するには前衛が必要だ。
 防波堤のように敵の攻撃を食い止めてくれる、頼もしい前衛が。
 それが欠けているという時点で、それはもう、絶望的だった。

 だからといって、始まる前から、白旗を揚げたくはない。
 皆に嘲笑されようが、落ちこぼれだろうが、食らいつく。
 学校に入れてくれた両親の気持ちに応える為にも。

「僕が魔法で攻撃するから、エマは側面から回復の準備を。
 おそらく僕は、魔法を使った後、ミノタウロスに吹き飛ばされるから」

「分かりました」

 神官は、回復に特化している支援系のクラスだ。
 エマにしたって、攻撃に使えるスキルを習得していない。
 攻撃するのは僕の役目だ。僕が頑張らないと。

「それでは始めて下さい!」

 ミストラル先生が、ミノタウロスに攻撃命令を出す。
 ミノタウロスは咆哮すると、僕に向かって突っ込んできた。
 事前に距離を取っておいた僕は、離れた位置から魔法を詠唱する。
 基礎魔法なので詠唱はすぐに済み、余裕をもって発動できた。

「食らえ! 〈ファイア〉!」

 〈ファイア〉は対象を燃やす魔法だ。
 基礎魔法なので、射程は短く、火力も低い。

 普段は焚き火の火起こしで使っている。
 だが今回は戦闘なので、いつもより遥かに多い魔力を注いだ。
 きっと桁違いの火力になるはずだ。

 とは思っていたけれど……。

「「「「「えっ」」」」」

 まさかミノタウロスが全焼し、即死するとは思わなかった。
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