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030 銃火器普及計画第二弾
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初めての<実戦>に失敗した俺達は、雪辱戦とばかりにすぐさまリベンジした。
「ステージって固定じゃないんだな」
「そのようですね」
第一ステージの時点で、先程とは違った。
しかし、難易度的には同じような感じだ。
「ぎゃあー!」
「しゃがめ! 横にステップだ! 剣で防げ!」
「わ、わわ、無理! 無理無理! 速すぎィ!」
「グォオオ」
「あじゃぱー!」
結局、二度目の挑戦も第二ステージで失敗した。
その後も何度か試みるも、ことごとく第二ステージで失敗。
基本的にはアリサの死亡だが、それを阻止できない俺達も悪い。
今の俺達には突破する力がないのだと痛感して、この日は終わった。
◇
日が明けて土曜日。
今日は初めての休校日だ。
しかし、学内には半数以上の学生がいる。
多くの学生は、休みの日も訓練室に入り浸るのだ。
その中には、アリサやクルスも含まれた。
皆のたゆまぬ自己鍛錬には恐れ入る。
出来れば俺も同じように頑張りたい。
だが、そういうわけにもいかなかった。
「ゴブゥ?」
「ゴッブゴブ!」
我が子が遊べと急かしてくるからだ。
休みの日も学校に行っていると、そこはかとなくキレられる。
ゴブちゃんには泣き疲れ、ゴブおには脛を粉砕されるだろう。
そんなわけで、土日は大人しく休みを満喫するのであった。
「帝都というだけあり、とんでもなく広いよなぁ」
「「ゴブッ」」
寮を出て、都市の中心街をぶらつく。
帝都は中心へ行けば行くほど繁盛し、人口密度が高まっている。
それ故、今居る場所は、寮に比べて息苦しい位に人が多かった。
右を見ても左を見ても、活気あふれる老若男女で賑わっている。
中には同じ学校の女子も……おっと、見間違いだったようだ。
「ゴブお、人混みに紛れて迷子になるなよ」
「ゴッブゴブ! ゴッブゴブ!」
ゴブおは嬉しそうに走り回っている。
道行く人々の隙間を縫うように、グネグネと。
一方、ゴブちゃんはというと――。
「ゴブゥ! ゴブゥ!」
上機嫌で俺と手を繋いでいた。
こちらは、俺が離そうとしても離してくれない。
ルンルンならぬ「ゴブゴブ」と鼻歌を歌い、歩調はスキップ気味。
周囲の景色より、俺を見ることに重きを置いている様子だ。
たまの外出なんだから外の景色を楽しめよ、と心の中で苦笑い。
「久しぶりに入るか」
やってきたのは<ギルド>だ。
冒険者がクエストを受ける場所だが、随分と久しぶりに感じた。
何日……いや、何週間ぶりだ?
あと、<タイタニア>の<ギルド>には初めて気がする。
もしかすると過去に来たかもしれないが、覚えていない。
そんなわけで、ワクワクしながら中に入った。
「でさぁ、<HRL>を顔面にぶっ放してやったわけよ」
「お前の腕でも顔面にかませるなんて、やっぱ自動追尾機能様々だな!」
「だろ! ほんとその通りだぜ! って、俺の腕でもってなんだよ?」
<ギルド>は相変わらずの賑わいを見せていた。
テーブル席は全て埋まっており、立ち話をしている連中も少なくない。
「なんだか以前より賑やかに感じるな」
<ロックハート>と比較して、純粋に人数が多いからなのかもしれない。
だが、人数の差以上に、活気づいているように感じた。
これが「クエスト意欲が上がっている」というやつなのだろうか。
そんなことを思っていると、「なぁ、あんた」と声をかけられた。
「ん?」
声のする方向に振り向く。
俺の動きに合わせ、ゴブちゃんも振り向いた。
一方、ゴブおは頭の後ろで手を組み、口笛を吹いている。
しかし、まるで吹けておらず、スースーとするだけであった。
「もしかして、銃火器を発明したジークさんなんじゃないか? 大討伐戦の時にちらりとみた風貌にそっくりだし、何よりゴブリン連れだ」
声をかけてきたのは男だ。
目がキラキラと輝いている。
詳しく話すまでもなく、俺のファンだ。
「そうだよ」
偽る必要もないので肯定する。
だが、これは大きな間違いだった。
「なに!?」
「ジークだと!?」
「あの銃火器職人のジーク!?」
「本当か!?」
「なんだなんだ!」
「おい、あの少年がジークらしいぞ!」
「まじ!? あの人がジークさん!?」
<ギルド>内が途端に騒然としだしたのだ。
名前が一人歩きする一方、顔はそれほど割れていない。
だから先程まで静かだった。
それを、俺が自ら崩してしまったのだ。
「俺、あんたのおかげで生活水準が向上したんだ!」
「すげぇよ、<AR>はもはやなくてはならない代物だ!」
「<HRL>もパネェぜ! こんなに爽快な武器は他にねぇ!」
「クエストがこんなに楽しいものだって知りませんでしたよ!」
雪崩の如き勢いで、どいつもこいつも押しかけてくる。
瞬く間に俺達は包囲されてしまった。
周囲の声は嬉々としているが、こちらは危機って感じだ。
全方位からワーワー騒がれているせいで、頭がクラクラする。
俺は聖徳太子ではなく、普通の人間だ。
一斉に言われても、一つ一つをきっちり拾うことは出来ない。
完全に許容量をオーバーしていた。
「分かった! 分かったから、落ち着いてくれよ!」
息苦しいほどの熱気を冷まそうとする。
それでもしばらくは激しかったが、次第に落ち着いてくれた。
「なんだか喜んで貰えているようで俺もよかったよ。でも、そろそろ別の場所に行くからこれで失礼するよ」
足早にその場を去ろうとする。
「ジークさん、あんたの新作、早速買いやしたぜ!」
その時、一人の男が言ったこの言葉が耳に残った。
俺は「新作? 何のことだ?」と足を止めて尋ねる。
「政府主導で販売された強化版の<AR>と<HRL>っすよ! 今日発売したばっかじゃないっすか! 忙しすぎて忘れちまいましたか?」
「ああ、それのことか」
先日、国に提供した数十万枚のレシピを指していたのだ。
ちょっと考えれば分かることだったが、どうもピンッと来なかった。
おそらく皆に囲まれているせいで、頭が疲労していたのだろう。
「やっぱ威力がパネェっすわ!」
「<HRL2>の攻撃力1万はマジ痺れるよなー!」
「<AR2>もやべぇぞ、雑魚が瞬殺だ! ズドドドドってな!」
どうやら好評みたいだ。
どいつもこいつも買っているみたいで、大盛り上がりである。
これはそれなりに金が入ってきそうだな。
「皆の役に立てているなら、俺も大量のレシピを国に提供した甲斐があったよ。じゃあ、またね」
今度こそ足早に避難した。
やれやれ、まさかこれほどの人気とはな。
銃火器普及計画の思わぬ副作用に戸惑うのだった。
◇
その後も適当に街を散策し、夕暮れ時には寮に戻った。
寮の1階にある食堂を使い、平日と変わらぬ調子で夕食を済ます。
いつもは割と賑やかな食堂も、今日は閑散としていた。
「好きなだけ食えよ」
「ゴブゥ」「ゴッブゴブ」
食べ盛りのゴブリンズを眺めて言う。
こいつらの食事量は、相も変わらず多い。
牛丼の大盛10杯に相当する量を、一度の食事で平らげる。
しかも、一日三食だ。
往々にして朝と昼は何も食べないので、大体は夜に三倍食べて調整する。
「俺が銃火器職人じゃなかったら、お前達の食費で破産していたよ」
幸せそうに頬張るゴブリンズに向かって微笑みかける。
今の懐事情からすれば、こいつらの食費なんて、減ったかもどうか分からないレベルだ。
しかし、一般的な財政基準で考えると、決して看過出来る額ではない。
他の<テイマー>は、どうやって食費を稼いでいるのだろうか。
もしかして、大食いなのはうちの子だけなのかな?
「久々にチェックしとくかぁ」
ゴブリンズの食事を見ているだけなのも暇なので、ステータスをチェックする。
====================
【名前】ジーク
【ランク】C
【レベル】99
【職業】テイマー/鍛冶屋
【称号】学校通いの銃職人
【スキル】
・テイミング:1
・その他の作成:98
====================
いつの間にか、俺の称号が変わっていた。
大陸屈指だかの文言が消え、学校通いになっている。
なんだか、前よりも弱くなったような気がするぞ。
まぁ、称号なんて飾りだから、別に何でもいいが。
それよりも、レベルが三桁にリーチ状態だ。
100になると、冒険者ランクもCからBになる。
ランク上は、サナやオデッサと一緒になるわけだ。
「そういえば、サナとオデッサさんは元気にしているのかな」
二人とも、大討伐戦の原因調査を独自に行っている。
何か進展があるのなら、俺にも教えてほしいものだ。
「ゴッブ! ゴブォ……ゴブォ……」
「おいおい、行儀が悪いぞ。落ち着いて食べろよ」
ゴブおが米を喉に詰まらせ咳き込んでいる。
慌ててかきこむからそうなるのだ。
時間制限があるわけでもないし、ゆっくり食べればいいのに。
「ゴブゥ!」
その頃、ゴブちゃんは空になった丼を向けてきた。
これには二つの意味があり、どちらかを推測せねばならない。
一つ目は「お腹いっぱい! 綺麗に全部食べたよ! 褒めて!」だ。
この場合、頭を撫でて「よく食べました」と褒めてやればいい。
二つ目は「まだまだ足りないよ! 追加を求む! おかわり!」だ。
この場合、カウンターに行って追加注文をしてやらなければならない。
俺はジーッとゴブちゃんの顔を見た。
顔を小刻みに揺らし、犬のように舌を出している。
つぶらな瞳はギラギラしていて、よく見ると獰猛さが感じられた。
これは――――おかわりの要求だ!
「次も牛丼でいいか?」
「ゴブゥ! ゴブ! ゴブ!」
「オーケー。丼は自分で運べよ」
「ゴブ! ゴブゴブ!」
俺はカウンターに行き、牛丼のおかわりを注文した。
「数はいくつにしますか?」
「ゴブちゃん、数は? 1個でいい?」
「ゴブブ!」
ゴブちゃんが首を横に振る。
どうやら1個では足りないようだ。
現在、ゴブちゃんは両手で空の丼を運んでいる。
だから、具体的な数を指で示してもらうことは出来ない。
こういう時は、口頭で確認する。
「2個?」「ゴブブ!」
「3個?」「ゴブブ!」
「5個?」「ゴブ! ゴブ!」
結果、俺は追加で5個の牛丼を注文した。
もちろん、サイズは全て大盛だ。
そんなこんなで、いつも通りの夕食を楽しむのであった。
◇
夜、俺は部屋でぼんやりしていた。
この頃になると、他の寮生も自室にこもっている。
夕暮れから夜に変わるわずかな時間に、大半が帰ってきていた。
「ゴブゥ?」
ベッドに横になって天井を眺めていると、ゴブちゃんが話しかけてきた。
顔を見れば何を言っているかは察しがつく。
今回は「まだ寝ないのか?」と問いかけているのだ。
「今日はあと少し起きておくよ」
「ゴブゥ、ゴブゴブ」
「いいよ、先に寝ていて」
「ゴブ! ゴブゥ……ゴブゥ……」
ゴブちゃんは俺の腕に抱きつき、瞬く間に眠りだした。
ゴブおに至っては、一時間近く前には睡眠の世界に旅立っている。
俺の足下で、右に左にと転がっていた。
「退屈だなぁ」
今日は0時まで待っている予定。
国から銃火器代がいくら振り込まれるか楽しみだからだ。
仕入れた情報によると、<AR2>と<HRL2>は同じ価格らしい。
どちらも一律で100万ゴールドだ。
俺に入ってくるのは売り上げの1%。
つまり、レシピ1枚につき1万ゴールドが懐に入る仕組みだ。
エドワードが最初に提示した1億を稼ぐには、1万個売れなければならない。
その数が多いのか少ないのか、今の俺には分からない。
だから、0時に入ってくる額はについては、完全な未知数であった。
「23時50分か……」
メニュー画面を開いたり閉じたりして時間を潰す。
残り10分。
普段なら短く感じるが、今は永遠の如き長さだ。
「ステータスでも見ておこう」
仕方ないので、ゴブリンズのステータスをチェックした。
====================
【名前】ゴブちゃん
【種族】ゴブリン
【レベル】99
【HP】3500
【攻撃力】230
====================
【名前】ゴブお
【種族】ゴブリン
【レベル】99
【HP】3350
【攻撃力】283
====================
俺の口から「あれ?」と声が漏れる。
「攻撃力なんて項目……前はなかったぞ?」
GO時代だけではなくこの世界に来てからも、ペットのステータスに攻撃力なんて項目はなかった。
攻撃力の概念はあったものの、数値化されていなかったので、正確な情報は独自に検証する必要があったのだ。だから、GO時代には「ペットのステータスに攻撃力を付けろクソ運営!」みたいに不満を垂らすプレイヤーが多く居た。
「いつから項目が増えたのかな」
ペットのステータスを見たのなんて、<テイミング>を済ませてすぐの頃以来だから、具体的なタイミングは不明だった。
勝手な予想だが、プレイヤーのステータスに称号が追加された時に実装されたのではないか……と睨んでいる。
まぁ、数値化されたところで関係ない。
我が家のゴブリンズは<AR>を使うからな。
0だろうが1億だろうが、俺にとっては同等だ。
「そろそろだな」
そうこうしている内に時間がやってきた。
現在、23時59分。
だが――次の瞬間には0時00分になった。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
思わず声を上げてしまう。
ゴブちゃんが寝ぼけ眼を僅かに開いて見てくる。
ゴブおも、驚きのあまり身体をビクッと震わせた。
二人には申し訳ないが、こればかりは仕方がない。
「なんじゃこの額ぁ……!」
1000万ちょっとだった所持金が一変。
一瞬にして、3億ゴールドを突破したのだ。
販売初日で、初期提示の3倍に到達してしまったのであった。
「ステージって固定じゃないんだな」
「そのようですね」
第一ステージの時点で、先程とは違った。
しかし、難易度的には同じような感じだ。
「ぎゃあー!」
「しゃがめ! 横にステップだ! 剣で防げ!」
「わ、わわ、無理! 無理無理! 速すぎィ!」
「グォオオ」
「あじゃぱー!」
結局、二度目の挑戦も第二ステージで失敗した。
その後も何度か試みるも、ことごとく第二ステージで失敗。
基本的にはアリサの死亡だが、それを阻止できない俺達も悪い。
今の俺達には突破する力がないのだと痛感して、この日は終わった。
◇
日が明けて土曜日。
今日は初めての休校日だ。
しかし、学内には半数以上の学生がいる。
多くの学生は、休みの日も訓練室に入り浸るのだ。
その中には、アリサやクルスも含まれた。
皆のたゆまぬ自己鍛錬には恐れ入る。
出来れば俺も同じように頑張りたい。
だが、そういうわけにもいかなかった。
「ゴブゥ?」
「ゴッブゴブ!」
我が子が遊べと急かしてくるからだ。
休みの日も学校に行っていると、そこはかとなくキレられる。
ゴブちゃんには泣き疲れ、ゴブおには脛を粉砕されるだろう。
そんなわけで、土日は大人しく休みを満喫するのであった。
「帝都というだけあり、とんでもなく広いよなぁ」
「「ゴブッ」」
寮を出て、都市の中心街をぶらつく。
帝都は中心へ行けば行くほど繁盛し、人口密度が高まっている。
それ故、今居る場所は、寮に比べて息苦しい位に人が多かった。
右を見ても左を見ても、活気あふれる老若男女で賑わっている。
中には同じ学校の女子も……おっと、見間違いだったようだ。
「ゴブお、人混みに紛れて迷子になるなよ」
「ゴッブゴブ! ゴッブゴブ!」
ゴブおは嬉しそうに走り回っている。
道行く人々の隙間を縫うように、グネグネと。
一方、ゴブちゃんはというと――。
「ゴブゥ! ゴブゥ!」
上機嫌で俺と手を繋いでいた。
こちらは、俺が離そうとしても離してくれない。
ルンルンならぬ「ゴブゴブ」と鼻歌を歌い、歩調はスキップ気味。
周囲の景色より、俺を見ることに重きを置いている様子だ。
たまの外出なんだから外の景色を楽しめよ、と心の中で苦笑い。
「久しぶりに入るか」
やってきたのは<ギルド>だ。
冒険者がクエストを受ける場所だが、随分と久しぶりに感じた。
何日……いや、何週間ぶりだ?
あと、<タイタニア>の<ギルド>には初めて気がする。
もしかすると過去に来たかもしれないが、覚えていない。
そんなわけで、ワクワクしながら中に入った。
「でさぁ、<HRL>を顔面にぶっ放してやったわけよ」
「お前の腕でも顔面にかませるなんて、やっぱ自動追尾機能様々だな!」
「だろ! ほんとその通りだぜ! って、俺の腕でもってなんだよ?」
<ギルド>は相変わらずの賑わいを見せていた。
テーブル席は全て埋まっており、立ち話をしている連中も少なくない。
「なんだか以前より賑やかに感じるな」
<ロックハート>と比較して、純粋に人数が多いからなのかもしれない。
だが、人数の差以上に、活気づいているように感じた。
これが「クエスト意欲が上がっている」というやつなのだろうか。
そんなことを思っていると、「なぁ、あんた」と声をかけられた。
「ん?」
声のする方向に振り向く。
俺の動きに合わせ、ゴブちゃんも振り向いた。
一方、ゴブおは頭の後ろで手を組み、口笛を吹いている。
しかし、まるで吹けておらず、スースーとするだけであった。
「もしかして、銃火器を発明したジークさんなんじゃないか? 大討伐戦の時にちらりとみた風貌にそっくりだし、何よりゴブリン連れだ」
声をかけてきたのは男だ。
目がキラキラと輝いている。
詳しく話すまでもなく、俺のファンだ。
「そうだよ」
偽る必要もないので肯定する。
だが、これは大きな間違いだった。
「なに!?」
「ジークだと!?」
「あの銃火器職人のジーク!?」
「本当か!?」
「なんだなんだ!」
「おい、あの少年がジークらしいぞ!」
「まじ!? あの人がジークさん!?」
<ギルド>内が途端に騒然としだしたのだ。
名前が一人歩きする一方、顔はそれほど割れていない。
だから先程まで静かだった。
それを、俺が自ら崩してしまったのだ。
「俺、あんたのおかげで生活水準が向上したんだ!」
「すげぇよ、<AR>はもはやなくてはならない代物だ!」
「<HRL>もパネェぜ! こんなに爽快な武器は他にねぇ!」
「クエストがこんなに楽しいものだって知りませんでしたよ!」
雪崩の如き勢いで、どいつもこいつも押しかけてくる。
瞬く間に俺達は包囲されてしまった。
周囲の声は嬉々としているが、こちらは危機って感じだ。
全方位からワーワー騒がれているせいで、頭がクラクラする。
俺は聖徳太子ではなく、普通の人間だ。
一斉に言われても、一つ一つをきっちり拾うことは出来ない。
完全に許容量をオーバーしていた。
「分かった! 分かったから、落ち着いてくれよ!」
息苦しいほどの熱気を冷まそうとする。
それでもしばらくは激しかったが、次第に落ち着いてくれた。
「なんだか喜んで貰えているようで俺もよかったよ。でも、そろそろ別の場所に行くからこれで失礼するよ」
足早にその場を去ろうとする。
「ジークさん、あんたの新作、早速買いやしたぜ!」
その時、一人の男が言ったこの言葉が耳に残った。
俺は「新作? 何のことだ?」と足を止めて尋ねる。
「政府主導で販売された強化版の<AR>と<HRL>っすよ! 今日発売したばっかじゃないっすか! 忙しすぎて忘れちまいましたか?」
「ああ、それのことか」
先日、国に提供した数十万枚のレシピを指していたのだ。
ちょっと考えれば分かることだったが、どうもピンッと来なかった。
おそらく皆に囲まれているせいで、頭が疲労していたのだろう。
「やっぱ威力がパネェっすわ!」
「<HRL2>の攻撃力1万はマジ痺れるよなー!」
「<AR2>もやべぇぞ、雑魚が瞬殺だ! ズドドドドってな!」
どうやら好評みたいだ。
どいつもこいつも買っているみたいで、大盛り上がりである。
これはそれなりに金が入ってきそうだな。
「皆の役に立てているなら、俺も大量のレシピを国に提供した甲斐があったよ。じゃあ、またね」
今度こそ足早に避難した。
やれやれ、まさかこれほどの人気とはな。
銃火器普及計画の思わぬ副作用に戸惑うのだった。
◇
その後も適当に街を散策し、夕暮れ時には寮に戻った。
寮の1階にある食堂を使い、平日と変わらぬ調子で夕食を済ます。
いつもは割と賑やかな食堂も、今日は閑散としていた。
「好きなだけ食えよ」
「ゴブゥ」「ゴッブゴブ」
食べ盛りのゴブリンズを眺めて言う。
こいつらの食事量は、相も変わらず多い。
牛丼の大盛10杯に相当する量を、一度の食事で平らげる。
しかも、一日三食だ。
往々にして朝と昼は何も食べないので、大体は夜に三倍食べて調整する。
「俺が銃火器職人じゃなかったら、お前達の食費で破産していたよ」
幸せそうに頬張るゴブリンズに向かって微笑みかける。
今の懐事情からすれば、こいつらの食費なんて、減ったかもどうか分からないレベルだ。
しかし、一般的な財政基準で考えると、決して看過出来る額ではない。
他の<テイマー>は、どうやって食費を稼いでいるのだろうか。
もしかして、大食いなのはうちの子だけなのかな?
「久々にチェックしとくかぁ」
ゴブリンズの食事を見ているだけなのも暇なので、ステータスをチェックする。
====================
【名前】ジーク
【ランク】C
【レベル】99
【職業】テイマー/鍛冶屋
【称号】学校通いの銃職人
【スキル】
・テイミング:1
・その他の作成:98
====================
いつの間にか、俺の称号が変わっていた。
大陸屈指だかの文言が消え、学校通いになっている。
なんだか、前よりも弱くなったような気がするぞ。
まぁ、称号なんて飾りだから、別に何でもいいが。
それよりも、レベルが三桁にリーチ状態だ。
100になると、冒険者ランクもCからBになる。
ランク上は、サナやオデッサと一緒になるわけだ。
「そういえば、サナとオデッサさんは元気にしているのかな」
二人とも、大討伐戦の原因調査を独自に行っている。
何か進展があるのなら、俺にも教えてほしいものだ。
「ゴッブ! ゴブォ……ゴブォ……」
「おいおい、行儀が悪いぞ。落ち着いて食べろよ」
ゴブおが米を喉に詰まらせ咳き込んでいる。
慌ててかきこむからそうなるのだ。
時間制限があるわけでもないし、ゆっくり食べればいいのに。
「ゴブゥ!」
その頃、ゴブちゃんは空になった丼を向けてきた。
これには二つの意味があり、どちらかを推測せねばならない。
一つ目は「お腹いっぱい! 綺麗に全部食べたよ! 褒めて!」だ。
この場合、頭を撫でて「よく食べました」と褒めてやればいい。
二つ目は「まだまだ足りないよ! 追加を求む! おかわり!」だ。
この場合、カウンターに行って追加注文をしてやらなければならない。
俺はジーッとゴブちゃんの顔を見た。
顔を小刻みに揺らし、犬のように舌を出している。
つぶらな瞳はギラギラしていて、よく見ると獰猛さが感じられた。
これは――――おかわりの要求だ!
「次も牛丼でいいか?」
「ゴブゥ! ゴブ! ゴブ!」
「オーケー。丼は自分で運べよ」
「ゴブ! ゴブゴブ!」
俺はカウンターに行き、牛丼のおかわりを注文した。
「数はいくつにしますか?」
「ゴブちゃん、数は? 1個でいい?」
「ゴブブ!」
ゴブちゃんが首を横に振る。
どうやら1個では足りないようだ。
現在、ゴブちゃんは両手で空の丼を運んでいる。
だから、具体的な数を指で示してもらうことは出来ない。
こういう時は、口頭で確認する。
「2個?」「ゴブブ!」
「3個?」「ゴブブ!」
「5個?」「ゴブ! ゴブ!」
結果、俺は追加で5個の牛丼を注文した。
もちろん、サイズは全て大盛だ。
そんなこんなで、いつも通りの夕食を楽しむのであった。
◇
夜、俺は部屋でぼんやりしていた。
この頃になると、他の寮生も自室にこもっている。
夕暮れから夜に変わるわずかな時間に、大半が帰ってきていた。
「ゴブゥ?」
ベッドに横になって天井を眺めていると、ゴブちゃんが話しかけてきた。
顔を見れば何を言っているかは察しがつく。
今回は「まだ寝ないのか?」と問いかけているのだ。
「今日はあと少し起きておくよ」
「ゴブゥ、ゴブゴブ」
「いいよ、先に寝ていて」
「ゴブ! ゴブゥ……ゴブゥ……」
ゴブちゃんは俺の腕に抱きつき、瞬く間に眠りだした。
ゴブおに至っては、一時間近く前には睡眠の世界に旅立っている。
俺の足下で、右に左にと転がっていた。
「退屈だなぁ」
今日は0時まで待っている予定。
国から銃火器代がいくら振り込まれるか楽しみだからだ。
仕入れた情報によると、<AR2>と<HRL2>は同じ価格らしい。
どちらも一律で100万ゴールドだ。
俺に入ってくるのは売り上げの1%。
つまり、レシピ1枚につき1万ゴールドが懐に入る仕組みだ。
エドワードが最初に提示した1億を稼ぐには、1万個売れなければならない。
その数が多いのか少ないのか、今の俺には分からない。
だから、0時に入ってくる額はについては、完全な未知数であった。
「23時50分か……」
メニュー画面を開いたり閉じたりして時間を潰す。
残り10分。
普段なら短く感じるが、今は永遠の如き長さだ。
「ステータスでも見ておこう」
仕方ないので、ゴブリンズのステータスをチェックした。
====================
【名前】ゴブちゃん
【種族】ゴブリン
【レベル】99
【HP】3500
【攻撃力】230
====================
【名前】ゴブお
【種族】ゴブリン
【レベル】99
【HP】3350
【攻撃力】283
====================
俺の口から「あれ?」と声が漏れる。
「攻撃力なんて項目……前はなかったぞ?」
GO時代だけではなくこの世界に来てからも、ペットのステータスに攻撃力なんて項目はなかった。
攻撃力の概念はあったものの、数値化されていなかったので、正確な情報は独自に検証する必要があったのだ。だから、GO時代には「ペットのステータスに攻撃力を付けろクソ運営!」みたいに不満を垂らすプレイヤーが多く居た。
「いつから項目が増えたのかな」
ペットのステータスを見たのなんて、<テイミング>を済ませてすぐの頃以来だから、具体的なタイミングは不明だった。
勝手な予想だが、プレイヤーのステータスに称号が追加された時に実装されたのではないか……と睨んでいる。
まぁ、数値化されたところで関係ない。
我が家のゴブリンズは<AR>を使うからな。
0だろうが1億だろうが、俺にとっては同等だ。
「そろそろだな」
そうこうしている内に時間がやってきた。
現在、23時59分。
だが――次の瞬間には0時00分になった。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
思わず声を上げてしまう。
ゴブちゃんが寝ぼけ眼を僅かに開いて見てくる。
ゴブおも、驚きのあまり身体をビクッと震わせた。
二人には申し訳ないが、こればかりは仕方がない。
「なんじゃこの額ぁ……!」
1000万ちょっとだった所持金が一変。
一瞬にして、3億ゴールドを突破したのだ。
販売初日で、初期提示の3倍に到達してしまったのであった。
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小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
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スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
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小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
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【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
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ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
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ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
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※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
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農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
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そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
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そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
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俺は農家の4男だぞ?
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