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030 銃火器普及計画第二弾

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 初めての<実戦>に失敗した俺達は、雪辱戦とばかりにすぐさまリベンジした。

「ステージって固定じゃないんだな」
「そのようですね」

 第一ステージの時点で、先程とは違った。
 しかし、難易度的には同じような感じだ。

「ぎゃあー!」
「しゃがめ! 横にステップだ! 剣で防げ!」
「わ、わわ、無理! 無理無理! 速すぎィ!」
「グォオオ」
「あじゃぱー!」

 結局、二度目の挑戦も第二ステージで失敗した。
 その後も何度か試みるも、ことごとく第二ステージで失敗。
 基本的にはアリサの死亡だが、それを阻止できない俺達も悪い。

 今の俺達には突破する力がないのだと痛感して、この日は終わった。

 ◇

 日が明けて土曜日。
 今日は初めての休校日だ。

 しかし、学内には半数以上の学生がいる。
 多くの学生は、休みの日も訓練室に入り浸るのだ。
 その中には、アリサやクルスも含まれた。
 皆のたゆまぬ自己鍛錬には恐れ入る。

 出来れば俺も同じように頑張りたい。
 だが、そういうわけにもいかなかった。

「ゴブゥ?」
「ゴッブゴブ!」

 我が子が遊べと急かしてくるからだ。
 休みの日も学校に行っていると、そこはかとなくキレられる。
 ゴブちゃんには泣き疲れ、ゴブおには脛を粉砕されるだろう。
 そんなわけで、土日は大人しく休みを満喫するのであった。

「帝都というだけあり、とんでもなく広いよなぁ」
「「ゴブッ」」

 寮を出て、都市の中心街をぶらつく。
 帝都は中心へ行けば行くほど繁盛し、人口密度が高まっている。
 それ故、今居る場所は、寮に比べて息苦しい位に人が多かった。
 右を見ても左を見ても、活気あふれる老若男女で賑わっている。
 中には同じ学校の女子も……おっと、見間違いだったようだ。

「ゴブお、人混みに紛れて迷子になるなよ」
「ゴッブゴブ! ゴッブゴブ!」

 ゴブおは嬉しそうに走り回っている。
 道行く人々の隙間を縫うように、グネグネと。
 一方、ゴブちゃんはというと――。

「ゴブゥ! ゴブゥ!」

 上機嫌で俺と手を繋いでいた。
 こちらは、俺が離そうとしても離してくれない。
 ルンルンならぬ「ゴブゴブ」と鼻歌を歌い、歩調はスキップ気味。
 周囲の景色より、俺を見ることに重きを置いている様子だ。
 たまの外出なんだから外の景色を楽しめよ、と心の中で苦笑い。

「久しぶりに入るか」

 やってきたのは<ギルド>だ。
 冒険者がクエストを受ける場所だが、随分と久しぶりに感じた。
 何日……いや、何週間ぶりだ?

 あと、<タイタニア>の<ギルド>には初めて気がする。
 もしかすると過去に来たかもしれないが、覚えていない。
 そんなわけで、ワクワクしながら中に入った。

「でさぁ、<HRL>を顔面にぶっ放してやったわけよ」
「お前の腕でも顔面にかませるなんて、やっぱ自動追尾機能様々だな!」
「だろ! ほんとその通りだぜ! って、俺の腕でもってなんだよ?」

 <ギルド>は相変わらずの賑わいを見せていた。
 テーブル席は全て埋まっており、立ち話をしている連中も少なくない。

「なんだか以前より賑やかに感じるな」

 <ロックハート>と比較して、純粋に人数が多いからなのかもしれない。
 だが、人数の差以上に、活気づいているように感じた。
 これが「クエスト意欲が上がっている」というやつなのだろうか。
 そんなことを思っていると、「なぁ、あんた」と声をかけられた。

「ん?」

 声のする方向に振り向く。
 俺の動きに合わせ、ゴブちゃんも振り向いた。
 一方、ゴブおは頭の後ろで手を組み、口笛を吹いている。
 しかし、まるで吹けておらず、スースーとするだけであった。

「もしかして、銃火器を発明したジークさんなんじゃないか? 大討伐戦の時にちらりとみた風貌にそっくりだし、何よりゴブリン連れだ」

 声をかけてきたのは男だ。
 目がキラキラと輝いている。
 詳しく話すまでもなく、俺のファンだ。

「そうだよ」

 偽る必要もないので肯定する。
 だが、これは大きな間違いだった。

「なに!?」
「ジークだと!?」
「あの銃火器職人のジーク!?」
「本当か!?」
「なんだなんだ!」
「おい、あの少年がジークらしいぞ!」
「まじ!? あの人がジークさん!?」

 <ギルド>内が途端に騒然としだしたのだ。
 名前が一人歩きする一方、顔はそれほど割れていない。
 だから先程まで静かだった。
 それを、俺が自ら崩してしまったのだ。

「俺、あんたのおかげで生活水準が向上したんだ!」
「すげぇよ、<AR>はもはやなくてはならない代物だ!」
「<HRL>もパネェぜ! こんなに爽快な武器は他にねぇ!」
「クエストがこんなに楽しいものだって知りませんでしたよ!」

 雪崩の如き勢いで、どいつもこいつも押しかけてくる。
 瞬く間に俺達は包囲されてしまった。
 周囲の声は嬉々としているが、こちらは危機って感じだ。
 全方位からワーワー騒がれているせいで、頭がクラクラする。
 俺は聖徳太子ではなく、普通の人間だ。
 一斉に言われても、一つ一つをきっちり拾うことは出来ない。
 完全に許容量をオーバーしていた。

「分かった! 分かったから、落ち着いてくれよ!」

 息苦しいほどの熱気を冷まそうとする。
 それでもしばらくは激しかったが、次第に落ち着いてくれた。

「なんだか喜んで貰えているようで俺もよかったよ。でも、そろそろ別の場所に行くからこれで失礼するよ」

 足早にその場を去ろうとする。

「ジークさん、あんたの新作、早速買いやしたぜ!」

 その時、一人の男が言ったこの言葉が耳に残った。
 俺は「新作? 何のことだ?」と足を止めて尋ねる。

「政府主導で販売された強化版の<AR>と<HRL>っすよ! 今日発売したばっかじゃないっすか! 忙しすぎて忘れちまいましたか?」
「ああ、それのことか」

 先日、国に提供した数十万枚のレシピを指していたのだ。
 ちょっと考えれば分かることだったが、どうもピンッと来なかった。
 おそらく皆に囲まれているせいで、頭が疲労していたのだろう。

「やっぱ威力がパネェっすわ!」
「<HRL2>の攻撃力1万はマジ痺れるよなー!」
「<AR2>もやべぇぞ、雑魚が瞬殺だ! ズドドドドってな!」

 どうやら好評みたいだ。
 どいつもこいつも買っているみたいで、大盛り上がりである。
 これはそれなりに金が入ってきそうだな。

「皆の役に立てているなら、俺も大量のレシピを国に提供した甲斐があったよ。じゃあ、またね」

 今度こそ足早に避難した。
 やれやれ、まさかこれほどの人気とはな。
 銃火器普及計画の思わぬ副作用に戸惑うのだった。

 ◇

 その後も適当に街を散策し、夕暮れ時には寮に戻った。
 寮の1階にある食堂を使い、平日と変わらぬ調子で夕食を済ます。
 いつもは割と賑やかな食堂も、今日は閑散としていた。

「好きなだけ食えよ」
「ゴブゥ」「ゴッブゴブ」

 食べ盛りのゴブリンズを眺めて言う。
 こいつらの食事量は、相も変わらず多い。
 牛丼の大盛10杯に相当する量を、一度の食事で平らげる。
 しかも、一日三食だ。
 往々にして朝と昼は何も食べないので、大体は夜に三倍食べて調整する。

「俺が銃火器職人じゃなかったら、お前達の食費で破産していたよ」

 幸せそうに頬張るゴブリンズに向かって微笑みかける。
 今の懐事情からすれば、こいつらの食費なんて、減ったかもどうか分からないレベルだ。
 しかし、一般的な財政基準で考えると、決して看過出来る額ではない。
 他の<テイマー>は、どうやって食費を稼いでいるのだろうか。
 もしかして、大食いなのはうちの子だけなのかな?

「久々にチェックしとくかぁ」

 ゴブリンズの食事を見ているだけなのも暇なので、ステータスをチェックする。

====================
【名前】ジーク
【ランク】C
【レベル】99
【職業】テイマー/鍛冶屋
【称号】学校通いの銃職人
【スキル】
・テイミング:1
・その他の作成:98
====================

 いつの間にか、俺の称号が変わっていた。
 大陸屈指だかの文言が消え、学校通いになっている。
 なんだか、前よりも弱くなったような気がするぞ。
 まぁ、称号なんて飾りだから、別に何でもいいが。

 それよりも、レベルが三桁にリーチ状態だ。
 100になると、冒険者ランクもCからBになる。
 ランク上は、サナやオデッサと一緒になるわけだ。

「そういえば、サナとオデッサさんは元気にしているのかな」

 二人とも、大討伐戦の原因調査を独自に行っている。
 何か進展があるのなら、俺にも教えてほしいものだ。

「ゴッブ! ゴブォ……ゴブォ……」
「おいおい、行儀が悪いぞ。落ち着いて食べろよ」

 ゴブおが米を喉に詰まらせ咳き込んでいる。
 慌ててかきこむからそうなるのだ。
 時間制限があるわけでもないし、ゆっくり食べればいいのに。

「ゴブゥ!」

 その頃、ゴブちゃんは空になった丼を向けてきた。
 これには二つの意味があり、どちらかを推測せねばならない。
 一つ目は「お腹いっぱい! 綺麗に全部食べたよ! 褒めて!」だ。
 この場合、頭を撫でて「よく食べました」と褒めてやればいい。
 二つ目は「まだまだ足りないよ! 追加を求む! おかわり!」だ。
 この場合、カウンターに行って追加注文をしてやらなければならない。

 俺はジーッとゴブちゃんの顔を見た。
 顔を小刻みに揺らし、犬のように舌を出している。
 つぶらな瞳はギラギラしていて、よく見ると獰猛さが感じられた。
 これは――――おかわりの要求だ!

「次も牛丼でいいか?」
「ゴブゥ! ゴブ! ゴブ!」
「オーケー。丼は自分で運べよ」
「ゴブ! ゴブゴブ!」

 俺はカウンターに行き、牛丼のおかわりを注文した。

「数はいくつにしますか?」
「ゴブちゃん、数は? 1個でいい?」
「ゴブブ!」

 ゴブちゃんが首を横に振る。
 どうやら1個では足りないようだ。

 現在、ゴブちゃんは両手で空の丼を運んでいる。
 だから、具体的な数を指で示してもらうことは出来ない。
 こういう時は、口頭で確認する。

「2個?」「ゴブブ!」
「3個?」「ゴブブ!」
「5個?」「ゴブ! ゴブ!」

 結果、俺は追加で5個の牛丼を注文した。
 もちろん、サイズは全て大盛だ。

 そんなこんなで、いつも通りの夕食を楽しむのであった。

 ◇

 夜、俺は部屋でぼんやりしていた。
 この頃になると、他の寮生も自室にこもっている。
 夕暮れから夜に変わるわずかな時間に、大半が帰ってきていた。

「ゴブゥ?」

 ベッドに横になって天井を眺めていると、ゴブちゃんが話しかけてきた。
 顔を見れば何を言っているかは察しがつく。
 今回は「まだ寝ないのか?」と問いかけているのだ。

「今日はあと少し起きておくよ」
「ゴブゥ、ゴブゴブ」
「いいよ、先に寝ていて」
「ゴブ! ゴブゥ……ゴブゥ……」

 ゴブちゃんは俺の腕に抱きつき、瞬く間に眠りだした。
 ゴブおに至っては、一時間近く前には睡眠の世界に旅立っている。
 俺の足下で、右に左にと転がっていた。

「退屈だなぁ」

 今日は0時まで待っている予定。
 国から銃火器代がいくら振り込まれるか楽しみだからだ。

 仕入れた情報によると、<AR2>と<HRL2>は同じ価格らしい。
 どちらも一律で100万ゴールドだ。
 俺に入ってくるのは売り上げの1%。
 つまり、レシピ1枚につき1万ゴールドが懐に入る仕組みだ。

 エドワードが最初に提示した1億を稼ぐには、1万個売れなければならない。
 その数が多いのか少ないのか、今の俺には分からない。
 だから、0時に入ってくる額はについては、完全な未知数であった。

「23時50分か……」

 メニュー画面を開いたり閉じたりして時間を潰す。
 残り10分。
 普段なら短く感じるが、今は永遠の如き長さだ。

「ステータスでも見ておこう」

 仕方ないので、ゴブリンズのステータスをチェックした。

====================
【名前】ゴブちゃん
【種族】ゴブリン
【レベル】99
【HP】3500
【攻撃力】230
====================
【名前】ゴブお
【種族】ゴブリン
【レベル】99
【HP】3350
【攻撃力】283
====================

 俺の口から「あれ?」と声が漏れる。

「攻撃力なんて項目……前はなかったぞ?」

 GO時代だけではなくこの世界に来てからも、ペットのステータスに攻撃力なんて項目はなかった。
 攻撃力の概念はあったものの、数値化されていなかったので、正確な情報は独自に検証する必要があったのだ。だから、GO時代には「ペットのステータスに攻撃力を付けろクソ運営!」みたいに不満を垂らすプレイヤーが多く居た。

「いつから項目が増えたのかな」

 ペットのステータスを見たのなんて、<テイミング>を済ませてすぐの頃以来だから、具体的なタイミングは不明だった。
 勝手な予想だが、プレイヤーのステータスに称号が追加された時に実装されたのではないか……と睨んでいる。
 まぁ、数値化されたところで関係ない。
 我が家のゴブリンズは<AR>を使うからな。
 0だろうが1億だろうが、俺にとっては同等だ。

「そろそろだな」

 そうこうしている内に時間がやってきた。
 現在、23時59分。
 だが――次の瞬間には0時00分になった。

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 思わず声を上げてしまう。
 ゴブちゃんが寝ぼけ眼を僅かに開いて見てくる。
 ゴブおも、驚きのあまり身体をビクッと震わせた。
 二人には申し訳ないが、こればかりは仕方がない。

「なんじゃこの額ぁ……!」

 1000万ちょっとだった所持金が一変。
 一瞬にして、3億ゴールドを突破したのだ。

 販売初日で、初期提示の3倍に到達してしまったのであった。
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