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029 フレンドリーファイア
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楽しい座学が終わり、休憩時間を経て、訓練タイムがやってきた。
「ジークさん、私と固定PTとか……」
「悪い、断る。ごめんな」
こんなやりとりを数回重ね、尋常じゃないレベルの視線を浴びる中でため息をつき続けることしばらくして、教官による説明が始まった。
「本日は<実戦>を行います。<実戦>は、実際の戦闘を想定したモードですので、あらゆる武器とスキルの使用が認められます。始める前に、クラスの皆でPTを組んでくださいね」
<対決>がプレイヤー同士の戦いであることに対し、<実戦>は対モンスターとの戦闘というわけだな。
普通に生活している限り人と戦うことなんてそうそうないし、<対決>よりも参考になることは多いだろう。
「既に体験したことのある方はご存じと思いますが、ステージは全部で五つあり、進むごとに難易度が上がる仕組みになっています。また、誰か一人でも死ぬと、その時点で終了となりますのでご注意ください」
PT戦闘、誰かが死ぬと終わり、全5ステージ。
各キーワードを頭に叩き込んでいく。
「クリア又は失敗した時点で、本日の訓練は終了、解散となります。結果に関わらず、一度終われば解散していいということを認識しておいてください。それでは、私共は先に失礼させていただきます」
説明が終わると、教員連中は訓練室から出て行った。
もちろん、俺達の担任であるエレノアもその中に含まれている。
あとは勝手にしろということか。
「あれ? たしか月曜も<実戦>だよな? 火曜は<訓練>のはずだし、水曜は<対決>で今日も<実戦>。そうなると、<競争>は昨日やったってこと?」
仮想訓練には5つのモードがある。
実力測定の<測定>、各能力を鍛える<訓練>、人間同士の戦闘<対決>、実際の戦闘を想定した<実戦>、そして<競争>だ。
この内、<測定>と<競争>は、授業以外で選ぶことが出来ない決まり。
なのだけれども、その<競争>とやらは、金曜日の今日でさえやっていない。
「いえ、昨日は<訓練>を行いました」
ミユが答える。
すると、ミユ達も<競争>は未経験なわけだ。
「いつやるんだろう、<競争>っての」
「そういえば、気になりますね」
「実力測定も含め、日替わりで全部やったらいいのにな」
「あはは、たしかにそうですよね」
ま、メニューにあるのだからいつかはやるだろう。
待たせる分落胆させないでくれよ、と勝手に願った。
そんなことより――。
「ミユはなんだか、日に日に明るくなっている気がする」
「え、そ、そうですか?」
「うむ」
最初の頃は、もっと静かなイメージだった。
「駄目……ですか?」
「駄目なわけないだろ。むしろ嬉しいよ。同じクラスになって、色々と喋って、前よりも仲良くなれたなって感じがする」
ミユは頬をポッと赤くして「ありがとうございます」と俯いた。
先程まで普通に話していたのに、急に恥ずかしがるとは変な奴だ。
「それじゃ、そろそろ仮想空間に行こうか。これ以上待たせたら、アリサとクルスにぶーぶー言われるだろうからな」
「はい、わかりました」
俺達は棺桶型端末に入り、仮想空間へ転移した。
◇
仮想空間に移動後、四人でPTを組んで<実戦>モードを起動する。
他のメニューと同様、始まるなり別のフィールドにワープした。
いつも以上に雑草の生い茂る大草原だ。
草の高さは1メートル以上、腹に届く長さをしている。
「作戦とかどうする? 俺、皆の戦い方知らないんだけど」
「前でかく乱する。武器が<ダガー>だし、<アサシン>だから」
「クルるんと同じく前衛! ジークは後ろで銃を撃ってな! はっはっは!」
「私は後方から皆様の支援をします」
「オーケー。ならアリサとクルスが前衛で、俺とミユが後衛な。細かい作戦とかは、今後やっていく内に決めるか」
三人が俺の意見に賛同する。
こうして、はじめての<実戦>が始まった。
「ゴブッ!」
「ゴーブ!」
「ゴブブー!」
「ゴブブのブー!」
始まるなり、あちらこちらにゴブリンが現れる。
こいつらの背丈だと、雑草で全身が隠れてしまう。
「うげぇー、全然見えないよー! 声だけが聞こえてきて気持ちわるっ!」
アリサは<大剣>を両手で握り、周囲をキョロキョロと窺う。
とてもではないが、その動きではゴブリンを補足できない。
放課後はクルスに師事して鍛えているようだが、まだまだだな。
「俺が空から蹴散らす。クルスは残敵の殲滅をお願い」
「ん、分かった」
「私は支援します」
「え、じゃあ、私はミユちんを守る!」
「各自の行動は決まったな、行くぞ」
俺は<プチバーストの魔法石>を使って跳躍した。
10メートルを超える高さから、<AR>を構えて見下ろす。
「うひょー! ジークの垂直跳びやっば!」
「私より高い。ジーク、流石」
「凄いです、ジークさん」
「慣れれば誰でも出来るさ――ゴブ共発見!」
我が<AR>が暴れ狂い、ゴブリンを駆逐する。
それと同時に、クルスが動き出した。
二本の<ダガー>を逆手に持ち、腰を落として駆け抜ける。
元の身長が140台なこともあり、雑草に身体が隠れきっていた。
「捉えた。1――2――3――4――」
俺が倒す予定の敵も含め、驚異的な効率で狩っていく。
実力測定で俺より上に立つだけのことはある腕前だ。
「どうだジーク! クルるんの速さに恐れ入ったか!」
「なんでアリサが偉そうにするんだよ。たしかに速いけど」
実際、クルスの速度は凄まじかった。
実力測定の<機動>部門では、学年1位の18点だったはず。
ちなみに、俺は10点だ。
クルスの動きを見ると、8点の差を痛感した。
俺の知る限りだと、オデッサに次ぐ身のこなしだ。
「殲滅完了、敵影なし」
「クルるんすごーい!」
「ジークが減らしたおかげだから」
「謙虚なところもいい! ジークも見習いなさい!」
「せめて働いてから言ってくれよなぁ」
俺は苦笑いを浮かべながら着地した。
<魔法石>による跳躍は、着地も一苦労だ。
跳躍時と同様に、<魔法石>を使わないといけない。
<魔法石>は、ブースト兼緩衝材なのだ。
「ジークさんもお見事です。今度、<魔法石>を使った機動術の練習に付き合っていただけませんか?」
「もちろん。俺もまだまだ未熟だけどね。いやぁ、ミユはアリサと違って丁寧だから好感度最高だよ。アリサとは違って」
アリサは「べぇー!」と、俺に向かって舌を出した。
そんなこんなで、最初のステージは余裕でクリア。
続いて、第二ステージが始まった。
「なにこの足場! ひっど!」
「これは……辛いですね」
次なるフィールドは、傾斜の強烈な砂利道だった。
角度もさることながら、大小様々な石コロが足を痛める。
そんな中、新たなモンスターが現れた。
「ヒーッヒッヒ!」
「キェッキェー!」
コウモリ型のモンスター“バットンバット”と、
フンコロガシ型モンスター“シガロコ・フン”だ。
どちらも一メートル級の小型モンスター。
平時なら、さして問題のない雑魚だ。
シガロコは斜面の最上部に五匹。
バットンバットは周囲に数十匹飛んでいる。
この時点で、こいつらの作戦は容易に想像できた。
「キェイヤァ! チェー!」
案の定、まずはシガロコが巨大な糞を転がしてくる。
この糞ボールは、直撃すると爆発する厄介な攻撃だ。
とはいっても、普段ならばそれほど怖くはない。
玉の速度が遅いので、簡単にかわすことが出来るのだ。
しかし、今回は違った。
強烈な傾斜角により、玉が加速しているのだ。
「わわわ、どうしよ! 避けられないよー!」
糞ボールは道幅いっぱいに転がっている。
<魔法石>の跳躍が出来ない奴に避けるのは不可能だ。
「俺が撃って壊す。ミユとアリサは俺の後ろに隠れろ。クルスは自分の意思で最善と思う行動を頼む」
「ん、分かった」
クルスは跳躍し、他の二人は俺の後ろに隠れた。
俺は<HRL>を取り出し、転がってくる糞ボールにぶっ放す。
轟音と共に、<HRL>の弾丸が前方の糞ボールを粉砕した。
「せい、やっ」
その頃、クルスは空中戦を繰り広げていた。
二本の<ダガー>を素早く動かし、自身にまとわりつくバットンバットを捌いている。
敵の作戦は明白だ。
まず、シガロコが糞ボールを転がす。
それで仕留められればよし、駄目でもバットンバットが集って噛みつく。
地形を活かした二段構えの狡猾な戦法だ。
「やるなぁ、クルス」
「ありがとう、ジーク」
宙に舞うクルスの姿は、まるで妖精のようだ。
あまりにも華麗な剣捌きに、思わず見とれてしまう。
その油断が命取りになった。
「きゃっ」
「ヘ、ヘ、ヘルプミー!」
俺の後ろに居たアリサとミユが襲われていたのだ。
どちらも20体近いバットンバットが絡んでいる。
「まずいな」
俺はどうするべきか頭を回転させた。
全神経を集中させ、対処法を考える。
一般的なゲームみたく、仲間に対する攻撃がノーダメージなら話は早い。
仲間に向かって<HRL>をぶっ放して爆風で敵を一掃すればいいだけだ。
しかし、実際にはそういうわけにもいかない。
そんなことをすれば、仲間は盛大に爆死することになる。
<AR>を撃つか?
いや、それも危険だ。
それに、まず当たらないだろう。
縦横無尽に飛び回られているからな。
「そうだ!」
名案を閃いた。
俺が抱えて、<魔法石>で跳躍すればいいのだ。
そうすれば、まとわりつくバットンバットを振り切れる。
同時に二人は無理だから、まずは弱いアリサから助けよう。
「今助けるぞ、アリサ」
「来るな! 来るなぁ!」
一瞬、俺に向けての発言かと思った。
実際には、バットンバットに来るなと言っているのだ。
アリサは大剣を振り回し、必死に追い払おうとしていた。
しかし、バットンバットはそれを軽やかにかわしている。
「アリサ、落ち着け。今助け――」
「だぁああああ!」
アリサは落ち着くことなく、剣を振り回し続けた。
そして――。
「んぐっ……」
付近に居たミユの胴体に、強力な水平斬りをぶち込んでしまった。
「ミユちん!?」
「間に合わなかったか」
ミユは「すみません」と謝り、灰になる。
その瞬間、俺達の視界に文字が表示された。
『PTメンバーの一人が死亡した為、失敗となります』
俺達は、瞬時に待機場所の草原に飛ばされた。
「私のせいですみません」
待機場所には復活したミユが居て、再び深々と謝る。
もちろん、俺達は「いやいや」と手を横に振った。
「今のはアリサが悪いよ」
「ん、同感。酷い混乱ぶりだった」
「ごめんミユちん! ほんとごめん!」
「いえ、こちらこそ、油断していました。すみません」
こうして、初めての<実戦>は第二ステージの途中で終わった。
「ジークさん、私と固定PTとか……」
「悪い、断る。ごめんな」
こんなやりとりを数回重ね、尋常じゃないレベルの視線を浴びる中でため息をつき続けることしばらくして、教官による説明が始まった。
「本日は<実戦>を行います。<実戦>は、実際の戦闘を想定したモードですので、あらゆる武器とスキルの使用が認められます。始める前に、クラスの皆でPTを組んでくださいね」
<対決>がプレイヤー同士の戦いであることに対し、<実戦>は対モンスターとの戦闘というわけだな。
普通に生活している限り人と戦うことなんてそうそうないし、<対決>よりも参考になることは多いだろう。
「既に体験したことのある方はご存じと思いますが、ステージは全部で五つあり、進むごとに難易度が上がる仕組みになっています。また、誰か一人でも死ぬと、その時点で終了となりますのでご注意ください」
PT戦闘、誰かが死ぬと終わり、全5ステージ。
各キーワードを頭に叩き込んでいく。
「クリア又は失敗した時点で、本日の訓練は終了、解散となります。結果に関わらず、一度終われば解散していいということを認識しておいてください。それでは、私共は先に失礼させていただきます」
説明が終わると、教員連中は訓練室から出て行った。
もちろん、俺達の担任であるエレノアもその中に含まれている。
あとは勝手にしろということか。
「あれ? たしか月曜も<実戦>だよな? 火曜は<訓練>のはずだし、水曜は<対決>で今日も<実戦>。そうなると、<競争>は昨日やったってこと?」
仮想訓練には5つのモードがある。
実力測定の<測定>、各能力を鍛える<訓練>、人間同士の戦闘<対決>、実際の戦闘を想定した<実戦>、そして<競争>だ。
この内、<測定>と<競争>は、授業以外で選ぶことが出来ない決まり。
なのだけれども、その<競争>とやらは、金曜日の今日でさえやっていない。
「いえ、昨日は<訓練>を行いました」
ミユが答える。
すると、ミユ達も<競争>は未経験なわけだ。
「いつやるんだろう、<競争>っての」
「そういえば、気になりますね」
「実力測定も含め、日替わりで全部やったらいいのにな」
「あはは、たしかにそうですよね」
ま、メニューにあるのだからいつかはやるだろう。
待たせる分落胆させないでくれよ、と勝手に願った。
そんなことより――。
「ミユはなんだか、日に日に明るくなっている気がする」
「え、そ、そうですか?」
「うむ」
最初の頃は、もっと静かなイメージだった。
「駄目……ですか?」
「駄目なわけないだろ。むしろ嬉しいよ。同じクラスになって、色々と喋って、前よりも仲良くなれたなって感じがする」
ミユは頬をポッと赤くして「ありがとうございます」と俯いた。
先程まで普通に話していたのに、急に恥ずかしがるとは変な奴だ。
「それじゃ、そろそろ仮想空間に行こうか。これ以上待たせたら、アリサとクルスにぶーぶー言われるだろうからな」
「はい、わかりました」
俺達は棺桶型端末に入り、仮想空間へ転移した。
◇
仮想空間に移動後、四人でPTを組んで<実戦>モードを起動する。
他のメニューと同様、始まるなり別のフィールドにワープした。
いつも以上に雑草の生い茂る大草原だ。
草の高さは1メートル以上、腹に届く長さをしている。
「作戦とかどうする? 俺、皆の戦い方知らないんだけど」
「前でかく乱する。武器が<ダガー>だし、<アサシン>だから」
「クルるんと同じく前衛! ジークは後ろで銃を撃ってな! はっはっは!」
「私は後方から皆様の支援をします」
「オーケー。ならアリサとクルスが前衛で、俺とミユが後衛な。細かい作戦とかは、今後やっていく内に決めるか」
三人が俺の意見に賛同する。
こうして、はじめての<実戦>が始まった。
「ゴブッ!」
「ゴーブ!」
「ゴブブー!」
「ゴブブのブー!」
始まるなり、あちらこちらにゴブリンが現れる。
こいつらの背丈だと、雑草で全身が隠れてしまう。
「うげぇー、全然見えないよー! 声だけが聞こえてきて気持ちわるっ!」
アリサは<大剣>を両手で握り、周囲をキョロキョロと窺う。
とてもではないが、その動きではゴブリンを補足できない。
放課後はクルスに師事して鍛えているようだが、まだまだだな。
「俺が空から蹴散らす。クルスは残敵の殲滅をお願い」
「ん、分かった」
「私は支援します」
「え、じゃあ、私はミユちんを守る!」
「各自の行動は決まったな、行くぞ」
俺は<プチバーストの魔法石>を使って跳躍した。
10メートルを超える高さから、<AR>を構えて見下ろす。
「うひょー! ジークの垂直跳びやっば!」
「私より高い。ジーク、流石」
「凄いです、ジークさん」
「慣れれば誰でも出来るさ――ゴブ共発見!」
我が<AR>が暴れ狂い、ゴブリンを駆逐する。
それと同時に、クルスが動き出した。
二本の<ダガー>を逆手に持ち、腰を落として駆け抜ける。
元の身長が140台なこともあり、雑草に身体が隠れきっていた。
「捉えた。1――2――3――4――」
俺が倒す予定の敵も含め、驚異的な効率で狩っていく。
実力測定で俺より上に立つだけのことはある腕前だ。
「どうだジーク! クルるんの速さに恐れ入ったか!」
「なんでアリサが偉そうにするんだよ。たしかに速いけど」
実際、クルスの速度は凄まじかった。
実力測定の<機動>部門では、学年1位の18点だったはず。
ちなみに、俺は10点だ。
クルスの動きを見ると、8点の差を痛感した。
俺の知る限りだと、オデッサに次ぐ身のこなしだ。
「殲滅完了、敵影なし」
「クルるんすごーい!」
「ジークが減らしたおかげだから」
「謙虚なところもいい! ジークも見習いなさい!」
「せめて働いてから言ってくれよなぁ」
俺は苦笑いを浮かべながら着地した。
<魔法石>による跳躍は、着地も一苦労だ。
跳躍時と同様に、<魔法石>を使わないといけない。
<魔法石>は、ブースト兼緩衝材なのだ。
「ジークさんもお見事です。今度、<魔法石>を使った機動術の練習に付き合っていただけませんか?」
「もちろん。俺もまだまだ未熟だけどね。いやぁ、ミユはアリサと違って丁寧だから好感度最高だよ。アリサとは違って」
アリサは「べぇー!」と、俺に向かって舌を出した。
そんなこんなで、最初のステージは余裕でクリア。
続いて、第二ステージが始まった。
「なにこの足場! ひっど!」
「これは……辛いですね」
次なるフィールドは、傾斜の強烈な砂利道だった。
角度もさることながら、大小様々な石コロが足を痛める。
そんな中、新たなモンスターが現れた。
「ヒーッヒッヒ!」
「キェッキェー!」
コウモリ型のモンスター“バットンバット”と、
フンコロガシ型モンスター“シガロコ・フン”だ。
どちらも一メートル級の小型モンスター。
平時なら、さして問題のない雑魚だ。
シガロコは斜面の最上部に五匹。
バットンバットは周囲に数十匹飛んでいる。
この時点で、こいつらの作戦は容易に想像できた。
「キェイヤァ! チェー!」
案の定、まずはシガロコが巨大な糞を転がしてくる。
この糞ボールは、直撃すると爆発する厄介な攻撃だ。
とはいっても、普段ならばそれほど怖くはない。
玉の速度が遅いので、簡単にかわすことが出来るのだ。
しかし、今回は違った。
強烈な傾斜角により、玉が加速しているのだ。
「わわわ、どうしよ! 避けられないよー!」
糞ボールは道幅いっぱいに転がっている。
<魔法石>の跳躍が出来ない奴に避けるのは不可能だ。
「俺が撃って壊す。ミユとアリサは俺の後ろに隠れろ。クルスは自分の意思で最善と思う行動を頼む」
「ん、分かった」
クルスは跳躍し、他の二人は俺の後ろに隠れた。
俺は<HRL>を取り出し、転がってくる糞ボールにぶっ放す。
轟音と共に、<HRL>の弾丸が前方の糞ボールを粉砕した。
「せい、やっ」
その頃、クルスは空中戦を繰り広げていた。
二本の<ダガー>を素早く動かし、自身にまとわりつくバットンバットを捌いている。
敵の作戦は明白だ。
まず、シガロコが糞ボールを転がす。
それで仕留められればよし、駄目でもバットンバットが集って噛みつく。
地形を活かした二段構えの狡猾な戦法だ。
「やるなぁ、クルス」
「ありがとう、ジーク」
宙に舞うクルスの姿は、まるで妖精のようだ。
あまりにも華麗な剣捌きに、思わず見とれてしまう。
その油断が命取りになった。
「きゃっ」
「ヘ、ヘ、ヘルプミー!」
俺の後ろに居たアリサとミユが襲われていたのだ。
どちらも20体近いバットンバットが絡んでいる。
「まずいな」
俺はどうするべきか頭を回転させた。
全神経を集中させ、対処法を考える。
一般的なゲームみたく、仲間に対する攻撃がノーダメージなら話は早い。
仲間に向かって<HRL>をぶっ放して爆風で敵を一掃すればいいだけだ。
しかし、実際にはそういうわけにもいかない。
そんなことをすれば、仲間は盛大に爆死することになる。
<AR>を撃つか?
いや、それも危険だ。
それに、まず当たらないだろう。
縦横無尽に飛び回られているからな。
「そうだ!」
名案を閃いた。
俺が抱えて、<魔法石>で跳躍すればいいのだ。
そうすれば、まとわりつくバットンバットを振り切れる。
同時に二人は無理だから、まずは弱いアリサから助けよう。
「今助けるぞ、アリサ」
「来るな! 来るなぁ!」
一瞬、俺に向けての発言かと思った。
実際には、バットンバットに来るなと言っているのだ。
アリサは大剣を振り回し、必死に追い払おうとしていた。
しかし、バットンバットはそれを軽やかにかわしている。
「アリサ、落ち着け。今助け――」
「だぁああああ!」
アリサは落ち着くことなく、剣を振り回し続けた。
そして――。
「んぐっ……」
付近に居たミユの胴体に、強力な水平斬りをぶち込んでしまった。
「ミユちん!?」
「間に合わなかったか」
ミユは「すみません」と謝り、灰になる。
その瞬間、俺達の視界に文字が表示された。
『PTメンバーの一人が死亡した為、失敗となります』
俺達は、瞬時に待機場所の草原に飛ばされた。
「私のせいですみません」
待機場所には復活したミユが居て、再び深々と謝る。
もちろん、俺達は「いやいや」と手を横に振った。
「今のはアリサが悪いよ」
「ん、同感。酷い混乱ぶりだった」
「ごめんミユちん! ほんとごめん!」
「いえ、こちらこそ、油断していました。すみません」
こうして、初めての<実戦>は第二ステージの途中で終わった。
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