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026 銃職人の剣術②

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 俺の持っている近接武器は<木の棒>だけだ。
 流石にこれでは戦えない。

「エレノア教官、武器を貸してください」
「銃火器以外も持っとけよなー」
「はは、すみません」
「いいよ。面倒だし一式渡すから、必要なの以外返しな」

 言うなり取引を持ちかけてくるエレノア。
 俺が承諾すると、数十種類の近接武器を押しつけてきた。

「<鍛冶屋>のあんたに言うことじゃないと思うけど、人間相手なら攻撃力なんて何の意味もないからね。使いやすさで決めな」
「それはもちろん、分かっています」

 人間にはHPや防御力の概念が存在しない。
 ゲームみたく斬られてもHPが減るだけ……とはならないのだ。
 攻撃を受ければ怪我をするし、怪我をすればパフォーマンスが低下する。

「これとこれと……折れた時に備えてこれも持っておくか」

 俺が選んだのは三本の刀だ。
 太刀はなく、全て打刀うちがたなである。
 太刀に比べて短い分、振りやすい。
 飛び道具が有効なら短剣も加えたが、禁止なのでパス。

「ありがとうございます、残りはお返しします」
「はいはい。そうそう、必要ならそれらの武器を売るよ。1つ100ゴールドね」
「安ッ! いいんですか?」
「いいよ。どうせ訓練用だからね。モンスターにはまるで使えない」

 エレノアが押しつけてきた大量の武器は、どれも超絶に弱かった。
 強い物でも、攻撃力が50しかなかったのだ。
 これは、初期装備の<木の棒>と同じ数値である。

「じゃあ、お借りした3つは買わせていただきます」
「はいよー」

 エレノアに300ゴールドを渡し、準備完了だ。

「行ってきます」

 俺は棺桶型端末に入り、仮想空間に移動した。

「銃が使えないからビビって逃げるかと思ったが、やられに来るだけの度胸はあるみたいだな」

 待機場所の草原に到着するなり、レオンが吼えてきた。

「遅くなったのは近接武器を持っていなかったからだ」
「お前は銃とかいう女子供の武器しか使えないもんな」
「その発言、学校では言わない方がいいと思うぞ。俺達以外女だし」
「う、うるせぇ、雑魚がッ! さっさと<対決>すんぞ!」

 レオンの顔がわずかに赤くなった。
 俺の指摘が正論だから、胸に刺さるものがあったのだろう。
 もうすぐ言葉ではなく刀を胸に刺してやるぜ。

「こちらから申し込めばいい?」

 メニュー画面を開きながら尋ねる。
 <対決>は、相手に申し込み、承諾されることで始まるのだ。

「さっさとしろ」
「はいはい、分かったよ」

 教官の指定通り“スキル・遠距離武器の使用禁止の一本勝負”で申し込む。
 レオンは即座にそれを承諾した。

『専用フィールドに転送します』

 俺とレオンが瞬間移動する。
 といっても、やってきたのは再び草原だ。
 転送したというか、外野が消えたような感覚。

『戦闘開始まで10――9――』

 カウントが減っていく。

「<侍>の俺が、銃使いのチキン野郎に剣勝負は気が引けるな……。せいぜい、瞬殺だけは勘弁してくれよ」

 レオンは武器を取り出し、その場で構えた。
 漆黒の刀身をした太刀だ。
 両手で持ち、威圧的な刃先をこちらに向けている。

「銃使いだからって剣が弱いという思い込み、俺が正してやるよ」

 俺も刀を取り出した。
 まずは一本。
 右手で持ち、念のために素振りする。
 軽くて良い感じだ。

『3――2――1――』

 互いに距離をとる。
 10……15……。
 最終的に20メートル程開いた。

『戦闘開始』

 開いた距離が、開始早々に縮まる。
 レオンが突っ込んできたからだ。

「ふん!」

 素早い動きで距離を詰め、高速の垂直斬りを放ってくる。
 漆黒の剣は、空気を切り裂きながら、俺の顔面に襲いかかった。
 刀で受けるか、かわすか。

「いい攻撃だ」

 俺はかわすことを選択した。
 身体を横にスライドし、軽やかに回避。
 すぐさま反撃の一撃を放つ。
 水平に寝かせた刀身が、レオンの首を襲う。
 GOならこのカウンターで終わるが――。

「甘い!」

 レオンには決まらなかった。
 残像を生みそうなスピードで、スッと後退したのだ。
 <魔法石>を足の裏で爆発させて加速しやがったな。
 スキルの使用は禁止だが、<魔法石>の使用は可能だ。

「今のをかわすのか」
「当然だ。それより、お前こそ意外だな。剣を扱えるのか」
「だからそう言っているだろ。それに、お前は負けるよ」
「ほざけ! 少し剣を扱えるからって本職に勝てるかよ!」

 レオンは再度突っ込んでくる。
 次で勝負が決まる、俺はそう確信していた。

「さっきより速いぞ! 避けられまい!」

 レオンは再び垂直斬りを繰り出した。

「お前は強いよ。でも、勝負のルールを間違っている」
「なにっ……!?」

 俺はインベントリから二本目の刀を取り出した。
 それを左手で持ち、レオンの太刀を受けようとする。
 しかし、パキンッと音を立て、俺の刀は盛大に折れた。
 刀が折れたのは予想通り。折れなければラッキー程度の感覚。
 そして――。

「グッ……」

 レオンの太刀が、勢いをそのままに俺の左腕を切り落とすのも予想通り。
 最後に加えるなら――。

「グハッ……」

 右手に持った刀がレオンの心臓を貫くのも予想通りだ。

「仮想空間では死なないんだよ。重傷を負ったとしてもすぐに回復する。それが後遺症となることもない。だから、仮想空間には仮想空間の戦い方がある。最初の攻撃で、俺の反撃に合わせて追撃するのではなく、安易に逃げた時点でこの結果は決まっていたも同然だ」

 剣の実力では、相手の方が上だ。
 口は悪いが、レオンの言っていることに間違いはない。

 しかし、仮想空間の実力では俺が上だ。
 こちらは長い年月をGOの世界で戦ってきた。
 昨日今日初めて仮想空間で戦う奴に負けることはない。

「残念だったな、レオン」
「クソッ……俺とした……ことが……」

 俺が刀を抜くと、レオンは灰と化した。

「俺も戻るか」

 失った左腕の痛みが尋常じゃないので、俺は直ちに仮想空間から離脱した。
 訓練室に戻るなり、エレノアが拍手で迎えてくれる。

「やるじゃないか、ジーク。<仮想訓練システム>を熟知したような動きだったな。あれは初見じゃかわせないよ。誰の入れ知恵だい?」
「ありがとうございます。ですが誰の入れ知恵でもありませんよ」
「そうかい。銃火器といい、あんたの発想力には恐れ入るね」
「重ね重ねありがとうございます」

 訓練室の中は閑散としていた。
 10人の教官以外だと、俺とレオンしかいない。
 他の連中はまだ戦闘中のようだ。

「クソッ!」

 レオンは声を荒らげながら端末に拳を打ち付け、部屋から出て行った。
 出て行く時、憎悪のこもったような目でこちらを睨むことも忘れない。

「あんたも分かっていると思うけど、今回は搦め手を使ったから勝てたようなものさ。次に同じような機会があったらこうはいかないよ」
「まぁ、厳しくはなるでしょうね」

 厳しくはなる……が、負けはしないだろう。
 仮想空間ならではのテクニックなら、他にもあるからだ。
 相打ちによる必殺なんてのは、VR初心者でも閃く初歩に過ぎない。

「早いですが、お先に失礼します」
「はいよーおつさまー」

 エレノアに一礼すると、俺は訓練室を後にした。

 ◇

 翌日、俺の勝利は学校中で噂になっていた。
 対戦結果はモニターに表示されるので、それで知られたのだろう。

「ジーク、あのレオンを相手に1分10秒で勝ったってどういうこと!?」
「すごいです、ジークさん」
「私も気になる」

 8組の面々も、いつになく興奮状態にあった。
 戦闘時間は知れても、戦闘内容は知ることが出来ない。
 録画機能が存在しないからだ。
 故に、戦闘を見ていない彼女らは不思議に感じて仕方ない。

「別に、普通に勝ったよ」
「うっひゃー、超クール! 見直したよ!」
「元からこんな感じだろ」
「そーだけど、マジで剣も強いんだぁーって!」

 アリサは「えへへ」と笑った。
 そんなアリサが昨日戦っていたのはフィリスだ。
 シノのクラスメートであり、実力測定で最下位だった女。

「クルスとミユはどうだった? 勝てたか?」
「私は負けました。ジークさんと同じで武器をお借りして戦ったのですが……やはり、剣は不慣れなもので難しかったです」

 ミユが普段使う武器は<杖>だ。
 これも近接武器だが、攻撃力は皆無に近い。
 対人戦の場合、相手を仕留めるのはまず不可能だ。
 なまじ順位が高い以上、負けるのは仕方ない。

「私は勝った」

 一方、クルスは勝利したようだ。
 そういえば、クルスは実力測定で2位だったな。
 どういう戦い方をしたのだろう。
 せっかくだし、昨日は帰る前に観戦しておけばよかった。

「今日も全員出席たぁ見上げた心意気だね。軽く雑談こいたら座学始めんぞー」

 8時50分になると、エレノアが教室に入ってきた。
 さてさて、今日も元気に勉学に励もうか。
 ――と、思いきや。

「あ、そうそう。ジーク。あんたは今から城に行ってきな。エドワード皇帝陛下から直々にお呼び出しがかかってるよ」

 急遽、予定が変更されることとなった。
 銃火器大好きエドワード皇帝に召集されてしまったのだ。
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