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025 銃職人の剣術①

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 ガルデニア歴3528年4月12日水曜日。
 この日の座学は<魔獣災>に関する話だった。

「1514年の8月に大量のモンスターがわーっと出現して大陸中で大暴れしたわけ。詳しいことは知らないけど、たぶん街とか襲ったんじゃないかな。原因とかは分からないけど、とにかく大変だったんだってさ。これが<第一次魔獣災>ね」

 今日も変わらず口頭でのみ行われる説明。
 真剣な眼差しでそれを聴く俺とミユ。
 一方、アリサとクルスは机に突っ伏していた。

「んで、この騒ぎは結構まずかったわけで、4ヶ月後の12月に、業を煮やしたお偉いさん……おそらくその当時の皇帝陛下が<失われた技術ロストテクノロジー>の使用を決断したわけ。そうやって使われたのが<アルテマフレア>っていうよく分からないけど凄い代物で、これのおかげで世界は平和になりましたとさ」

 そこまで話すと、エレノアは俺を指した。

「ジーク、あんた“魔王ルシフ”って知ってるかい?」
「魔王ルシフ……」

 どこかで聴いたことがあるな。
 しばし黙考した末、どこで聴いたのか思い出した。
 サナが言っていたのだ。

「はい。2000年だか3000年前に滅んだとか封印されたとか、そんな言い伝えのある史上最強のモンスターですよね」
「その通り! <失われた技術>は知らなかった癖に、魔王ルシフについては知っているたぁ、驚きだよ」
「偶然、前に聴いたことがありまして」
「なるほどね。で、その魔王ルシフが消えた年に諸説あるのは、この<第一次魔獣災>が原因なわけさ。2000年前に滅んだと主張する学者の言い分だと、<アルテマフレア>によってやられちまいやがったわけさ。どちらかというとこの論が今の主流だね」
「じゃあ、3000年前論者の言い分は?」
「3000年論者はもう1000年前、517年の12月に封印されたとか言っているね。中には封印ではなく死亡と言っている学者もいるよ。こっちの論が弱いのは、そのことに絡むイベントが起きていないからさ」

 なるほど。
 たしかに今の話だと2000年論者が有力だ。

「エレノア教官はどちらの説を信じるのですか?」

 ここで気になったのはエレノアの考えだ。
 この女、他人には「歴史なんて大雑把でOK」なんて言うくせに、自分は詳細を把握しているのだ。
 教官だから当然といえば当然だが、いい加減に見えて知識はしっかりしている。
 そんなエレノアがどう考えているのか、俺は知りたかった。

「私はどっちの説も信じちゃいないよ。そもそも、<魔獣災>ってのも実際にあったとは思っていないからね。当時の宮廷作家が考えた小説を、本当にあった歴史と勘違いしているのさ」
「はは、エレノア教官らしい意見ですね」
「分かっちゃいうと思うけど、私がこんな話をしていたって他の教官には言うなよ。叱られちまうからな」
「もちろん」
「よろしい。質問がないなら今日の座学はこれでおしまいだけど、何か質問あっか?」

 エレノアは俺とミユを交互に見た。
 ミユは首を横に振り、質問がないとの意思を表す。

「一ついいですか?」

 一方、俺は質問があった。

「よくないけど、答えるのが仕事だからね。パパッと済ませな」

 要するに質問OKってことだ。
 俺は「すみません」と言ってから質問を投げかけた。

「<第一次魔獣災>が発生してから<アルテマフレア>が使われるまでに4ヶ月の時間がありますよね。そこから、<アルテマフレア>の使用には大きな代償がついているものと推測できるのですが、実際のところはどうなのですか? 何か使用することによるデメリットとかあれば教えてください」

 <失われた技術>による古代兵器<アルテマフレア>。
 なんだか中二心をくすぐられる話だ。
 歴史の信憑性はどうでもいいが、この話には興味を抱いた。

「<アルテマフレア>の欠点は、想像するに2つある。1つは効果範囲が大規模で、モンスターに限定できないこと。<第一次魔獣災>では、<アルテマフレア>の使用によって人口の3割が消滅したと言われているのよ。ただ、これは、モンスターに襲われて死んだ数も含んでいるとの説が有力だから、実際のところは不明だけどね」
「なるほど。それで、もう1つの欠点とは?」
「使用回数の制限よ。<第一次魔獣災>から約900年後に起きる<第二次魔獣災>でも<アルテマフレア>が使われるのだけど、その時に壊れてしまっているのよね。このことから、<アルテマフレア>は使用回数が決まっていたと考えられている。これが2つ目」

 納得のいく説明だ。
 おそらく耐久度が低くて、修理不可だったのだろう。
 なんだか、俺の作る銃火器と似たような兵器だな、<アルテマフレア>。

「時間になったから質問タイムはしゅーりょーね。後のことはミユに訊きなさい。ここだけの話だけど、彼女の胸が規格外の大きさをしているのは知識がたくさん詰まっているかららしいよ」
「違います、違いますから」

 ミユが顔を真っ赤にして俯く。

「そんじゃ、また10分後ね、おつさまー」

 エレノアは愉快そうに笑いながら出て行った。

「結局、今日も黒板は使われなかったな」
「……」

 ミユに話しかけたのだが、反応がない。
 顔を赤くして、下に俯いたままだ。

「ミユ? どうかした?」
「違いますからね、ジークさん! 私の胸、知識詰まっているわけじゃありませんから! 絶対に、絶対に違いますから!」

 ミユは真っ赤に染めた顔をこちらに向け、ぶんぶんと横に振った。
 退室直前にエレノアが放った冗談を気にしているようだ。

「ははは、分かってるよ。教官も冗談で言っただけだろうよ」
「そ、それならいいのですが……」

 ミユは大きなため息をついた。
 たったそれだけの動作でも、胸はぼよんぼよん揺れている。
 中にスイカが詰まっていると言われても信じる大きさだ。

「ふわぁー! 訓練の時間だー!」
「ん、楽しみ」

 休憩時間に入るなり、アリサとクルスが目を覚ました。
 座学の前に聞いた話によると、二人は夜まで訓練していたらしい。
 なんだかんだで、クルスはアリサの訓練に付き合い続けたようだ。

「今日から現地集合でしたよね」
「そーそー! ちょい早いけど皆で行こー!」
「賛成」
「オーケー。じゃあ、行くか」

 俺達は教室を出て、三階の訓練室に向かった。

「でさー! 昨日ねー!」
「三丁目にある武器屋に面白い剣があるんだって!」

 訓練室にはすでに多くの学生が居て、なかなかに賑わっていた。
 学生の99%が<仮想訓練システム>の為に学校へ通っている。
 そのことを如実に物語る賑わいぶりだ。
 前の世界だと、PCを使った情報の授業がこんな雰囲気だったな。

「皆の意欲が凄まじいな」
「ふふ、そうですね」

 俺達は昨日と同じ端末を選び、その上に腰を下ろした。
 8-2から順に、クルス、アリサ、ミユ、俺だ。

「およ? やっほー、ジーク君!」
「アンズ、昨日ぶり」
「おー? 今日は眼鏡巨乳の子もいるじゃないかぁ」
「ハナ、彼女の名前はミユだよ」

 俺達のすぐ後に10組の面々がやってきた。
 今日も3人だけで、1人不在だ。
 不在の1人がレオンならよかったが、残念ながら彼は居る。
 昨日と同じ顔の知らない女が居ないのだ。
 レオンは俺を睨み、「チッ」と舌打ちした。
 ちょっと冗談でも言って打ち解ける努力をしてみよう。

「やぁ、レオン。髪の色染めた? 昨日は赤色だったよね」
「はぁ? 何言ってんだ。雑魚が俺に話しかけるんじゃねぇ」
「……」

 やはり、この金髪野郎とは仲良くできそうにないな。
 そもそも、俺はコミュニケーション能力がそれほど優れていない。
 無理に打ち解けようとしたのが間違いだった。

 レオンは再度舌打ちすると、10組の端末へ歩いて行った。

「いやはや、すまないねぇ、ジーク君!」
「気にしないでいいよ」
「そう言ってもらえるとたすかる! それじゃ、お互い頑張ろう!」

 レオンの後を追うように、アンズも離れていく。
 一方、ハナはミユに絡んでいた。

「やっぱり時代は眼鏡だね、ミユちゃん!」
「え、そ、そうですか?」
「そーだよぉ。ま、私のは伊達なんだけどねぇ」

 グイグイ話すハナに対し、ミユは困惑気味だ。
 嫌というわけではなく、純粋に緊張している様子。

「そろそろ時間だから私も行くねぇ。ミユちゃん、今度一緒に眼鏡買いに行こぉ」
「は、はい、よろしくお願いします、ハナさん」
「ハナでいーよ。じゃあねぇー」

 ハナが離れていってすぐ、教官達が入ってきた。
 相変わらず、エレノアだけが怠そうに欠伸あくびを連発している。
 そんなエレノアが、今日は司会進行を務めるようだ。

「水曜日の授業は<対決>。昨日の放課後に先走ってやった人も居るだろうけど、授業で扱うのは初めてだから簡単に説明すんぞー」

 エレノアが口を開くと、他のクラスに所属する学生がざわついた。

「なにあの先生」
「なんだか口調が汚い……」
「でもすごい美人」
「眼帯、ちょっとときめいちゃうかも」

 主にエレノアの口調に驚いているようだ。
 俺達は慣れているから気にしないが、普通は驚くよな。
 見ている限り、他のクラスを受け持つ教官は丁寧だし。

「<対決>は一対一の個人戦。設定によって一本勝負・三本勝負・五本勝負と決められるけど、授業で行うのは一本勝負ね。ルールは相手を先にぶっ殺した方の勝利。痛みはあっても現実に死ぬわけじゃないから、遠慮なく殺してやりな。人を殺すのが怖いだなんて乙女ぶってる奴は、この私が殺してやるから――」
「エレノアさん、脱線していますよ。それに、わざわざ殺さなくても、片方が降参すればその時点で終了となりますからね。どうしても抵抗があるという方は、無力化する方向で取り組めばいいです」

 7組の女性教官が、慌ててエレノアの話を軌道修正する。
 エレノアは「これは失礼」と咳払いし、改めて話した。

「そんなわけで、基本ルールは相手に勝つこと。ジークとそっちの男、レオンだっけか。あんた達、相手が女だからって遠慮するんじゃないよ」

 レオンは「無論、そのつもりです」と答えた。
 教官に対しては、ですます調で話せるようだ。

「試合が終わったところから各自解散ね。じゃ、対戦表を映すからモニターにちゅーもーく」

 こちらを向いていた教官連中がモニターに振り返る。
 その瞬間、消えていたモニターが何食わぬ顔で起動した。

「対戦表は実力測定の結果を参考にこちらで決めさせてもらったよ。今後は対戦結果も加味して、より実力の拮抗した相手と戦えるようにしていくからねー。確認が済んだら、仮想空間に移動して各自<対決>を開始しな」

 モニターに映し出された対戦表を眺めて、自分の名前を探していく。

「お、あったあった」

 上から下へと見ていき、中央で自分の名前を発見した。
 さて、記念すべき初戦の対戦相手は――。

『8組ジークVS10組レオン』

 実力測定1位の男、レオンだった。
 俺のことを一方的に嫌っている金髪クソ野郎だ。
 測定結果から、かなりの強者であることは間違いない。
 だが、こちらには銃がある。

 仮想空間では、原則として自身の所持品を使う。
 それは武器だけではなく、<魔法石>等のアイテムも含まれている。
 仮想空間内で消費したアイテムや武器はこちらに戻ると復活する仕様だ。
 だから、大討伐戦で使った超高級銃火器をガンガン使うことも出来る。
 ちなみに、俺がこの仕様を知ったのは今日のことだ。
 座学前の雑談で、アリサがドヤ顔で教えてくれた。

「人のことを雑魚雑魚言う奴には負けたくないなぁ」

 今からレオンとの戦いをイメージする。
 相手は剣とスキルに強い思い入れを持っている辺り、近接戦闘が主体だ。
 こちらは<AR>を使って遠巻きに削っていこう。

「言い忘れていたけど、<対決>には禁止事項があるからね。使ったら即失格になるから、よーく聴きな」

 そんな大事なことを言い忘れるなよ。
 そう思いつつ、俺はエレノアの言葉に耳を傾けた。

「禁止事項その1、スキルの使用は一切禁止。ただ、<魔法石>の使用は認められているからね。何か使いたい<魔法石>があって、もしも持っていないなら、担当の教官に言いな。<対決>の間だけ貸してくれるよ」

 スキルが使えないのは、俺にとって大きなプラス要因だ。
 なぜなら、俺のスキルは<テイミング>と<その他の作成>しかない。
 戦闘に役立つスキルは皆無なのだ。
 だから、禁止事項その1が俺の足を引っ張ることはない。

「禁止事項その2、遠距離武器の使用禁止。使っていいのは近接武器だけだからね。近接武器なら、槍だろうが鎖鎌だろうが使ってオーケー。普段、弓とか使っていて近接武器がない奴は担当教官に申し出な。好きな武器を貸してくれるよ」

 遠距離武器の禁止。
 それはつまり――。

「ジーク、あんたの代名詞“銃火器”も当然ながら禁止だかんな」
「ですよねー」

 やはり銃火器も禁止だった。
 やれやれ、翼をもがれた鳥の気分だよ。

「ふん、銃なしの雑魚か。戦うだけ可哀想というものだな」

 レオンが俺に向かって嘲笑する。
 それをアンズが諫め、俺に「ほんとごめんね」と謝ってきた。

「銃を使っちゃいけないって、ジークめちゃ不利じゃん! これは負けたな! どんまい! 代わりに私が勝っておくぜー!」

 始まる前から負け認定して、アリサが慰めてくる。
 ミユやクルスも、「残念だったな」と言いたげな表情だ。
 相手が相手とはいえ、揃いも揃って負け扱いとはな。

「期待を裏切ることになるけど、俺は負ける気なんてさらさらないよ」
「銃が使えるならまだしも、銃なしじゃ流石に辛いっしょー!」
「同感。ジークのことはよく知らないが、ジークといえば銃のイメージがある」
「そのイメージは間違っていないけど、実は剣も使えるんだよなぁ、俺」

 GO時代、最初に作ったキャラは剣士だ。
 当然ながら、そのキャラは剣を使っていた。
 だから、剣の腕には多少の覚えがある。
 剣を振るわなくなって久しいが、ずぶの素人ではない。

「銃と違って疲れるから嫌いなんだけど、仕方がないな」

 やれやれ、人様をなめ腐った金髪クソ野郎に剣術を教えてやるとしますか。
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