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010 銃火器普及計画④
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雷神丘にて。
「ゴブー!」
「ゴッブゴブゴブ!」
ゴブリンズが<AR2>で敵を蹴散らす。
雑魚の掃討は、もはや俺よりも彼らが中心だ。
俺は死角からの奇襲に備える。
「よくやった、後は俺に任せておけ」
「「ゴブッ」」
頂に到着すると、俺の出番がやってくる。
ボス戦だ。
「お前達は、俺が合図しない限り周囲の警戒を徹底していろ」
「「ゴブー!」」
雷神丘のボス、トール・ネオ。
Cランク、つまり70レベルまでお世話になる敵だ。
こいつを狩るには<QBM>を使う。
====================
【名前】
<QBM>クアトロバグミサイル
【タイプ】
その他
【説明】
4種の状態異常効果を強制的に付与する遠距離武器
【必要素材】
1.フリージングの魔法石:7個
2.ポイズンボムの魔法石;7個
3.ブラックボムの魔法石:7個
4.ウィークネスの魔法石:7個
5.鉄材:70個
【攻撃力】
1500×4発
【属性】
土
【耐久度】
2
【ポジティブオプション】
ボスモンスター:ダメージ+100%
状態異常付与:凍結、猛毒、暗闇、衰弱
【ネガティブオプション】
修理不可
一般モンスター:ダメージ-95%
====================
<QBM>は状態異常をメインにした武器だ。
前回使った<HRL2>に比べて火力が低い。
加えて自動追尾機能もないが、取り柄もある。
生産コストが安いことだ。
<HRL2>の材料費は約30万。
一方、<QBM>の材料費は約15万だ。
金に不自由はしていないが、可能な限りは節約する。
いつどこで大金が必要になるか分からないからな。
「自動追尾機能がない分、まずは確実に当てるんだ」
ゴブリンズに説明しながら<QBM>を担ぐ。
この武器も、<HRL>同様に肩で担ぐタイプだ。
一斗缶のような見た目をしていて、四つの弾丸が装填されている。
「百聞は一見に如かずと云う。試しに撃ってみせるよ」
「「ゴブッ」」
俺はトリガーを引き、ミサイルを発射した。
一度の発射で、四つの弾丸が同時に放たれる。
ヒューと音を鳴らし、グネグネとした動き。
しかし、問題なくトール・ネオの胴体に命中した。
胴体は弱点部位ではない。
故に、単発のダメージは約4500。
それが4発で、計1万8000といったところ。
<HRL2>に比べると弱いが、十分に強烈な威力だ。
「ヌォォ……」
トール・ネオがカチコチに固まる。
凍結の状態異常が発動しているのだ。
HPがじわじわと減っているのは猛毒の効果。
その他、暗闇と衰弱の効果も問題なく発動していた。
「こうやって敵を固めたら、落ち着いて次の攻撃を行うわけだ。ただ、ボスは状態異常からすぐに回復するから、凍結しているとはいえ油断できないけどな」
よくある話だが、敵によって状態異常の耐性が異なる。
ボスモンスターは往々にして耐性が高いのだ。
かかってもすぐに回復する奴から、そもそも効かない奴まで。
「はい、これで終了っと」
動かない的に攻撃を当てるのは簡単だ。
スコープを覗き、好みの場所を狙ってトリガーを引くだけ。
そうすれば、風速など関係なく、思い通りに命中する。
第二射は、このようにして顔面に直撃させた。
「レベルアップだ」
トール・ネオが死んだ瞬間、身体が光る。
レベルが42から43に上がったのだ。
――と、思いきや。
「おおっと?」
続けざまに光って44レベルになった。
どこかで誰かが<HRL>を使っているのだろう。
少し得した気分になりながら、俺は帰路についた。
◇
街に着いた時、俺のレベルは45になっていた。
その間に倒した敵の数は3体。
道中で襲い掛かってきた雑魚で、レベルは30前後。
そいつらから得られる経験値なんてまるで美味くない。
レベルが上がったのは、よそ様の経験値よるところが大きい。
「いよいよ始まったか」
銃火器普及計画。
最高効率のレベル上げを実現する計画。
それが、徐々に加速し始めているのだ。
ステータス画面を開く。
レベルアップに必要な経験値を見て呟いた。
「計画通りだ」
何もしていないのに、経験値がガンガン入ってくる。
しかも、よくよく見れば、その勢いは加速していた。
銃火器の使用者が増えているのだ。
<HRL>で稼げる対象は多い。
一撃で倒せる敵だけでも、サイクロプス・ネオを含む数体。
数人がかりで数発ぶち込む前提なら、敵の幅は恐ろしく広がる。
「あっ、また上がった」
<ギルド>に向かう道すがらにもレベルアップ。
驚異的な速度で上がるレベルを眺め、俺は一人ほくそ笑むのであった。
◇
翌日は<ギルド>に篭もりきりだった。
ひっきりなしにレシピの販売を求められたからだ。
「別の属性とかも可能か? 土とか雷とか」
ただ売買するだけではなく、属性変更のオーダーもあった。
属性変更に対応することは、それほど簡単ではない。
属性は、レシピの作成時に自動で決定されるからだ。
具体的には、作成途中にある<使用風景のイメージ>で決まる。
そこで、念じた攻撃に合った属性になる仕組みだ。
ただ、慣れてしまえばどうにでもなる。
そんなわけで、俺は別属性を求める声にも易々と対応した。
というより、元からそういう注文を想定していたのだ。
だから、事前に全属性の<HRL>を用意していた。
「ありがとう! これで益々商売が捗るぜ!」
「頑張ってくれ。嬉しそうな顔を見ると俺も嬉しいよ」
<ギルド>でレシピを捌き続けている間も、レベルは上がっていた。
◇
それから1週間が経過。
この間、街の外に出ることなく、レシピを捌き続けた。
日に日に経験値量は加速し、いよいよ60レベルに到達。
戦わずして得る経験値ほど旨いものはない。
「ジーク、今日もレシピを売ってるのね」
「サナじゃないか、そちらは今日もクエストかい?」
「まぁね」
<ギルド>では、時折サナのPTと会った。
彼女達は、二日に一回だか三日に二回の頻度でクエストをこなしている。
「俺のプレゼントしたレシピは使用しているかい?」
「たまに使うよ。でも、銃火器に頼りすぎると腕が鈍るから、普段は出来る限り使わないようにしているね。街に戻る時とかにちょこっと使うのがメインかな」
「なるほど、それでいいと思うよ」
俺とサナが話している頃――。
「あぁ! もー! この変態ゴブリン!」
「ゴッブゴブゴブ! ゴッブゴブゴブ!」
いつも通り、ゴブおはシノに踏みつけられていた。
◇
それからしばらくが経過。
ついに、<HRL>のレシピが売れなくなってきた。
既にゼロマニア大陸全土に、<HRL>が広まったのだ。
聞いた話によると、しばらく前に模倣品が登場したという。
ただ、質の差から、まるで流行ることはなかったそうだ。
「そろそろ限界だな」
<HRL>が出回ったことは、経験値効率の限界を意味していた。
これまで右肩上がりに加速していた経験値の取得量。
それが、ここ数日は横這いになっていたのだ。
「いよいよ次の商品に手を出すか」
<HRL>はボスモンスターに特化した武器だ。
それの対が、一般モンスターに特化した<AR>である。
<HRL>の限界を確信すると、<AR>の販売を開始した。
◇
<AR>の販売により、再び経験値効率が上昇する。
当然ながら、こちらも全ての属性に対応していた。
おかげで、飛ぶ鳥を落とす勢いでバンバン売れる。
もはや、大半の<冒険者>が俺の武器を使っていた。
雑魚を<AR>で狩り、ボスに<HRL>をぶっ放す。
わずか数週間で、世界の常識が一変したのだ。
時代は激動した。
剣と魔法から、銃火器に。
◇
<AR>の販売が落ち着いた頃、俺のレベルは70になった。
ランクもDからCに昇格だ。
「さて、久しぶりに狩りをするか」
「「ゴブー!」」
塵も積もればなんとやら。
そんな言葉があるけれど、所詮塵は塵だ。
レベル70を超えると、そう感じざるを得なかった。
惰眠を貪るだけでは、レベルが上がらなくなってきたのだ。
というわけで、久々の戦闘に明け暮れようではないか。
「ジークさんだ!」
「<AR>の方もたくさん売れたよ!」
「あんたのおかげでしばらく豪遊できる!」
「オラ、大陸一周の旅に出てきたよ!」
<ギルド>に入るなり、暖かい声が飛んでくる。
最近だといつもこの調子だ。
ロックハートにおいて、俺は誰よりも崇拝されている。
多くの人間が、俺のおかげで荒稼ぎできたからな。
こちらとしても良い思いをさせてもらって感謝だ。
俺の名前は、ゼロマニア大陸の全土に広まっている。
ただ、顔を知っている人間はそれほどいない。
だから、レシピが売れまくりの頃はこんなことがあった。
「銃火器のレシピを売っているジークさんを探しているのですが……」
街を歩いていると、こんな風に声を掛けられたのだ。
容姿を知らないからこその事案である。
ゴブリン連れは珍しいが、皆無というわけではないしな。
さてさて、<ギルド>の受付カウンターに到着だ。
「こんにちは、ジーク様」
「やぁ」
「「ゴブー」」
ギルドには殆ど毎日居たが、受付嬢と話すのは久しぶりだ。
初心に戻ったような、妙な新鮮さを感じられた。
「本日はクエストの受注ですか?」
「そうそう。今日受けたいのは――」
受付嬢に話していたその時。
背後から「ジーク様」と声を掛けられた。
「ん?」
「「ゴブ?」」
俺とゴブリンズが振り返る。
そこには、黒の軍服を纏った男が立っていた。
見た感じ30そこらの男で、威圧的な眼光を放っている。
「ジーク様ですか?」
男が俺を見て尋ねてきた。
「そうだけど、俺に何か用かな?」
「はい。皇帝陛下より、ジーク様を城へお連れするように言われております。ご案内しますので、どうぞこちらへ」
思わず数秒間は固まるような内容だ。
大陸を支配するユリウス帝国の皇帝陛下から、直々の呼び出しとは。
そもそもこの世界の帝国は機能していたのか、とも思った。
GO時代は設定だけの存在で、完全に形骸化されていたからな。
「いや、いきなり言われても困るよ」
今は頭が混乱気味だ。
だから、落ち着く為にも後日に改めてもらおうとした。
「はっ? 城へお連れするよう、皇・帝・陛・下より言われております」
男は“皇帝陛下”という言葉をこの上なく協調した。
どうやら、俺に拒否権はないようだ。
「すげぇぜ! ジークさん!」
「皇帝陛下からの呼び出しとか半端ねぇ!」
「やっぱりジークさんはこの街の英雄だ!」
ビクビクする俺とは違い、周囲は賑やかなものだ。
「分かった。行くよ、行けばいいんだろ」
「ではご案内いたしますので、こちらへどうぞ」
「へいへい」
もうどうにでもなれ。
心の中でそう呟きながら、俺は男に続いた。
「ゴブー!」
「ゴッブゴブゴブ!」
ゴブリンズが<AR2>で敵を蹴散らす。
雑魚の掃討は、もはや俺よりも彼らが中心だ。
俺は死角からの奇襲に備える。
「よくやった、後は俺に任せておけ」
「「ゴブッ」」
頂に到着すると、俺の出番がやってくる。
ボス戦だ。
「お前達は、俺が合図しない限り周囲の警戒を徹底していろ」
「「ゴブー!」」
雷神丘のボス、トール・ネオ。
Cランク、つまり70レベルまでお世話になる敵だ。
こいつを狩るには<QBM>を使う。
====================
【名前】
<QBM>クアトロバグミサイル
【タイプ】
その他
【説明】
4種の状態異常効果を強制的に付与する遠距離武器
【必要素材】
1.フリージングの魔法石:7個
2.ポイズンボムの魔法石;7個
3.ブラックボムの魔法石:7個
4.ウィークネスの魔法石:7個
5.鉄材:70個
【攻撃力】
1500×4発
【属性】
土
【耐久度】
2
【ポジティブオプション】
ボスモンスター:ダメージ+100%
状態異常付与:凍結、猛毒、暗闇、衰弱
【ネガティブオプション】
修理不可
一般モンスター:ダメージ-95%
====================
<QBM>は状態異常をメインにした武器だ。
前回使った<HRL2>に比べて火力が低い。
加えて自動追尾機能もないが、取り柄もある。
生産コストが安いことだ。
<HRL2>の材料費は約30万。
一方、<QBM>の材料費は約15万だ。
金に不自由はしていないが、可能な限りは節約する。
いつどこで大金が必要になるか分からないからな。
「自動追尾機能がない分、まずは確実に当てるんだ」
ゴブリンズに説明しながら<QBM>を担ぐ。
この武器も、<HRL>同様に肩で担ぐタイプだ。
一斗缶のような見た目をしていて、四つの弾丸が装填されている。
「百聞は一見に如かずと云う。試しに撃ってみせるよ」
「「ゴブッ」」
俺はトリガーを引き、ミサイルを発射した。
一度の発射で、四つの弾丸が同時に放たれる。
ヒューと音を鳴らし、グネグネとした動き。
しかし、問題なくトール・ネオの胴体に命中した。
胴体は弱点部位ではない。
故に、単発のダメージは約4500。
それが4発で、計1万8000といったところ。
<HRL2>に比べると弱いが、十分に強烈な威力だ。
「ヌォォ……」
トール・ネオがカチコチに固まる。
凍結の状態異常が発動しているのだ。
HPがじわじわと減っているのは猛毒の効果。
その他、暗闇と衰弱の効果も問題なく発動していた。
「こうやって敵を固めたら、落ち着いて次の攻撃を行うわけだ。ただ、ボスは状態異常からすぐに回復するから、凍結しているとはいえ油断できないけどな」
よくある話だが、敵によって状態異常の耐性が異なる。
ボスモンスターは往々にして耐性が高いのだ。
かかってもすぐに回復する奴から、そもそも効かない奴まで。
「はい、これで終了っと」
動かない的に攻撃を当てるのは簡単だ。
スコープを覗き、好みの場所を狙ってトリガーを引くだけ。
そうすれば、風速など関係なく、思い通りに命中する。
第二射は、このようにして顔面に直撃させた。
「レベルアップだ」
トール・ネオが死んだ瞬間、身体が光る。
レベルが42から43に上がったのだ。
――と、思いきや。
「おおっと?」
続けざまに光って44レベルになった。
どこかで誰かが<HRL>を使っているのだろう。
少し得した気分になりながら、俺は帰路についた。
◇
街に着いた時、俺のレベルは45になっていた。
その間に倒した敵の数は3体。
道中で襲い掛かってきた雑魚で、レベルは30前後。
そいつらから得られる経験値なんてまるで美味くない。
レベルが上がったのは、よそ様の経験値よるところが大きい。
「いよいよ始まったか」
銃火器普及計画。
最高効率のレベル上げを実現する計画。
それが、徐々に加速し始めているのだ。
ステータス画面を開く。
レベルアップに必要な経験値を見て呟いた。
「計画通りだ」
何もしていないのに、経験値がガンガン入ってくる。
しかも、よくよく見れば、その勢いは加速していた。
銃火器の使用者が増えているのだ。
<HRL>で稼げる対象は多い。
一撃で倒せる敵だけでも、サイクロプス・ネオを含む数体。
数人がかりで数発ぶち込む前提なら、敵の幅は恐ろしく広がる。
「あっ、また上がった」
<ギルド>に向かう道すがらにもレベルアップ。
驚異的な速度で上がるレベルを眺め、俺は一人ほくそ笑むのであった。
◇
翌日は<ギルド>に篭もりきりだった。
ひっきりなしにレシピの販売を求められたからだ。
「別の属性とかも可能か? 土とか雷とか」
ただ売買するだけではなく、属性変更のオーダーもあった。
属性変更に対応することは、それほど簡単ではない。
属性は、レシピの作成時に自動で決定されるからだ。
具体的には、作成途中にある<使用風景のイメージ>で決まる。
そこで、念じた攻撃に合った属性になる仕組みだ。
ただ、慣れてしまえばどうにでもなる。
そんなわけで、俺は別属性を求める声にも易々と対応した。
というより、元からそういう注文を想定していたのだ。
だから、事前に全属性の<HRL>を用意していた。
「ありがとう! これで益々商売が捗るぜ!」
「頑張ってくれ。嬉しそうな顔を見ると俺も嬉しいよ」
<ギルド>でレシピを捌き続けている間も、レベルは上がっていた。
◇
それから1週間が経過。
この間、街の外に出ることなく、レシピを捌き続けた。
日に日に経験値量は加速し、いよいよ60レベルに到達。
戦わずして得る経験値ほど旨いものはない。
「ジーク、今日もレシピを売ってるのね」
「サナじゃないか、そちらは今日もクエストかい?」
「まぁね」
<ギルド>では、時折サナのPTと会った。
彼女達は、二日に一回だか三日に二回の頻度でクエストをこなしている。
「俺のプレゼントしたレシピは使用しているかい?」
「たまに使うよ。でも、銃火器に頼りすぎると腕が鈍るから、普段は出来る限り使わないようにしているね。街に戻る時とかにちょこっと使うのがメインかな」
「なるほど、それでいいと思うよ」
俺とサナが話している頃――。
「あぁ! もー! この変態ゴブリン!」
「ゴッブゴブゴブ! ゴッブゴブゴブ!」
いつも通り、ゴブおはシノに踏みつけられていた。
◇
それからしばらくが経過。
ついに、<HRL>のレシピが売れなくなってきた。
既にゼロマニア大陸全土に、<HRL>が広まったのだ。
聞いた話によると、しばらく前に模倣品が登場したという。
ただ、質の差から、まるで流行ることはなかったそうだ。
「そろそろ限界だな」
<HRL>が出回ったことは、経験値効率の限界を意味していた。
これまで右肩上がりに加速していた経験値の取得量。
それが、ここ数日は横這いになっていたのだ。
「いよいよ次の商品に手を出すか」
<HRL>はボスモンスターに特化した武器だ。
それの対が、一般モンスターに特化した<AR>である。
<HRL>の限界を確信すると、<AR>の販売を開始した。
◇
<AR>の販売により、再び経験値効率が上昇する。
当然ながら、こちらも全ての属性に対応していた。
おかげで、飛ぶ鳥を落とす勢いでバンバン売れる。
もはや、大半の<冒険者>が俺の武器を使っていた。
雑魚を<AR>で狩り、ボスに<HRL>をぶっ放す。
わずか数週間で、世界の常識が一変したのだ。
時代は激動した。
剣と魔法から、銃火器に。
◇
<AR>の販売が落ち着いた頃、俺のレベルは70になった。
ランクもDからCに昇格だ。
「さて、久しぶりに狩りをするか」
「「ゴブー!」」
塵も積もればなんとやら。
そんな言葉があるけれど、所詮塵は塵だ。
レベル70を超えると、そう感じざるを得なかった。
惰眠を貪るだけでは、レベルが上がらなくなってきたのだ。
というわけで、久々の戦闘に明け暮れようではないか。
「ジークさんだ!」
「<AR>の方もたくさん売れたよ!」
「あんたのおかげでしばらく豪遊できる!」
「オラ、大陸一周の旅に出てきたよ!」
<ギルド>に入るなり、暖かい声が飛んでくる。
最近だといつもこの調子だ。
ロックハートにおいて、俺は誰よりも崇拝されている。
多くの人間が、俺のおかげで荒稼ぎできたからな。
こちらとしても良い思いをさせてもらって感謝だ。
俺の名前は、ゼロマニア大陸の全土に広まっている。
ただ、顔を知っている人間はそれほどいない。
だから、レシピが売れまくりの頃はこんなことがあった。
「銃火器のレシピを売っているジークさんを探しているのですが……」
街を歩いていると、こんな風に声を掛けられたのだ。
容姿を知らないからこその事案である。
ゴブリン連れは珍しいが、皆無というわけではないしな。
さてさて、<ギルド>の受付カウンターに到着だ。
「こんにちは、ジーク様」
「やぁ」
「「ゴブー」」
ギルドには殆ど毎日居たが、受付嬢と話すのは久しぶりだ。
初心に戻ったような、妙な新鮮さを感じられた。
「本日はクエストの受注ですか?」
「そうそう。今日受けたいのは――」
受付嬢に話していたその時。
背後から「ジーク様」と声を掛けられた。
「ん?」
「「ゴブ?」」
俺とゴブリンズが振り返る。
そこには、黒の軍服を纏った男が立っていた。
見た感じ30そこらの男で、威圧的な眼光を放っている。
「ジーク様ですか?」
男が俺を見て尋ねてきた。
「そうだけど、俺に何か用かな?」
「はい。皇帝陛下より、ジーク様を城へお連れするように言われております。ご案内しますので、どうぞこちらへ」
思わず数秒間は固まるような内容だ。
大陸を支配するユリウス帝国の皇帝陛下から、直々の呼び出しとは。
そもそもこの世界の帝国は機能していたのか、とも思った。
GO時代は設定だけの存在で、完全に形骸化されていたからな。
「いや、いきなり言われても困るよ」
今は頭が混乱気味だ。
だから、落ち着く為にも後日に改めてもらおうとした。
「はっ? 城へお連れするよう、皇・帝・陛・下より言われております」
男は“皇帝陛下”という言葉をこの上なく協調した。
どうやら、俺に拒否権はないようだ。
「すげぇぜ! ジークさん!」
「皇帝陛下からの呼び出しとか半端ねぇ!」
「やっぱりジークさんはこの街の英雄だ!」
ビクビクする俺とは違い、周囲は賑やかなものだ。
「分かった。行くよ、行けばいいんだろ」
「ではご案内いたしますので、こちらへどうぞ」
「へいへい」
もうどうにでもなれ。
心の中でそう呟きながら、俺は男に続いた。
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