上 下
10 / 33

010 銃火器普及計画④

しおりを挟む
 雷神丘にて。

「ゴブー!」
「ゴッブゴブゴブ!」

 ゴブリンズが<AR2>で敵を蹴散らす。
 雑魚の掃討は、もはや俺よりも彼らが中心だ。
 俺は死角からの奇襲に備える。

「よくやった、後は俺に任せておけ」
「「ゴブッ」」

 頂に到着すると、俺の出番がやってくる。
 ボス戦だ。

「お前達は、俺が合図しない限り周囲の警戒を徹底していろ」
「「ゴブー!」」

 雷神丘のボス、トール・ネオ。
 Cランク、つまり70レベルまでお世話になる敵だ。
 こいつを狩るには<QBMクワトロバグミサイル>を使う。

====================
【名前】
<QBM>クアトロバグミサイル

【タイプ】
その他

【説明】
4種の状態異常効果を強制的に付与する遠距離武器

【必要素材】
1.フリージングの魔法石:7個
2.ポイズンボムの魔法石;7個
3.ブラックボムの魔法石:7個
4.ウィークネスの魔法石:7個
5.鉄材:70個

【攻撃力】
1500×4発

【属性】


【耐久度】


【ポジティブオプション】
ボスモンスター:ダメージ+100%
状態異常付与:凍結、猛毒、暗闇、衰弱

【ネガティブオプション】
修理不可
一般モンスター:ダメージ-95%
====================

 <QBM>は状態異常をメインにした武器だ。
 前回使った<HRL2>に比べて火力が低い。
 加えて自動追尾機能もないが、取り柄もある。

 生産コストが安いことだ。
 <HRL2>の材料費は約30万。
 一方、<QBM>の材料費は約15万だ。
 金に不自由はしていないが、可能な限りは節約する。
 いつどこで大金が必要になるか分からないからな。

「自動追尾機能がない分、まずは確実に当てるんだ」

 ゴブリンズに説明しながら<QBM>を担ぐ。
 この武器も、<HRL>同様に肩で担ぐタイプだ。
 一斗缶のような見た目をしていて、四つの弾丸が装填されている。

「百聞は一見に如かずと云う。試しに撃ってみせるよ」
「「ゴブッ」」

 俺はトリガーを引き、ミサイルを発射した。
 一度の発射で、四つの弾丸が同時に放たれる。
 ヒューと音を鳴らし、グネグネとした動き。
 しかし、問題なくトール・ネオの胴体に命中した。

 胴体は弱点部位ではない。
 故に、単発のダメージは約4500。
 それが4発で、計1万8000といったところ。
 <HRL2>に比べると弱いが、十分に強烈な威力だ。

「ヌォォ……」

 トール・ネオがカチコチに固まる。
 凍結の状態異常が発動しているのだ。
 HPがじわじわと減っているのは猛毒の効果。
 その他、暗闇と衰弱の効果も問題なく発動していた。

「こうやって敵を固めたら、落ち着いて次の攻撃を行うわけだ。ただ、ボスは状態異常からすぐに回復するから、凍結しているとはいえ油断できないけどな」

 よくある話だが、敵によって状態異常の耐性が異なる。
 ボスモンスターは往々にして耐性が高いのだ。
 かかってもすぐに回復する奴から、そもそも効かない奴まで。

「はい、これで終了っと」

 動かない的に攻撃を当てるのは簡単だ。
 スコープを覗き、好みの場所を狙ってトリガーを引くだけ。
 そうすれば、風速など関係なく、思い通りに命中する。
 第二射は、このようにして顔面に直撃させた。

「レベルアップだ」

 トール・ネオが死んだ瞬間、身体が光る。
 レベルが42から43に上がったのだ。
 ――と、思いきや。

「おおっと?」

 続けざまに光って44レベルになった。
 どこかで誰かが<HRL>を使っているのだろう。
 少し得した気分になりながら、俺は帰路についた。

 ◇

 街に着いた時、俺のレベルは45になっていた。
 その間に倒した敵の数は3体。
 道中で襲い掛かってきた雑魚で、レベルは30前後。
 そいつらから得られる経験値なんてまるで美味くない。
 レベルが上がったのは、よそ様の経験値よるところが大きい。

「いよいよ始まったか」

 銃火器普及計画。
 最高効率のレベル上げを実現する計画。
 それが、徐々に加速し始めているのだ。

 ステータス画面を開く。
 レベルアップに必要な経験値を見て呟いた。

「計画通りだ」

 何もしていないのに、経験値がガンガン入ってくる。
 しかも、よくよく見れば、その勢いは加速していた。
 銃火器の使用者が増えているのだ。

 <HRL>で稼げる対象は多い。
 一撃で倒せる敵だけでも、サイクロプス・ネオを含む数体。
 数人がかりで数発ぶち込む前提なら、敵の幅は恐ろしく広がる。

「あっ、また上がった」

 <ギルド>に向かう道すがらにもレベルアップ。
 驚異的な速度で上がるレベルを眺め、俺は一人ほくそ笑むのであった。

 ◇

 翌日は<ギルド>に篭もりきりだった。
 ひっきりなしにレシピの販売を求められたからだ。

「別の属性とかも可能か? 土とか雷とか」

 ただ売買するだけではなく、属性変更のオーダーもあった。

 属性変更に対応することは、それほど簡単ではない。
 属性は、レシピの作成時に自動で決定されるからだ。
 具体的には、作成途中にある<使用風景のイメージ>で決まる。
 そこで、念じた攻撃に合った属性になる仕組みだ。
 ただ、慣れてしまえばどうにでもなる。

 そんなわけで、俺は別属性を求める声にも易々と対応した。
 というより、元からそういう注文を想定していたのだ。
 だから、事前に全属性の<HRL>を用意していた。

「ありがとう! これで益々商売が捗るぜ!」
「頑張ってくれ。嬉しそうな顔を見ると俺も嬉しいよ」

 <ギルド>でレシピを捌き続けている間も、レベルは上がっていた。

 ◇

 それから1週間が経過。
 この間、街の外に出ることなく、レシピを捌き続けた。
 日に日に経験値量は加速し、いよいよ60レベルに到達。
 戦わずして得る経験値ほど旨いものはない。

「ジーク、今日もレシピを売ってるのね」
「サナじゃないか、そちらは今日もクエストかい?」
「まぁね」

 <ギルド>では、時折サナのPTと会った。
 彼女達は、二日に一回だか三日に二回の頻度でクエストをこなしている。

「俺のプレゼントしたレシピは使用しているかい?」
「たまに使うよ。でも、銃火器に頼りすぎると腕が鈍るから、普段は出来る限り使わないようにしているね。街に戻る時とかにちょこっと使うのがメインかな」
「なるほど、それでいいと思うよ」

 俺とサナが話している頃――。

「あぁ! もー! この変態ゴブリン!」
「ゴッブゴブゴブ! ゴッブゴブゴブ!」

 いつも通り、ゴブおはシノに踏みつけられていた。

 ◇

 それからしばらくが経過。
 ついに、<HRL>のレシピが売れなくなってきた。
 既にゼロマニア大陸全土に、<HRL>が広まったのだ。
 聞いた話によると、しばらく前に模倣品が登場したという。
 ただ、質の差から、まるで流行ることはなかったそうだ。

「そろそろ限界だな」

 <HRL>が出回ったことは、経験値効率の限界を意味していた。
 これまで右肩上がりに加速していた経験値の取得量。
 それが、ここ数日は横這いになっていたのだ。

「いよいよ次の商品に手を出すか」

 <HRL>はボスモンスターに特化した武器だ。
 それの対が、一般モンスターに特化した<AR>である。

 <HRL>の限界を確信すると、<AR>の販売を開始した。

 ◇

 <AR>の販売により、再び経験値効率が上昇する。
 当然ながら、こちらも全ての属性に対応していた。
 おかげで、飛ぶ鳥を落とす勢いでバンバン売れる。

 もはや、大半の<冒険者>が俺の武器を使っていた。
 雑魚を<AR>で狩り、ボスに<HRL>をぶっ放す。
 わずか数週間で、世界の常識が一変したのだ。

 時代は激動した。
 剣と魔法から、銃火器に。

 ◇

 <AR>の販売が落ち着いた頃、俺のレベルは70になった。
 ランクもDからCに昇格だ。

「さて、久しぶりに狩りをするか」
「「ゴブー!」」

 塵も積もればなんとやら。
 そんな言葉があるけれど、所詮塵は塵だ。
 レベル70を超えると、そう感じざるを得なかった。
 惰眠を貪るだけでは、レベルが上がらなくなってきたのだ。
 というわけで、久々の戦闘に明け暮れようではないか。

「ジークさんだ!」
「<AR>の方もたくさん売れたよ!」
「あんたのおかげでしばらく豪遊できる!」
「オラ、大陸一周の旅に出てきたよ!」

 <ギルド>に入るなり、暖かい声が飛んでくる。
 最近だといつもこの調子だ。
 ロックハートにおいて、俺は誰よりも崇拝されている。
 多くの人間が、俺のおかげで荒稼ぎできたからな。
 こちらとしても良い思いをさせてもらって感謝だ。

 俺の名前は、ゼロマニア大陸の全土に広まっている。
 ただ、顔を知っている人間はそれほどいない。
 だから、レシピが売れまくりの頃はこんなことがあった。

「銃火器のレシピを売っているジークさんを探しているのですが……」

 街を歩いていると、こんな風に声を掛けられたのだ。
 容姿を知らないからこその事案である。
 ゴブリン連れは珍しいが、皆無というわけではないしな。

 さてさて、<ギルド>の受付カウンターに到着だ。

「こんにちは、ジーク様」
「やぁ」
「「ゴブー」」

 ギルドには殆ど毎日居たが、受付嬢と話すのは久しぶりだ。
 初心に戻ったような、妙な新鮮さを感じられた。

「本日はクエストの受注ですか?」
「そうそう。今日受けたいのは――」

 受付嬢に話していたその時。
 背後から「ジーク様」と声を掛けられた。

「ん?」
「「ゴブ?」」

 俺とゴブリンズが振り返る。
 そこには、黒の軍服を纏った男が立っていた。
 見た感じ30そこらの男で、威圧的な眼光を放っている。

「ジーク様ですか?」

 男が俺を見て尋ねてきた。

「そうだけど、俺に何か用かな?」
「はい。皇帝陛下より、ジーク様を城へお連れするように言われております。ご案内しますので、どうぞこちらへ」

 思わず数秒間は固まるような内容だ。
 大陸を支配するユリウス帝国の皇帝陛下から、直々の呼び出しとは。
 そもそもこの世界の帝国は機能していたのか、とも思った。
 GO時代は設定だけの存在で、完全に形骸化されていたからな。

「いや、いきなり言われても困るよ」

 今は頭が混乱気味だ。
 だから、落ち着く為にも後日に改めてもらおうとした。

「はっ? 城へお連れするよう、皇・帝・陛・下より言われております」

 男は“皇帝陛下”という言葉をこの上なく協調した。
 どうやら、俺に拒否権はないようだ。

「すげぇぜ! ジークさん!」
「皇帝陛下からの呼び出しとか半端ねぇ!」
「やっぱりジークさんはこの街の英雄だ!」

 ビクビクする俺とは違い、周囲は賑やかなものだ。

「分かった。行くよ、行けばいいんだろ」
「ではご案内いたしますので、こちらへどうぞ」
「へいへい」

 もうどうにでもなれ。
 心の中でそう呟きながら、俺は男に続いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています

テツみン
ファンタジー
 二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。  七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。  しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……  なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。  当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。  そこは都市国家連合。異世界だったのだ!  彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。  彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……  ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。 *60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。  『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...