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007 銃火器普及計画①

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 らいじんきゅう
 ロックハートの北北東にある、敵レベルが45から50のエリアだ。
 俺達一行は、そこに向けて歩を進めていた。

「シノ!」
「任せてください! やあッ!」
「キェェェ……」

 道すがら、襲ってきたグレムリンを倒す。
 ゴブリンと同じような背丈をした、鋭い爪が特徴的な雑魚だ。

「お見事」
「ふふ、ありがとうね」

 <雷神丘>までの戦闘は、サナ達三人が引き受ける。
 俺の役目は、<雷神丘>に棲息するモンスターの殲滅だ。

「ジークには<雷神丘>で大暴れしてもらうから、道中の敵は私達が倒すよ」

 そう、サナが言ったのが理由だ。
 俺は「別に気にしない」と言ったのだが、意見は変わらなかった。
 まぁ、代わりに戦ってくれるというのなら願ったり叶ったりだ。
 同じPTなので、サナ達が倒した敵の経験値も入ってくる。
 働かずして得る経験値ほど旨いものもそうはあるまい。

「かなり息の合った動きだけど、三人は組むようになってから長いの?」
「ミユとは三年、シノとはもうすぐで二年かな」
「なるほど」

 サナ達の連携には素直に舌を巻いた。
 組んで二・三年という話が信じられないくらいだ。

 彼女達の戦い方は徹底したチームプレーだ。
 サナが敵を引き付け、シノが仕留める。ミユは攻撃と支援の両方を担う。

 チーム力もさることながら、個々の強さも悪くない。
 特筆すべきはリーダーのサナだ。
 彼女は、敵の攻撃を一手に受けるという、下手をすれば重傷は避けられない危険な役割を軽々とこなしている。その動きは、年がら年中GO漬けだった俺すらも凌駕するレベルだった。

「<守護者>のスキルがあるとはいえ、仲間を守る壁を務めるのは怖いだろ。よくやっていけるな」
「私が敵を押さえたら、二人が絶対に仕留めてくれるからね。信頼の賜物よ」

 <守護者>のスキルは、守りに特化している。
 敵の攻撃を無効化したり、弾き返したりすることが可能だ。
 GOでは人気の職業だったが、この世界では少なかった。
 理由は明白だ。GOと違って、死ぬと終わりだからである。

「あ、あの……」

 唐突にそう言ったのはミユだ。
 杖を両手で持ち、遠慮がちにこちらを見ている。
 サナ曰く「相当な人見知り」とのことだ。

「どうかした?」
「その、ゴブリン達が持っている武器は、どのように使うのですか?」

 彼女が言っているのは<AR>のこと。
 正確には<AR2>だ。街を発つ前、<雷神丘>に合わせてアップグレードした。

====================
【名前】
<AR2>アサルトライフル2

【タイプ】
その他

【説明】
高い連射速度が特徴の遠距離武器

【必要素材】
1.アースクエイクの魔法石:3個
2.鉄材:50個

【攻撃力】
50×100発

【属性】


【耐久度】


【ポジティブオプション】
一般モンスター:ダメージ+50%

【ネガティブオプション】
修理不可
ボスモンスター:ダメージ-50%
====================

 見た目はそのままに、火力面を強化している。
 また、ダメージ属性を火から土に変更した。
 <雷神丘>の敵が土属性を苦手としているからだ。

「<AR>の使い方は――」

 俺が説明しようとした時、「駄目駄目」とサナがストップした。

「それは<雷神丘>に到着してからのお楽しみよ」

 ミユが「すいません」と頭をペコリ。

「シノならともかく、ミユにしては珍しいわね。銃火器……だっけ? この武器がよほど気になるわけだ?」
「はい、見た目からはまるで想像もできないので……」
「たしかにねー。遠距離武器みたいだけど、私にもさっぱり」

 シノが「ワクワクしますね!」と言うと、サナとミユは強く頷いた。

「期待に応えられる代物かは分からないけど、こいつらが戦力として十二分に機能することは証明してみせるよ」

 この世界の人間は、銃火器自体を知らない。
 故に、<AR>を見ても何が何やら分からないのだ。

 銃撃模様は、三人に相当な衝撃を与えるだろう。
 その結果、彼女達は銃火器普及の良い広告塔になるはずだ。

「見えてきたわ、あれが<雷神丘>よ」

 サナが前方を指す。
 丘と云うには高く、山と云うには低い場所<雷神丘>。
 棲息しているモンスターは“トール”と呼ばれる大男だ。
 頂にはボスの“トール・ネオ”が棲息している。
 今回受注したクエストは、トール・ネオを討伐するものだ。
 報酬は100万。四人PTなので、一人当たり25万だ。

「さて、ここからは俺の出番だな」

 俺はインベントリから<AR2>を取り出した。

 ◇

 <雷神丘>に着くなり隊列を変更する。
 これまではサナ達三人が前で、俺達三人が後ろだった。
 前後をそっくりそのまま交代する。

「本当に私達は見学していていいの?」

 サナが最終確認をしてくる。
 俺は「問題ないよ」と答えた。
 ただ、万が一に備えて付け加えておく。

「俺達がピンチだと判断したら助太刀してくれ」
「了解、そうならないで済むように期待しているわ」

 丘を登り始めてすぐ、前方に敵の背中を視認した。

====================
【名前】トール
【レベル】40
【HP】1300
====================

 一般モンスターのトールだ。
 オークと同じくらいの背丈で、右手にハンマーを持っている。
 レベルはゴブリンズと同じだが、ゴブリンズよりもHPが高い。
 図体が大きいからだろう。
 ちなみに、ゴブリンズのHPは共に550しかない。

「いつも通りいくぞ、ゴブリンズ」
「「ゴブッ!」」

 ゴブちゃんとゴブおが銃を構える。
 トリガーに人差し指をかけ、いつでも発射できる態勢だ。

「そうやって構えるんだ」
「先端から何か発射される仕組みなのでしょうか」
「楽しみですね!」

 サナ達は興味津々と云った様子。
 俺は気にすることなく、じわじわとトールに距離を詰めた。

「よし、仕掛けるか」
「えっ、ここから攻撃を開始するの?」
「そうだよ」

 トールとの距離は約30メートル。
 サナ達には信じられない遠さのようだ。
 三人の目はキラキラと輝いていた。

「射撃開始!」
「「ゴブーッ!」」

 俺達はトリガーを引いた。
 <AR2>が火ならぬ土を噴く。
 銃弾の形をした土がトールを襲う。

「「ヌォ?」」

 トールが振り向く。
 一体は、振り向いた直後に死滅した。

「ヌォ!」

 もう一体がハンマーを振るう。
 ハンマーの先端から雷が放出された。
 しかし、こちらには届かない。
 トールの攻撃は強烈だが、射程は短いのだ。

「灰になるまで撃ちまくれ!」
「ゴブーッ!」
「ゴッブゴブー!」

 二体目のトールもすぐに絶命した。
 強化された<AR>で攻撃を集中させたのだから当然だ。

「――とまぁ、こんな感じだな」

 鮮やかにトールを倒し、ふぅと息をつく。
 初めての銃撃を目の当たりにした三人の反応は――。

「し、信じられない……」
「二体のトールがあっという間に……」
「うわぁぁぁ、すごいです! すごすぎです!」

 驚愕のあまりポカンとするサナとミユ。
 シノだけは、声を弾ませ大興奮。
 どちらも想像通りの反応だ。

「俺は<テイミング>に振った1ポイント以外、全てのSPを<その他の作成>に注いでいるからね。武器の質だけで云えば、サナにだって引けを取らない自信があるぜ」
「火力もそうだけど、何より使い勝手の良さが段違いね。射程に加えて、命中精度もかなり高い。見た感じ、弓よりも遥かに手軽そうね」
「だな。ゴブリンズですら、すぐに使いこなせるようになったよ」
「これが……銃火器……。戦闘の常識が根本から覆された気分だわ」

 サナは驚きのあまり笑っていた。
 他の二人も良い感じに驚愕しているし満足だ。

「この調子でサクサク行こうか。ボスのトール・ネオと戦うときは、<AR>よりも更に衝撃的な銃火器をお見せするよ」

 <AR>でこれなら、<HRL>を見るとぶっ飛びそうだな。
 俺はワクワクしながらトールを駆逐していった。

 ◇

 何の問題もなく頂に到着する。
 そこには、討伐対象のボスモンスターが待っていた。

 ====================
【名前】トール・ネオ
【レベル】49
【HP】29000
====================

 全長五メートル級の巨人“トール・ネオ”。
 このレベル帯では最強クラスのモンスターだ。
 弱点部位は背中と顔だが、背中を殴るのが一般的、且つ現実的。

「本当に一人で大丈夫? 私が引き付けようか?」

 サナが訊いてくる。
 俺は「問題ないよ」と即答した。

 こうやって悠長に話せるのは、敵が仕掛けてこないからだ。
 トール・ネオは、こちらから仕掛けるまで仕掛けてこない。
 その仕様は、この世界でも変わりなかった。

 ただ、こいつのHPはずば抜けて高く設定されている。
 同レベル帯のボスの中でも頭一つどころか三つは抜けた高さだ。
 こいつの次に高い奴でさえ2万もない。
 先制パンチを譲ってくれることを勘案しても尚、最強クラスなのだ。

「なんせ一撃で終わるからな」

 俺は<AR2>を戻し、新たな武器を取り出した。
 販促用で作った<HRL>の強化版、<HRL2>だ。

====================
【名前】
<HRL2>ホーミングロケットランチャー2

【タイプ】
その他

【説明】
自動追尾機能の付いた遠距離武器

【必要素材】
1.クリティカルアローの魔法石:10個
2.ロックバスターの魔法石:20個
3.鉄材:200個

【攻撃力】
10000×1発

【属性】


【耐久度】


【ポジティブオプション】
自動追尾機能
ボスモンスター:ダメージ+100%

【ネガティブオプション】
修理不可
一般モンスター:ダメージ-95%
====================

 こいつの生産コストは約30万。
 今回の報酬25万よりも高い。つまり赤字だ。
 ただ、販促用で今後使う気はないので問題なかった。

 俺はしばらくこの場所に通うつもりだが、武器は別の物を用いる。
 <HRL2>は生産コストが高すぎるからだ。
 ソロで通うなら、<HRL2>でも黒字だから問題ないけどね。

「今度はえらく大きな武器ね」
「すごい威圧感です」
「肩に担いで使う武器とか初めて見ましたです!」

 三人が<HRL2>のデザインに驚愕している。
 俺は「見た目だけじゃないぜ」と性能をアピールした。

「この武器には自動追尾機能が付いているんだ。アーチャーのスキル<クリティカルアロー>と同じような動きをイメージしてもらうと分かりやすい。ただ、あのスキルは絶対命中だが、<HRL2>は外れることもあるけど」

 ここぞとばかりに説明をした後、<HRL2>を構える。
 スコープを覗き、敵の大きな顔面に狙いを定めた。
 ロックオンを完了する「ピッ」の音に、サナが反応する。

「今、何か音がしなかった?」
「ああ、これは自動追尾の対象が決まった時になる音。俺が覗いているコレがスコープって云うのだけど、コレで1秒程覗き続けるとロックオンできる仕組みなんだ。あとは、<AR2>の時みたくトリガーを引けば弾丸が発射されて、トール・ネオの顔面を追いかけるよ」
「なるほど、面白い仕組みね」

 他に説明もないみたいなので、俺はもったいぶらずに発射した。
 トリガーを引くなり、爆音と共に銃弾が宙を舞う。
 弾丸は、ボウリング玉のような大きさをした土の塊だ。

「ヌゥオァ!」

 俺が攻撃を開始したことで、トール・ネオも動きを開始する。
 咆哮し、ハンマーを振り上げながら突っ込んできたのだ。
 しかし、次の瞬間には<HRL2>の弾丸が顔面を捉えた。

「素の攻撃力1万に、弱点となる属性と部位、それにポジティブオプションで+100%。直撃によるダメージは量は4万。文句なしに即死だ」

 驚異的なHPを誇るボスも、<HRL2>の前では雑魚だった。
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