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001 確認がてらにゴブリンをフルボッコ
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二日前、中世ヨーロッパみたいな世界が舞台のVRMMORPG『ガルデニアオンライン』――通称“GO”で遊んでいた俺は、ゲームにそっくりな世界へ強制的に転移した。
具体的にどのタイミングで転移したのかは分からないが、おそらく死亡回数五万回の実績を解除した時と思われる。
街へ戻ってきてすぐ、いつもと違う雰囲気に気が付いた。
転移したことを確信したのは、それから数十分後のことだ。
きっかけはログアウト出来なくなっていたこと。
そもそも、ログアウトというボタンがなくなっていたのだ。
その他にも、痛覚に変化があった。
試しに肌をつねると、極めてリアルな痛みが。
次いで、<治療師>がいなくなっていた。
GOは仕様上、かなり死にやすいゲームだ。
その為なのか、死亡時のペナルティ――通称“デスペナ”は他のゲームに比べて緩いもので、数時間で回復する一時的なステータスダウンだった。
このデスペナをなくしてくれるのが、<治療師>と呼ばれるNPCだ。
寄付という名目で金を支払うと、神の加護という名目でデスペナを即時に終了させてくれる。
故に、多くのプレイヤーが<治療師>に寄付していた。
「GO? なんだそれ?」
「ログアウトって何?」
「<リザレクション>なんてスキルはないよ」
街の中を走り回り、手当たり次第に話しかけた。
その結果、俺はGOに酷似した世界へ来たと確信したわけだ。
それが転移初日の話である。
二日目の早朝、自分のデータが初期化されていることに気づいた。
レベル980だったはずが、今ではレベル1に戻っているのだ。
相棒だったレベル950のゴブリン2体も見当たらない。
当然ながら、所持金や所持品も初期化されていた。
消えていないのは、防具――通称“アバター装備”だけだ。
俺のアバター装備は、真紅のジャケットに黒のシャツという、大しておしゃれでもないもの。
「レベル1……。やれやれ、下がっちまったもんは仕方ないな」
元々ゲームに人生を賭けていた身だ。
レベルが1になったところで、また上げ直せばいい。
そう悲観的になることもなく、この日は街を探索した。
世界の仕様を確認する為だ。
――その結果、驚いて、喜んで、最後に絶望した。
驚いたのは、NPCが完全な人間になっていることだ。
GOにおけるNPCは、見た目こそ人間だったが、口を開けば定型文しか話さないポンコツロボットだった。
セクハラを働いても怒らないので、一部の変態プレイヤーが若い女NPCによく絡んでいたものだ。
ところがこの世界では、誰もが人間レベルの会話が可能である。
それに、喜怒哀楽の感情もしっかり備わっていた。
これはもはやNPCではなく、れっきとした人間だ。
喜んだのは、基本的な仕様がGOと変わりなかったことだ。
つまり、“GOで培ったあらゆる知識”がここでも活かせるということ。
唯一違うことといえば、死んだプレイヤーを蘇らせるスキル<リザレクション>がなくなっていたことくらいだ。
あと、排泄の必要がないことも喜ばしい。
仕組みは不明だが、どれだけ飲み食いしようと、一切の便意を催さないのだ。
どうやらそれは他の人間も同じみたいで、用便に関する施設自体が存在していなかった。
絶望したのは、死ねば終わりということだ。
GOは“死にゲー”と呼ばれるくらいに死ぬゲームである。
その一例として、防御力やHPという概念が存在していない。レベル950の人間がレベル1のゴブリンに殺されることも十分にあり得るのだ。
それなのに、これまでと違って死ぬことが出来ない。軽く死んで<治療師>によろしくという強引なレベル上げは通用しないのだ。
これはもう、絶望以外に表現のしようがなかった。
「死んだら死んだでかまわないか」
絶望は一過性のものに過ぎなかった。
18年の人生で、俺にあったのはゲームだけだ。
死ぬのは怖いが、この世界で死ねるのなら本望だった。
そう思えば、絶望より喜びの方が大きい。
理想ともいえるこの世界が、俺のリアルになったのだから。
◇
三日目。
いよいよ狩りを始める。
「ゴブリンの討伐ですね」
「よろしく」
狩りを始める前に“クエスト”を受注する。
クエストとは、この世界における仕事のことだ。
基本的には「〇〇へ行って、××を倒せ」という内容。
クリアして報告すると、報酬として金が貰える仕組みだ。
クエストを受注する為の施設が<ギルド>だ。
石造りの一際大きな建物で、多くの<冒険者>が集まっている。
<冒険者>はクエストで生計を立てている者を指す。
GOではプレイヤーのことを<冒険者>と呼んでいた。
<ギルド>の内装はどこも同じだ。
入り口から奥の受付カウンターまで道が続いていて、その左右には木製の四人掛けテーブル席がいくつも設置されている。
今回は最弱モンスター“ゴブリン”の討伐クエストを受注した。
内容はゴブリンを倒すことで、倒した数に応じて報酬が増える。
一体につき1000ゴールドで、最大三体まで有効だ。
ちなみに、宿屋は一泊500ゴールドで、食事は一品につき1000ゴールドである。
今の所持金が0ゴールドであることを考慮すると、食と住を確保するには、最低でも二体倒す必要があった。
「俺がゴブリンを倒したかどうかって、見てなくても分かるの?」
「はい、問題ございません」
この点もGOと変わりなかった。
仕組みは不明だが、ゲームで慣れた感覚なので気にしない。
「ジーク様が<ギルド>利用するのはこれが初めてですので、<冒険者カード>をお作りさせていただきました。カードには――」
「あぁ、説明は結構、内容は知っているんだ」
「かしこまりました。では、<冒険者カード>をお受け取り下さい」
「ありがとう」
受付嬢から<冒険者カード>を受け取った。
あえて見る必要もないが、念のために確認しておく。
====================
【名前】ジーク
【ランク】F
【レベル】1
【職業】テイマー/鍛冶屋
【スキル】
なし
====================
案の定、ステータス画面と同じ内容だった。
ちなみに、カードはステータスを教える際に使う。
ステータスの<ランク>とは、冒険者の階級を示している。
ランクが高い程、高難度のクエストを受注可能だ。
Sが最上級で、その後はA、B、Cと順に続き、最低がF。全7段階。
先日の調査によれば、この世界の冒険者は大半がDだ。
レベルに言い換えると40前後ということになる。
「さーて、ゴブリンをしばくぞ!」
クエストの受注が終わり、ゴブリンの棲息地にやってきた。
これまで滞在していた城郭都市“ロックハート”の東にある草原だ。
草は腰の辺りまで伸びていた。
「ゴブはどこに……おっ、いたいた」
最初から所持していた武器<木の棒>を右手に持ち、草原を歩くこと数分。
討伐対象であるゴブリンを発見した。
====================
【名前】ゴブリン
【レベル】1
【HP】15
====================
深い緑色の肌をした最弱モンスターだ。
五歳児と同じくらいの小さな背丈をしており、生い茂る草から顔だけがちょこんと出ている。一本の毛すらないツルツルの頭に、ピンと尖がった耳に鋭い牙、それに真っ赤に充血した目が威圧的だ。
「ゴブー」
「ゴブブー」
恐る恐ると近づいて、ゴブリンが2体居ることに気づいた。
最初に気づかなかったもう1体は、座っていたのだ。
上半身裸に茶色の短パンという服装は相変わらずである。
「最初の戦闘だし、警戒していくか」
俺がGOに費やした時間は誰よりも多い。
死にゲーとはいえ、大体の場所では死なずに乗り切れる腕前だ。
だから問題ないとは思うが、念には念を入れておこう。
「これを使うか」
地面に落ちている小石を拾う。
腰をかがめ、静かにゴブリンに寄っていく。
「すー、はー」
深呼吸を一つ。
それから、小石を明後日の方向に投げた。
宙を舞った小石は適当な草に着弾し「カサッ」と音を立てる。
「「ゴブゥ?」」
その音に、二体のゴブリンが反応する。
腰を上げ、ゆっくりと音のした方向へ歩き出す。
俺はゴブリンの背後にヒソヒソと移動した。
「もらったぜ」
「ゴブ!?」
完全に距離を詰めた俺は、迷うことなく攻撃を開始する。
片方のゴブリンの頭を左手で鷲掴みにして、強く引いて地面に倒す。
倒れたゴブリンに対し、欠片の淀みもない動きで<木の棒>を振り下ろした。
ドスッと鈍い音と共に、ゴブリンの頭部が粉砕する。即死だった。
攻撃を受けたゴブリンが灰と化す。モンスターは死ぬと灰になるのだ。
この世界では、人間も死ぬと灰になるけどね。
「ゴブ!? ゴブー! ゴブブ!」
もう一体のゴブリンは奇襲に驚愕する。
しかし、仲間の死体を見るなり、驚愕は激昂に変わった。
鋭い牙をちらつかせながら殴りかかってくる。
両腕をがむしゃらにぶんぶんする、GOの頃と変わりない攻撃だ。
「GOと比べて動きが良くなったわけでもないし、攻撃パターンに何かしらの変化があるわけでもない。完全に一緒だな。つまり雑魚だ」
「ゴブー」
ゴブリンのへなちょこパンチを回避した後、反撃の蹴りをお見舞いする。
こちらの反撃は当然の如くヒットし、ゴブリンが吹き飛んだ。
しかし、まだ灰と化していない。生きている。
「ただのキックだと流石に仕留めきれないか」
モンスターには弱点部位が存在する。
弱点部位に攻撃を直撃させると、攻撃力の二倍ダメージだ。
ゴブリンは最弱モンスターらしく、全身が弱点になっている。
しかしながら、素手の攻撃では殺せなかった。
「ゴ、ゴブゥ……」
「悪いな」
のそのそと立ち上がるゴブリンに<木の棒>を振り下ろした。
凝視しなければそこそこ可愛らしいゴブリンが絶命する。
「最後の一体はあいつにするか」
付近にもう一体のゴブリンを確認。
クエストの報酬でカウントされるのは三体までだ。
だから、今日のところは三体倒したら終了する予定。
「せいっ」
「ゴブッ……」
あっけなく三体目も討伐。
ゴブリンが死んだ瞬間、俺の身体が一瞬だけ光った。
レベルが上がったのだ。
GOと同じく、この世界でも職業は2つ。
俺の職業は<テイマー>と<鍛冶屋>だ。
<テイマー>は最大二体のモンスターを使役する職業で、
<鍛冶屋>は剣や槍をはじめとした武器を生産する職業。
各職業には“スキル”が存在する。
スキルとは、職業専用の特殊能力みたいなもの。
たとえば鍛冶屋なら、武器を作るスキルが色々ある。
スキルはスキルポイントを振って習得・強化する仕様だ。
SPは1レベルにつき1ポイント付与される。
現在は未使用のSPが2ポイント余っていた。
最初から1ポイントあった上に、先のレベルアップで更に増えたわけだ。
レベルとSPはイコールの関係である。
SPは二つの職業で共有だ。
極端な話、全てのSPを片方の職業に集中すれば、もう一方の職業は形骸化したものになる。
故に、両方の職業にSPを割り振ってバランスよく鍛えるのが一般的なのだが、中には片方に狂ったほど特化している奴もいた。
例えば俺なんかがその狂った特化型である。
一応、テイマーのスキルも1だけ振るが、残りは鍛冶屋の“あるスキル”に全振りする予定だ。
「スキルはこれでいいな」
帰路につきながらSPの割り振りを済ませた。
それにより、二つのスキルを習得する。
一つ目は、テイマーのスキル<テイミング>だ。
これはモンスターを自分のペットにする為のスキル。
テイマーのスキルは、ペット関連のものばかりだ。
たとえばペットの攻撃力をアップさせるとか。
俺はそういうものを一切求めていない。
我がペットには俺の作る武器で戦ってもらうからだ。
二つ目は、鍛冶屋のスキル<その他の作成>だ。
これこそが俺の本命である。
このスキルは、“その他タイプ”の武器を作成できるスキルだ。
武器には剣や槍といったタイプがあり、戦闘系職業の大半は、スキルの発動に武器の制限がある。
例えば剣士だと、剣以外の武器ではスキルを発動できない。
<その他の作成>で作られる武器は、タイプがその他になる仕様だ。
そういったハンデを背負っている分、カスタマイズの幅は広く攻撃力も高い。
ちなみに、初期装備の<木の棒>もその他タイプだ。
俺がこのスキルで作るのは“銃火器”だ。
GOではゴブリンにアサルトライフルを持たせ、俺自身はロケットランチャーを担いで戦場を飛び回っていた。
この世界でもその流れを引き継ぐ予定である。
銃火器の存在を誰も知らない世界だから、最初は相当驚かれるだろうな。
また、作った武器を普及させることも検討している。
俺の作った武器を他人が使って敵を倒した場合、経験値の1%が俺に入る仕様だからだ。これは他の生産職にも共通している。
自分の作った物を普及させることが、効率的なレベルアップに繋がるのだ。
「なんにせよ、しばらくは地道にレベル上げだな」
何をするにしても、今のレベルでは論外だ。
今後の計画は、まったり過ごしながら考えていけばいい。
こうして、新たな世界における俺の生活が幕を開けた。
具体的にどのタイミングで転移したのかは分からないが、おそらく死亡回数五万回の実績を解除した時と思われる。
街へ戻ってきてすぐ、いつもと違う雰囲気に気が付いた。
転移したことを確信したのは、それから数十分後のことだ。
きっかけはログアウト出来なくなっていたこと。
そもそも、ログアウトというボタンがなくなっていたのだ。
その他にも、痛覚に変化があった。
試しに肌をつねると、極めてリアルな痛みが。
次いで、<治療師>がいなくなっていた。
GOは仕様上、かなり死にやすいゲームだ。
その為なのか、死亡時のペナルティ――通称“デスペナ”は他のゲームに比べて緩いもので、数時間で回復する一時的なステータスダウンだった。
このデスペナをなくしてくれるのが、<治療師>と呼ばれるNPCだ。
寄付という名目で金を支払うと、神の加護という名目でデスペナを即時に終了させてくれる。
故に、多くのプレイヤーが<治療師>に寄付していた。
「GO? なんだそれ?」
「ログアウトって何?」
「<リザレクション>なんてスキルはないよ」
街の中を走り回り、手当たり次第に話しかけた。
その結果、俺はGOに酷似した世界へ来たと確信したわけだ。
それが転移初日の話である。
二日目の早朝、自分のデータが初期化されていることに気づいた。
レベル980だったはずが、今ではレベル1に戻っているのだ。
相棒だったレベル950のゴブリン2体も見当たらない。
当然ながら、所持金や所持品も初期化されていた。
消えていないのは、防具――通称“アバター装備”だけだ。
俺のアバター装備は、真紅のジャケットに黒のシャツという、大しておしゃれでもないもの。
「レベル1……。やれやれ、下がっちまったもんは仕方ないな」
元々ゲームに人生を賭けていた身だ。
レベルが1になったところで、また上げ直せばいい。
そう悲観的になることもなく、この日は街を探索した。
世界の仕様を確認する為だ。
――その結果、驚いて、喜んで、最後に絶望した。
驚いたのは、NPCが完全な人間になっていることだ。
GOにおけるNPCは、見た目こそ人間だったが、口を開けば定型文しか話さないポンコツロボットだった。
セクハラを働いても怒らないので、一部の変態プレイヤーが若い女NPCによく絡んでいたものだ。
ところがこの世界では、誰もが人間レベルの会話が可能である。
それに、喜怒哀楽の感情もしっかり備わっていた。
これはもはやNPCではなく、れっきとした人間だ。
喜んだのは、基本的な仕様がGOと変わりなかったことだ。
つまり、“GOで培ったあらゆる知識”がここでも活かせるということ。
唯一違うことといえば、死んだプレイヤーを蘇らせるスキル<リザレクション>がなくなっていたことくらいだ。
あと、排泄の必要がないことも喜ばしい。
仕組みは不明だが、どれだけ飲み食いしようと、一切の便意を催さないのだ。
どうやらそれは他の人間も同じみたいで、用便に関する施設自体が存在していなかった。
絶望したのは、死ねば終わりということだ。
GOは“死にゲー”と呼ばれるくらいに死ぬゲームである。
その一例として、防御力やHPという概念が存在していない。レベル950の人間がレベル1のゴブリンに殺されることも十分にあり得るのだ。
それなのに、これまでと違って死ぬことが出来ない。軽く死んで<治療師>によろしくという強引なレベル上げは通用しないのだ。
これはもう、絶望以外に表現のしようがなかった。
「死んだら死んだでかまわないか」
絶望は一過性のものに過ぎなかった。
18年の人生で、俺にあったのはゲームだけだ。
死ぬのは怖いが、この世界で死ねるのなら本望だった。
そう思えば、絶望より喜びの方が大きい。
理想ともいえるこの世界が、俺のリアルになったのだから。
◇
三日目。
いよいよ狩りを始める。
「ゴブリンの討伐ですね」
「よろしく」
狩りを始める前に“クエスト”を受注する。
クエストとは、この世界における仕事のことだ。
基本的には「〇〇へ行って、××を倒せ」という内容。
クリアして報告すると、報酬として金が貰える仕組みだ。
クエストを受注する為の施設が<ギルド>だ。
石造りの一際大きな建物で、多くの<冒険者>が集まっている。
<冒険者>はクエストで生計を立てている者を指す。
GOではプレイヤーのことを<冒険者>と呼んでいた。
<ギルド>の内装はどこも同じだ。
入り口から奥の受付カウンターまで道が続いていて、その左右には木製の四人掛けテーブル席がいくつも設置されている。
今回は最弱モンスター“ゴブリン”の討伐クエストを受注した。
内容はゴブリンを倒すことで、倒した数に応じて報酬が増える。
一体につき1000ゴールドで、最大三体まで有効だ。
ちなみに、宿屋は一泊500ゴールドで、食事は一品につき1000ゴールドである。
今の所持金が0ゴールドであることを考慮すると、食と住を確保するには、最低でも二体倒す必要があった。
「俺がゴブリンを倒したかどうかって、見てなくても分かるの?」
「はい、問題ございません」
この点もGOと変わりなかった。
仕組みは不明だが、ゲームで慣れた感覚なので気にしない。
「ジーク様が<ギルド>利用するのはこれが初めてですので、<冒険者カード>をお作りさせていただきました。カードには――」
「あぁ、説明は結構、内容は知っているんだ」
「かしこまりました。では、<冒険者カード>をお受け取り下さい」
「ありがとう」
受付嬢から<冒険者カード>を受け取った。
あえて見る必要もないが、念のために確認しておく。
====================
【名前】ジーク
【ランク】F
【レベル】1
【職業】テイマー/鍛冶屋
【スキル】
なし
====================
案の定、ステータス画面と同じ内容だった。
ちなみに、カードはステータスを教える際に使う。
ステータスの<ランク>とは、冒険者の階級を示している。
ランクが高い程、高難度のクエストを受注可能だ。
Sが最上級で、その後はA、B、Cと順に続き、最低がF。全7段階。
先日の調査によれば、この世界の冒険者は大半がDだ。
レベルに言い換えると40前後ということになる。
「さーて、ゴブリンをしばくぞ!」
クエストの受注が終わり、ゴブリンの棲息地にやってきた。
これまで滞在していた城郭都市“ロックハート”の東にある草原だ。
草は腰の辺りまで伸びていた。
「ゴブはどこに……おっ、いたいた」
最初から所持していた武器<木の棒>を右手に持ち、草原を歩くこと数分。
討伐対象であるゴブリンを発見した。
====================
【名前】ゴブリン
【レベル】1
【HP】15
====================
深い緑色の肌をした最弱モンスターだ。
五歳児と同じくらいの小さな背丈をしており、生い茂る草から顔だけがちょこんと出ている。一本の毛すらないツルツルの頭に、ピンと尖がった耳に鋭い牙、それに真っ赤に充血した目が威圧的だ。
「ゴブー」
「ゴブブー」
恐る恐ると近づいて、ゴブリンが2体居ることに気づいた。
最初に気づかなかったもう1体は、座っていたのだ。
上半身裸に茶色の短パンという服装は相変わらずである。
「最初の戦闘だし、警戒していくか」
俺がGOに費やした時間は誰よりも多い。
死にゲーとはいえ、大体の場所では死なずに乗り切れる腕前だ。
だから問題ないとは思うが、念には念を入れておこう。
「これを使うか」
地面に落ちている小石を拾う。
腰をかがめ、静かにゴブリンに寄っていく。
「すー、はー」
深呼吸を一つ。
それから、小石を明後日の方向に投げた。
宙を舞った小石は適当な草に着弾し「カサッ」と音を立てる。
「「ゴブゥ?」」
その音に、二体のゴブリンが反応する。
腰を上げ、ゆっくりと音のした方向へ歩き出す。
俺はゴブリンの背後にヒソヒソと移動した。
「もらったぜ」
「ゴブ!?」
完全に距離を詰めた俺は、迷うことなく攻撃を開始する。
片方のゴブリンの頭を左手で鷲掴みにして、強く引いて地面に倒す。
倒れたゴブリンに対し、欠片の淀みもない動きで<木の棒>を振り下ろした。
ドスッと鈍い音と共に、ゴブリンの頭部が粉砕する。即死だった。
攻撃を受けたゴブリンが灰と化す。モンスターは死ぬと灰になるのだ。
この世界では、人間も死ぬと灰になるけどね。
「ゴブ!? ゴブー! ゴブブ!」
もう一体のゴブリンは奇襲に驚愕する。
しかし、仲間の死体を見るなり、驚愕は激昂に変わった。
鋭い牙をちらつかせながら殴りかかってくる。
両腕をがむしゃらにぶんぶんする、GOの頃と変わりない攻撃だ。
「GOと比べて動きが良くなったわけでもないし、攻撃パターンに何かしらの変化があるわけでもない。完全に一緒だな。つまり雑魚だ」
「ゴブー」
ゴブリンのへなちょこパンチを回避した後、反撃の蹴りをお見舞いする。
こちらの反撃は当然の如くヒットし、ゴブリンが吹き飛んだ。
しかし、まだ灰と化していない。生きている。
「ただのキックだと流石に仕留めきれないか」
モンスターには弱点部位が存在する。
弱点部位に攻撃を直撃させると、攻撃力の二倍ダメージだ。
ゴブリンは最弱モンスターらしく、全身が弱点になっている。
しかしながら、素手の攻撃では殺せなかった。
「ゴ、ゴブゥ……」
「悪いな」
のそのそと立ち上がるゴブリンに<木の棒>を振り下ろした。
凝視しなければそこそこ可愛らしいゴブリンが絶命する。
「最後の一体はあいつにするか」
付近にもう一体のゴブリンを確認。
クエストの報酬でカウントされるのは三体までだ。
だから、今日のところは三体倒したら終了する予定。
「せいっ」
「ゴブッ……」
あっけなく三体目も討伐。
ゴブリンが死んだ瞬間、俺の身体が一瞬だけ光った。
レベルが上がったのだ。
GOと同じく、この世界でも職業は2つ。
俺の職業は<テイマー>と<鍛冶屋>だ。
<テイマー>は最大二体のモンスターを使役する職業で、
<鍛冶屋>は剣や槍をはじめとした武器を生産する職業。
各職業には“スキル”が存在する。
スキルとは、職業専用の特殊能力みたいなもの。
たとえば鍛冶屋なら、武器を作るスキルが色々ある。
スキルはスキルポイントを振って習得・強化する仕様だ。
SPは1レベルにつき1ポイント付与される。
現在は未使用のSPが2ポイント余っていた。
最初から1ポイントあった上に、先のレベルアップで更に増えたわけだ。
レベルとSPはイコールの関係である。
SPは二つの職業で共有だ。
極端な話、全てのSPを片方の職業に集中すれば、もう一方の職業は形骸化したものになる。
故に、両方の職業にSPを割り振ってバランスよく鍛えるのが一般的なのだが、中には片方に狂ったほど特化している奴もいた。
例えば俺なんかがその狂った特化型である。
一応、テイマーのスキルも1だけ振るが、残りは鍛冶屋の“あるスキル”に全振りする予定だ。
「スキルはこれでいいな」
帰路につきながらSPの割り振りを済ませた。
それにより、二つのスキルを習得する。
一つ目は、テイマーのスキル<テイミング>だ。
これはモンスターを自分のペットにする為のスキル。
テイマーのスキルは、ペット関連のものばかりだ。
たとえばペットの攻撃力をアップさせるとか。
俺はそういうものを一切求めていない。
我がペットには俺の作る武器で戦ってもらうからだ。
二つ目は、鍛冶屋のスキル<その他の作成>だ。
これこそが俺の本命である。
このスキルは、“その他タイプ”の武器を作成できるスキルだ。
武器には剣や槍といったタイプがあり、戦闘系職業の大半は、スキルの発動に武器の制限がある。
例えば剣士だと、剣以外の武器ではスキルを発動できない。
<その他の作成>で作られる武器は、タイプがその他になる仕様だ。
そういったハンデを背負っている分、カスタマイズの幅は広く攻撃力も高い。
ちなみに、初期装備の<木の棒>もその他タイプだ。
俺がこのスキルで作るのは“銃火器”だ。
GOではゴブリンにアサルトライフルを持たせ、俺自身はロケットランチャーを担いで戦場を飛び回っていた。
この世界でもその流れを引き継ぐ予定である。
銃火器の存在を誰も知らない世界だから、最初は相当驚かれるだろうな。
また、作った武器を普及させることも検討している。
俺の作った武器を他人が使って敵を倒した場合、経験値の1%が俺に入る仕様だからだ。これは他の生産職にも共通している。
自分の作った物を普及させることが、効率的なレベルアップに繋がるのだ。
「なんにせよ、しばらくは地道にレベル上げだな」
何をするにしても、今のレベルでは論外だ。
今後の計画は、まったり過ごしながら考えていけばいい。
こうして、新たな世界における俺の生活が幕を開けた。
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しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……
なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。
当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。
そこは都市国家連合。異世界だったのだ!
彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。
彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……
ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。
*60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。
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