上 下
28 / 34

028 大防衛戦:掃討戦①

しおりを挟む
 朝起きて、レイナが横で寝ていることに期待した。
 村で過ごしたあの時みたいに、全裸で寝ていたり……なんて。

「そんなわけないか」

 ベッドには俺しかいなかった。

「メリッサさんに詳細なプランを訊いておくべきだったな」

 行動内容が不明だから、問題が起きているのかも分からない。
 プランが分かっていれば、今が異常事態かどうかも判断できるのに。

「まさに後悔先に立たずというものだな、ハハッ」

 乾いた笑いを寝間に残して、俺はレイナの家を後にした。

 ◇

 前哨戦と迎撃戦が終わり、大防衛戦もいよいよ大詰めだ。
 残すは掃討戦のみ。ミフユ曰く、前哨戦と同じようなものらしい。

 ――朝食後、冒険者組合にて。

「今回の指定モンスターは何だろうな?」
「前回って、グリーンドラゴンとケルベロスに、あと2体はなんだっけ?」
「たしかメタルゴーレムとアークリッチだったはず」
「そうそう。ウチはどこよりも早くケルベロスを発見したんだけどさ」
「横取りされた?」
「そうなんだよ。倒す前に他のギルドがきてさー」
「ま、そんなもんだよなー。それに1ギルドじゃ倒せないだろ」
「指定モンスターを単独で狩れるギルドなんて限られているからな」

 冒険者達が掃討戦について話していた。
 どこの会話に耳を傾けても、話している内容は同じだ。

「なぁミフユ、指定モンスターってなんだ?」
「し、指定モンスターというのはですね――」

 前哨戦と掃討戦の違いが“指定モンスター”だ。
 掃討戦では、4体のモンスターが特別指定されている。

 指定される敵は毎度異なるが、往々にして高位の強敵だ。
 低くてもA級、高いとS級のモンスターが指定されるという。
 そして、それらを倒したギルドには、莫大な報酬が与えられる。

 また、慣例として、指定モンスターには横殴りのマナーが適用されない。
 他人が戦っていても、気にせずに乱入してもかまわないわけだ。
 もちろん、戦闘を妨害するといった悪質な行為は認められていない。

「な、なので、指定モンスターは奪い合い、らしいです」
「なるほど。ま、森で戦う俺達には関係なさそうだな」
「それが、そうとも言い切れません」
「どうしてだ?」
「指定モンスターは通常とは違う場所に出現するのです」
「じゃあ、ゴブリンの森に出現する可能性もあるのか?」
「は、はい。傾向的には考えにくい話ですが、可能性としては……」

 傾向的に考えにくいなら、警戒して休む必要もないか。
 それに、いざとなれば〈帰還の石〉と〈けむり玉〉がある。
 森で指定モンスターと遭遇しても、戦わずに逃げればいいだけだ。

「それでは指定モンスターの発表を行います」

 受付嬢がベルを慣らして云う。
 騒がしかった組合内が静まり、皆が受付嬢の言葉に耳を傾ける。

「1体目クイーンメデューサ、2体目デスサイズ、3体目氷王シヴァヌ、4体目バ・ハ・ムート、以上4体の――」
「「「うおおおおおお!」」」

 受付嬢が話し終える前に大半が動き出す。
 前哨戦の頃とまるで変わっていない。

「えー、以上4体のモンスターが街の周辺に出現するとのことです。詳しい出現ポイントは不明ですので、掃討戦に臨む場合には細心の注意を――ペラペラ」

 受付嬢が話し終えた頃には、俺達を含めて数組しか残っていなかった。

「どいつもこいつも強烈な指定モンスター相手に強気だな。もしかして、この街にはよほどのベテランしか集まっていないのか?」
「い、いえ、おそらく、殆どの方は情報を売るのが目的かと……」
「情報を売る?」
「指定モンスターの位置情報は、それだけで相当な価値があるらしいので……」

 なるほどな。
 自分達で倒さなくとも、情報を売れば金を得られるわけだ。
 そういう稼ぎ方もあるのだな、と参考になった。
 もっとも、横の繋がりが皆無の俺達には無縁の話だが。

「さて、俺達は――」
「クエスト票の確認からですね? お兄様」
「その通りだ」

 あくまでも〈ハクスラ〉は我が道を貫く。
 周りが功を急いでいようが、俺達はゆったりだ。
 受付カウンターに行って、クエスト票を見せてもらう。

=====クエスト票=====
【クエスト】大防衛戦:掃討戦(特別)
【ランク】Fランク以上
【内容】ツバルランドの周辺に棲息するモンスターの殲滅
【報酬1】討伐モンスターを対象とする通常クエストの3倍(上限なし)
【報酬2】指定モンスターは各1億ゴールド
【備考】指定モンスターは極めて強力なので注意されたし

 事前に得ていた情報と違わぬ内容だ。
 指定モンスターの報酬が桁違いなのも想定通り。
 ただ、思っていたよりは少ないな。
 俺達はともかく、高ランクの連中にとっては微妙そう。

「指定モンスターの報酬ってお金だけなの?」

 困った時のミフユだ。
 案の定、ミフユは「いえ」と首を横に振った。

「国王陛下から表彰され、祝宴にも招かれるそうです」
「なるほど。最大の報酬は栄誉や名声といった類のものか」

 それならば納得だ。
 ギルドという組織を運営する以上、評判は大事だからな。

「いつかは指定モンスターを倒せるようになりたいが……今はゴブリンの森でちびちびとゴブリン退治に精を出すとしようか」
「了解です、お兄様!」
「今日も頑張るなのー!」
「が、頑張りますっ!」

 かくして、大防衛戦のラスト“掃討戦”が始まった。

 ◇

 ミフユに今回の指定モンスターについて教えてもらった。
 それによると、今回の4体は全て最上位のS級モンスターとのこと。
 詳細な情報は出回っておらず、弱点なども知られていない。
 まともに戦って勝てるのは、一部の限られた連中だけだという。

「だから横殴りが許されているわけか」
「皆で力を合わせないと厳しいですからね。いや、力を合わせても……」
「本当に凄まじいんだな、S級って」

 話を聞けば聞くほど「生涯勝てないだろうな」という思いが強まった。

「ま、そういうお祭りは来年から参加するとして――」
 グサッ。
「ゴヴォォ……」
「俺達はゴブリン狩りを頑張るかっと」

 フレイムソードをぶんぶん振るう。
 その隣で、ユリィも銀色に輝く剣を振るっていた。

「流石に前の剣と違って切れ味がいいな、ユリィ」
「はい! でも、また新調したくなってまいりました」
「その剣が気にくわないのか?」
「いえ、昨日たくさん稼いじゃったので」
「ははは、珍しく欲が出たのか」
「えへへ……駄目ですよね?」
「それほど高くないのならいいんじゃないか」
「本当ですか? ありがとうございます、お兄様!」

 ゴブリン相手になると、戦いながら話すのも容易になった。
 今なら10体程度を同時に相手取っても余裕で勝てる。

 経験から、ゴブリンの動きが読み取れるようになった。
 装備が強化されたことで、戦闘が快適になった。
 アーシャとミフユの加入により、安定度が格段に増した。
 それらの要素が合わさって、今の強さに繋がっている。

「初めてクエストを受けた時は、敵が少なくてもヒヤヒヤだったのにな」
「なんだか遠い昔のように感じますね」
「実際には1ヶ月も経っていないのにな」

 あっという間に本日20体目のゴブリンを倒す。
 これで報酬額が30万ゴールドに到達した。
 昨日に比べれば少ないが、俺達にとっては大金だ。

「大防衛戦が終わって、数日休んだら、ゴブリン洞窟にリベンジしたいな」
「賛成なのー! 楽しみなのー!」

 今の俺達なら、洞窟の最奥部まで辿り着ける気がする。
 仮に無理だったとしても、何度か挑戦すればいけるはずだ。

「成長を実感出来るって、素晴らしいことだな」

 その後も、俺達はマイペースに狩りを続けた。
 適度に昼休憩も済ませて、無人の森で狩りを再開する。

「もう少し奥まで行ってみるか」

 奥に進めばオークと遭遇する可能性が高まる。
 しかし、今の俺達ならば、オークだって怖くはない。
 他の3人も同意見だった。

「賛成です、お兄様」
「め、名案だと思います」
「なのー!」

 全会一致により、俺達は森の奥に進んだ。
 余裕になっても油断はしていない。

「アーシャ、敵は?」
「あっちに4体! そっちに7体なの!」
「なら数の少ない方から殲滅していこうか」

 きっちりと〈ディテクティング〉を活かしていく。
 どこの狩場であっても、アーシャの主な担当は索敵だ。

「これで……7体目!」

 数が増えても問題ない。
 4体の集団を倒し、返す刀で7体の集団も倒した。
 ユリィにドロップ品を収集させて、残りの3人で警戒する。

「周囲に敵影は?」
「ないなの――あっ、あるなの!」

 警戒の賜物だ。
 モンスターの接近を事前に探知した。

「数は?」
「1体なの。近づいてくるなの」
「斥候だな。殺してやろう」

 ゴブリンは、群れの規模が大きくなると斥候を使う。
 最初に1体を様子見で偵察させて、それから集団で迫ってくるのだ。
 この手を使うゴブリンの集団は練度が高い。が、俺達の敵ではない。

「方角は?」
「あっちなの!」

 アーシャの指す方角に身体を向け、剣を構える。
 ドロップ品の回収を終えたユリィも、再び臨戦態勢に入った。

「来るなの!」

 アーシャの言葉と共に、新手が現れた。

「はっ? なんだこいつ?」

 それは見たことのないモンスターだった。
 漆黒のローブに身を包んだ、2メートル程の人型。
 フードの内に秘めた顔は見えないが、不気味さが漂っている。
 手に持っている巨大な鎌からは禍々しさが感じられた。

 ヤバイ。
 直感で分かる。
 コイツはヤバイ奴だと。

「ミフユ、アレは……?」
「ま、間違いありません」

 ミフユが叫ぶ。

「デスサイズです!」

 俺達の前に現れたのは、指定モンスターのデスサイズ。
 最上位に位置するS級モンスターだったのだ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...