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027 大防衛戦:迎撃戦②

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「これではただ見ているだけじゃないか」
「今からでも弓か何か買いに行きますか?」
「それしかないか。こんな時に銃があれば……」

 以前、俺はハンドガン型の魔導銃を持っていた。
 しかし、それは過去の話だ。今は持っていない。
 レイナに譲ったからだ。

「一度城壁から下りよう」

 悲しい気持ちを抱えて武器屋へ行こうとする。
 そんな時だった。

「魔導銃のレンタルしてるよー! 必要な奴いるかー?」

 冒険者の男が云った。
 渡りに船とはまさにこのことだ。
 俺達はすぐさまその冒険者に飛びついた。

「3人分の銃をレンタルしたいのだけど」
「まいど! レンタル期間は迎撃が終わるまでだよ! いいかい?」

 男が満点の営業スマイルを浮かべる。

「それでいいよ」
「武器のタイプは何がいい? ハンドガン?」
「初心者でも扱いやすいやつがいいんだけど、オススメは?」
「それだったらライフルタイプがいいよ」

 受け答えのテンポが良い。
 ポンポンポンっと話が進んでいって助かる。
 普段からこういうビジネスをしているのだろう。

「ならライフルタイプを3人分借りられるかな?」
「いいよ。性能によってレンタル代が変わるけど、どれにする?」

 お金がかかることは想定の範囲内。
 誰だって無料で貸し出したりはしない。

「価格次第なんだけど、どのくらいするの?」
「一番安いので3万、次が5万、その次が10万で、一番いいのは25万」
「それって1個あたりの価格だよね?」
「もちろん。同じ物を3つレンタルするなら、3掛けになるよ」
「なら5万のやつでおねがい」
「まいどあり!」

 折角の機会だから奮発してみた。
 男に15万ゴールドを支払い、ライフル型の魔導銃を受け取る。
 ハンドガンと違い、両手で持つタイプの大きな銃だ。
 男曰く銃の名前は“AK”とのこと。

「使い方だけど、こうやって持って、こう引き金を引く感じ」
「ありがとう、助かったよ」
「どういたしまして。返却は組合の受付カウンターにお願いね」
「そのまま返せばいいの?」
「レンタル武器の返却っていえば、あとは向こうが処理してくれるよ」
「了解」

 何から何まで親切にしてもらった。
 男に礼を言った後、俺達は足早に持ち場へ戻る。

「モンスターが攻めてきます! 迎撃を開始してください!」

 程なくして、迎撃戦が始まった。

「さぁ、派手にぶっ放すぞ!」
「はい! お兄様!」
「アーシャもたくさんスキルを使うなのー!」
「が、頑張ります!」

 押し寄せるモンスターに銃口を向けて、俺達は引き金を引いた。

 ズドドドドド!

 ライフル型の魔導銃は、ハンドガン型とまるで勝手が違っていた。
 最大の違いは自動で連射してくれることだ。
 引き金を引き続ける限り、ひたすらに弾丸が放たれる。

 凄まじい連射性能を誇る反面、一発当たりの威力は低い。
 ゴブリンでさえ、当たり所が悪ければ数発ぶち込む必要があった。
 しかし、前に持っていたクロックに比べて、魔力の消費が穏やかだ。
 途中で休憩を挟めば、それなりに戦えそうな気がする。
 初心者向けとしてこれをオススメしてくれたレンタル業者に感謝だ。

「それにしても多い。なんという数なんだ」
「倒しても倒しても後ろから続いてきますね」
「アーシャ、疲れてきたなの」
「私のほうも魔力が厳しくなってきました」

 戦闘が続くと、次第に苦しくなってきた。
 魔力を回復する為に休憩する時間が増えてくる。

「他の人達はどうなってるんだ……」

 レイナと同じく底なしの魔力なのか?
 そう思って、左右の冒険者を確認してみると。

「ケチったら負けだぜ? オラオラオララァ!」
「金を稼ぎたいなら今すぐ補充に行った方がいいぞ、うりゃあ!」

 魔力回復用のポーションを飲みながら戦っていた。
 しかも最下級のポーションではなく、1つ1万くらいする代物だ。
 それを水のようにグビグビ飲んで、魔力を回復している。

「そ、そんな戦い方で儲かるんすか?」

 恐る恐ると訊いてみる。
 尋ねたのは、両手でハンドガンをぶっ放す大男だ。

「儲かるに決まってらぁ! ポーション1個分の魔力を使い切るまでに10体は仕留められるからな! なんたって俺様はハンドガンなんだぜぇ!」

 よく分からないが儲かるようだ。
 戦いぶりからして嘘をついているようには思えない。

「俺達もポーションを飲みながら戦うか」
「折角の機会ですものね、お兄様」
「わーいなの! ポーションを飲めばもっと戦えるなのー!」
「は、はい、飲みましょう、ポーション」

 俺達も他の連中を真似ることにした。
 一番安物の魔力ポーションを飲んで、魔力を回復する。

「撃て撃てぇ!」

 がむしゃらに銃をぶっ放す。
 アーシャも〈ファイヤーボルト〉をばら撒いた。

「って、もう限界か」

 準備不足で、再び魔力が底を突く。

「ポーションを買いに行こう!」

 俺達は大急ぎで城壁から下りて、ポーションの補充に向かった。

「魔力回復用のポーション! 一番安いやつ!」
「まいどあり!」

 財の限りを尽くしてポーションを補充する。
 それでも、俺達の財力では心許ない数しかない。

「戻って戦うぞ!」

 補充が終わったら直ちに城壁へ。
 ポーションを飲んで、魔力をチャージ。
 それから再び戦った。

「たまにはこんな戦いも悪くねぇな!」
「ですね! お兄様!」
「楽しいなのー!」
「わ、私も!」

 俺達は無我夢中で撃ちまくった。
 その間だけは、メリッサ達のことを忘れられた。

 ◇

 数時間に及ぶ迎撃が終わる。
 モンスターの軍勢が半ば壊滅状態になった。
 戦意を失ったのか、街に背を向けて逃げ去るモンスター共。

「冒険者の方々、お疲れ様でした。後は我々にお任せ下さい!」

 城門が開き、馬に乗った防衛隊が追撃を開始する。
 一気呵成に攻め立て、ダメ押しで数を減らしていく。

「俺達の仕事はここまで終わりのようだな」
「疲れたなのー!」
「なんだかんだでポーションも使い切ってしまいましたね」
「で、でも、楽しかった、ですよね」

 城壁の上か銃をぶっ放すなんて、普段は出来ないことだ。
 それに、ポーションをガバガバと飲んで戦うということも。
 楽しかったし、貴重な経験になった。

「たまにはこういうのも悪くないよな」

 一仕事を終えたことの達成感を抱き、冒険者組合に向かう。
 正確な討伐数が分からない為、報酬の額が推測出来ない。
 ポーション代を差し引いても大儲けなのか、それとも赤字か。
 期待で胸が膨らんだ。

 ◇

 冒険者組合の中は、クエストの報告で混雑していた。
 迎撃戦に参加していた全ギルドが一斉に来るのだから当然だ。
 長蛇の列に並んで、順番が回ってくるのを待った。

「次の方、どうぞー」

 待つこと数時間。
 日暮れ時になってようやく俺達の番だ。
 まずはレンタルしていた魔導銃を返却する。
 事前に聞いていたとおり、ただ返すだけでよかった。

「今回の報酬ですが――」

 いよいよ報酬の時間だ。
 受付嬢が手元で何やら作業を行う。
 報酬額を算出する為の作業だ。
 仕組みは不明だが、正確な数字が分かる。

「討伐したモンスターの数は271体となります。今回のクエストでは、全てのモンスターが一律で1体につき2万ゴールドですので、報酬総額は542万ゴールドとなります」
「ご、ごひゃくぅ!?」
「す、凄い額ですよお兄様!」
「わわわっなのー!」
「ごひゃく……!」

 4人揃って度肝を抜かれる。
 圧倒的なまでに余裕の黒字だ。
 レンタル代とポーション代を差し引いても変わらない。
 というか、それらの代金なんざ誤差の範囲だ。

「ほ、本当に542万ゴールドも貰えるのですか?」
「はい、間違いありません」

 7桁だぞ? 542万といえば。
 5,420,000ゴールド。とんでもない額だ。

「前哨戦って、文字通り前哨戦だったんだな……」

 規模が違う。
 前哨戦で数十万稼いだ時も嬉しかった。
 しかし、今回の稼ぎはその一つ上の桁だ。
 まさに桁違い。これが冒険者の本領というやつか。

「それでは報酬をギルドの口座に入金いたしますね」
「口座?」
「はい。100万ゴールド以上の報酬は、専用の口座に入金する決まりとなっております。あまりに規模が大きくなりますと、現金による手渡しが困難になり、受け取った側も持ち運びが不便であることから、こういった――ペラペラ」

 要するに組合が預かってくれるとのことだ。
 そして、必要に応じて引き出すことが出来るという。

「そ、それって、今すぐに引き出すことは可能ですか?」
「可能でございます。いくらか出金されていきますか?」
「はい。50万ゴールドほどお願いします」
「50万ゴールドですね? かしこまりました」

 報酬の一部を引き出し、受付カウンターを離れた。
 そして、近くのテーブル席に腰を下ろし、一服する。

「お、思っていた以上の報酬でしたね」
「凄かったなのー!」

 ミフユとアーシャが頬を緩める。
 ユリィは引きだした50万の用途を尋ねてきた。

「これは皆に分配しようと思ってな」

 全員に10万ゴールドずつ渡していく。

「で、俺も10万。残りの10万はギルド用の財布に入れておいてくれ」

 最後に、ギルド用の10万をユリィに渡して終了だ。

「よろしいのですか? お兄様」
「おう。頑張ったし、ボーナスってことにしよう」

 月給制のギルドだと、給与とは別にボーナスというのが存在する。
 それを見習うことにした。

「この10万は、冒険者の仕事と関係のないことに使おう。服を買うとか、趣味に使うとか、とにかく別のことに使うといい。仕事に関することは、ギルドのお金で賄えるからな」

 3人の顔が喜びの色に染まっていく。
 あえて共有財産から外して配ったのは正解だと思った。

「そんじゃ、メシを食って帰るか」
「「「はい!」」なのー」

 適当な酒場でメシを食った後、その日は解散となった。

「2人は先に寝ていてくれ」

 家の前に着くと、ユリィとアーシャに言った。

「お兄様はレイナさんを待つのですか?」
「うん、ちょっと気になってな」
「分かりました。では先に寝ておきます」
「すまんな。2人ともおやすみ」
「おやすみなさいなの、ラウドお兄ちゃん」
「おやすみなさい、お兄様」

 2人が家に入った後、俺はレイナの家に入った。
 レイナから、勝手に入ってくれていいと言われていたからだ。
 そして、居間に座ってぼんやりと帰宅を待つ。

 ……。

 …………。

 ………………。

 結局、レイナが帰ってくることはなかった。
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