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026 大防衛戦:迎撃戦①

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 翌日、ツバルランドの城門が全て閉ざされた。
 城壁からモンスターを迎撃する〈迎撃戦〉が始まるからだ。
 大防衛戦の山場であり、街の命運を決める戦いでもある。

「レイナ、いるか?」

 冒険者組合へ行く前に、レイナの家を確認した。
 彼女の家は隣にある為、家を出て数歩進めば辿り着く。

「……やはりいないか」

 レイナは家に居なかった。
 昨夜、寝る前に確認した時も居なかった。
 まず間違いなく、帰ってきていない。

「心配ですね、お兄様」
「だな。どうしたんだろう」

 メリッサが一緒だから大丈夫に違いない。
 そう思っていたが、次第に自信がなくなってくる。

「まぁ、ここでウダウダしていても仕方がない。ミフユと合流して、大防衛戦の2日目に取り組むとしよう」

 今日は街の外に出ることが出来ない。
 だから、メリッサ達が街に居るならどこかで会えるだろう。
 会えない時は、他所の街なりで活動しているということだ。

「行くぞ。今日も仕事だ」

 メリッサ・バロウズに限って、万が一などあるものか。
 詳しくは知らないけど、なんだか凄い人なんだぞ。
 そう自分に言い聞かせて、冒険者組合に向かうのだった。

 ◇

 ミフユと合流して、冒険者組合に向かう。
 到着すると、とりあえずメリッサ達を探した。
 期待していなかったが、案の定、姿が見当たらない。

「クエストの開始までもうしばらく時間があるようですので、先に未鑑定品の鑑定を済ませておきませんか?」

 と、ミフユが提案してくれたので、それに従った。
 馴染みの鑑定屋に行き、サクッと鑑定を行ってもらう。
 今回依頼した未鑑定品8個の鑑定結果は以下の通り。

【鑑定結果】
 1:素材
 2:素材
 3:ゴミ
 4:ゴミ
 5:コットンシャツ
 6:素材
 7:ゴミ
 8:革の胸当て

 素材は1万前後の物ばかり。
 ゴミと合わせてもドラグナイトには及ばない。
 目を惹いたのは、2個の防具だ。

「コットンシャツって、普通のシャツと違うの?」
「対魔用の特殊加工が施されているからな。多少は頑丈だぜ」
「革の胸当ても?」
「そうでなければゴミ扱いにしているよ。ま、両方とも安物だけどね」

 俺達が着ているのはただの服だ。
 適当な布で作られたペラペラの服で、防御性能など期待できない。
 だから、安物だろうと、防具のドロップは嬉しかった。

「胸当ては俺が付けるよ。シャツはユリィが着るといい」

 ユリィは頷いた後、ミフユに尋ねた。

「これって今着ている服の上から着用して問題ありませんか?」
「はい、大丈夫です」
「安心しました」
「モンスターから拾った服を直接着ることに抵抗がありますか?」
「いえ。ただ、着替える姿を見られるのが恥ずかしくて」
「それ分かります。私も最初の頃は凄く恥ずかしかったので……」

 最初の頃って、今は恥ずかしくないのだろうか。
 冒険者学校だと、堂々と皆の前で着替える訓練でもあるのか?
 少し気になったが、ユリィに睨まれそうなので、訊かないでおいた。

=====装備の変更=====
【名前】ラウド・ブライト
【変更前】鎧:普通の服
【変更後】鎧:革の胸当て

【名前】ユリィ・ブライト
【変更前】鎧:普通の服
【変更後】鎧:コットンシャツ

 かくして、俺達の防具が強化された。
 防御力が上がって、今後はより安全に戦うことが出来るはずだ。

 ◇

 鑑定後、冒険者組合に行くと。

「あれ? お兄様、人が……」
「ガラガラだな」

 閑散としていた。
 街の外に出られないのにどうしてだ。
 不思議に思ったが、答えはすぐに分かった。

「掲示板があるな」

 受付カウンターの横に、ずらりと掲示板が並んでいたのだ。
 掲示板には、ギルドごとにどの城門を防衛するのか書かれていた。
 大半のギルドは、既に担当する城門へ移動したのだろう。

「俺達〈ハクスラ〉は……」

 Fランクのギルド一覧から、自分達のギルドを探す。
 数が少なかったおかげで労することなく発見できた。

「南か」

 念のために再確認する。
 きっちりと『ハクスラ:南門』と書かれていた。

「えーっと……」

 メリッサのギルド〈バロウズ家〉も確認しておく。

「バロウズ……バロウズ……あった」

 こちらも同じく南門になっていた。
 もしもメリッサ達が街に居るなら、間違いなく合流出来る。

「これって指定以外の門を守ってもいいの?」
「特にペナルティー等はないようですが、普通は指定された門を守るかと」
「それもそうか」

 掲示板の確認が終わると、受付カウンターに向かった。
 初めての特別クエストだから、クエスト票を確認しておきたい。
 受付嬢に頼んで、クエスト票を見せてもらった。

=====クエスト票=====
【クエスト】大防衛戦:迎撃戦(特別)
【ランク】Fランク以上
【内容】ツバルランドに押し寄せるモンスターを城壁の上から迎撃
【報酬】1体につき20,000ゴールド(上限なし)
【備考】モンスターの落とした金銭及び物品は国の所有物する

 パッと見た感じだと、昨日に比べて微妙な気がした。
 報酬は昨日のゴブリンに毛が生えた程度だし、ドロップ品の所有権もない。
 俺達はともかく、他所のギルドはモチベーションが下がるのではないか?

 ――この時は、そんな疑問を抱いたものだ。
 しかし、南門へ行き、城壁の上から外を見て気持ちが変わった。

「これは……」
「す、すごい……」
「なんという……」
「たくさんなのー!」

 外にはおびただしい数のモンスターがいたのだ。
 ゴブリンやオークといった馴染みの顔から、まるで知らない奴等まで。
 どこを見渡してもモンスターだ。見えている限りでも数万の軍勢だ。
 これが四方に展開しているとなれば、その数は数十万に及ぶだろう。
 普段なら考えられない数の群れだ。

 こちらの数だって少なくはない。
 冒険者と国に仕える兵隊が城壁の上に集まっているからだ。
 それでも、こちらの戦力は合わせて数千で、1万には満たない。
 残りの三方も同程度のはずだから、合計は約1万半ばといったところか。
 モンスターの軍勢に比べると、数の上では圧倒的に劣っていた。

「いつもこんな大群から守ってくれていたのか、冒険者は」

 これまでの人生で、何度か緊急警報を体験したことがある。
 いつも面倒臭いと思いつつ、街に用意された避難施設で過ごしたものだ。
 これほどの脅威から守られていたなんて、今の今まで知る由もなかった。

「説明するまでもなくご存知かと思いますがー!」

 突然、誰かが大きな声で叫んだ。
 その声で冷静になり、振り返って、声の主を見る。
 冒険者ではなく、国に仕える兵士だった。

「本作戦は、冒険者の方々と我々防衛隊が共同で行うものです。指揮権は我々にありますので、冒険者の方々はこちらの指揮に従っていただきますようお願い申し上げます」

 特に異論はなかった。
 他の連中にしても不満を述べてはいない。

「基本的な流れになりますが――」

 兵士が説明している間、俺はメリッサとレイナを探した。
 他の3人とも協力して、手分けして城壁を走り回る。
 適当に探して見当たらなかったので、戻って合流した。

「いなかったか……」

 結果、メリッサ達は見当たらなかった。
 わざわざ他所の門を守りにいっているとは考えにくい。
 やはり、街に戻ってきていないようだ。

 不安が高まり、落ち着かなくなってきた。
 いよいよ、死んだのではないか、と考えてしまう。
 考えても仕方がないとは分かっているが、それでも頭にちらつく。

「もうじきモンスターが攻め込んできます! 迎撃の準備をしてください!」

 兵士が叫ぶ。
 その時になって、俺はとんでもないことに気がついた。

「俺達ってどうやって迎撃すればいいんだ?」
「あっ」
「たしかに」

 ユリィとミフユも気づいた。

「アーシャは攻撃スキルがあるからいいとして、俺とユリィには遠隔攻撃を行う手段がない。ミフユは……どうだ?」
「私も妨害スキルのみで、直接的な攻撃は……」
「となると、アーシャ以外の3人は攻撃手段がないわけか」

 考えが至らなかった。
 城壁から迎撃するという時点で分かることなのに。
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