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024 大防衛戦:序章

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 朝、身体をくっつけて眠る俺達3人を――。

 ファーン! ファーン! ファーン!

 ――緊急警報が襲った。

「うるさいなのー……」

 耳をペタリと倒して身体を丸めるアーシャ。

「お兄様、この音は」
「緊急警報だなぁ」

 俺とユリィは上半身を起こした。

「今は街に住んでいるんだったな、俺達」
「ですね」

 緊急警報で慌てるのは、街の外に住んでいる場合だ。
 この警報が鳴ると、近くの街へ避難しなければならない。
 今頃、付近の村人達は大慌てで荷造りをしているだろう。
 それに、大手ギルドの連中が迎えに来ているはずだ。
 つまり、今の俺達にとっては、慌てる必要はなかった。

 寝ぼけ眼をこすり、意味も無く左右をチラチラ。
 ユリィも同じように左右をチラチラ。
 目が合ったところで、俺達のチラチラが止まった。

「寝るか」
「はい、お兄様」

 警報の音が鳴り響く中、二度寝を決め込むのであった。

 ◇

 その日、冒険者組合は騒然としていた。
 冒険者学校の卒業式があった日を上回る騒然ぶりだ。
 1,000人を収容出来る広大な施設なのに、大混雑している。
 冒険者達の目は、一様にキラキラと輝いていた。

「初めての特別クエスト、楽しみですね!」

 合流して最初にミフユが云ったセリフだ。
 そこらにひしめく冒険者と同様、ミフユの目も輝いていた。
 既に合流していたレイナも含めた俺達4人は首を傾げる。

「特別クエスト? 緊急警報と関係があるの?」

 特別クエストが何か分からない。
 タイミングから考えて緊急警報と関係があるのだろう。

「えっ、知らないのですか?」
「うむ。よかったら教えてくれないか?」
「わ、分かりました」

 特別クエストは、その名の通り特殊なクエストだ。
 期間限定で行われるもので、全冒険者が強制的に受注することになる。
 また、特別クエストの開催期間中は、他のクエストを一切受注できない。
 クエストの内容は様々だが、原則はモンスターの討伐だ。
 最大の違いは報酬で、通常のクエストよりも遙かに稼げるらしい。
 中には、特別クエストの時のみ活動する冒険者もいるとのことだ。

「今回の特別クエストは緊急警報に伴って行われるものですから、まず間違いなく“大防衛戦”になるかと思われます」
「大防衛戦?」
「あ、大防衛戦といいますのは――」

 ミフユが追加の説明をしようとした時だった。
 受付嬢が手に持っているベルを鳴らし、場を静まらせ、注目を集めたのだ。

「それではこれより、特別クエスト大防衛戦の前哨戦を開催いたします。先程、全ての冒険者様にクエストを発注させて頂きました。皆様のご健闘をお祈り申し上げます。また、ご不明な点がございましたら、受付カウンターにて――」

 受付嬢の言葉を最後まで聞かずに、大勢の冒険者が動き出した。

「久しぶりのボーナスステージだ」
「1年分の金を稼ぐぞー」
「殲滅の時間だヒャッホゥ!」

 歓声を上げ、意気揚々と組合を出て行くのだ。
 そのせいで、受付嬢の声が掻き消されてしまった。
 まぁ、掻き消された部分については想像出来るのでかまわないが。

「皆さんの張り切りようが凄いですね、お兄様」
「ああ、相当に報酬が良いのだろう」
「で、どうしたらいいのさー? 私、納骨堂に行くつもりだったんだけど!」

 俺達は出遅れ気味だ。
 まずは大防衛戦とやらの内容について知っておきたい。

「とりあえず、受付カウンターでクエスト票を見せてもらおう」

 クエストの概要を知るには、クエスト票を見るのが手っ取り早い。
 そう判断した為、俺達は受付カウンターに向かった。

「前哨戦のクエスト票はこちらになります」

 受付嬢に頼むと、手慣れた様子でクエスト票を見せてくれた。

=====クエスト票=====
【クエスト】大防衛戦:前哨戦(特別)
【ランク】Fランク以上
【内容】ツバルランドの周辺に棲息するモンスターの殲滅
【報酬】討伐モンスターを対象とする通常クエストの3倍(上限なし)
【備考】モンスターが通常より活発になっているため注意されたし

 前哨戦では、とにかくそこら中のモンスターを倒せば良いみたいだ。
 報酬が普段の3倍とは奮発している。ゴブリンでさえ1体15,000ゴールドだ。

「これって納骨堂の骸骨共も対象ー?」
「ソノラ納骨堂のモンスターでしたら、討伐対象となっております」
「うおおおお! ならこんなところでモタモタしてられねぇなぁ!」

 レイナは鼻息を荒くする。
 お得意の〈ターンアンデッド〉で稼ぎたいようだ。

「私は納骨堂に行ってくるぜー? いいよな? ラウド!」
「かまわないよ。どうせ断ったとしても勝手に行くだろ?」
「もち! 冒険者になったのは稼ぐ為だからな! じゃーねー!」

 レイナが身体をクルッと反転させ、出口に向かう。
 しかし、前方からやってきた女を見て、足を止めた。

「おー! この前のおばさんじゃん!」
「おば!? まーたあんたか、小娘!」

 メリッサだった。
 相変わらず、レイナとは相性が悪そうだ。

「おばさんは特別クエストってのやらねぇのー?」
「もちろんやるわよ。って、おばさんって云うな! 殴るよ?」
「なっはっは! おっかねぇなぁ、おばさん!」
「……ねぇ、ラウド君」

 メリッサが急に名前を呼んできた。
 しかも、ギッと俺を睨んでくる。べらぼうに怖い。
 俺は顔面を真っ青にしながら、「はい」とだけ答えた。

「この小娘、借りるね?」

 メリッサが、レイナの首根っこを掴む。
 レイナが「やめろしー!」と抵抗するも知らぬ顔だ。

「本当は挨拶だけして私も稼ぎにいくつもりだったんだけど、生意気な小娘に躾が必要だと判断したの。いいよね?」

 怖すぎる。
 駄目とは言えない雰囲気だった。

「か、かまいませんが……殺さないでくださいね」
「もちろん。ちょっと狩りに同行させるだけだから安心して。大防衛戦が終わる頃にはちゃんと返すつもりよ」
「ラウドー! 助けろー! 見捨てないでくれー!」
「レイナ、観念してくれ。俺にはどうすることも出来ない」
「そんなぁー! 私はただ真実を言っただけじゃねーかよー!」
「そのふざけた態度、私の実力をもって矯正してあげるからね」
「ぎゃぁぁぁー!」

 こうして、レイナはメリッサに連れて行かれてしまった。
 メリッサが一緒なら安全だろう。心配する必要はない。

「クエストの内容も把握したし……行くか」

 組合が閑散とした頃、俺達も〈大防衛戦:前哨戦〉を開始するのであった。
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