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010 Fランク

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 街に戻った俺達は、冒険者組合に向かった。
 眼鏡の女も組合に行くとのことで、共に行動した。

「ミフユは俺と同い年なんだ?」
「はい。ラウドさんに比べると未熟ですが……」
「いやいや、冒険者学校の卒業生には敵わないよ」

 道中の会話で、眼鏡の女がミフユという名だと分かった。
 歳は18歳。俺と同い年であり、ユリィとアーシャの3つ上だ。

「折角の同い年なんだし、丁寧語でなくともかまわないよ」
「いえ、この話し方で慣れていますので、気になさらないで下さい」

 軽く話したところで、冒険者組合に到着する。

「ああ! ミフユ! 生きていたのか!」

 組合に入ると、逃げ帰った神官が居た。
 ミフユに気づくなり駆け足で寄ってくる。
 どことなく表情が歪んでいるように見えた。

 神官の後ろに別の男が続く。
 歳は俺より一回り上といったところか。
 どうやらクソ神官の仲間みたいだ。

「ミフユ、無事だったか」
「はい、この方達に助けていただきました」
「ほう」

 男が俺達を見る。
 最初に俺を見た後、ユリィ、アーシャと視線が動く。

「ミフユを助けてくださってありがとうございました」
「いえいえ」
「ところで、他に剣士と弓使いが居たはずですが」
「その2人については間に合いませんでした」
「そうですか。残念ですが仕方ありませんね」

 改めて俺達に礼を述べる男。
 口調から察するに、ミフユの所属するギルドのボスみたいだ。
 クソ神官と違って、こいつはまともそうだな。
 なんて思った次の瞬間――。

「この恥さらしが!」

 男がミフユの頬を強く平手打ち。
 それに驚愕する俺達。
 ぶたれたミフユも驚いているようだ。

「事情は聞いたぞ。魔力管理もまともに出来ないなんて何事だ」
「す、すみません……マスター……」
「すみませんで済むか! お前の失態で2人が死んだんだぞ!」

 頭ごなしに怒られるミフユ。
 それには納得がいかなかった。

「口を挟んで悪いが、ミフユを怒るのは筋違いではないですか?」
「どうしてです? こいつが魔力管理を怠っていなければ防げたのに」
「たしかにそこはミフユが悪い。だが、その時点ではまだ挽回できた。〈帰還の魔石〉で逃げ帰ればよかった。それをせずに戦うという判断を下したのが、一番の問題でしょうよ。ミフユだけを叱るのは間違っていると思いますよ」

 正論を言ったつもりだったが、相手は納得してくれなかった。

「失礼ですが、貴方は魔法使いについてご存知ないようだ。魔力管理というのは、魔法使いが絶対に怠ってはならないこと。それを怠った時点でぶたれても無理はない。判断ミスもたしかに問題ですが、ミフユの失態に比べれば些末なことです」

 相手には相手の言い分がしっかりとある。
 言い返したい気持ちはあるが、これ以上は時間の無駄と判断した。
 同様の判断を相手も下したようだ。

「それに、貴方は部外者だ。口を挟まないで頂きたい」

 ピシャリと云われてしまった。

「分かりましたよ。では失礼」

 受付カウンターに向かう為、その場を離れようとする。
 だが、男に「待ってください」と止められた。

「ミフユを助けて頂いた謝礼です。受け取ってください」

 金の入った袋を渡される。
 なかかなの膨らみ具合で素晴らしい。

「どうも」

 中を確認する。
 金貨2枚に銀貨70枚、そして銅貨100枚。
 合わせると1万ゴールドだ。

「ふっ」

 思わず鼻で笑ってしまう。
 1万ゴールドといえば、〈帰還の魔石〉1個分だ。
 袋を一見すると大金だが、中は銀貨と銅貨が大半ときた。
 ミフユに怒る姿といい、見栄っ張りのケチなギルドマスターだ。

「それでは」
「ラウドさん、ありがとうございました」

 ミフユが深々と頭を下げる。
 彼女の右頬は真っ赤に腫れ上がっていた。

「今のギルドに嫌気が差したらウチに来な、歓迎するぜ」

 ミフユに背中を向けて歩き出す。
 神官と男の舌打ちが聞こえてきたが気にしない。

「カッコイイです! お兄様!」
「ラウドお兄ちゃん、カッコイイなの!」
「別になんてことないさ」

 内心で「決まったな、俺」とか思っていたのは秘密だ。

 ◇

「おめでとうございます。Fランクに昇格となります」

 クエストの報告をすると、ランクが昇格した。
 これで他のクエストを受注することが出来る。
 組合から最低限の信用を得られたわけだ。

「昇格したってことは……。ユリィ、カードを」
「はい! お兄様!」

 ギルドカードを確認してみる。

【ギルド名】ハクスラ
【マスター】ラウド・ブライト
【ランク】F
【人数】3人

 〈ハクスラ〉の情報が更新されていた。
 ランクがFになり、人数もちゃっかり3人になっている。

「Fランクになると、どういうクエストが受けられるんですか?」

 受付嬢に訊いてみた。

「基本は魔物の討伐ですが、簡単な“個人クエスト”をご紹介できるようになりますね。例えば、隣町までの護衛任務や荷物の運搬などが該当します」

 通常のクエストは、国が組合に依頼し、組合が冒険者に紹介している。
 対する個人クエストは、依頼主が国でなく個人なのだ。

「また、Fランク以上のギルドは“共同クエスト”を行うことが可能です。ただし、ギルドランクと同等のクエストしかご紹介できない点は、ご留意ください」
「ウチはFランクだから、仮に共同相手がAランクだったとしても、Dランク以上のクエストは受けられないということでいいのですか?」
「そういうことになります」

 共同クエストとは、クエストを他所のギルドと協力して行うこと。
 大人数を要する依頼などにおいて、共同クエストが役に立つといわれている。

「どうもありがとうございました」

 用が済んだので、受付カウンターを離れることにした。

「なぁ、君達、今のギルドに不満はないかい?」

 出口に向かって歩いていると、知らない男に声を掛けられた。

「特に不満はないかな。それと、俺達は冒険者学校の卒業生じゃないよ」
「あ、そうなの? そんじゃ、失礼ー」

 案の定、男の用件はギルドの勧誘だった。
 脈がないと見るなり、サッと去って行く。
 人材確保に必死なのはどこのギルドも同じ。
 むしろ、俺達は必死さが足りないくらいだ。

「ギルドを設立したのは正解だったかもな」

 元々は仕方なしに設立したギルド。
 しかし、今になってはよかったと思える。
 自分のペースで活動出来るし、不満な点も特にない。
 仲間を見捨てて逃げるゴミ神官もいない――って、あれ?

「ミフユ、まだいたのか」
「ラウドさん……」

 四人掛けのテーブル席に、ミフユが1人で座っていた。
 杖を椅子にもたれさせて、なんだか暗い表情だ。

「座っていいか?」
「は、はい」

 空いている席に、俺達3人が座る。
 小さなアーシャは座るのに少し苦労していた。
 全身を駆使して椅子を引き、ぴょんっと跳んでイスに着地。

「なんだか暗い表情だがどうしたんだ?」
「実は……ギルドを追放されてしまいまして」
「え、追い出されたの?」
「はい。責任を取って抜けろということで……」
「責任? 何の?」
「私のせいで2人が死んだから……それで……」

 どうかしている。
 剣士と弓使いが死んだのはミフユのせいじゃないだろ。
 俺はそう思ったが、ミフユの雇用主マスターはそう思わなかったようだ。

「ぶった挙げ句に追放とは酷い仕打ちだな」
「いえ、私が魔力管理を怠ったから……」
「だからって追放はないだろうに」

 ミフユのことが不憫に思えた。

「ま、過ぎたことを悔いても仕方がないだろ」

 俺はテーブルに身を乗り出し、ミフユを見ていった。

「君はこれからどうしたいんだ?」
「私は……」
「ギルドに所属しなければ、クエストを受注できないぞ」
「でも、私を受け入れてくれる所なんてどこにも……」
「ウチに来ればいいじゃないか」
「えっ?」

 ミフユが顔を上げる。
 頬の晴れは幾分かひいてきていた。
 その代わり、目に涙が浮かんでいる。

「ウチなら大歓迎だぞ」
「………………」
「別に今すぐ決めろって話じゃないさ。俺達がどう励まそうが、今はショックでまともに考えられないだろう。だから、気持ちが落ち着いた時でいい。俺達はいつだってミフユを歓迎するよ」

 俺は「だろ?」とユリィ達に振った。

「もちろんです! お兄様!」
「アーシャも歓迎するなのー!」

 言い終えると、俺は席を立った。
 俺に続いて、ユリィとアーシャも立ち上がる。

「その気になったら云ってくれ。それじゃ、またな」
「は、はい、ありがとうございます。ラウドさん」

 イスをテーブルに戻した後、俺達は組合を後にする。

「カッコイイじゃん! ラウド君!」

 いきなり肩を組まれる。
 驚きながら相手を見ると――。

「お姉さん、惚れちゃいそうだよー!」

 メリッサだった。
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