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007 卒業生

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 クエスト報酬でたらふく美味い飯を食った翌日。
 いつものように朝食を済ませた俺達は、鑑定屋に来ていた。
 昨日拾った未鑑定品を鑑定する時間だ。

「では1つ目から始めるよ」

 鑑定士が鑑定スキルを発動する。
 光の玉が形を変えていき、変な鉱石になった。

「何だこの石」
「赤く光る紋様が見えますが……」
「カッコイイ石なのー!」

 俺達が首を傾げていると。

「ドラグナイトか、まずまずの当たりだよ」

 鑑定士が詳しく教えてくれた。

 ドラグナイトは、冒険者用の装備に使われる素材らしい。
 武器に使えば炎属性が、防具に使えば耐熱効果が付与されるそうだ。
 性能は中くらいで、それなりに価値があるとのこと。

「俺達が持っていても使う予定ないよなー」
「ですね……」
「お金にするなのー!」

 満場一致で売ることに決めた。

「なんだったらウチで買い取ろうか? 5万出すよ」

 鑑定士が提示してきた額に度肝を抜かす。
 5万といえばゴブリン10体に相当する大金だ。
 しかし、俺は首を横に振った。

「他の店でも査定してもらってから決めます」

 というのが理由だ。
 店によって買取額が違うから、即決は控えたい。
 鑑定料みたいに、店を問わずに一律だったらいいのにな。

「では2つ目を始めるよ」

 今度はよく分からない縁の欠けた壺が出てきた。
 紫色で蛇が描かれた禍々しさのある黒い壺だ。
 なんだか価値がありそうな品である。

「これは……!」

 鑑定士の言葉に、俺達も「これは」と続く。
 唾をゴクリと飲み、次の言葉を待つ。
 たっぷりと間を置いた後、鑑定士が言った。

「ただのゴミじゃ」

 ゴミかい!

「ま、まぁ、さっきの鉱石と一緒に売り捌くか」

 ゴミかどうかはともかく、使い道が浮かばない。
 そういう不要な品は、売って金にするのが一番だ。

「最後の品を鑑定するよ」

 緊張の面持ちで見守る中、鑑定が行われた。
 そうして出てきたのは、ドラグナイトに似た黒色の塊だ。

「これも何かの素材に使える鉱石?」

 俺が尋ねると、鑑定士は即答した。

「いんや、これはオークの糞じゃな」
「ウンコォ!?」

 取り乱しそうになる俺を押さえながら、今度はユリィが尋ねた。

「それは価値があるのでしょうか?」
「とんでもない。オークの糞なんて何にも使えん」

 ですよねー。
 俺達はガクッと肩を落とした。

「鑑定料を差し引いてもプラスだし、良しとしておこうか」

 鑑定結果にゴミが混じることは知っていたが、まさか半数以上がゴミとは。
 ウィンドシューズも含めると、4回鑑定して2回ゴミを引いたことになる。
 鑑定料を差し引いて黒字だから気にならないが、これで赤字だったらきつい。

 その後、俺達は複数の店を回り、鑑定した品を捌くのであった。

【鑑定品の売上】
 ドラグナイト:65,000ゴールド
 残念な壺:720ゴールド
 オークの糞:0ゴールド

 鑑定料を差し引いた結果、儲けは56,720ゴールドとなった!

 ◇

 次に向かったのは冒険者組合。

「今日を乗り切ったら明日は休むぞー!」
「はい!」「おーなのー!」

 一般的な冒険者は、平均すると2日に1回しか働かないという。
 貧乏暇なしということで、俺達はそれよりももう少しだけ働く。
 一般的な冒険者が1日働いて1日休むのに対し、俺達は2・3日働いて1日休む。
 そんなわけで、今日を乗り切れば休みである。

 ガヤガヤ、ざわざわ。
 ガヤガヤ、ざわざわ。

 冒険者組合の中は、いつも以上に騒然としていた。
 普段から賑やかな場所だが、今日は格段に盛り上がっている。
 よくよく見ると、俺達と同年代の若い奴らが多いことに気づいた。
 それに、そいつらを囲むようにして立っている者が多いことにも。

「なんだ? なんか若い奴らが多いな、今日は」
「卒業式の日だからねー」

 突然、俺の肩に、女が背後から顎を乗せてきた。

「うわっ! 驚いた! メリッサさんか!」
「ふっふっふ、昨日ぶりだねー、〈ハクスラ〉の諸君!」

 女の正体はメリッサだった。
 十中八九べらぼうに強い美人なお姉さんだ。
 何度見ても露出度の高い格好が目に付く。
 それに、胸の大きさもユリィと違って凄くて――痛ッ!
 俺の腹をユリィがつねってきやがった。

「お兄様、今、変なことを考えていましたよね?」
「は、はぁ!? なんの話だよ!」
「隠しても無駄です。顔を見れば分かるのですから」

 やれやれ、とんでもない妹である。

「ところでメリッサさん、卒業式とは?」
「冒険者学校の卒業式だよ。ツバルランドの学校は今日が卒業式なんだ」
「すると……あの若い奴らは卒業生ってことですか」
「そういうこと」

 若い連中の正体は分かった。
 遠目にザッと数えた感じだと100人近く居る。

「で、どうして卒業生がここに集まっているんですか?」
「それはもちろん就職活動の為よ」
「就職活動……なるほど、そういうことか」

 ようやく理解した。
 冒険者学校の卒業生は、当然ながら冒険者になる。
 そうなると、ギルドに所属する必要があるわけで。

「どこのギルドも優秀な人材は欲しいからねー」
「冒険者学校を出ている生徒なら腕も確かというわけですね」
「そのとーり!」

 卒業生達は、ギルドに加入したくてここに来ている。
 ギルド側は、期待出来る新入りを確保したくて集まっている。
 要するに、卒業式はどちらにとっても都合の良いイベントなわけだ。

「〈ハクスラ〉も勧誘に行った方がいいんじゃない?」
「たしかに。ギルドメンバーが増えるとクエストが快適になるし」

 アーシャが加入しただけで、俺達の狩りは一気に快適さを増した。
 もう1人加わったら、より快適になることは間違いない。
 それに冒険者学校で鍛えられている奴等なら、俺達より戦力も上だろう。
 今後のことも考えると、今はより多くの人材が欲しいところだ。

「よし、俺達も勧誘に行くか!」
「分かりました!」
「お友達を増やすなのー!」

 メリッサに会釈した後、俺達は勧誘に向かった。

 ◇

 実際に勧誘した結果、俺達は絶望した。

「ギルドランクがG? そんな所に入るほど落ちぶれていません」
「福利厚生と給与は? え、考えていない? ありえないでしょ」
「不定休? 労働時間も決まっていない? それはちょっと……」
「少数精鋭は自分好みですが、残念ながらお三方は精鋭ではない」

 まさにボロクソな云われようだった。
 大半がギルドランクを伝えた時点で去っていく。
 残った者達にしても、福利厚生やら給与やらを聞いてお断りだ。

「福利厚生とか給与とか、考えたこともなかったぜ……」

 俺達のギルド〈ハクスラ〉は、組織として不適格といえた。
 その場その場で考えて行動しているだけで、明確な決まりが存在しない。
 組織として成り立っている他所様と比較すると、差は歴然だった。

「まさか俺達のギルドが“ブラック”だったとはなぁ……」

 ブラックギルドという言葉がある。
 給与を始めとする労働環境がよろしくないギルドを指す言葉だ。
 客観的に見た場合、俺達のギルドはまごう事なきブラックだった。

「お兄様、諦めてゴブリンを狩りに行きませんか?」

 これ以上粘っても無駄だとユリィは判断したようだ。
 ユリィの隣で、アーシャもウンウンと首を縦に振っている。
 ユリィに賛成ということだ。

「そうだな。最後にあと1人だけ声を掛けて、駄目なら諦めよう」

 既に有望そうな卒業生は就職先を決めている。
 残った奴等にしても、大手を諦めて中小ギルドに加入し始めていた。

「中小にも入れないような、俺達みたいな奴は……」

 素早く見渡して――。

「居た! あの人に声を掛けよう!」

 めぼしい人間を発見した。

「お兄様、どの人ですか?」
「あの紫色のローブを纏っている眼鏡の女だ」

 女は見るからに内気そうだ。
 やや俯き気味の姿勢で、茶色の髪が肩にかかっている。
 両手で持っている長めの杖も、なんだか下を向いているように感じた。

「どうやら人と話すのが苦手みたいだし、チャンスがあるだろう」

 先程から、複数のギルドが女に声を掛けては離れている。
 ギルドカードを見せてしばらく話している辺り、ギルドは未決定のはず。
 それか、ギルド側が女を「仲間に入れる価値なし」と判断したのか。
 どちらにせよ、売れ残っていることは確かであり、俺達にはチャンスだ。

「すみません、ちょっといいですかー」

 可能な限り気さくな感じを漂わせながら、俺は声を掛けた。
 それだけで、女は「ひゃうん!」と驚き、肩を震えさせる。
 案の定、人見知りのようだ。

「ギルドの勧誘をさせてもらいたいのだけど、いいですか?」

 丁寧な口調で尋ねてみる。
 もちろんここは承諾されるから、次はギルドカードを見せて――。

「すみません、先程、入れてくださるギルドを見つけまして……すみません」

 なんてこったい!
 一足遅くて、他所に決めたとのこと。

「いえいえ、お邪魔しましたー」

 俺達は女に頭を下げて退散し、3人でクエストを始めるのであった。
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