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第011話 まったり

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 奴隷を養う騎士爵の男が宿屋を転々としているなどというのは、言うまでもなくダサい。クソダサである。
 だから、俺は直ちに自分の家を購入した。

「うむ、悪くない家だ」
「グァァー♪」「綺麗なお家」

 家は広さよりも立地で選んだ。
 具体的には<アンブロワーズ>に近くて静かな場所。
 それでも、このメンバーで暮らすには十分過ぎる広さだ。
 個室が3個もあり、全ての部屋に家具が備わっていた。

「ここは俺の部屋にしよう」

 適当な個室を自分の部屋に定める。
 部屋を決めた俺は、リムに言った。

「残っている2部屋のどちらか好きな方をリムの部屋にしていいよ」
「いいの?」
「もちろん。1人で過ごしたい時とかは個室が必要だろう」

 リムは羽をパタパタさせて、俺の目線まで高度を上げる。
 それから「ヨウスケ、ありがとう」と丁寧にお辞儀した。

 リムが俺を呼び捨てで呼ぶのは、俺がそう指示したからだ。
 最初は慣れない口調で「ご主人様」と言っていた。

「さて早速だけど、リムには働いてもらうよ」
「何をすればいいの?」
「俺がココに引っ越した事をビローチェ男爵に伝えてきてくれ。それで、今後は<アンブロワーズ>ではなく家の前でマヨを卸すということも。マリーが許可しているとはいえ、<アンブロワーズ>を取引場所にすると他の客に迷惑だからな」

 リムは「わかった」と答え、家の外に飛んでいった。

 奴隷にはこうやって仕事を割り振ることが出来る。
 仕事内容が人権を侵害していない限り、奴隷に拒否権はない。
 きっちりと働かせるのもご主人様の役目だ。

「リムが帰ってきたらメシにして今日は終わりだな」

 俺の言葉に返答はなかった。
 エリオは床に突っ伏して心地よさそうに眠っていたのだ。

 ◇

 夕飯を食べる為に<アンブロワーズ>へ行き、マリーにリムを紹介する。

「おおー! マヨネーズナイト様が奴隷を!」
「ハハ、茶化すなよ。それに家も買ったんだ」
「すごーい! 流石はマヨ富豪だねーっ!」

 マリーは素直に祝ってくれた。
 奴隷を養うと言って祝われるのは慣れない感覚だ。
 日本なら「奴隷」と言うだけでドン引きされるだろう。

「それでリムちゃんは何を食べるの?」
「リム、サラダが食べたい」
「了解! 特製のマヨサラダを用意するよ!」

 マリーは「今度お家に招待してね」とウインクして厨房に消える。
 俺は「やれやれ」とため息をついた。

「(お家に招待してね……か)」

 こちらの思考を見越してのあざとい発言である。
 俺に変な妄想を駆り立てようという魂胆が見え見えだ。
 それでも変な妄想を抑えられないことが、実に嘆かわしい。
 マリーの術中に嵌まり、手のひらの上で踊らされているようだ。

「ヨウスケ、1人でニヤニヤして気持ち悪い」
「ウガッ!?」

 妄想する俺をリムが現実に引き戻すのであった。

 ◇

 夕飯の後は眠るだけだ。
 新たな家の新たなベッドに入り、横になる。

「グァァー」

 当たり前のようにエリオが入ってきた。

「一緒に寝るかー」
「グァァー♪」

 エリオとは長らく一緒に寝ている。
 理由はエリオにあった。こいつは寂しがり屋だから、俺とくっつきたがるのだ。それは日本に居た頃からである。もっとも、俺もエリオと寝るのことを苦に思っていない。抱き枕にちょうど良い大きさだし、何より暖かくて心地よい。

「少し遅くなったが、明日はDランクの狩場に行こうな」

 エリオをギュッと抱きしめ、撫でてやる。頭からモフモフの背中にかけて、丁寧に、優しく。エリオは「グァァー」と嬉しそうに鳴いていたが、すぐにその声は寝息に変わった。

===============
【名 前】エリオ
【種 族】ミナミコアリクイ
【H P】1,721
【攻撃力】426
【防御力】393
【敏 捷】192
===============

 定期的な狩りにより、エリオは順調に育っている。
 既にDランクの敵も余裕だろう、というのが俺の考えだ。これがゲームなら背伸びしてCランクに挑戦するだろう。ゲームではないから、安全牌であるDから攻めていく。

 ――トントン、トントン。

 明日のことを考えていると扉がノックされた。
 俺は横になったまま「リムか?」と扉に話しかける。
 扉からはリムの声で「うん」と返ってきた。

「入ってきていいぞ」

 俺が言うと、リムはすぐに入ってきた。
 扉の上に設けてあるリム用の出入口を通って。
 リムはゆっくりと俺の前に着地する。

「どうかしたのか?」

 尋ねるも、リムは答えようとしない。
 恥ずかしそうに顔を赤くしてモジモジしている。
 まさかお化けが怖くて便所に行けないとか言うのか?

「眠れないの」
「眠れない? なんでだ? ベッドが合わないのか?」
「ううん、違う。でも眠れない」

 俺はもう一度理由を尋ねた。
 するとリムは尚更にモジモジする。
 理由を言うのが恥ずかしいみたいだ。

「恥ずかしがらずに理由を言ってごらん」
「……笑わない?」
「いやぁ、内容次第では笑うかな」
「ヨウスケの意地悪」

 リムが「バカ」と睨んでくる。
 頬を膨らませて怒っているが、実に可愛らしい。

「それでなんで眠れないんだ?」

 俺は今にも寝落ちしそうだ。
 だからリムに回答を急かせる。

「寂しいから」
「寂しい?」

 リムが「うん」と頷く。

「1人で寝るの、寂しい」
「今までは1人じゃなかったのか?」

 たしかリムは1人で過ごしていたはずだ。
 <奴隷館>における彼女の部屋は一人用だった。

「1人だった」
「じゃあなんで今は寂しいんだ?」

 リムは視線を素早く動かした。
 俺を見て、次にエリオを見て、また俺を見る。

「ヨウスケとエリオは一緒。でもリムだけ別。寂しい」
「つまり俺達と一緒に寝たいわけか?」
「……うん」

 一緒に寝ようと言うのが恥ずかしかったみたいだ。
 俺は「別にかまわないよ」と掛け布団を持ち上げた。

「ありがとう、ヨウスケ」

 リムがベッドに入る。
 エリオを挟んだ先で彼女は横になった。自分に背を向けて眠るエリオに抱きつき、「暖かい」と幸せそうに頬を緩める。エリオが寝返りを打った際に押し潰されないだろうかと心配になった。きっと大丈夫だろう。おそらく、たぶん。

「眠れそうか?」

 リムに尋ねる。
 リムからは「むにゃにゃぁ」という可愛い寝息が返ってきた。
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